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【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】
8U-英雄- 編 Episode 26 ブギーマンの夜 前編

2022.01.11

LTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE 月刊ホビージャパン2022年2月号(12月25日発売)

【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】8U-英雄- 編 Episode 26 ブギーマンの夜 前編

 

 ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSEフォトストーリー、8U編第三回。
 カリフォルニア州ロサンゼルス。少年ダニエルは恐怖に眠れぬ夜を過ごしていた。もう三人もの子供が消えている。みんなブギーマンに連れ去られたのだ。そして今宵もまた…。
 噂はMATにも届いていた。やはり異星人が絡んでいるらしい。またもやジャックに脅かされた次郎は、レネの力を借り恐怖の夜の謎を解き明かしに向かう。

ストーリー/長谷川圭一 設定協力/谷崎あきら ZERO SUIT/製作:只野☆慶

8U-英雄-編
Episode 26 ブギーマンの夜 前編

 カリフォルニア州ロサンゼルス。午後十一時十三分。
「……怖い……怖い……怖い」
 ダニエルは子供部屋のベッドの中で頭からすっぽり掛け布団をかぶり、眠れない夜を過ごしていた。いつもならママにおやすみのキスをされてから五分としないうちに深い眠りに落ちる。そして朝の光と小鳥のさえずりで目がさめる。ずっとそうだった。
 なのに今夜は違った。ダニエルは一時間以上も眠れず、震えていた。
 ずっと寝付けないでいるのは、明日が七歳の誕生日で欲しかったゲームをママが買ってくれるからでは無かった。理由は他にある。
 ブギーマンだ。
 ダニエルは今夜、この部屋にブギーマンが来て自分をさらっていくかもしれないという恐怖に怯え、眠れずにいるのだ。
 お願い。ブギーマンがきませんように。
 何でダニエルが今夜に限ってブギーマンをそんなに怖がるのか。昨日、学校に移動動物園が来ていて可愛いウサギを抱き上げていた時、年長のクリスが突然言ったのだ。
「ダニエル。お前、明日の夜、ブギーマンに連れていかれるかもな」
「え? どうして?」
 そう聞き返したら、クリスはいかにも気の毒そうな顔をしてスマホの画面を見せた。
「知らないの? 子供が三人、消えたんだよ」
 消えた子供達には共通点があるんだとクリスは言った。三人とも消えたのは誕生日の前日で、クローゼットが開いていたのだ。
「どうしてクローゼットの扉は開いてたと思う?」
 まるでダニエルの反応を楽しむかのようにクリスは言った。
「ブギーマンが来たからさ。消えた子供はみんなブギーマンに連れていかれたんだ」
 なんて意地悪なんだ。こんな楽しい日に何でそんな怖いことを言うんだ。
 でもその時は正直それほど怖くも無かった。手の中には可愛らしいウサギがいたし、次はお目当てのポニーに乗れる順番だったから。でもこうしてその夜になったら、クリスの意地悪な言葉がどうしても頭から離れない。おやすみのキスをしてくれたママに思い切ってそのことを話したけれど、
「大丈夫。そんなのは、ただの言い伝え。ママも子供の時にダニエルみたいに不安に思ったこともあったけど、ブギーマンは来なかった」
 優しくママは微笑み、ダニエルの頬に今夜は特別に二回目のキスをして「おやすみなさい」と言って部屋の電気を消し、ドアを閉めた。
 そうだ、ママの言う通りだ。何度もダニエルは自分にそう言い聞かせた。でも……どうしても、意識はクローゼットから離れない。
 ギギッ。聞こえた。
 頭から布団をかぶったダニエルの耳に、確かにクローゼットが開く音が聞こえた。そして――、ズズッ、ズズッ、ズズッ……。
 何か得体の知れないものが、床をゆっくり這いずり近づいてくる音が聞こえる。
 ……怖い怖い怖い怖い。
 ダニエルは耳を塞ぎ、呪文のように繰り返す。
 ブギーマンがきませんように。ブギーマンがきませんように。
 だがその言葉を遮るかのように、
 ズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズッ。
 不気味な音はどんどん近づいてくる。
 怖い、怖い怖い怖い、怖い怖い怖い怖い怖い恐い怖い怖い怖い!
 もうダメだ。我慢できない! ダニエルは頭からかぶっていた布団をはがすとベッドから飛び降り、子供部屋を飛び出そうと走りながら叫んだ。
「怖いよ、ママ! 助けて!」
 だが次の瞬間、足首を冷たくて気持ちの悪い手が掴み、ダニエルの体を一気に引きずっていった。
「助けて、ママ! ママ! ブギーマンが――」
 必死に母親を呼ぶダニエルの声はクローゼットの中へと、消えた。

