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【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】
8U-英雄- 編 Episode 31 暗界の超巨大獣

2022.06.11

ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE 月刊ホビージャパン2022年7月号(5月25日発売)

【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】8U-英雄- 編 Episode 31 暗界の超巨大獣

 

 ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSEフォトストーリー、8U編第6回。
 金属飛行体が放つ大量のスペースモスを前に一時撤退を余儀なくされたZERO、JACK、TARO。やがてスペースモスは空を覆い尽くし、世界各地を闇に包み込んだ。敵の目的はおそらく<レーテ>への「恐怖」の蓄積、そしてかつて行われた儀式の再来。世界の終焉を防ぐべく、科特隊決死の作戦が始まる!

ストーリー/長谷川圭一
設定協力/谷崎あきら
TIGA SUIT(SKY TYPE)/製作:只野☆慶
グランドキング/製作:山田卓司

8U-英雄-編
Episode 31  暗界の超巨大獣

 東京上空に約一万の金属体が飛来したのが午前十一時〇五分。程なくして金属体から無数のスペースモスが放出され、太陽光を完全に遮るまで三〇分と掛からなかった。
 既に避難が終了した霞が関のオフィス街はまるで真夜中のような静けさだ。
 漆黒の闇に微かに聞こえるのは天空を覆うスペースモスが発する耳障りな羽音と、幹線道路に配備された自衛隊車列の微かなエンジン音だけ。
 現在は午前十一時五五分。正午まで残り五分。各車輌の中の全ての曹士たちが科特隊との合同作戦開始の号令が掛かるのを固唾を飲んで待つ。
 そして無人のビル街に正午を告げる時報が響くと同時――、
『作戦、開始!』
 科特隊指令室の井手の号令が周囲にこだました。
 無線が使えないため、街頭スピーカーからの音声だ。
 ズドドドッ! 直後、天空に向けられた全車両の砲塔が一斉に火を吹く。87式自走高射機関砲が搭載するエリコン35mm高射機関砲の砲弾は時限信管付きの炸裂弾に換えてある。99式155mm自走榴弾砲の炸薬には高性能火薬スパイナーを採用。96式装輪装甲車から降車し配置に就いた普通科中隊も91式地対空誘導弾での射撃を開始した。
 砲撃により燃え上がるスペースモス。狂い咲く炎の華の如く漆黒の闇を紅く照らす。
 だが自衛隊の全火力による勇猛果敢な攻撃に対し敵もすかさず反撃を開始。金属体から損耗した数を超える大量のスペースモスが吐き出され、電磁パルスを発して電子機器にダメージを与える粘着性の鱗粉をまき散らしながら自衛隊の車輌に襲い掛かる。各国が航空戦力を投入できない最大の理由がこれだ。電装系はもとより、タービンやローター、動翼類に粘りついて固定翼機、回転翼機を問わず飛行不能にしてしまう。かろうじて装輪車、装軌車だけが防護策を講じることができた。しかし必死に砲撃を続けるも、億単位の数で攻めて来るスペースモスの殲滅は不可能だ。たちまち圧倒され、劣勢となる。わかっていたことだ。現用兵器ではスペースモスを一掃することなどできはしない。この攻撃の目的は、敵の先遣に痛手を与えて出鼻をくじき、本隊を引きずり出すことにある。

「よくやってくれた。後退信号を上げてくれ」
 井手の指示を受け、各所にあらかじめ設置してあった発射筒から信号弾が打ち上げられる。前線の自衛隊は一斉に後退をはじめ、掩蔽壕に身を潜めた。
「作戦を第二フェーズに移す。〝クジラ〟を飛ばすぞ!」
 井手が発した新たな号令が、ある場所に届く。

