HOME記事キャラクターモデル【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】 Episode 18 戦場 -キリングフィールド-

【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】
Episode 18 戦場 -キリングフィールド-

2021.05.13

ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE 月刊ホビージャパン2021年6月号(4月24日発売)

 ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSEフォトストーリー、今回は特別編!
 ガタノゾーア事件の後、ダイゴ=TIGA SUITはユザレを探し放浪する。手掛かりは幾度となく夢に見た「遺跡」が写された一枚の写真。ダイゴはこの写真を撮った戦場カメラマン―姫矢准を探し、とある紛争地帯を訪れるのであった。

ストーリー:長谷川圭一 設定協力:谷崎あきら TIGA SUIT製作:只野☆慶

Episode 18 戦場 -キリングフィールド-

「お別れです、ダイゴ」
「……ユザレ」
「悲しまないでください。世界はこうして救われたのですから」
 最後に笑顔でそう言い残して、ユザレは光の粒子となり、消えた。
 この世界を滅亡の闇から守るため、早田進次郎という若者の命を救うため、自らのエネルギーを全て使い果たしたのだ。
 だがダイゴは感じ取っていた。戦いが終息したこの世界に、微かに残るユザレの思念を。
 ユザレは完全に消えたわけではない。その命は確実にまだこの世界のどこかに留まり、やがて実体を取り戻すはずだ。
 ──探そう。俺が必ずユザレを見つける。
 ダイゴは決意し、進次郎たちの前から、その姿を消した。

 暗闇の中をダイゴは彷徨う。
 今にも消えそうな僅かな感覚を頼りに。
 刹那、闇に微かな光が瞬き、
 ──ダイゴ。
 声が聞こえた。
 ──私は……ここにいます……。
「……どこだ? どこにいるんだ……ユザレ!」
 ユザレの姿を求め、瞬く光をめざし、進むダイゴ。
 やがて光が眩く周囲を照らすと、巨大な何かが姿を現す。それは──、見たこともない異形の塔。
 ダイゴの世界のものではない。
 またこの世界に現存するいかなる文明の産物でもない。
 遺跡──超古代の遺跡だ。