「ブギーマン?」
 米国国家安全保障局の秘密機関・MATが全米各地に置く拠点のひとつ、南カリフォルニア支部――通称〈ソーカル〉の一室で、薩摩次郎がジャックに聞き返す。
「知らないのか? ジロー君」
「知ってます。確かホラー映画に出てくる殺人鬼ですよね。ホッケーマスク被って手には斧やチェーンソーを……」
「それは13日の金曜日のジェイソンだ。しかも俺が言っているのは仮面をかぶった殺人鬼のことじゃない。夜中に子供を連れ去る伝説上の怪物のことだ」
「まさか、そのブギーマンが……実際に子供をさらった、とかじゃないですよね」
 強烈に嫌な予感を覚えつつ聞き返す次郎に、きっぱりジャックが答える。
「その、まさかだ」
 やっぱり……。思わず次郎は天を仰ぐ。次郎は子供の頃からお化けや妖怪が出てくる怪談話が大の苦手だった。そんな次郎がアメリカに派遣されて調査を命じられたのが、真夜中の国道に現れる白い服の女と青い火の玉、そして人間が白骨化するというまさに怪談じみた事件だったのだ。ようやくそれを解決したというのに、何でまた……
「どうした? 顔色が悪いぞ、ジロー君」
「……いえ。大丈夫です」
 何とか平静を保ち笑顔で答える次郎に、ジャックが事件の概要を説明する。
「失踪事件は全てカリフォルニア州ロサンゼルスの住宅街で発生。夜の九時から十一時までの間、子供部屋から悲鳴が聞こえ、親が駆けつけてみるとベッドはもぬけの空。窓は施錠されていたが、確かに閉まっていた筈のクローゼットの扉が開いていた」
「クローゼット……?」
「ブギーマンは真夜中にクローゼットから現れ、子供を連れ去ると言われているからな」
「そうなんですね……」
 またも思わず声が震える次郎に、ジャックが説明を続ける。
「消えた子供は四人。全員がいなくなる数日前から、ブギーマンが来ると怯えていた」
 室内の大型スクリーンに失踪した子供たちの顔写真、名前と年齢が表示され、確認するように呟く。
「最初に消えたのが、ビリー・クレイブ。五歳」
 と、すかさずジャックが「六歳だ」と訂正した。
 更に次郎が呟く。「次がエマ・ガールソン。九歳」「一〇歳だ」「リック・コナーズ、七歳」「八歳だ」「ダニエル・スタンリー。……六歳?」「七歳だ」「あの、ちょっと待ってください。この資料の年齢、どれも間違ってるってことですか?」
 いちいち訂正するジャックに次郎が抗議すると、
「そこにあるのは失踪した夜の年齢だ。四人の子供たちは全員、翌日には家族や友人に誕生日を祝ってもらえるはずだった」
「そんな……」
 思わず次郎は言葉を飲み込み、ジャックがどうして一歳多く年齢を訂正したのか、その理由に気づく。ジャックは消えた子供たちが今も生きていると信じているのだ。
「そして最後の共通点」
 感傷的な表情は一切見せず、ジャックが言う。
「調査の結果、事件現場からは前回のルート89の事件と同一の波動パターンと力場の転移が観測されている」
「つまり……」
「今回の事件の背後にも異星人がいるということだ」

 異界ではない。異次元でもない。まぎれもなく我々の地球と同じ座標系、同じ時間軸に沿って存在しながら、触れることも認識することもできない隣接空間――そこにダークゴーネはいた。彼の種属固有の能力である。
 この空間に身を置いている限り、どんな探知装置にも検出されることはない。一方ダークゴーネの側からは、川の向こうを見透かすように我々の空間を遠望することができる。しかし我々の空間に干渉するには、プランク長にも満たない細い橋を架けてこの川を渡らなければならない。ダークゴーネはこの能力を使い、彼が所属する帝国の中でいくつもの功績を上げ、現在の地位を築いた。
 そして今また彼は、自分に課せられた任務の重大さと計画の順調な進展に満足し、全身の暗黒細胞体を震わせていた。
 ルート89の白い女事件で目的のものを十分に集めることが出来たからだ。もうやり方は分かった。効率的に効果的に計画は進む。今度は更に多く集められるだろう。
 MATが捕捉した特異な波動はダークゴーネが隣接空間に橋を架けた際に生じる干渉波、力場の転移はダークゴーネが我々の空間から何かを持ち去った痕跡だ。
 ダークゴーネの前には、異形のシステムが鎮座していた。〈レーテ〉。機械のようでも生物のようでもあり、心臓のようにも胃袋のようにも見えるそのシステムは、今まで集めた〝それ〟を吸収し、軋むような唸りを上げて、不気味に胎動し続けていた。