「よっしゃー! いよいよワシらの出番や!」
 そこは霞が関の地下四〇メートル。以前、地底人が操るメカテレスドン二世が侵略用に掘り抜いた地下空間だ。科特隊はそれを接収し、最前線拠点に転用すべく改装を進めていた。そのトンネル内に敷設されたレール上を巨大なパレットが進み、ターンテーブルを備えたエレベーターに載って上昇する。
 黒々と鱗粉の降り積もる、無人の霞が関一丁目交差点周囲が円形に切り取られて上昇、側面に開口したハッチの奥に〝クジラ〟は姿を現した。全長六〇メートル、全幅五五メートルに及ぶ異形の飛行体。科特隊の擁する超先進技術実証試験母体機《スカイホエール》だ。操縦席にはその生みの親でもある科特隊の三賢者・堀井、中島、土井垣の姿がある。コンソールのディスプレイに井手の顔が投影された。これも超先進技術試験の一環、電波に依らない位相波通信システムを使っている。
『聞こえているかね?』
「感度良好、メリット5ってとこです」
『何としてもスペースモスの侵攻を食い止めねばならん。我々にとってここが Zariba of Absolute Territory ──すなわち絶対防衛ラインと心得てもらいたい』
「……任せて下さい」
「人んち土足で踏み荒らしよる礼儀知らずのド畜生に、目にもん見せたります!」
「慣性制御機関全開、急速離床!」
 空力的にも構造的にも、到底飛べるとは思えない機体が、羽のように舞い上がった。
 スペースモスが殺到するが、まるで反発する磁石のように、一定距離以上近づけない。
「効いとる効いとる!」
 スカイホエールには、アメリカのジャックたちから供与されたスペースモスの分析データに基づき、数々の対抗装備を満載している。いずれも開発途上段階で仕様書もマニュアルも存在せず、自衛隊に貸与など到底不可能なトンデモ装備ばかりだ。操縦する三人も、本来はエンジニアであって搭乗員ではない。威勢の良い口ぶりとは裏腹に、こんなものに頼らなければならないほど状況は逼迫しているのだ。もう後がない。文字どおり背水の陣だった。
「まずは電気ショック作戦や!」
 ペイロードベイが開いてテスラコイルがせり出し、放電を開始した。電撃がスペースモスの群れの中を迸り、神経を灼かれた個体が落下する。しかし射程が悲しいほど短い。
「トリモチ作戦!」
 両端にウェイトを取り付けた粘着リボンを投射する。何頭かのスペースモスが餌食となったが目覚ましい成果とは言い難い。
「スプレー作戦!」
 高濃度のアルコールに各種成分を配合した薬品を噴霧する。本来は抜け落ちた後に破裂するスペースモスの鱗粉表面のクチクラを溶かし、粘液に覆われた翅同士をくっつけてしまう効果がある薬液だ。たちまち密集したスペースモスが団子になって墜落した。有効だが物がアルコールだけに、迂闊に使用すれば大火災が発生する危険が大きい。
「ええい、大回転作戦や!」
「やっぱりやるの?」「あれはちょっと……」
 隠しようもない躊躇の色が面上に浮かぶ中島と土井垣を、堀井が一喝する。
「根性入れえ! シートベルト締めたか? エチケット袋持ったか? いくで!」
 ホバリングするスカイホエールの可撓翼がプロペラ状に捻じれ、かしいだ機体がその場で高速回転を始めた。そして主武装であるマルス133光線砲を四方八方に乱射する。シカゴでTAROが見せた技をヒントに立案された、機体と搭乗員に多大な負荷を強いる捨て身の戦術だ。周囲のスペースモスがみるみる撃墜され、黒雲にスカイホエールを中心とする円形の穴が開いた。射撃を続けるにつれ穴の半径も広がってゆく。八〇〇メートル、九〇〇メートル……。

「霞が関上空のスペースモス、四〇パーセント消失!」
「金属体からの増援、確認できません!」
 科特隊指令室に歓声が上がった。

 スカイホエールが回転を止め、機体の水平を取り戻す。
「ど……どや、やったやん?」
 気息えんえん、蒼い顔でシートに身を沈める中島と土井垣は、相槌を打つ余力もない。
 マルス133も砲身が過熱し、冷却を必要としていた。
 暗黒の空に太陽光が微かに差し込みだす。

 だがその時、マヤが報告した。
「ホテルニューカブラヤの地下に異常振動! 地震ではありません!」
 スカイホエールの西方約二〇〇〇メートル。広大な日本庭園を敷地に収めた、我が国を代表する高級ホテルのひとつだ。その日本庭園が、緋鯉の回遊する池も流れる人工滝もそのままに真上へと盛り上がり、嘴を持つ巨大な顔が現れた。庭園の木々に、自衛官の無残な死骸が奇妙な図形を描いて突き刺さっている。儀式の痕跡。異界獣だ。
 頭上の池と顔面の嘴を見て、堀井が呟く。
「カッパの親玉や……キングカッパーや」
 それがそのまま異界獣の呼称となった。
 キングカッパーは東へ、スカイホエールに向けて進撃していた。
 思わぬ伏兵だ。機首を西に転じ、マルス133を撃つ。しかし出力は半減していた。
「カッスカスやんけ!」
「無理ですよ! 砲身の冷却が終わってません!」
「ほならコショウや! ネットや! バスケットや!」
 焦りに焦って搭載武装を片端からぶつけるが、いずれも対スペースモス用を想定したものであり、巨大異界獣に対してはカエルならぬカッパの面に何とやらだ。

