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【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】
8U-英雄- 編 Episode 32 故郷なき者たち

2022.07.11

ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE 月刊ホビージャパン2022年8月号(6月24日発売)

【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】8U-英雄- 編 Episode 32 故郷なき者たち

 

 ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSEフォトストーリー、8U編第7回。
 東京の空に集まった金属体は巨大な異界獣の姿を形作り、「王の中の王」―グランドキングを顕現させた。その圧倒的な破壊力に世界は恐怖に包まれ、〈レーテ〉は胎動を始める……しかし、未だ希望を捨てずに戦い続ける8人の戦士がいた。彼らはグランドキングを倒すべく、それぞれの行動を開始する。

ストーリー/長谷川圭一
設定協力/谷崎あきら
ULTRAMAN SUIT/SEVEN SUIT/ACE SUIT/
TIGA SUIT/ZERO SUIT/TARO SUIT製作:只野☆慶
ZOFFY SUIT製作:小澤京介
グランドキング製作:山田卓司

8U-英雄-編
Episode 32  故郷なき者たち

「何て大きさ……何て破壊力だ……!」
 井手はモニターに映し出される超巨大異界獣グランドキングの威容を、その赤い単眼から放たれた光線に一瞬で崩壊した高層ビルを見つめ、呻くように呟く。
「これが……敵の切り札……新たな闇の支配者なのか」
 井手の脳裏には上海に出現した異界の邪神、ガタノゾーアの禍々しい姿が思い返されていた。幾多の異界獣を支配し、世界を滅亡の暗黒に包むもの。人々の心を恐怖で塗り潰すもの。初めてその異形を目の当たりにした時の感覚が確かに蘇っていた。
 やはりこれが敵の狙いだったのだ。人々から恐怖のエネルギーを集めた目的はガタノゾーアに匹敵する破壊神を創り出すこと。こうして再び我々に悪夢と絶望を与えること。
 救世主……ユザレ……。
 思わず井手は救いを求めるかのように背後を振り向く。だがマヤの腕に抱かれる赤ん坊の青と金色のオッドアイは真っすぐモニターに注がれ、その表情から何も感情を読み取ることは出来なかった。
 井手も再びモニターに視線を戻す。
 現地に留まっている自衛隊曹士が有線カメラで撮影している映像だ。スカイホエールから脱出した堀井、中島、土井垣を救助してくれたのも彼らである。
 カメラは、果敢にグランドキングへ挑みかかるTIGAの姿を追っていた。
 グランドキングとの身長差は一〇〇倍以上。象にたかる蟻にも等しいが、今は蟻の一穴が千丈の堤を崩す可能性に賭けるしかない。
   