 ロサンゼルスに到着する次郎。目的は敵の正体を確かめ、新たな犠牲を防ぎ、消えた四人の子供を無事救出することだ。その為には次の事件が起きる場所を特定しなければならない。だが最新データによるロサンゼルスの総人口は三九〇万人、その中で明日誕生日を迎える子供は一万人近くいる。とても特定は不可能だ。だが出発前の次郎にジャックは冗談めかして言った。
「大丈夫。優秀なガイドが手助けしてくれるさ」
 その言葉に次郎はすぐピンときた。優秀なガイドとはレネ・アンダーソンのことだ。確かに彼女の特別な能力を借りれば不可能ではない。
 まず次郎は消えた四人の子供たちの家を訪れた。ジャックに手渡された装置で測定すると、どの家からも既に例の波動と転移の兆候は消えていたが、親たちは一様に哀しみ、ブギーマンが来ると怯えていた子供の言葉を信じてあげなかった自分を責めていた。
 その姿を目の当たりにし、子供たちをさらった犯人――恐らく異星人に次郎は激しい怒りをおぼえた。何の目的があるか知らないが絶対に許せない。
 強い決意を胸に最後の被害者ダニエルの家を立ち去ろうとした時、次郎が乗って来たシボレー・コルヴェアの傍らに鮮やかな赤い服を着た女性が立っていた。
「また会えたわね。ジロー」
 レネが美しい笑顔を浮かべた。
 ジャックの予測通りレネは次に事件が起きる場所のビジョンを視ていた。そして子供たちを連れ去った犯人はブギーマンを騙る異星人だと断言する。
「でもこの前のアリゾナといい、異星人はどうしてわざわざ都市伝説を模した事件なんか起こすんだろう?」
 次郎の疑問にレネは、
「さあ。もしかしたらジローを怖がらせるためかも」
「まさか……」
 幽霊が苦手という心の弱みを見透かされたみたいで次郎は恥ずかしい気分になる。

 一時間ほどで二人は目的地のサンタ・クラリタに到着した。この高級住宅街はハリウッドに近く映画関係者が多く住んでいるようだ。
 レネが幻視した次の事件現場は緑の芝生が広がり庭に大きなプールもある立派な邸宅だった。少し気圧される次郎をよそにレネが迷いなくポーチのインターフォンを押すと、使用人の女性が出てきてレネと次郎をあからさまに訝る。次郎が身分証を見せてもなかなか信用されず困っていると、「心配ない。もうじき戻って来るから」とレネが呟き、その予言通り一台の高級車が走って来た。
「どなた?」
 運転手がガレージに入れる車から降り立ったのは、いかにもセレブな雰囲気の女性と、その後ろに隠れるように次郎とレネを見つめる少女、ジェシカ・テイラー。
「あの、俺たちは――」
「とても重要な話があります。ジェシカさんに関することです」
 事情を説明しようとする次郎を遮りレネが言った。
「今夜、何者かが彼女を誘拐します」
 その言葉を聞いた瞬間、ジェシカは明らかに怯え、母親の手を強く握った。
「ママ。私の言ったとおりでしょ。ブギーマンが来るの」
 ジェシカは誕生日の前日の夜、四人の子供が消えたというニュースをネットで知り、次は自分の番ではないかと恐れていた。
「バカらしい。そんなのはパパが撮る映画の中のお話よ。現実じゃない」
 ジェシカの父親はホラー映画で有名な監督で、母親は女優だった。娘の言い分を頭から信用せず、次郎とレネにも帰るよう命じた。
「これ以上、娘を怯えさせることを言えば警察を呼ぶわよ」