 戦況を見守る井手たち。その時――、
「えっ!? うそ! ええっ!!」
 指令室から現状にそぐわないマヤの素っ頓狂な悲鳴が聞こえた。
 何が起きたのか。
 執務室の井手が指令室を見る。コンソールの前でマヤが何かを見つめて茫然としている後ろ姿は確認できたが、何に対して驚いているかは把握できない。
 普段のマヤは割と普通の女子――むしろ天然ボケなところもある。だがオペレート中は常に冷静沈着だ。よほどのことが起きたに違いない。
 井手は執務室を飛び出すと指令室へと入り、ようやくマヤを驚かせたものを知る。
 それは赤ん坊だった。
 一歳くらいだろうか。白いケープのような衣装に包まれた赤ん坊がマヤのすぐ近くにいた。否――、浮かんでいた。
 どういうことだ、これは!?
 マヤが思わず叫ぶのも無理はない。この状況はあまりに不可解で理不尽すぎる。だが不思議と恐怖は無かった。ついさっき異界獣が突如現れたのとは違う。目の前にいる赤ん坊からは邪悪な気配は一切感じない。むしろ感じるのは全く逆のイメージ。
 ――救世主。不意にその言葉が井手の頭に浮かぶ。
 同じことをマヤを始め、その場にいる全員が感じているようだった。
 閉じられていた赤ん坊の瞳が開き、井手を見つめる。
 青と金色のオッドアイ。この瞳を前にも見たことがある。
「まさか……!」
 井手が呻きにも近い声を出した時、
「スカイホエール、被弾! 墜落します!」
 オペレーターの声にモニターを見ると、キングカッパーが発射した爪の直撃を受け、スカイホエールの巨大な機体が黒煙をあげながら落下しつつあった。ビル街に墜落する直前、搭乗する三人のベイルアウトと開傘を認めて井手は胸を撫で下ろす。
 勝ち誇るキングカッパー。目障りな標的を撃破し、今度は地上に展開する自衛隊車輌群へと近づいていく。
 既にスペースモスとの前哨戦で大半の車輛が弾薬を使い果たしていた。抗戦能力は無いに等しい。このままでは全滅を待つだけだ。
 何とかしなければ。
 だが今の科特隊にその力は無い。主戦力である進次郎たちは各国のスペースモスに対応すべく出払っており、誰一人として日本にはいないのだ。彼らを日本に呼び戻そうにも有効な通信手段は失われ、現地の状況も混乱の極みにある。現有戦力で作戦を実行するしか道は無かったのだが……。
 甘かった。あまりにも大規模な敵の侵略行為に戦力を分散してしまった結果、この戦いに負ける。多くの命が犠牲となる。
 ……救世主!
 絶望的状況に己の失策を呪う井手の脳裏に、再びその言葉が浮かんだ瞬間――、
 モニターに映る異界獣キングカッパーの動きが止まる。何かを見上げている。
 刹那――、ズドン! 眩い光弾がキングカッパーを直撃した。
「……あれは!」
 井手たちは見る。スペースモスが作り出す暗雲を斬り裂きながら高速で接近する青いULTRAMAN SUITを。それは――、TIGAだ。
 そうか!
 井手は確信する。今は戸惑うマヤの腕に抱かれジッとこちらを見つめるオッドアイの赤ん坊。間違いない。この子は――

ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE 31-1 TIGA

「ユ……ザ、レ」
 走行中のラビットパンダの車内、不意にレネが呟く。
「見えた。今まで彼女が見て来た全てのビジョンが」
「え? なに?」
 レネのすぐ脇の席に座る次郎が思わず聞き返す。
「彼女のビジョンて――」
「ジロー! やっとわかった! どうして私にこの力が授けられたのか!」
 興奮するレネをジャックも怪訝に見つめる。
「どうした、いきなり。また何か視えたのか?」
 レネは考えを整理するかのように一度黙り込むと、言葉を選びながら静かに語り出す。
「私の見て来たビジョン。これから起こる光景は全てユザレから送られたものだった。あの日、私の心はユザレと繋がったんだよ」
「ユザレって、誰?」
 次郎も静かにレネに問いかける。彼女は今とても重要なことを伝えようとしていると感じたからだ。
「この世界とは異なる世界からユザレは来た。ダイゴという名の戦士と一緒に」
「ダイゴ……」
 すぐにジャックが反応する。
「上海に出現した黒いピラミッド事件のファイルにその名前を見た。確か……」
「ダイゴはティガと呼ばれ、科特隊と共に巨大な闇の化身、ガタノゾーアを封印した。その時、ユザレは力を使い果たしてしまった。命こそ助かったけど〇歳児まで退行してしまい自分の見るビジョンを伝えることが出来なくなってしまった。だから……その力を私たちに託したんだ」
「……私たち?」
 思わず次郎が口をはさむ。
「そのユザレの力を託された人間がレネの他にもいるってこと?」
「うん。今はその人達とも心が繋がったのを感じる。彼らもあのユザレが消えた日、同じようにビジョンを視るようになった」
「……なるほどな」
 今度はジャックが口をはさむ。
「上海が消滅してから世界各地、特に中国、アメリカ、イタリア、ドイツ、そして日本に特殊な力、つまり予知能力を持つ人間たちが現れた。確か……」
「デュナミスト」
 次郎もその呼称は聞いたことがあった。
「そう。彼らは既に行動を開始している。これから起きることを伝えるために」
「伝える? 誰に?」
 まるで頭に浮かぶビジョンを――彼らとの絆を確かめるように精神を集中し、そして言った。
「この世界を滅亡から救うために必要な……八人の人間たちに」

 同時刻、ミュンヘン。
 スペースモスによって闇に包まれた街で待機する進次郎と北斗の元に一人の男が現れた。彼はフリーカメラマンで今まで世界各地の紛争地帯を渡り歩き、戦場の現実をカメラに収め、それを人々に伝えて来た。
「だが今はこの世界の全てが戦場となってしまった」
 姫矢准と名乗った男はスペースモスに覆われた空を見上げ、言う。
「俺は頭に浮かぶビジョンに導かれ、この街に来た」
 今は閉鎖され廃墟となったバレエスクールを姫矢は訪れ、写真を撮った。その場所ではガタノゾーア事件の前に凄惨な血の儀式が行われた。校長と数人の教師が悪魔崇拝者であり、十三人もの生徒を生贄として殺害したのだ。ファインダー越しに姫矢は今もその場所に留まる邪悪なエネルギーを確かに感じた。そしてそれは多くの人々へと拡散された。
 事件を知った人々の心に、恐怖という形で。
「ガタノゾーアが消え去ったあとも、儀式の行われた五カ所の国には今も大量の穢れた淀みが残された。それを集め、再びこの世界に絶望と破滅をもたらそうとしているモノがいる。この暗闇の向こうに」

 進次郎と北斗の前に姫矢が現れたように、やはり連続殺人による闇の儀式が行われた場所――中国福建省にいる諸星の前にはユタ花村と言う名の占い師の女性が、そしてイタリア・トリノの早田の前にはフクシン・サブローという名の少年が現れ、ユザレから受け取ったビジョンを、これから世界に起きる恐ろしい事態を伝えた。

「ダイゴはん!」
 命からがらスカイホエールから脱出した堀井たちが、地上に降りたTIGAに駆け寄る。
「帰って来てくれたんスね!」「地獄に仏とはこのことですよ!」
 それには答えず、TIGAは単刀直入に尋ね返した。
「どうなってる、進次郎や諸星はなぜいない?」
「知らないんですか?」「みんな海外です、中国やらヨーロッパやら」
「先生、無人島にでも籠ってはったんちゃいます?」
 堀井は科特隊内でTIGA SUITの管理・解析を担当するチーム《GUTS》の一員でもある。しかしダイゴが去ってからは有名無実化しており、SUITの消息も掴めてはいなかった。
「まあ、そんなところだ」
 ダイゴはダイゴで、東南アジアでユザレと再会してから、人目を避けて山中にささやかな庵を結び仙人さながらの隠遁生活を送ってきた。世事にはとんと疎い。異邦人である自分が、この世界に深く干渉すべきではないという思いもあった。しかし異界獣が関わっているとなれば事情が変わる。
「……まだ俺の使命は終わっていないらしい」
 視線を転じれば、怒り狂うキングカッパーが頭から水しぶきを散らして突進してくる。
「隠れていろ」
 三人を下がらせ、脚部のスラスターを吹かして上昇する。頭上から光弾を見舞うが、分厚い甲羅を持つ背中を向けて全部弾いてしまう。逆に両腕の爪を発射し、また嘴から得体の知れないガスを噴射して反撃してきた。手ごわい。しかし上を向いたことで、頭上の池から大量の水が足元に零れ落ちた。すると、キングカッパーは慌てたように桜田濠に飛び込んで、濠水をすくっては頭に浴びせている。そして再び爪とガスを発射してきた。
「そういうことか」
 TIGAは右腕を構え、界面の熱を奪う特殊素子──フリーザーグレーンを放った。キングカッパー頭上の池が凍結し、ガスの供給源が断たれる。さらにキングカッパーが足を突っ込んでいる濠の水面にもグレーンを浴びせて凍り付かせた。水を補給しようと凍った水面をしきりに叩くが無駄なことだ。おまけに足を氷に縛られては移動もできない。
 キングカッパーの正面に回り込んだTIGAは、空中でスカイタイプから三色のマルチタイプにチェンジする。そして右腕のゼペリオンスピアを長く伸ばし、キングカッパーの頭頂から股間までを一気呵成に斬り裂いた。
 着地し、刃を収めたTIGAの背後で、正中線から唐竹割となったキングカッパーの巨体が左右に倒れ始める。倒れきる前に、骸は悪臭を発する黒い泡の塊となって蒸散した。