 グランドキングの行く手に、ひとつの建造物が見える。人の恐怖を収穫する者が無人の街で目指す場所。動けない人々が集まっている施設。ダイゴは直感した。
「病院か!」
 TIGAはゼペリオンスピアの出力を上げ、グランドキングの足を、喉を、単眼を貫き、斬り裂いた。しかし致命傷にはほど遠い。わずかに歩みを緩めさせるのがやっとだ。
 ずっとダイゴは感じていた。あの時と同じ醜悪な感触。予兆を。それはスペースモスの大群によって漆黒に塗り潰された空を見た時、確信となった。
 ダイゴが生まれ育ったあの世界を蹂躙し、滅ぼした、あの闇の邪神が再び現れると。
 グランドキングの攻撃を躱しながら持てる力のすべてで反撃するTIGA──ダイゴの脳裏には懐かしい笑顔が浮かんでいた。
 ソルカ。ダヤ。二人はダイゴと同じ地球星警備団の隊員だった。どんな危険な任務でも力を合わせ解決した。心の底から互いを信頼していた。つらいことや悲しいことがあれば遠慮なく相談し合える、そんな仲間だった。親友だった。
 カミーラ。彼女もそうだ。共に世界の平和を守り、共に戦い、いつしか愛し合うようになっていた。だけど……。
 一人の男の狂気が異世界と繋がる扉を開いたことで、全ては変わってしまった。扉からはおびただしい数の異形の怪物が現れ、人々を襲い、喰らった。
 阿鼻叫喚の地獄絵図。平和だった世界は一瞬で崩壊し、人々の悲鳴で満たされた。
 大殺戮の中、怪物と化した人間もいた。カミーラもその一人だった。彼女は異界の力に魅入られ、心を闇に飲まれた。
 ダイゴとカミーラ。愛し合っていた二人が殺し合い、世界を救う最後の希望だったユザレを守る戦いの中でソルカとダヤは死んだ。そして世界は──ダイゴの故郷は滅亡した。
 その喪失感、哀しみ、怒りは、今もダイゴの胸にある。心に強く焼き付き、決して消えることは無い。
 だから守りたい。この世界を。
 ダイゴの脳裏に、ソルカ、ダヤ、カミーラの他にも幾つもの笑顔が浮かぶ。
 諸星弾。北斗星司。そして早田進次郎。
 イーヴィルティガとカミーラたちによって再び闇の扉が開かれた時、共に死力を尽くして戦った、新しい仲間たちだ。
 彼らは今どこにいるのだろう。出来ればもう一度、共に力を合わせて戦いたかった。この世界を一緒に――
 ガンッ! 激しい衝撃にダイゴの思考が途切れる。グランドキングの巨大な鋼鉄の鋏に弾き飛ばされたのだ。高層ビルの壁面に激突し、意識が揺らいだ時、不意に声が響く。
〝諦めるな〟
 ユザレか。――いや、違う。この声は……
〝俺もお前と同じだ。多くの仲間を殺され、大切な故郷を奪われた〟
 誰かがダイゴの頭に再び語り掛ける。
〝そしてこの世界で出会った。新しい仲間に。掛け替えのない、友に〟
「……誰だ?」
 ダイゴが声の主に問いかけると同時、前方の闇から大柄な人影が現れる。SEVEN SUIT……、いや、似ているが違う。初めて出会うULTRAMAN SUITだ。
〝ゼロ。俺はウルトラマンゼロだ〟
 そう名乗るやZEROは大きく跳躍し、グランドキングに向けて二本のスラッガーを放った。
   
「ゼロだと!? 薩摩君がアメリカから戻ったのか?」
 驚いた井手が、オペレーターを見やる。
「いえ、スーツは無人です。ゼロが自分で転送装置を操作した模様!」
「あ……」
 ユザレを抱くマヤが声を上げた。
「笑ったんです。この子が、二人を見て……」
 そんなことか、と言いかけて井手は口をつぐむ。ユザレはただの乳児ではない。その精神は、長い時を生きてきた光の巫女のそれだ。
 ユザレはモニターに映るTIGAとZEROを凝視していた。
「……感じたんじゃないでしょうか。異邦人同士、同じ思いでここに立っていることを。あの二人の心が、通じ合ったことを」
 二人と同じ異邦人であるマヤには、わかるのかもしれない。
   