「やっぱ、こうなるよな」
 テイラー夫人に追い返された次郎とレネは邸宅が見える道路に車を停め、今夜は張り込むことにした。レネが視たビジョンだとブギーマンが現れた時、まだ父親は帰宅しておらず、夫人もお酒を飲んで既に熟睡。起きているのは不安と恐怖で寝付けないジェシカだけらしい。彼女は母親に助けを求めながらクローゼットに引き込まれた。だが幻視したのはそこまで。次郎が無事事件を防げるのかまでは分からないと言った。
「必ず助けてあげてね。ウルトラマン」
「……わかった」
 次郎は犯人である異星人への怒りを思い出し、強く頷く。そして、
 異星人への怒り……。そういえば……。
 ふと次郎は東光太郎のことを思い出す。アリゾナ州ルート89での事件で出会った光太郎は、激しい怒りと憎しみを宿して戦っているとZEROが感じ取った。それは自分の為に失った仲間への深い後悔だとも。
「ねえ、レネ。こないだの話、もっと詳しく教えてくれないか」
 前回の事件が終わったルート89沿いのカフェで、レネは次郎に、自分が視た未来のビジョンを確かめるためサンフランシスコのサウスビーチを訪れたと言った。そこで彼女が視たのは、もしかしたら……
「ジロー。あなたの想像通りだよ。私はそこで東光太郎と出会った」
「……やっぱり」
「彼はその時、真っ赤な炎に包まれ、異星人を焼き殺した」

 同時刻。ソーカルの一室で、ジャックはある資料に改めて目を通していた。
 それは東光太郎に関する調査ファイルだ。そこにはニューヨークで発生したある事件のことが書かれていた。異星人がばらまいた特殊な薬物。その副作用により人間が次々と凶暴化したこと。その事件に巻き込まれた東光太郎の身に何が起きたのか、全て詳細に記されていた。

「私は人間の姿に戻った光太郎を追いかけて、聞いたの。どうしてそんなに激しく怒っているの、なぜそんなに異星人を憎んでいるの、って」
「誰かを、失ったから……」
「そう。光太郎は目の前で親友を殺された。異星人に」
「だから、復讐を」
「しかも光太郎は、親友が死んだのは自分のせいだって思ってる」
「自分のせいで? どうして?」
 次郎がレネに尋ねた時、夜の闇にジェシカの悲鳴が響いた。
「!」

 レネと共に次郎は玄関に向かう。やはり施錠されていた。ノッカーを叩き、テイラー夫人の名を呼ぶが、起きてくる気配はない。次郎はレネに、ここで待つよう告げる。
「呼びかけ続けるのね?」
「いや、たぶん警備員が飛んで来ると思うから、その対応を」
 玄関に大手警備会社『Secured by ADT』の青いロゴが見える。
「そんなものが当てになるワケ──」
 みなまで聞かず、次郎は屋敷の裏手に走っていく。そして空にエメラルドグリーンの光が一閃したかと思うと、ガシャーン! 窓ガラスが割れる音に続いてけたたましい警報が鳴り響いた。
「……オーケイ、そういうことね」
 レネは肩をすくめ、やがて来る警備員に対しての弁解を考え始めた。

