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【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】
8U-英雄- 編 Episode 25 恐怖のルート89 後編

2021.12.11

LTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE 月刊ホビージャパン2022年1月号(11月25日発売)

【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】8U-英雄- 編 Episode 25 恐怖のルート89 後編

 

 ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSEフォトストーリー、8U編第二回!
 ルート89にまつわる噂の調査に駆り出された次郎を待ち受けていたのは、人を白骨化させる青い火の玉とそれを追う赤い炎―東光太郎の姿。光太郎とは碌に意思疎通もできない次郎だったが、急に車に乗ってきたレネという女性と行動を共にすることとなる。彼女はヒトには見えないものが見える適能者(デュナミスト)であった。

ストーリー/長谷川圭一 設定協力/谷崎あきら ZERO SUIT/製作:只野☆慶

8U-英雄-編
Episode 25 恐怖のルート89 後編

 アリゾナ州ルート89沿いのカフェ。
 まだ夜が明けきらない店内、窓際の席で、薩摩次郎はアメリカンでもないのにやけに薄いブレンドコーヒーを飲みながら、つい数時間前に起きたことを思い返す。
 国家安全保障局のジャックという超マッチョなエージェントに命じられたのは、事故を起こした車のドライバーが白骨化するという怪事件。犯人は白い服を着た女と謎の青い火の玉。その正体を探るべく過去に事故が起きた場所、起きた時間――深夜二時に次郎が車を走らせていると……出た! 噂通り道路沿いの闇に白い服の女が立っていたのだ。
 子供の頃からお化けが苦手な次郎は心臓が止まるほど驚いたが、何とか冷静さを保ち、車を女の脇へと止めた。だが本当に驚いたのはそのあとだった。幽霊かと思った女はいきなり次郎に「すぐに戻れ!」と怒鳴りつけ、呆気にとられる次郎の脇を猛スピードで車が走り抜けると勝手に車に乗り込み「すぐに追え!」と命令した。
 言われるがままに先行した車を追跡すると青い火の玉、ではなく何故か赤い火の玉が現れ、次郎はZERO SUITを装着してその赤い火の玉の正体を確かめようとすると、今度は青い火の玉が現れ、それからなんやかんやあったのだが、とにかく何が何だかさっぱり状況がわからないまま、こうして今は国道沿いのカフェにいる。
「目玉焼き、オーバーイージーって言ったのに固く焼きすぎ。ベーコンも焦げてるし」
 目の前でぶつぶつ言いながらも既に三人前の朝食を平らげたのは、次郎が深夜二時に出会った白い服の女――レネ・アンダーソンだ。
「食べないの?」
 じっと見つめる次郎を見つめ返し、レネが言う。
「何か見てるだけで、おなか一杯で」
「あ、そ。よく食べる女だなって言いたいわけだ」
「いや、別にそんな――」
「言っとくけど、前はこんな食べなかった。わりとすぐ太る体質だったし。でもあの事件があってから、私は変わったんだ、色々とね。おなかがすくのはきっと力を使うせいだと思う。消費した分、補わなきゃいけない的な。だからいくら食べても太らないし」
「え……ちょっと待って、情報が多すぎる。あの事件って……」
「上海に黒いピラミッドや怪物が現れて、街のほとんどが消し飛んじゃった、あの事件だよ。科特隊なんだから知ってるでしょ」
「……ああ」
 もちろん知っている。次郎はグランドゼロとなった上海の跡地に建造されていたダイブハンガーと呼ばれる巨大建造物の工事作業員として働き、それがきっかけでZEROと出会い、こうして今は科特隊の一員として、ULTRAMANの一人として地球の平和を守るために戦っているのだ。
「あの日、誰かの声がして目が覚めた」
 静かにレネが語り出す。
「小さな女の子だったと思う。そしたら急に見えたんだ、上海の光景が。山よりも大きな怪物と何人ものウルトラマンが戦ってた。そしたら黒いピラミッドから光の柱が空に伸びて、物凄い音と物凄い光が私を包んで……意識が飛んだ」
「……それから?」
 ふと黙り込むレネを次郎が促すと、