 はっと目を覚ますダイゴ。
 また同じ夢をみた。
 ガタノゾーア事件から三カ月が経過していた。ダイゴはユザレの残留思念を追い求めて、上海を離れ、今は東南アジアの某国に来ていた。
 ダイゴは仮眠をとった洞窟から外へと出る。既に朝日が昇り始めた薄暗い密林地帯。野生の鳥たちの鳴き声に交じり、遠くから微かに砲撃の音が響いた。
 この国では十年以上も同じ民族同士の争い──内戦が続いている。
 元は民族的対立から勃発したこの争いは大国間の思惑も絡み、終息のめどは立たず泥沼化の様相を呈していた。既に犠牲者は数百万人にもおよび、多くの罪なき人々の命が今も失われ続けている。
 ダイゴもこの地に来てから何度か反政府ゲリラによる戦闘に遭遇した。殺戮と略奪。その凄惨な光景を見た時、ダイゴはかつて自分がいた世界を思い出す。闇の侵攻によって異界の怪物の群れに襲われ、無残に殺された人々の姿を。
 ユザレの思念はこの地獄のような国から発せられていた。だがそれは広大なジャングルに拡散し、確かな場所を特定することは出来ない。
 手掛かりは、この国に来てからダイゴが繰り返し見る、同じ夢。
 闇の中を微かな光に誘われるように進んだ先に現れる異形の遺跡。きっとユザレはそこにいるに違いない。
 だが遺跡に関する資料は幾ら探しても見つからなかった。もしかしたら実在しないのだろうか。珍しく不安と焦りに駆られた時、ダイゴは偶然、ある写真雑誌にその遺跡を見つけた。
 戦争の現実を伝える写真の中の一枚に、夢で見るのと同じ異形の塔が写っていたのだ。
 撮影者は、姫矢准。
 フリーの戦場カメラマン。
 通信社から得た情報では姫矢はここ数年、この内戦地帯に留まり写真を撮っているらしい。
 例の遺跡を姫矢以外、誰も知らない。姫矢に会って、どこでその遺跡を撮影したのか直接確かめるしかない。
 その情報を手にしてから一週間、ダイゴはこの密林地帯で姫矢の姿を探し続けていたが、未だ出会えずにいた。
 果たして姫矢は生きているのだろうか?
 そんな思いがよぎった時だった。
 前方の木々の間を横切る人影が見えた。少女だ。
 大きなカゴを首からぶら下げている。食料を村に運ぶ途中なのだろう。
 もしかして、あの少女は姫矢のことを知らないだろうか?
 ダイゴが少女を呼び止めようとすると、銃声が響く。
 ゲリラの襲撃だ。
 少し離れた道路に停車した物資輸送用のトラックが襲撃されていた。
 物資を供給する人道支援団体の人間も、配給を受け取りに集まった村人たちも無差別に殺戮されていく。今までもこういう場面には何度も遭遇した。
 ダイゴはゲリラと戦い、村人を守ろうとした。だがダイゴに銃を向けるゲリラは、まだ幼さが残る少年たちだった。
 それを見た時、この戦場の真実を突き付けられた気がした。お前にこの地獄の何がわかる? お前にこの争いを全て終わらせられるのか? 部外者が安易に介入すべきではないのではないか。絶望感にも近い思い。だが動かずにはいられなかった。
 ダイゴはTIGA SUITに身を包み、猛然と銃弾の嵐の中に飛び込んでいく。
 驚くゲリラたちはTIGAに銃弾を集中する。だが凝集積層装甲の鎧には傷一つつかない。やがて銃弾が尽き、ゲリラたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
 輸送トラックに集まった人々も恐怖で動けずにいた。SUITを解除したダイゴに礼を言うものは一人もいない。まるで怪物を見るような眼を向けるだけだ。
 全員を救うことは出来なかった。十人近い人間が銃弾に倒れた。だがこれが戦場におけるダイゴの限界だった。
 硝煙と血の嫌な匂いがダイゴの鼻をついた時、少女の悲鳴が聞こえた。
 逃げ去ったゲリラが、物資を運ぶさっきの少女を見つけたのだ。
 目を凝らすと、密林の中に恐怖で動けない少女に数人のゲリラが迫る様が見えた。このままでは確実に殺されるだろう。
 助けなければ。
 だがダイゴが飛び出すより早く、一人の男が現れると少女を抱きかかえ、走り去った。
 ゲリラが銃を乱射し追いかける。
 ダイゴは再びTIGA SUITを装着。
 銃弾を撥ね返し、ゲリラを追い払うと、その男と少女を助けた。
「大丈夫か?」
 装着解除し、男に近づくダイゴ。
 男は首から一眼レフカメラを提げている。戦場カメラマンだ。
 もしかして、この男が──。
「……お前……何者だ? 今の姿は……」
 ダイゴから少女を庇おうとする男が気を失う。
 足を銃で撃たれていた。
「ジュン!」
 少女が叫んだ。
 やはりそうだ。この男がダイゴの探す、姫矢准に違いない。
 ダイゴは意識の無い姫矢を背負うと、右手を少女の左側頭にかざした。ダイゴの左手には、光結晶の嵌まったパームカフが装着されている。結晶が反応し、内部で複雑なパターンがきらめいた。その右手を、今度は自分の左側頭にかざす。光のパターンが左脳に沁み込んでゆく。少女の言語中枢から語彙を写し取り、自身の言語野に転写したのだ。ダイゴはここに来てから耳にしたいくつかの単語を口の中で反芻し、少女に現地語で話しかけた。
「手当てが必要だ。君の村は近いか?」
 ダイゴの問いに少女は頷き、自分の村へと先導する。
 そのダイゴたちの姿を、じっと木陰から見つめる者があった。