 象にたかる蟻が二匹になったところで、何が変わるというのか。
 そう言わんばかりに、グランドキングは前進を続ける。
 病院に近づけるわけにはいかない。TIGAとZEROは連携してグランドキングの機先を制し、死角に割り込んでスピアを、ランスを抉り込む。だが同じだ。わずかに足を鈍らせるだけで、進路を変えるには至らない。TIGAの消耗は激しく、ZEROも次郎を欠いているため本領を発揮できずにいる。
 戦力差は歴然だった。しかし──
〝どんな状況でも最後まで諦めない〟
 TIGAと共に戦うZEROの脳裏に、ある光景が浮かぶ。
 倒壊する作業用大型クレーン。そのジブの上を全力で走る若者が大きくジャンプする。命知らずの無謀な行動。それは仲間たちの命を救うためだった。なんという勇気だ。それだけでは無い。レギオノイドの大群に襲撃され、戦火の中にひとり逃げ遅れた女性を救おうと若者は最後の最後まで諦めなかった。命を賭けて守り抜こうとした。その姿を見た時、ZEROは決断した。この人間と共に戦おうと。薩摩次郎と共に。
 だが最初から意思の疎通ができたわけではない。SUITのチュートリアルシステムを通しての対話はひどく限定的なものだったし、何よりその時のZEROは次郎以外の人間との対話を拒否していた。特にZEROに対してあからさまな敵意を向ける、あの男とは。
 諸星弾。絶対に分かり合えることは無いと思っていた。だがZEROはまだ知らなかったのだ。諸星の中にもZEROと同じ感情が押し込められ、暗い炎のように常に燃えていたことを。
 ――復讐心。故郷を侵略者に滅ぼされ、親代わりに育ててくれた師匠を目の前で殺されたZEROに残された唯一の感情。最初は次郎も復讐を果たすための道具だったかもしれない。だが共に戦ううちに、次郎のZEROに対する気遣いを知るうちに、忘れかけていた感情――戦う為に一番大切なものを取り戻すことができたのだ。そしてあの時。氷の惑星でエネルギーを使い果たし、マイナス二四〇度の極寒の中で次郎と共に死を覚悟したあの時。諸星が――
 ズドオオオオン! グランドキングの放つ光線がすぐ間近に炸裂した。飲まれ吹き飛ぶZERO。地面に叩きつけられ、激しい衝撃に体が動かない。
〝まだだ……最後まで諦めない〟
 何とか立ち上がろうとするZEROの視界に、やはりボロボロになりながら身を起こすTIGAの姿が見える。ダイゴは生身の人間だ。気持ちは折れずとも肉体は限界に近い。
「ギリギリセーフか」
 不意に聞き覚えのある声がZEROの音響センサーに届く。
「だが随分と派手にやられたものだ」
 もしZEROに表情があれば微笑んでいたに違いない。
 闇の中にいつしか着陸したサブビートルの機体を背に、SEVENが歩いて来る。
   
「諸星さんです!」
 福建省の護りに就いたまま連絡の取れなくなっていた諸星の帰還に、指令室が湧く。
 ねぎらいの言葉のひとつも掛けてやりたい井手だったが、通信手段がない。
 それでも彼は、何らかの方法でこの国の危機を知り、帰ってきてくれた。
 ならば進次郎や早田にも、それは伝わっているかもしれない。希望が出てきた。
   

ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE 32-1 

「久しぶりだな。ダイゴ」
「ああ」
 SEVENが差し出す手を握りTIGAが立ち上がる。以前は見られなかった光景だ。
 ZEROもそうだったが、ダイゴと諸星は互いを敵視し、結局最後まで心通わせることは無かった。――いや、気づかなかっただけで二人はとっくに互いを認め合っていた。
「少し休め。まだ倒れてもらっては困る」
 TIGAが小さく頷くのを確認し、SEVENは離れてカメラを向けている自衛隊曹士へハンドサインを送った。
 指令室は即座にその意味を読み取り、井手の承認を経て転送制御室へ伝達する。
 転送ビームが迸り、十数挺のワイドショット、EXライフル、スペシウムソードがSEVENの傍らの地面に突き刺さった。
「押し返す。僕に続け」
 SEVENと共にZEROも武装を手に取り、アクティベートした。
 光条が閃き、弾丸が弾け、斬撃が飛び交う。
 撃ち尽くす端からパージし次の一挺に手を伸ばす。
 猛烈なラッシュ。さしものグランドキングも、完全に歩みを止めたかに見えた。
 だがグランドキングは、やおら長大な尾を持ち上げ、先端に備わる二本のロッドの先から直径六〇センチはあるプラズマ光弾を四方八方に乱射し始めた。
「まずい!」
 病院だけは死守しようと、ショットを放って光弾の軌道を逸らす。攻撃どころではなくなった。
   
