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【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】
8U-英雄- 編 Episode 30 史上最大の決戦 序章

2022.05.11

ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE 月刊ホビージャパン2022年6月号(4月25日発売)

【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】8U-英雄- 編 Episode 30 史上最大の決戦 序章

 

 ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSEフォトストーリー、8U編第5回。
 子供を攫う怪物ブギーマン=ギランボを、TAROの力を借りて焼き払ったZEROとJACK。スリーマンセルが板についてきた次郎・ジャック・レネの3人は、先の火の玉事件から続く怪談噺のような一連の事件には「恐怖」の感情を集めるという何者かの意図が働いているのではないかと推測を立てる。

ストーリー/長谷川圭一
設定協力/谷崎あきら
ZERO SUIT/TARO SUIT/製作:只野☆慶

8U-英雄-編
Episode 30 史上最大の決戦 序章

「恐怖の感情ねえ……」
 井手は、机上に据えられたディスプレイに映るジャックを前に、途方に暮れた顔で言った。科特隊日本支部の指令室に隣接する執務室の中だ。

「納得いきません? だけどデータが明確に示してるんですよ。事件現場で観測された波動パターンと、居合わせた人間の恐怖の感情との間には有意な関連性があるってね」
 一方のジャックは、NSAに所属する非公式部署のひとつ、MAT南カリフォルニア支部──通称ソーカルの一室で、同じくディスプレイ上の井手と向き合っていた。
『いや、そこを疑ってるわけじゃないんだ。ただ、敵の意図がわからなくてね』
 それはそうだ。恐怖とは大脳辺縁系で起こる神経反応のひとつに過ぎない。集めたり貯め込んだりできるものではないし、仮にそこからエネルギーを取り出す技術が存在したとしても効率が悪すぎる。もっと合理的な手段がいくらでもあるだろう。
「その点は俺に聞かれても困ります。恐怖によって力場が発生し、それがどこかへ持ち去られているんじゃないかってのが、ウチの有識者会議の見解でしてね。そう不思議でもないでしょう? ヤツらにとっちゃただの娯楽かもしれないし、宗教的に意味のある儀式なのかもしれない。連中が不合理な行動を取る理由なんて、それこそ星の数です」

「儀式? 儀式か……フム」
 ジャックの言葉に何か思い当たることがあったか、井手は考え込んでしまった。
 彼が何気なく発したこの言葉が図らずも的を射ていたことを、後に世界中が知ることになろうとは、この時点でいったい誰が予測しえよう。
 ディスプレイの向こうで、当のジャックが焦れる。
『で、どうです? 双方にとって価値のある提案だと思うんですがね』
「わかった、サインしよう。本件に関しては、私の権限の及ぶ限りにおいて協力を惜しまないと約束する」

「賢明な判断に感謝します。細かい手続きについてはウェインからメールさせますんで。諸星の旦那はまだ上海でしたっけ? よろしく伝えといてくださいよ」
 ジャックは通話を切るなり、片手で弄んでいたギネスのプルタブを開け、喉を鳴らして飲み干した。
「もう飲んでるし」
「交渉も雑」
 傍らでやり取りを見ていた次郎とレネが呆れる。
「君らもどう?」
 二本目を飲み干したジャックが缶を掲げて見せるが、二人とも丁重に断った。さすがに朝からスタウトビールを呷る気にはならない。
 ジャックと井手の会話の概要はこうだ。
 MATが調査中の事件現場で、人の恐怖の感情に呼応する特異な波動のパターンと、それに伴う力場の転移が確認された。誰が何のためにそんなことをしているのかも気になるが、それがどこへ送られているのかを特定したい。そのために科特隊とMATでデータを共有し、互いの人的・物的リソースをシェアし合わないか?
 これには「次郎をもうちょっと貸しといてくれ」という言外の意味も含まれていた。