「また目が覚めたら、朝だった。さっき見たのは夢なんだ、すごくリアルな夢、そう思った。けど……また見えたんだ。今度は昼間、大学のキャンパスで友達と卒業旅行のこととか話してた時、突然どこかの工事現場の光景が目の前に広がって、大きなクレーンが何本もあって、暗い穴の中から物凄い数のロボットみたいなのが飛び出してきて、こっちにクレーンが倒れてきて……そこでまた意識が飛んじゃって、気が付いたら病院のベッドだった」
「……」
「医者は私が見たのは幻覚だって言った。何か色々と検査されて大学に戻ったら、私が薬をやってるんじゃないかって噂が広がってた。笑えるでしょ」
「……いや。君が見たのは幻覚なんかじゃない」
「どうしてそう言い切れるの?」
「君が見た、倒れたクレーンには俺が乗ってたから」
「……へえ、そうなんだ」
 次郎が知る限り、初めてダイブハンガーがレギオノイド群の襲撃を受けた時の映像は一切、一般には公開されてはいない。レネは現実にあの日の光景を遠く離れたアメリカから見たに違いない。
「それから時々、同じような光景を見るようになった。最初の内は異星人が怖くてパニックを起こしたけど、次第にそれにも慣れてきて、あー、きっと私には人には見えないものが見える力が授けられたんだって思うようになった。それで色々ネットとか調べたら、私だけじゃなくて世界中に同じような人がいることが分かった」
「……デュナミスト」
「そう、それ」
 以前、次郎も井手から聞いたことがあった。上海消滅の直後、世界各地で並行世界にいる自分のビジョンを見る人間たちが多数報告され、適能者、デュナミストと呼称されたことを。
「でも私の場合、少し違ってて、見えるのは異星人ばかりだし、それに……」
「それに?」
「私に見えるのは並行世界じゃなくて、少し先の未来だってわかった」
「未来……」
「ネットに投稿された異星人とウルトラマンが戦う映像が、私が一週間前に見たビジョンと全く同じだったんだ」
「……」
「そんなことが何度も重なって、確かめてみようと思った。次にビジョンが見えたら、その場所に行こうって」
「……」
「私、絵が得意だからさ、ビジョンを見たあと、その光景を書き留めたんだ」
 そう言うとレネはスマホの画面を次郎に見せた。そこにはレネが描いた絵が何枚も保存されていた。確かに上手い。細部まで書き込まれていて、これなら場所の特定も可能だと思えた。
「大概ビジョンは一週間くらい先の未来だから、この場所に行ってみた」
 スマホ画面にはどこかの裏路地が描かれていた。壁一面に極彩色のアートとも落書きともつかぬスプレー画が描きなぐられ、背後には何本か高層ビルも見える。
「サンフランシスコ、サウスビーチ。そこで一週間前に見たのと全く同じビジョンを見た」
「君の未来予知能力が証明されたってわけだ」
「そう。でもね……」
 レネの表情が微かに曇り、また黙り込む。何か嫌なものを見たのだろうか? それを確かめようとした時、次郎のスマホに着信。ジャックからだった。
「ちょっと、ごめん」
 レネを残し、次郎は店の外へ出ると通話ボタンをタップする。
「グッドモーニング、ミスター、ジロー君」
 通話口から早朝のおはようコールのように底抜けに明るいジャックの声が聞こえる。
「よかった。また声が聞けて嬉しいよ」
 あのマッチョマンめ。金髪サングラスめ。初めてアンドルーズ空軍基地で会った時と同じだ。どこか挑発的というか次郎のリアクションを楽しんでる感じがしてムッとなる。
「おかげさまで白骨にはなってません。白い服の女と青い火の玉には出会いましたけど」
「エクセレント! 出来るだけ早くこっち戻ってくれ。今すぐ詳しい報告が聞きたい」
「わかりました。なるべく早……え?」
 次郎の返答が終わる前に通話が切られていた。
「何なんだ、あの人は。本当に俺が骸骨になったら化けて出てやる」
 寝不足と空腹が重なり最高潮に気分の悪くなった次郎が元いた席に戻ると、
「……あれ?」
 既にそこにレネの姿はなかった。
「マジか……。普通この流れなら、ひと言何か言ってから帰るだろ」
 ジャックへの不満から思わず声に出して次郎が愚痴った時、
〈ごめん〉
 レネの声が聞こえ、次郎は店内を見回すが、やはりどこにもその姿はない。
〈私、何でこんな力が授けられたかわかんないけど、私に出来ることがあるなら、誰かの命を救えるならって、そう思ってるんだ。だから今度も……救いたい〉
 声は次郎の頭の中に直接語り掛けていた。
「レネ」
 次郎は思わず彼女の名を呼ぶ。だが、もうレネの声は聞こえなかった。