 少女の村に到着するダイゴ。
 集まる村人たちに少女が何が起きたのかを説明すると、ダイゴは姫矢を背負ったまま、ある小屋へ連れていかれた。そこが少女の家らしい。
 意識のない姫矢を床に降ろし、撃たれた足をダイゴが調べる。幸い弾丸は貫通していた。
 少女が救急箱を持ってきた。どうやら姫矢の私物のようだ。消毒液とガーゼで応急処置をする。出来ることはここまでだ。
 姫矢を心配そうに見つめる少女にダイゴが話しかける。
「君、名前は?」
「……セラ」
 ダイゴはセラと名乗った少女に姫矢のことを聞いた。
「ジュンは、お父さんとお母さんが、死んだ日に会った」
 今から数カ月前、セラの両親はゲリラに殺された。その時、姫矢が現れ、セラをゲリラから救ってくれた。
 その後、姫矢は家族を失ったセラと一緒にこの村に暮らすようになり、セラは姫矢を本当の家族みたいに慕っていた。
「ジュンは、ここに、写真を撮りに来た」
「その写真、見せてもらえる?」
「うん」
 セラは姫矢が撮った数枚の写真をダイゴに見せる。
 そこには戦場の真実と、そこで必死に生きる人々の姿が生々しく写されていた。
「ジュンの撮る写真、怖い。嫌い。でも、この写真、好き」
 セラが最後に見せたのは彼女の写真だった。眩しい無垢な笑顔がそこにはあった。
「ジュンが撮ってくれた。セラの、宝物」
 はにかむようにセラが言った時、
「……セラ」
 姫矢が目を覚ました。
「無事だったか……」
 セラを気遣う姫矢が、傍らにいるダイゴに気づき、
「お前……うっ!」
 起き上がろうとする姫矢が苦痛に顔を歪める。
「無理しちゃ、だめ」
 今度はセラが姫矢を気遣い、
「ジュン。この人、悪い人じゃない」
 ダイゴが銃で撃たれた姫矢をここまで連れてきてくれたことをセラが説明した。
「……そうか……ありがとう」
 ようやく落ち着き礼を言う姫矢に、ダイゴは早速ずっと聞きたかった質問をぶつけた。
「この遺跡を撮ったのは、君だな」
 ダイゴは例の写真雑誌を開き、姫矢に見せる。
 だが姫矢はその写真を一瞥すると、何故か黙り込んだ。
「教えてくれ。この写真をどこで撮った?」
「……何で、それを知りたい?」
 ようやく口を開く姫矢にダイゴは正直に答える。
「俺はこの遺跡に行かなければならない。大切な人が、ここで俺を待っているはずだから」
「大切な、ひと……」
 思わず姫矢が呟いた時、またも銃声が響いた。

 小屋の外へとダイゴが出ると、村を襲撃するゲリラたちが見えた。
 まさかダイゴたちを追って来たのか?
 ゲリラが乱射する銃弾に逃げ惑う村人たちが次々に倒れていく。
 ダイゴがTIGA SUITを装着しようとした時、背後でシャッターを切る音が聞こえる。
「……!」
 振り向くと、姫矢がカメラを構え、目の前で繰り広げられる惨状を撮影していた。
 阿鼻叫喚。銃声と悲鳴。
 だが姫矢はひるむことなく無心でシャッターを切り続ける。
 その姿にダイゴは姫矢の強い意志を感じ取る。
 姫矢に出来るのはこの現実をカメラで撮ること。世界に伝えること。それしかないのだ。姫矢はそのために命を掛けていると。
「ジュン!」
 セラの叫ぶ声。
「!」
 姫矢は撮影をやめ、声の聞こえた方に目を向ける。
 いつの間にか小屋を飛び出したセラは村の中心の広場にいた。セラの近くには泣き叫ぶ幼い男の子がいた。恐らく自分より弱い存在を助けようとしたのだ。
「セラ!」
 姫矢もまたセラを救うため、銃弾が飛び交う広場へと走り出す。
 無茶だ。確実に殺される。
 ダイゴは右手のパームカフ〈スパークレンス〉に触れ、輝く籠手を現出させた。科特隊のTIGA SUIT担当チーム・GUTSによって〈ゼペリオンスピア〉と名付けられた、防盾を兼ねる武装パーツだ。TIGA SUITは装着しない。光の槍も伸ばさない。銃弾を防ぎ、生身の人間を打ちのめす程度ならこれで充分、まして相手は少年兵だ。
 ダイゴは広場を縦横に切り裂く銃弾の出所へ跳躍した。

 せいぜい十二~三歳だろうか。驚きの眼を向ける少年兵を押さえつけ、銃を奪って破壊する。
 彼らはなぜ自分たちが戦うのかを知らされているのだろうか? イデオロギーや歴史的背景、武器を取るに足る理由を理解しているのだろうか? その武器で同胞を殺し、また殺される覚悟を、そうまでして得なければならない何かを持っているのだろうか?
 当事者ならぬ異邦人である自分に、口を挟む権利はないのかもしれない。
 しかし、非武装の民間人や無力な子供、そして彼らと同世代の少女にまで銃口を向けるその光景を、ダイゴは看過することができなかった。