「レネはどう思う?」
 ソーカル内にあるカフェテリア。少し遅い朝食を取りながら次郎が、差し向かいに座るレネに尋ねる。
「どうって、何が?」
 レネの返答は声のトーンからしてやや不機嫌だ。今は食事の真っ最中。トーストとゆで卵とコーヒーだけの次郎に対し、レネの前にはエッグベネディクトにシーサイドオムレツ、フライドポテト、野菜サンド、シーザーサラダ、コーンスープが所狭しと並んでいる。
 近くのテーブルに座る数人のマッチョな男性職員がレネの大食ぶりを感嘆のまなざしで見ている。だがレネは好奇の視線には慣れっこのようで、手を止めることなくそれらの料理を黙々と食べている。
「何か……新しいビジョンは?」
 ビジョンとはレネが幻視する未来の出来事のことだ。彼女には上海でのガタノゾーア大災害が起きた時、突如その力が与えられた。こうしてボリューム満点の食事をするのも、その能力を使うことで消耗されるエネルギーを補うためだ。
「う~ん。これといって、無い」
 レネが初めて食事の手を止めると眉間にへの字のしわを寄せ答える。きっと意識を集中させているのだ。
「でも、何か予感はする。今までとは違う、何か胸騒ぎがする」
「胸騒ぎ……」
 次郎にはレネのような力は無いが、確かにここ数日、胸のあたりが何かザワザワするのを感じていた。その正体が何であるのか、遥か遠く離れた地で、より具体的なビジョンを視ている者がいた。

 南米を横断する鉄道の車内。ダイゴの腕の中に抱かれた一歳の赤ん坊のつぶらな瞳――青と金色のオッドアイが開かれる。
「ユザレ。何か視えたのか?」
 そう問いかけるダイゴの頭の中に直接、ユザレの声が響く。
〝滅亡の闇が……世界を覆い尽くす〟
「滅亡の闇……まさか……!?」
 思わず声が大きくなるダイゴに再び声が響く。
〝そう。あの時と同じように〟

「うっ」
 突如、食事をおえたばかりのレネが呻いた。
 次郎は一瞬、さすがに食べ過ぎて気分がわるくなったのかと思ったが、レネの手は口ではなく額とこめかみをグッと抑えている。ビジョンを視たのだ。
「ジーザス……何も見えない……」
「見えないって……」
「闇だよ。空が……街が……世界が……暗黒の闇に包まれる!」
 レネはユザレと同じ言葉を絞り出すように叫ぶ。その表情は次郎が今まで見たことも無いほどに怯えていた。

 ユザレとレネが不吉なビジョンを視た一時間後、赤道上空約3万6千キロの対地同期軌道にある転送中継衛星V3のレーダーが外宇宙から接近する複数の物体を確認。ほどなくしてそれらは大気圏を抜け、米国イリノイ州の上空へと飛来した。
「何だ、ありゃ」
 ソーカルの一室。転送された映像を見つめジャックが呟く。モニターには雲霞の如く空を覆うおびただしい数の飛行体が映し出されていた。
「それにしても、凄い数ですね」
 ジャックの背後からモニターを覗き込む次郎に、
「数は、およそ一万だ」
 不機嫌そうにジャックが答える。
「こんだけの客をやすやすと入れちまうとはな。歓迎の準備はまだかな」
 だが数分後、現状での迎撃はせず、まずは飛行体の正体を確かめるという連絡が国防総省から通達された。
「やれやれ。それじゃ、行くか」
 ジャックに従い、次郎とレネもイリノイ州へと向かった。

「さっきレネが視たビジョンって、これのこと?」
 マッハ一で飛行するMATジャイロの機内、監視モニターに映る謎の飛行体群を指し次郎が確認すると、
「確かに空を黒い影が覆ってた。でも私が視たのは、もっと激しかった」
「激しかった?」
「例えば鳥や魚の大群みたいに、統制された形で素早く飛び回るみたいな」
「なるほど」
 レネの言葉を次郎が何となくイメージした時、
「そろそろ到着だ。見てみろ、実物を目視できるぞ」
 ジャックに言われ次郎とレネが窓外に目をやる。
「……何か……嫌な感じだ……」
 空に浮かぶ無数の金属体が太陽の光にキラキラ輝いている。一見美しいが、次郎にはその光景がとてつもなく不気味で不吉なものに感じられた。