「上です! 上から何かが!」
 指令室のマヤが叫んだ。胸に抱くユザレが、上を指して何事かを訴えている。
 観測警戒衛星とのリンクが失われていなければ、モニターには闇空を斬り裂き地上に向け猛スピードで降下する巨大な影が映し出されていたことだろう。程なく影は、暗雲を突き破って東京都心に降り立った。
「……まさか!」
 それは蛾のような翼をもつ異形の怪獣だった。敵が送り込んだ追加の戦力か。グランドキングに全く歯が立たないこの状況で新たな怪獣と戦う力などあるはずが無い。
「徹底的に叩き潰す気か……」
 呻くように井手が呟く。冷酷無比な敵のやり口に激しい恐怖と怒りがこみ上げた時、全く予想だにしなかった事態が起きる。
 飛来した怪獣がグランドキングに襲い掛ったのだ。
「怪獣が……どうして……」
「あれはムルロアだ」
 思わず発したマヤの疑問にエドが答えた。
 いつからそこにいたのか。相変わらず神出鬼没、行動がまったく読めない。
 エドは続ける。
「正確にはムルロア星に生息する宇宙生物。だが私の知る限りあれほど大型のものは存在しない」
   
 ムルロアは、口吻から強烈な酸を噴射しグランドキングを攻撃する。その周囲を、スペースモスが加勢するように飛び交っている。エドによれば、スペースモスはムルロアの幼体らしい。グランドキングを構成する金属体の支配よりも、同族に従い生存を図る本能の方が勝るのだろう。
「思わぬ援軍だな」
 その様を見つめるSEVENが独り言つのと前後して、
〝感じる。激しい怒りを〟
「俺もだ。怒り……そして深い悲しみ」
 ZEROとTIGAがほぼ同時に呟く。
「この感情を俺は知っている」
 二人は、ムルロアの意識を感じ取っていた。
 突如ムルロア星に現れるダークゴーネ率いる侵略部隊。
 生息するムルロアが次々に殺戮され、スペースモスが金属体に回収される。
 炸裂する大量破壊兵器。閃光と炎の中、生き残り巨大化したムルロアが、怒りと悲しみの咆哮を上げる。
〝同じだ。この怪獣も奪われたんだ〟
「仲間を……故郷を……」

 そのビジョン――ムルロアの記憶を、世界各地にいるデュナミストたちも見ていた。姫矢准が、ユタ花村が、フクシン・サブローが、およそ千人もの人間たちが、ZEROとTIGAがシンクロしたビジョンをユザレの精神を通し、共有したのだ。そしてムルロアの怒りと悲しみを、ある者は涙し、ある者は歯噛みして、我がことのように感じていた。
   
 怒りを込めて戦うムルロア。同調したスペースモスもグランドキングに殺到し、粘つく鱗粉をまき散らす。
 だが超合体異界獣の猛威にはかなわない。ムルロアは無残に翼を焼かれ、腕を引きちぎられた末、ついに背中の神経中枢を叩き潰された。
 息絶える寸前、ムルロアの脳裏には美しかった故郷が見えていた。大きな湖の畔には花々が咲き乱れ、まっ白い無数のスペースモスが飛び交う。暖かな光に包まれ、まどろむムルロア。その瞼が静かに閉じられ――光は消えた。

 科特隊指令室に赤ん坊の泣き声が響いた。
 ユザレが泣いていた。今までこれほど感情を露わにしたことは無かった。ムルロアの精神とシンクロし、地球星警備団団長でありながら世界の滅亡を止められなかった悔恨、守るべき人々への贖罪、ずっと胸の奥に抑え込んでいた様々な感情が堰を切ったように一気に溢れ出す。心は冷静に受け止めようとしていたが、未成熟な体には湧き上がる感情を止めることは出来なかった。そんなユザレをマヤが母親のように優しく抱きしめる。
 モニターに絶命したムルロアの姿を見つめ、井手が呟く。
「あの怪獣も……犠牲者だったのか」
   