 地下拠点に戻る次郎。昨夜の事件のことをジャックに報告した。まずはレネという不思議な女性と出会ったことについて。更には赤い炎を全身にまとった人間と遭遇し、共に青い火の玉を撃退したこと。
 ジャックは次郎の報告を終始無言で聞いていたが、時々なぜか口元に何とも言えぬ笑みを浮かべた。
「レネ・アンダーソンに、東光太郎か」
 全ての報告を追えるとジャックが呟く。
「やはり予想通り現れたか」
「予想通りって、二人を知ってるんですか?」
「それより見せたいものがある」
 次郎の質問には答えず、ジャックはおもむろにPCを操作し、大型スクリーンに画像を映し出す。
「これは……!」
「今朝早くYouTubeにアップされた」
 そこには走行する車の中で若者数人がスマホで撮影したとおぼしき映像が流れている。
「やあ、みんな見てるか? スプーキーチャンネルの時間だ。今俺たちが車を走らせてるのは最高にクールな場所。そう、恐怖のルート89。知ってるだろ、この国道には白い服を着た女のゴーストが現れる」
 軽薄な笑顔を浮かべカメラに向かって話すスキンヘッドの若者に次郎は見覚えがあった。昨夜、青い火の玉に襲われた車から這い出した若者の中の一人だ。
「そろそろ深夜二時だ。噂ではこの先の……わお! マジか!」
 不意に若者が叫び一方を指さす。カメラがその方向へパンするとヘッドライトに浮かぶ白い服の女が映し出され、車内には若者たちの興奮した声が溢れる。
「見ろよ! 噂は本当だったんだ! 白い服の女だ!」
 佇む女の真横に車を停車させると若者たちのテンションは更にあがる。無理もない。彼らも実際に白い服の女が現れるとは思っていなかったのだろう。
「家まで送って」カメラに映された美しい女が言うと、「おい、どうする?」「やべーんじゃないか?」さすがに怯えて躊躇う声がフレーム外に聞こえるが、「おいおい、ビビッてどうする? 俺は怖くなんてないぜ」結局スキンヘッドの若者は女を車に乗せる。まさかこれから本当に恐ろしいことが待ち受けているとは知らずに。
 数分後、車内は恐怖の絶叫に満たされる。突如、襲い来る青い火の玉。狂ったように笑う白い服の女。カメラはぶれまくり阿鼻叫喚だ。
「この映像が全世界に拡散され既に再生回数は一億に迫る勢いだ」
「そんなに……!」
 激しい衝撃音と共に車が横転し、そこで映像は途切れた。
「しかもジロー君にも見て貰った、例の事故を起こしたドライバーが白骨化する映像も同時にアップされた。こちらも大変な反響だ」
「誰が、どうやってそんなことを……」
「現在調査中だ。ただ俺が推測するに今回の一連の事件はこれが目的だったのかもしれない」
「目的? どういうことですか?」
 その言葉の意味がまるで理解できず聞き返すと、ジャックが含んだような笑みを浮かべ、
「多分、その答は今夜わかるさ」