 電光石火の殲滅劇に、堀井たちは手を取り合って喜び合い、称え合った。
「あとはあれか……厄介だな」
 TIGAが空を振り仰ぐ。スペースモスの大群が織りなす絶望の暗雲は、いまだ天球の半ば以上を埋めている。彼単身で、どこまで抗えるか。
 スペースモスは、スカイホエールが開けた穴を塞ぎにかかるものと思われたが、いっこうにその様子がない。空に開いた穴の上空には、あの金属飛行体群が浮かんでいる。そこに、変化が起こった。
 ヴウウウウン! 臓腑を抉るような重低音と共に、周囲のビルのガラスが砕け散った。そして金属体群が雲集し、結合し始める。どういう構造なのか、継ぎ目も何もない表面が割れ、回転し、シャフトが伸び、アームが嚙み合って複雑な構造体を形作っていく。

 同時刻、世界中に散在する金属体も動き始めていた。突如弾かれたように一方へ飛び去ったのだ。スペースモスの黒雲の下で不安に怯えていた人々は、そのとき一様に遠雷の音を聞いた。飛び去った金属体群が音速の壁を突破した際に発生する衝撃波だ。
 無数の金属体が超音速で目指した方角を示す直線は、正確に地球上のただ一点で交差していた。

「日本よ!」
 藪から棒にレネが言う。
「日本に向かって! 今すぐ!」
 次郎とジャックは目を白黒させるばかりだ。
「今すぐったって、俺たちにもアメリカを守る義務がある。持ち場を離れるわけには──」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないのよ!」
 ジャックに噛みつかんばかりのレネの肩を、次郎が引き戻す。
「落ち着いてくれレネ、いったい日本に何があるっていうんだ!?」
 レネは次郎とジャックを交互に見つめ、告げた。
「滅亡の闇。それが……もうじき現れる」

ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE 31-2 グランドキング

 東京の空は、スペースモスの黒い雲に代わる赤銅色の雲に覆われていた。世界中から集結した金属体の総数、約五万。それが結合し、協調し、融合してまったく別の何かを形作りつつあった。
 怪獣。いや異界獣。それも身長二〇〇メートルに達する超合体異界獣だった。
 見上げる堀井が呆然と口を開く。
「河童の親玉がキングカッパーなら……アイツは親玉の中の親玉、グランドキングや」
 合体が完了したようだ。最後のピースが嵌め込まれ、頭部の一つ目が点灯。いま初めて重力の存在を認識したかのように、グランドキングは巨大な両足を地に付けた。凄まじい重量に、地面ががくんと沈みこむ。地下街を踏み抜いたのだろう。
 ヴウウウウン……。グランドキングの内部からまたあの重低音が聞こえ、真っ赤な一つ目から発射された光条が宙を薙ぐ。それだけでビルがひとつ消し飛んだ。こんなものの直撃を受ければ、ULTRAMAN SUITといえどひとたまりもない。
「……厄介だな」
 仮面の下で、ダイゴは誰に言うともなく独言すると、炎上する街を背にこちらを睥睨するグランドキングへ向かって地を蹴った。



つづく

【8U編】

恐怖のルート89 前編

恐怖のルート89 後編

ブギーマンの夜 前編

ブギーマンの夜 後編

史上最大の決戦 序章

暗界の超巨大獣 ←いまココ

故郷なき者たち

時と生と死を覆う絶望の闇

英雄たちよ、永遠に (終)

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Ⓒ円谷プロ ⒸEiichi Shimizu,Tomohiro Shimoguchi

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