 ダイゴの目からも涙が流れ落ちていた。ZEROも泣くことが出来れば涙を流したに違いない。諸星は無言だ。だがダイゴとZEROの感情は伝わっていた。
 東京じゅうのスペースモスが、まるで弔うようにムルロアの亡骸の上に集まり、降り積もった。
 暗かった空が、晴れてゆく。
「倒すぞ」
 SEVENは短く言うと再びソードを構える。TIGAとZEROも決然と顔を上げた。
 回復は十分とは言えない。武装も底をついている。一方、病院への進撃を再開したグランドキングの消耗率は一割にも満たないだろう。勝算は薄い。
 だがそれが何だ。
 三人が攻撃体勢を取ったとき、通信機が反応した。
『……ちらMAT、アロー01航空小隊。着陸許可を請う』
『こちらファルコン。高度八〇〇で接近中、滑走路に空きはあるか』
   
 その声は、科特隊指令室にも届いていた。
 スペースモスが一掃され、通信が回復したのだ。
「機影照合、識別コード受信、間違いありません!」
 東からは太平洋を横断して攻撃戦闘機MATアロー三機が、西からはヨーロッパを飛び立った大型空中母艦TACファルコンが、一路東京を目指していた。
 指令室に歓声が上がる。
   
『どこで道草を食っていた。とっとと降りて来い』
 いずれも現地のデュナミストの訴えを受けてスクランブル発進し、音速の五倍以上で地球を半周してきたのだが、諸星も承知の上での苦言だ。証拠に、声が笑っている。
 着陸を待たず、三機のアローからはジャックと次郎、光太郎が、ファルコンからは進次郎、北斗、早田がダイブ、空中でSUITを装着した。ZEROも次郎とランデブーし、その身を包んで装着を完了、一同に続いて着地した。
 JACK、TARO、MAN、ACE、ZOFFY。TIGAとZERO、SEVENを含め、ついに八人のULTRAMANがここに集結した。

ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE 32-2

 初めて見る顔もあったが、挨拶もそこそこに8戦士は散開する。
 空を飛べる進次郎がグランドキングの注意を引き、ZOFFYが足元を崩す。ACEが隣接するビルを切断し、JACKとZEROが抱え上げて横っ面に投げつける。そこへTAROの炎が追い打ちをかける。息もつかせぬパワー攻撃だ。
 呆れるTIGAの前へ、吹っ飛ばされたJACKが落下してきた。
「よう、あんたがダイゴ? 俺はジャック。こう見えても──」
「なるほど、パワーか」
 TIGAが額のクリスタルに触れる。SUITが変形し、JACKさながらのマッチョ体形に変化、体色も銀と赤に変わっていた。
「……ナイスバルク」
「あんたは右を頼む」
 言うなりTIGAは、間近でのたうつグランドキングの尾の先端、二つに分かれたその左側を抱え込んだ。察したJACKが右の先端に飛びつく。
「Hooooyaaaaah!!」
 二人がかりで強引にスイングする。グランドキングの巨体が宙を舞い、東に聳える全高二三八メートルのタワービルに背中から叩きつけられた。
「胸を狙え! ヤツはそこを中心に結合した!」
 TIGAはグランドキング出現の光景を思い返し、そう叫んだ。
「俺が行く!」
 TAROが名乗りを上げた。
『光太郎君、これを使え!』
 井手の声と共に、手の中に槍の穂先を繋げたような武装〈スペシウムランサー〉が転送された。グリップを握り締めると、エッジに青白い光が満ちる。
 TAROは背中のダクトから火を噴いて、ビルにめり込みもがくグランドキングに肉薄、ランサーでその胸を真一文字に斬り裂いた。露出した内部に、渾身の炎を注入する。苦悶の叫びをあげるグランドキング。しかしまだ融解させるには至らない。
「下がれ、タロウ!」
 JACKの声に振り向くと、空中に銀と赤のTIGAがいた。地上のJACKが組んだ両手を足場に投げ上げたのだ。腕にデラシウム励起されたゼペリオン光球を把持している。TAROが後退すると同時に、TIGAはそれを放った。さらに飛来した進次郎がスラッシュを投射。グランドキングの胸の中でゼペリオンとスペシウムが干渉し、大爆発を起こした。
 ヴウウウウン……断末魔の重低音が響く。次の瞬間、グランドキングは瓦解、細切れの鉄屑と化して崩れ落ちた。
   