UAUstory25-1

 深夜のルート89。次郎は一人、事故多発現場にいた。
 問題の時刻、深夜二時が近づくと一台の車が接近してくる。
「やっぱり来たか」
 次郎もあの動画が公開されたことで怖いもの見たさの野次馬が現れると予想していた。しかも視聴した人間のほとんどが動画はフェイクだと思っているに違いない。どんな無茶な行動をするか分からない。あまりにも危険だ。
 次郎は科特隊の身分証を手に近づく車を停めようとして唖然となる。現れた車は一台ではなかった。五台、十台と、深夜二時が近づくにつれ車の数は増え続け、あっという間に数十台の車が次郎の目の前に集まった。予想通り彼らは全て面白半分にここへ来た野次馬だ。車を停めて周囲を撮影したり、音楽を大音量で響かせバカ騒ぎを始める者もいる。
「ここは危険だ! みんな早く戻るんだ!」
 彼らを制止する次郎だが、もはやまるで収拾が付かない。そのときだった。不意に若者たちから歓声があがる。闇の中に白い服の女が現れたのだ。
「本当に出たぞ!」「どうせ仕込みだろ!」「ヘィ彼女、一緒に踊ろうぜ!」
 女に殺到し、手を、ボトルを、スマホを差し伸べる野次馬たち。だが次の瞬間、女の周囲に無数の青白い火の玉が出現し、彼らに襲い掛かった。数人の若者が火の玉に飲まれ一瞬で白骨化する。さっきまでの笑い声は一転、恐怖の悲鳴へと変わった。
「まずい!」
 次郎は乗ってきたコルヴェアの陰でZERO SUITを装着、ジャンプ一番ゼロスラッガーを放って火の玉のいくつかを吹き散らせる。だが焼け石に水だ。
「数が多すぎる……っ!」
『来たぞ、ヤツだ』
 ZEROの声に一方を振り向くと、逃げ惑う野次馬の海が左右に割れ、あの炎人間がモーゼのごとく歩み出た。東光太郎だ。こうなることを予想して紛れ込んでいたのか。
「もたもたするな。犠牲者が増える」
 光太郎が言う。後から来て偉そうに──喉まで出かかった言葉を飲み込み、次郎も構え直す。彼が何者であれ、今は敵対している時ではない。積極的に連携を取って青い火の玉を撃ち落とし、パニック状態の野次馬たちから遠ざけてゆく。
『感じる』
 不意にZEROが呟いた。
『激しい怒りと憎しみ。自分の所為で仲間を失った深い後悔……その激情が、あの人間を突き動かしている』
「どこかの誰かさんそっくりだな」
『誰だ?』
「自覚なしかよ!」
 もちろんZEROのことだ。敬愛する師匠を殺され、故郷を滅ぼされ、その元凶を強く憎悪する異界の戦士の魂。はじめは取り付く島もなかった。だが今はこうしてうまくやっていけている。だったら、光太郎とも友達になれるかもしれない。ろくに言葉も交わさぬまま背中を預け合っている炎の超人に対し、次郎はそう思った。
 ようやく火の玉の半数を蹴散らしたかに見えた時、業を煮やしたように女が唸った。周囲の地面を炎が走り、異様な紋様が描かれてゆく。異界獣召喚の儀式だ。白骨化した犠牲者は、その生贄だったに違いない。今や人間の皮をかなぐり捨て異様な正体を現した女に青い火の玉が集まり、禍々しい四本の腕と二本の脚、青白く発光する野太い尻尾を持つ超異界獣ホタルンガの姿となった!

UAUstory25-2

 ホタルンガがその昆虫を思わせる口元から火球を連射する。不幸にも逃げ遅れた野次馬の幾人かが瞬時に白骨化し、その残滓のように立ち上る蒼炎がホタルンガに吸い込まれる。尻尾の発光が増した。人肉を炎に変えて捕食しているのだ。野次馬の群れにひときわ高い悲鳴の輪が広がり、パニックに拍車をかける。
 ホタルンガの火球は無論ZEROと炎の超人にも向けられた。避ければ流れ弾が群衆を白骨化させる。全弾撃墜するしかない。それだけでも手一杯というのに、先端にハサミを備えた尻尾が思わぬ方向から野槌のごとく襲いくる。今まさにハサミが光太郎の喉を掴んだ。高熱をものともせず、ギリギリと締め上げる。その間にも火球攻撃は続き、次郎は救援に入ることができない。と、その時──。
 ブシュウウウウ!
 突如、間抜けな音と共に褐色の噴流がホタルンガの尻尾にふき掛けられた。
 悲鳴を上げて光太郎を放り出すホタルンガの表面が、泡を吹いてただれてゆく。なおも続く褐色の噴流の出所をたどって視線を巡らせた次郎は思わず叫んだ。
「ジャックさん!?」
 正にジャックだった。TシャツにGパンというラフないでたちで、手にした特大ペットボトルの口をこちらに向けている。褐色の噴流はそこから発射されていた。
「Hoo! 思ったより効いたね。試してみるもんだ」
「何やってんスか!」
「なぜあんたがここにいる!?」
 次郎と光太郎の言葉が口々に聞く。
 ジャックもまた、最初から野次馬の群れに紛れ込んでいたのだ。そして犠牲者の遺骨を調べ、強いアルカリによって肉が溶かされていることに気付いた。アルカリには酸だ。ジャックは野次馬たちが残していった荷物の中から世界一ポピュラーな清涼飲料のボトルとチューイングキャンディを見つけ出し、この奇策を思いついたのだった。
「そらもう一本、メントスガイザー!!」
 新たなボトルにキャンディをぶち込むと、急激に発泡・膨張した内容物がとんでもない勢いで噴出した。含まれる酸がホタルンガの皮膚を侵し、アルカリを中和してゆく。
 しかしそれは皮膚を灼くだけにとどまり、致命傷には至らない。怒り狂ったホタルンガがジャックに襲い掛かる。
「おっと、ソフトドリンクじゃ物足りないって? そいつは悪かった」
 ジャックが左腕のブレスレットを掲げるや、夜空に眩い光の柱が屹立する。それが晴れると、いかつく重厚な、見たこともないULTRAMANが立っていた。
 次郎は思わず息を飲む。
「……マッチョ」
「マットだ。Machanized Armoursuit Team」
 ジャックがすかさず訂正した。
 ULTRAMAN SUITを装着したジャック──JACKは、繰り出されたホタルンガの攻撃をダッキングで躱し、地に手を突いて倒立ジャンプ。両脚でホタルンガの首を挟み、くるりと背中に回ったかと思うと、両手でホタルンガの口を大きくこじ開けた。
「ジロー君! 俺のクルマの荷物を! 白のマツダだ!」
 乱雑に停められた車群に後期型のコスモスポーツがあった。座席にコールマンのクーラーボックスが積まれている。開けてみると、冷えたバドワイザーでぎっちりだった。
 うわぁ、と思いながらもその意図を察し、次郎はクーラーボックスごとJACKに投げる。そう、ビールもまた酸性だ。
「まあ一杯やれよ」
 JACKは片腕に抱えたクーラーボックスを圧し潰し、溢れ出る黄金色の液体を残らずホタルンガの口中に流し込んだ。腹の中に酸を注がれては堪らない。さしものホタルンガも泡を吹いてのたうち回った。
〈ジロー〉
 次郎の頭に、レネの声が響いた。見回すと、逃げ惑う野次馬の流れに逆らうように、レネが決然と立ち尽くしている。
〈尻尾の付け根よ。そこにその化物の核がある〉
「ありがとうレネさん! 本部!」
 次郎は本部に連絡してEX-RIFLEを転送、ホタルンガの尾の付け根の神経節に狙いを定め、三点バーストで打ち抜いた。ホタルンガの動きが凍り付いたように止まる。
「消えろ!」
 炎の超人が放った炎で、ホタルンガは消し炭も残さず燃え尽きた。