 ゲリラたちを薙ぎ払い、二人に駆け寄ろうとした時、思わぬ異変が。
 次々にゲリラたちが〝何か〟に襲われた。
 そのサイズは二メートルから三メートル。五メートルを超えそうな個体もいる。しかしトラではない。クマでもない。既知のいかなる獣にも似ていない。ぶよぶよとした半透明の膿疱が結集したような脈打つ塊。それが転がり、のたうち、這いずって少年ゲリラに覆いかぶさる。
 少年たちは悲鳴を上げて小銃を打ちまくり、マチェットを振り回すが、撃っても斬っても塊の進行は止まらない。半透明の皮膚の中に、もがく彼らの姿がうっすらと透けて見える。たちまち皮膚を、肉を溶かされ、赤黒い血と臓物の靄に包まれて人の形を失ってゆく。
「見るな!」
 ダイゴはセラと男の子の目を覆った。
 ──異界獣。
 ダイゴはそれが、かつて自分の世界を滅ぼした闇の眷属だと理解する。
 ゲリラたちを無造作に触手で掴まえ、捕食する異界獣、ペドレオン。
 その数は十匹、いや、もっといた。
 密林の中からそれはぞろぞろと這い出すように村へと侵入してくる。
 だが、なぜここに、異界獣が……?!
 ──と、
「探したわよ」
 銃声と悲鳴が交錯する地獄絵図の中に、一人の女が現れる。
「ようやく見つけた。ダイゴ」
「……カミーラ。生きていたのか」
 ガタノゾーアとの戦闘の中、ヒュドラ、ダーラムは倒れ、カミーラも爆煙の中に消えた。
「死ぬはずないでしょ」
 冷たい笑みを浮かべるカミーラ。その目は強い殺意に満ちていた。
「ダイゴ。お前をこの手で殺すまで」
 一斉にペドレオンの群れがダイゴめがけて襲い来る。
 セラと姫矢を背に、ダイゴは避けようともしない。
「……そうか、お前だったのか」
 ただ静かに籠手を掲げ、こう言った。
「だったらこれは、俺の問題だ」
 掲げる籠手が弾けた。その下にあるスパークレンスのクリスタルに、ダイゴは右手の指を添えている。そこから大小無数の光の欠片が周囲に飛び散り、殺到するペドレオンの群れを切り裂いた。光の欠片は空中で静止する。それはTIGA SUITの断片だった。引き戻されるようにダイゴの周囲に再結集した断片は、各々があるべき位置に回り込み、その肉体を覆ってゆく。部位によってはさらに展開あるいは変形し、互いに接合して密着する。最後にヘルメットのバイザーが閉鎖され、装着は完了した。
 ULTRAMAN SUIT TIGA。ダイゴたち異世界の警備団の精鋭にのみ与えられる光の甲冑が、この世界に存在するULTRAMAN SUITの概念を取り込み物質化した、三色の戦闘用強化服だ。以前科特隊に預けられた際に施されたメンテナンス用のマーキングもそのまま残っている。
 刺激臭のする体液をまき散らして飛び散った異界獣の肉片がうごめき、寄り集まって立ち上がる。恐るべき復元速度だ。失った体液の分、多少小さくなってはいるようだが、個体数はむしろ増えていた。体形も、触手の位置や数もばらばらだ。群体生物なのか。
 TIGAは右手のゼペリオンスピアから光の槍を伸ばす。相手が異界獣なら迷う必要はない。片端から貫き、切り刻み、沸騰させてゆくだけだ。おそらく奴らの体積の九割以上は水分だろう。それを吐き出させれば、砂浜に打ち上げられたクラゲのごとく干からびて死滅するに違いない。
 しかし多勢に無勢、しかも姫矢とセラを守りながらである。TIGAは次第に広場の隅へ追い詰められてゆく。加えて土壌の水はけが悪く、ぶちまけられた体液は泥濘化して地表に滞留し、その上を這う異界獣に回収されてしまう。折り重なり、密集した個体は次第に融合して大型の個体を形成しつつあった。大型化すれば、スピアによる阻止も難しくなる。スピアを形成するゼペリオン粒子も無限ではない。
 防御と牽制を重ねるうち、ついにスピアが消滅した。
 七~八メートル級にまで成長した個体数体が前方から一斉に襲いかかる。
 だがそれがダイゴの狙いだった。
 両腕をクロスして水平に開き、L字に組む。立てた右腕の側面から、強烈なエネルギーを秘めたゼペリオンの奔流が放射された。
 一方向に集められた大型の個体はすべてその奔流──ゼペリオン光線を浴びて膨張破裂し消し飛んだ。それを免れた二~三メートル級の個体が平たく変形し、爆風をはらんで空中に舞い上がる。
「!」
 そいつらが空中から火球を吐きかけてきた。発火性の体液を口吻に集め、触角の先端で点火し発射しているのだ。いわば生体ナパーム弾である。知性などとは無縁と思えた異界獣の意外な工夫に、さすがのダイゴも舌を巻いた。ほどなくこの密林は炎に包まれるだろう。
「逃げろ。ジャングルの外へ」
 姫矢とセラに脱出を促し、TIGAは指先で額のクリスタルに触れる。
 三色のTIGA SUITが銀と紫のツートンカラーに変わり、脚部には可動スラスターが開口した。ULTRAMAN SUITの飛行用スラスターの概念を取り込み光凝集装甲の配分を変化させたTIGA SUITの空戦型=SKY TYPEである。
 フェアリングとコントロールベーンを全開にし、甲高い回転音と腹に響く重低音を残して、弾かれたようにTIGAは上昇した。
 空中で待ち構えていたペドレオンは、うねるように舞いながら五つの個体に分裂する。先刻の失策から学習し、遮るもののない空ではこの方が有利と判断したのだ。端倪(たんげい)すべからざる適応能力の高さと言わなければなるまい。