UAU26-1

 ZERO SUITを装着した次郎が子供部屋に進入すると、いましもジェシカがブギーマンにクローゼットの中へ引きずり込まれようとしているところだった。レネの予知したビジョンの通りだ。
 ブギーマン。死人のごとく青白い顔にささくれた麻のフードを被り、枯れ木のような腕でジェシカの足を鷲掴んでいる。下半身はクローゼットの闇の中に消え、どうなっているのかわからない。背筋を走る恐怖と嫌悪を、意志の力で強引に捩じ伏せる。
「その子を放せ!」
 ZEROは一挙動で頭部に装着されたゼロスラッガーを外し、そのままジェシカを掴むブギーマンの腕を切り上げた。速い。ソーカルに移る前、グランドキャニオンの工房でヤプールと名乗る異星人技師にSUITを預け、補修と点検を任せたが、よほど腕が良いのだろう。関節の可動範囲が広がり、パワーアシストにも心なしかブーストが掛かった気がする。以前よりも軽快に、かつ力強く動けるようになった。
 切断された腕に足首を掴まれたままジェシカが宙を舞う。間一髪、床に落下する前にその下に滑り込み、柔らかく抱き留めた。
「大丈夫? 怪我はない?」
 ZEROの腕の中で涙を流し頷くジェシカ。そこへ悲鳴を聞きつけた……というより警報に叩き起こされたテイラー夫人が駆けつける。片腕を失ったブギーマンはクローゼットの中へと逃げ込んだ。
「逃がしはしない!」
 ZEROはジェシカを母親に託すと、自らもクローゼットへと飛び込む。
「……ここは……!?」
 クローゼットの中には異様な世界が広がっていた。黒い森だ。悪夢のようなグロテスクな形をした木々の中を逃げ去るブギーマンの姿が見えた。
「待て!」
 ZEROがブギーマンを追いかけ黒い森を走り出した、その時だった。
 ズボッ。地中から青白い手が伸びるとZEROの足を掴んだ。
「!?」
 それは血まみれの死者の手。更に次々と地中から死者が現れ、ZEROを取り囲んだ。
「う、うそだろ……!」
 死者たちの姿はあまりにもおぞましかった。ある者は皮膚が焼けただれ、ある者は体中が腐り、腕や頭が欠損した者もいる。それらが一斉に不気味なうめき声を上げながらZEROへと押し寄せる。死者の口から、鼻から、眼窩から、無数のウジやヤスデやシデムシが溢れ出して次郎に降り注ぐ。虫はおろかガスも細菌も通さぬはずのULTRAMAN SUITに侵入し、肌の上を這い上る。皮膚を食い破って体内に潜り込む。皮下で産卵し爆発的に増殖する。耐え難い痒みと恐慌に全身が痙攣する。
「来るな、来るな来るな来るな! うあああああああ!」
 恐怖のあまり次郎はパニック状態となる。
『どうした、次郎! しっかりしろ!』
 ZEROが呼びかけるが次郎は完全に恐怖に飲まれ、その影響でZEROも正常に動くことが出来なかった。
「うああああ! うあああああああ!」
 叫び続ける次郎。このままでは精神が崩壊する。そうZEROが思った時――、ズドン!
 紅蓮の炎が炸裂! 死者たちを焼き払った。 同時に黒い森も消え去り――、
「……え?」
 周囲は見慣れた住宅街だった。テイラー邸を見やると、子供部屋の壁が吹き飛んでいる。クローゼットのあった辺りだ。クローゼットに飛び込んだつもりが、壁を破って外に飛び出し、存在しない死者を相手にダンス&シャウトを演じていたらしい。
 ようやく正気を取り戻す次郎。その前に立つのは、
「光太郎、さん……!」
 赤い炎の超人、タロウが次郎を見つめ、
「お前が見ていたのは、こいつが作り出した幻覚だ!」
 そう言うとタロウは再び灼熱の火炎弾を闇に向けて発射!
「うぎゃああああああああ!」
 それは片腕のブギーマンを直撃し、紅蓮の炎に包む。そしてブギーマンは炎の中で異星人の正体を現し、黒焦げとなった。火ぶくれの塊のようなその異星人の骸を科特隊のデータベースと照合したが、既知の移民者リストに該当はなかった。

『その炎は、お前の怒りだ』
 タロウにその言葉を投げかけたのは次郎ではなくZEROだ。
『お前の目的は復讐なのか』
 だがタロウは答えず、光太郎の姿に戻る。次郎もZERO SUITを解除した。
「光太郎さん。何があったか話してくれませんか? 俺たちも何かの役に――」
「話すことなど無い。これは……俺の問題だ」
 立ち去る光太郎。その背中を見つめる次郎。
「光太郎が背負っているもの」
 いつしかレネが次郎の横に立っていた。
「それは今の私たちには理解できないのかもしれない」
「……それでも俺は……光太郎さんのことが知りたい。彼を助けたいんだ」
「助ける?」
「だって俺……ウルトラマンだからさ」
「……だよね」
 ふっと微笑むレネ。だがすぐにその顔が曇り、「あっ」と小さく呻いた。
「どうかしたの?」
 思わず心配する次郎を見つめ、レネが言う。
「ブギーマンはまだいる。まだ事件は続くわ」
「……」
 そうだ、この事件は終わってなんかいない。消えた四人の子供を無事に救い出すまでは。
 それには光太郎さんと一緒に力を合わせて……。
 次郎が決意を新たにした、その同時刻――、

UAU26-2

 ソーカルを発ったジャイロがグランドキャニオンの谷底に着陸した。
 工房にやって来たジャックは、冷蔵庫からクアーズを取り出しヤプールに尋ねる。
「例のモノは出来てるか?」
「九割五分ってトコだな。あのニーちゃんのスーツがだいぶ参考になったぜ」
 手元のコンソールに集中したまま、ヤプールが答える。
「……だが素直に使うかね。その復讐の鬼は」
 一息ついて顔を上げたヤプールの背後には、既存のいかなるULTRAMAN SUITとも異なる戦闘支援スーツが、鈍い光を放ってコンソールに繋がれていた。

つづく


【8U編】

恐怖のルート89 前編

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ブギーマンの夜 後編

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