 指令室に沈黙が満ちる。
 ──これで終わったのか?
「前線指揮所より緊急!」
 モニターの一角に、グレースーツの壮年男性が映し出された。
 井手がその名を呼ぶ。
「星野君、いや、星野防衛大臣」
 星野勇。少年時より科特隊に出入りし、井手や早田とも親交の深い、叩き上げの現職防衛大臣である。彼の存在なくして、科特隊と自衛隊の共同作戦は実現し得なかった。
『時間がありません。彼女の話を聞いて頂きたい』
 そう告げて星野が席を譲った女性は、レネだった。
 誘導に従い日比谷公園に着陸したアローを降りた彼女が、サウス、ヒルと共に自衛隊と合流、前線指揮所に案内され星野と握手を交わしたのはほんの数分前だ。
『私はレネ・アンダーソン。そこにいるのね、ユザレ』
 マヤの抱きかかえるユザレが、目顔で肯定する。
『私がユザレの言葉を伝えるわ』
 レネの頬には涙の痕があった。彼女も見たのだ。ムルロアの記憶を。
「ジャック君から君の力に関しては聞いている。よろしく頼む」
 井手の言葉にレネは頷くと、ユザレの瞳をじっと見つめ、口を開いた。
『──彼らが今倒したのは敵の先兵に過ぎなない』
 室内がざわめく。あれだけ強大な破壊力を持ち、8戦士の総力で何とか倒したグランドキングが、ただの先兵とは。
 そこへ、突然の警報が割り込んだ。インカムを耳に押し当てたオペレーターが、呆然自失の体で報告する。
「上海の時空歪曲点が……消失したそうです」
「何だって!?」
 モニターに新たなウインドウが開き、ダイブハンガーからのライブ映像が映し出される。
 時空歪曲点を封印するグランドームの内部は、空っぽだった。
「一体、何が……?」
 一同の疑問を代弁する井手の呟きに、レネが答えた。
『現れる。本当の、滅びの闇が……!』
   
「見て下さい!」
 進次郎が南を指さした。東京タワーの先端が、激しいコロナ放電を起こしている。檣頭電光、俗にいうセントエルモの火だ。原因は、その上空にあった。
 上海から消えた時空歪曲点が浮かんでいる。そしてその中から、異形のシステム〈レーテ〉と、ダークゴーネが姿を現した。
「感謝します。必要な恐怖は全てレーテに満たされました。ついに完成です。この世界を滅ぼす究極の闇の鎧〈ダークザギ〉が!!」
 ドクン。レーテが大きく胎動する。
8戦士と全ての人々が見つめる中、まるで幼虫から蝶が孵化するが如く、暗黒のSUIT――、DARK ZAGIが誕生した!



つづく

【8U編】

恐怖のルート89 前編

恐怖のルート89 後編

ブギーマンの夜 前編

ブギーマンの夜 後編

史上最大の決戦 序章

暗界の超巨大獣

故郷なき者たち

時と生と死を覆う絶望の闇

英雄たちよ、永遠に (終)

【『ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE』×『SSSS.GRIDMAN』特別編】

ヒーロー×邂・逅 前編

ヒーロー×邂・逅 後編

【特別編】

戦場 -キリングフィールド- (TIGA)

聖地 -サンクチュアリ- (TIGA)

霧が来る2021 前編 (SEVEN、ZERO)

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【EP:TIGA】

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Ⓒ円谷プロ ⒸEiichi Shimizu,Tomohiro Shimoguchi

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