「ハロー、ジャック!」
「元気そうね!」
 着陸したジャイロからジャックたち三人が降り立つと、それを待ち受けるように一組の男女が笑顔で近づいて来る。服装から彼らもMATのメンバーであることが次郎にもわかった。
「ジロー君。レネ。こいつらは俺の頼れる戦友、リチャード・サウス中尉とエレナ・ヒル少尉だ」
「ああ。シールズ時代からの腐れ縁だ」
 ジャックに紹介された男性、サウスは爽やかな笑顔を次郎たちに向ける。
「は~、君が、あの噂の」
 ヒルと紹介された女性が次郎を珍しい動物でも見るような目で見つめる。
「あの……どんな噂でしょう」
「そしてこちらがアメージングな力の持ち主ね。よろしく」
 次郎の質問には答えずヒルは優しい笑顔でレネに握手を求める。
「レネ・アンダーソンです。よろしく」
「よし。自己紹介も終わったところで早速、調査を始めるか」
 まだ自分は自己紹介できてないと思いつつ、次郎はジャックたちの後をついて行く。
 暫く行くと一台の観測用機材を満載した装甲車両が停まっており、車内には分光装置や共鳴装置がズラリと並んでいる。既に謎の飛行体に対する分析作業が進んでいるようだ。
「ラビットパンダ。借り物だが優秀だ。走るCSIってとこだな」
「今のところ解ったのは、あの飛行体を構成する金属と類似した分子構造が科特隊のデータベースで確認されたわ」
 ヒルがデータベースに保管された画像を呼び出す。
「これは……レギオノイド!」
 モニターには過去に上海のダイブハンガー建設地で次郎が遭遇した侵略用ロボットが映し出されていた。
「そいつは興味深いな。つまりあの飛行体は明らかに俺たちの敵ってことか」
「ああ、残念ながら握手できる相手じゃなさそうだ。あの箱の中から素敵なプレゼントが出てくるかもって期待してたのに」
 ジャックの傍らでサウスがおどけた仕草で言うと、
「待って。何かおかしい」
 ヒルの緊迫した声が響く。監視モニターに映る飛行体に変化が見てとれた。無数の金属飛行体の群れが一斉に細かく振動し、キーンと耳障りな音を立てている。
「ドローンを接近させろ」
「了解」
 ジャックの指示でヒルがドローンを操作し、飛行体へ更に接近させた。その時――、
 ブバババババババババババババ! 不気味な音と共に飛行体の中から黒い無数の何かが飛翔し、一瞬でドローンを包み込むと破壊した。
「何だ、今のは!?」
 ブラックアウトした監視モニターを見つめジャックが呻いた時、激しい衝撃音と共に車体が揺れた。どうやらドローンを撃墜した何かがラビットパンダに襲い掛ったらしい。強化ガラスの外には無数の大きな黒い蛾のようなものが羽ばたいている。
「サウス! 車を出して!」
「ダメだ! エンジンが掛からない!」
「こいつらが侵略者からのプレゼントか。いい趣味してやがる」
 車両を取り囲む黒い蛾を鋭い眼光で睨みつけジャックが吐き捨てる。
「このままじゃこの車もドローンの二の舞だ。サウス、ヒル、出るぞ」
 ジャックの言葉に二人が頷く。
「ジロー君。君もだ」
「……はい!」
「レネ。君はここで待機だ」
「ОK。気をつけて」
「よし。胸糞悪い虫どもを一匹残らず駆除する」
 ジャック、サウス、ヒルが次々に強化外骨格を装着。
 次郎も腕のポインターでZERO SUITを呼び、装着した。

UAU 30 ULTRAMAN ZERO JACK

「イリノイ州の状況は?」
 科特隊本部。井手の問いにオペレーターたちが答える。
「ダメです。飛翔体の影響で観測機器がダウン、確認できません!」
「無線に甚大なノイズ、通信が途絶えました!」
「あの飛翔体は何だ? 生物兵器か何かなのか」
「見覚えがある」
 苛立つ井手の背後からエドが答える。
「あれはムルロア星に生息するスペースモスだ」
「スペースモス?」
「実に厄介なモノを持ち込まれた。あれの本当の恐ろしさは……」
 珍しくエドが言葉を飲み込む。
「エド。教えてくれ。何だというのだ?」
 そこへ、マヤが報告する。
「市民がネットに上げた映像を統合・補完しました。シカゴの状況、出ます!」
 全員が大スクリーンに注目する。
 ウィリス・タワーのスカイデッキから撮影されたと思しいその映像には、フロアに身を寄せ合い怯える市民の姿と、窓の外を埋め尽くすスペースモスの黒い雲が蠢いている。
 その雲を、一条の閃光がモーゼを前にした紅海のごとく二つに割った。閃光はさらに水平に薙がれ、黒雲が扇状に晴れて地上の様子が露わとなる。扇のかなめはウィリス・タワーから北西に位置するフランクリン・センター、その屋上に立つZEROだった。両腕にワイドショットを装備している。黒雲を割った光条の正体はこれだ。
 スカイデッキの市民たちから歓声が上がる。
 どうやらマヤが、ビル内の防犯カメラや複数のスマホの映像を組み合わせて仮想の中継カメラを設定し、見せてくれているらしい。屋外はダメでも、屋内なら基地局から先は有線ネットワークだから、接続を確保できる理屈だ。