「コータロー君。俺たちと一緒に戦わないか?」
 野次馬たちを追い返した後、バイザーを上げたジャックが光太郎に声を掛ける。
「……前にも言ったはずだ。俺はまだ、あんたらを信用したわけじゃない」
 まとっていた炎を収めた光太郎は、ややあってそう返すと、地を蹴って夜空に消えた。
 SUITもなしにあの跳躍力。彼はいったいどういう人間なのだろう?
 次郎はZERO SUITの装着を解除する。
 ジャックもTシャツ姿に戻っていた。
「ジャックさんも、ウルトラマンだったんですね」
「言っただろう? Machanized Armoursuit Teamって」
「つうか、付いて来てたんなら教えといてくださいよ!」
 次郎は当然の苦情を訴える。
「いやあ、君たち二人だけで何とかなると思ったんだけどね」
「それも! 東光太郎? 彼っていったい──」
 次郎の質問は、ジャックのスマホの着信に遮られた。
「悪い、オフィスからだ。ハロー?」
 ジャックはスマホ越しに何か言いあった後、ため息を一つついて電話を切った。
「スーツがビール臭いから自分で洗浄しろってさ。すぐに戻らなきゃ」

 東の空が白み始めていた。
 でかい身体をシートに押し込み、ジャックはコスモスポーツを発進させる。
 そして思い出したように窓から顔を出し、次郎に告げた。
「そうそう、君たちが青い火の玉とじゃれ合ってた時、この辺りに妙な波動と力場の転移が観測されたってさ。それも大量に」
「え? 何なんですか、その波動とか力場って?」
「さあね。ただ、そいつを集めるのが敵の本当の狙いなのかもな。また連絡するよ。やれやれ、帰ったら一杯やって寝るつもりだったのに、洗車ガールの真似事か……」
 いちばん重要なことをボヤキのついでみたいに伝え、ジャックはロータリーエンジンの音を轟かせて走り去った。
 またも煙に巻かれ、その場に取り残される次郎。
 結局訳が分からず、ただ利用されている気がした。
 憮然と周囲を見回すと光太郎だけではなく、レネも再び姿を消していた。
 だが、またあの二人とは再会するに違いないと次郎は感じていた。

つづく


【8U編】

恐怖のルート89 前編

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Ⓒ円谷プロ ⒸEiichi Shimizu,Tomohiro Shimoguchi

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