「……認めるよ。正直侮っていた」
 上下左右前後ろ、あらゆる方向から火球が飛んでくる。火球の実体はタール状の粘つく体液だ。命中すればいかにTIGA SUITでも厄介なことになる。体勢と偏向ノズル、CCVベーンを駆使し、かろうじて躱しながらゼペリオンスピアを振るう。だが異界獣は風に舞う羽毛のごとく切っ先から逃れるばかりだ。接近戦では埒が明かない。
 TIGAは距離を取り、後方に回り込んで個別撃破する戦法に切り替えた。互いの後尾を追いかけ合う、文字通りのドッグファイトだ。最小旋回半径ではTIGAの方に軍配が上がる。敵の背めがけてフレシェット状に圧縮したゼペリオンの光弾を放った。
 が、ペドレオンは進行方向と速度はそのままに、一瞬にして一八〇度回頭、口吻をこちらに向けて火球を吐き出した。光弾と火球が正面衝突し、予想外の大爆発が起きる。
 急制動、いや加速して突き抜けた方が早い──ダイゴの思考を受けてナセルとコントロールベーンが目まぐるしくスイングする。バーナーON、ブーストをかけての緊急離脱に成功。無傷というわけにはいかないが、ダメージは敵の方が大きかった。原因となった至近の一体は誘爆を起こし炎上。残る四体も爆発の熱波と気流の乱れにより混乱している。
 勝機とみて反転したTIGAは光弾の狙いを定める。
 同時に、地上の姫矢とセラの行方を目で追った。
 おかしい。
 姫矢のそばに、セラの姿が見当たらない。
 姫矢はセラが助けた子供を抱え。傷ついた足を引きずって誰かを探しているようだ。
 何かが起こったに違いない。
 最後のペドレオンに光弾を見舞い、ダイゴは地上へ急行する。

「どうした?!」
 SUITの装着を解除し、姫矢に駆け寄ると、
「女がセラを連れて行った!」
 ダイゴがセラたちを守って戦うのを見て、カミーラが人質に取ったのだ。
「あの女、お前を苦しめるためだと言っていた! あの女は何だ!?」
 姫矢がダイゴの胸倉を掴み、叫ぶ。
「お前は何者だ!」
 どう答えるべきか。今は詳しい事情を話しても姫矢には到底理解できないだろう。
 無言のダイゴを鋭く見つめ、姫矢が言う。
「セラにもしものことがあったら、俺はお前を許さない」
 脅しではない。姫矢の言葉に嘘はない。
 でもどうしてここまで必死なのか? 姫矢は何を背負っているのか?
「セラを失ったら……俺は生きていけない! セラは俺の希望なんだ!」
 その時、ダイゴは姫矢に感じ取る。
 ダイゴがユザレに対するのと同じ、強い思いを。
「俺が……必ずセラを助ける」
 そう姫矢に告げると、ダイゴは密林に向けて歩き出す。
そこにはカミーラの気配が残っていた。辿れば追いかけることが出来る。
 恐らくそれはダイゴを殺すため、わざと残されたに違いない。
 まるで食虫植物が獲物を誘い込む罠のように。
 だがダイゴに一片の迷いも無かった。

つづく


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Ⓒ円谷プロ ⒸEiichi Shimizu,Tomohiro Shimoguchi

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