「やるねえ、ジロー君」
 地上から見上げているのは、強化外骨格をまとったジャックとサウス、ヒルの三人だった。サウスとヒルのSUITは頭部や胸部、腕の固定武装などの仕様が、ジャックのそれとは若干異なっている。
「あの装備、我々にも支給してもらえませんかね」
 サウスがぼやく。ZEROが携えるワイドショットのことだ。
「コネクターの規格が違うから、こいつには接続できないんだとさ」
「今ある手札で勝負するしかないってことね」
 三人は背中合わせに固まってしゃがみ込むと、一斉に拳で地面を叩き百数十メートルもの垂直ジャンプを敢行。その頂点で互いの踵を蹴って散開し、手近なビルに跳び移った。そして腕部に装備された連装レールガンをアクティベート、スペースモスを片端から撃墜してゆく。「イーハー!!」とカウボーイさながらの叫声を上げながら。
 だが、彼らにもわかっていた。数が違い過ぎる。たった四人ですべてのスペースモスを一掃することは不可能だ。今は少しでも時間を稼ぎ、軍が市民を安全な場所へ避難させるのを祈るしかない。じきにこの宇宙蛾だか何だかに対して有効な武器も開発され、人類は最終的な勝利を手に入れるはずだ。最悪、我が国第三位の人口を抱えるこのシカゴを失うことになるとしても。

 その願いも虚しく、軍による市民の避難誘導は遅々として進んでいなかった。スペースモスのまき散らす鱗粉が電磁パルスを発し、通信がままならないばかりか、タールのように粘り付いて車両や機材を使い物にならなくしてしまうためだ。
 ULTRAMAN SUITも例外ではない。通信障害で互いの連携は取れず、可動部に付着した鱗粉が動作不全を引き起こす。そう長くは戦えない。
 有効と見えたZEROのワイドショットのエネルギー残量はたちまち底をついた。残るEXライフルもレールガンも、所詮は線の貫通力を旨とする兵器だ。数で押してくる相手には向いていない。ショットガンや榴弾のような、面の制圧力が必要だ。
 苦戦する一同の眼下へ、ミレニアム・パークに退避させていたラビットパンダが駆け込んできた。窓からレネが何か叫んでいるのが見える。何か緊急の連絡があって、通信が阻害されているため直接伝えに来たものと察せられた。
 思う間もなく、スペースモスがラビットパンダに殺到する。救助に向かおうにも、ビルの上からでは到底間に合わない。
「レネ!」
 次郎が叫んだのと同時、西の空から真っ赤に燃える火の玉が飛来し、周囲の黒雲を焼き払った。炎体のタロウだ。両手から盛大に火炎を放射し、スペースモスの群れを炎上させてゆく。面の制圧力。まさに求めていた援軍だった。その間にラビットパンダも屋根のある駐車場に身を押し込んだ。それを確認し、タロウもあるビルの上に着地した。
「寝坊かタロウ? ゆうべ何本飲んだ? それとも──」
 事態を知るなり西海岸からノンストップですっ飛んで来たであろう救世主を、ジャックは軽口で迎える。
「……邪魔なら帰る」
「せっかく来たんだ、ランチくらい食っていけよ」
「その前に、何か着てくれない? 目のやり場に困るわ」
 サウスとヒルの追い打ちに、タロウは不承不承と言った体でバッジを掲げた。
 TARO SUITが、炎の身体を覆ってゆき、余剰熱をダクトから排出する。
「悪いが勝手に避けてくれ」
 そう言ってTAROが拳を腰だめに構えた。炎が腕に集まっていくのがわかる。
「ヤバイぞ、伏せろ!」
 何をしようとしているかを察したジャックが、ほぼ同じ高さの屋上にいるサウスとヒルに声をかけた。
 TAROが腕を真横に開く。その両掌から、猛烈な勢いで長大な炎の奔流が噴出した。長い。左右それぞれ五〇〇メートルはあるだろうか。奔流に触れたスペースモスが一瞬で蒸発する。TAROは踵を返し、身体をぐるりと一回転させた。身を伏せたサウスの頭上を炎が通過する。一瞬で半径五〇〇メートルの範囲のスペースモスが全滅した。
 TAROのSUITの排熱機構が悲鳴を上げている。
 気軽に連発できる技ではなさそうだ。
 呆気に取られるサウスが、力なく言い添えた。
「……ディナーも奢らせてくれ」

UAU 30 ULTRAMAN TARO JACK

 一同のSUITにラビットパンダからのコールが届いた。レネだ。
 付近のモスが一掃されたため、一時的に無線が回復したのだろう。
『戻って。一時撤退よ』
 おかしなことを言う。ようやく形勢が逆転し、突破口が開けたというのに。
『そんなの幻よ! 桁が……桁が違い過ぎる……!!』
 レネの声は震えていた。また何かを幻視したに違いない。
『ともかく今は……を……って……』
 再び通信障害が起き、レネの言葉は途絶えた。
 振り仰ぐと、はるか上空の金属飛行体から黒雲が湧きだしていた、推定数億頭ものスペースモスの群れが、後から後から湧きだしてくる。
「まだあんなに飼ってやがったのか……」
 さすがのジャックも、気圧されている。 
 否も応なかった。
 四人はラビットパンダと合流し、市民の避難を急ぐ軍と共にシカゴから撤退した。
 完全なる敗走──それ以外の何物でもなかった。

 次郎らがスコット空軍基地の片隅に仮の宿を得た頃には夜明けを迎えようとしていた。
 あの後、スペースモスの群れはニューヨーク、ロサンゼルス、ヒューストン、フェニックスなど人口密集地にも出現し、鱗粉を振りまいて都市機能を麻痺させているという。
 鱗粉の雲に遮られ、陽の光が地上まで届かなくなった地域も多い。
 三日後には、ほぼ全米が闇に閉ざされるまでとなった。
 インフラが破壊されたことにより情報は錯綜し、生活必需品の供給が途絶え、社会システムが信頼を失った。人々は恐れ、パニックに陥り、暴徒化した。
 そしてその恐怖が生む波動は、人知れず力場に変換され、隣接空間に潜むダークゴーネが管理する異形のシステム〈レーテ〉へと吸収されていった。
「まだ足りません……さらにさらに大量の恐怖が必要です……」

 国連加盟各国は、シカゴが封鎖された直後から人道支援の準備を始めていた。しかし一週間後には、どこの国にもそんな余裕は無くなっていた。
 スペースモスが、北米大陸以外にも出現し始めたからだ。
 中国福建省。ドイツ連邦バイエルン自由州。イタリア共和国ピエモンテ州。
 そこにもスペースモスを満載した数万の金属飛行体が飛来し、黒雲で太陽を覆い隠した。

 福州には諸星が、ミュンヘンには進次郎と北斗が、トリノには早田がそれぞれのサポートチームを伴って飛び、各国の支部や軍と協力してその殲滅を試みた。しかし雲霞の如く押し寄せるスペースモスの脅威を取り除くことはできず、現地に留まって警戒に当たる以上の対処はできていないのが実情だった。

 日照の消失は一州一国だけの問題にとどまらず、全地球的な気象や生態系にも大きな混乱をもたらす。直接にはスペースモスの被害を受けていない地域にも、近い将来顕著な影響が出ることは間違いない。その事実が、社会の混乱に一層拍車をかけた。

 この頃になると、もう誰もが気付いていた。
 金属飛行体の現れた地域が、ガタノゾーア出現に先立って暗黒の門を開く血の儀式が行われた場所と一致することに。
 またあの大惨劇に匹敵するカタストロフィが起きようとしている。
 今や世界中が闇に包まれたも同然だった。
より多くの人々が来たるべき破滅の予感に震え、より多くの恐怖がレーテへと送られた。

 シカゴが襲われてひと月もたたぬうちに、世界は一変してしまっていた。
 かつて血の儀式が行われた都市のうち最後の一箇所・東京。
 遂にここにも金属飛行体が飛来し、スペースモスを放出し始めた。
 しかし政府は前もって急ピッチで都市機能、行政機能を各地に分散。被害を最小限にとどめるべく、市民を人口密集地から一時疎開させていた。
 いま、大東京はほぼ無人の街と化している。
 幹線道路を埋めているのは、自衛隊の車列、砲列ばかりだ。
 現用兵器でスペースモスに抗しえないことは証明済みだが、頼みのULTRAMANはあいにく全員日本を離れている。
 食い止められる見込みは薄い。
 しかし、科学特捜隊は今なお健在であった。
 指令室で緊張の一同を見下ろす井手が、時刻を確認し口を開いた。
「作戦、開始!」



つづく

【8U編】

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Ⓒ円谷プロ ⒸEiichi Shimizu,Tomohiro Shimoguchi

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