HOME記事キャラクターモデル【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】 Episode 23 青い夜の記憶2021 後編

【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】
Episode 23 青い夜の記憶2021 後編

2021.10.15

ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE 月刊ホビージャパン2021年11月号(9月25日発売)

【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】 Episode 23 青い夜の記憶2021 後編

 ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSEフォトストーリー特別編。
 土井垣がドハマりしているアイドル・来栖紗夜の正体は、人間への復讐を目論む地底人だった。呼ばれるがままに紗夜の元へ向かった土井垣はもうひとりの地底人である紗夜の兄に昏倒させられてしまう。彼の目的は研究室の奥に保管されているULTRAMAN SUIT「Ver.6」であった。

ストーリー:長谷川圭一 設定協力:谷崎あきら SEVEN SUIT/ハーキュリーズ 製作:只野☆慶 α・スペリオル/曙丸 製作:アスイ

Episode 23 青い夜の記憶2021 後編

「今夜0時、ライブハウス裏の駐車場で待っています。来栖沙夜」
 信じられなかった。三時間前に沙夜からメールを貰った時から、土井垣は何度も自分の頬をつねったり叩いたりし、これが夢ではないことを確認した。
 まさか! まさか沙夜ちゃんが! 僕にメールをくれるなんて!
 土井垣が沙夜と出会ったのは約半年前だ。ずっと研究室に引きこもっていた土井垣を中島が強引に連れ出した。
「今から俺が、お前に眩しい世界を見せてやる」
 そう言って連れて行かれたのが地下アイドルグループ「メイド・イン・ブラック」のライブだった。大音量で歌って踊るアイドル。推しメンに嬌声をあげ応援する若者たち。その熱気に思わず土井垣は気を失いそうになり一刻も早く逃げ出そうとした。だが次の瞬間、土井垣の耳に聞こえた歌声が彼を引き留めた。まるで稲妻に直撃されたような激しい感覚が全身を駆け抜ける。
 激しく動揺する土井垣は狭いライブ会場のステージで歌う5人の地下アイドルを見つめた。全員が黒いスーツに黒いサングラス。そのセンターで歌う女性に釘付けになった。
 何だ……この力強くて、美しい歌声は……!
 一瞬で土井垣は彼女の──来栖沙夜の歌に心を鷲づかみにされた。心が震え、心臓の鼓動が高鳴る。全身に冷や汗があふれ出て呼吸困難となり、今度こそ土井垣はその場に倒れた。
「おい! どうした! 大丈夫か!」
 驚き、その体を支える中島を見つめ、土井垣はうわ言のように呟く。
「中島さん……ありがとうございます。僕は今……天使に出会いました」
 それから土井垣のライブ通いが始まった。最初は周囲の目を気にして週に一度ほどだったが、どうにも我慢できず研究室をこっそり抜け出しては沙夜の歌を聴きに行った。ファンとしてのルールが解らず初めは戸惑いもしたが、次第にそれも理解し、積極的にチェキ会にも参加、憬れの沙夜とのツーショットも照れずに撮れるまでになった。だが沙夜に笑顔で話しかけられても会話する勇気はなく、愛想笑いで誤魔化すのが関の山だった。
 そんなあの日、沙夜が初めてソロで歌を披露し、土井垣はまたも強い衝撃を受ける。元気でポップな沙夜の歌声も好きだったが、その日のバラード調の歌声には今まで経験したことのない感動に包まれた。気が付くと土井垣はチェキ会で沙夜に初めて話しかけていた。
「あの歌、すごくよかったです!」
 あまりにも興奮していて何を言ったか覚えていなかった。でも沙夜は土井垣の言葉にとても喜び、メルアドを交換してくれたのだ。
 約束の三十分前、土井垣は待ち合わせ場所のライブ会場裏の駐車場で、沙夜から貰ったメールを何度も見返していた。未だにその文面が信じられず、やはり悪戯じゃないかと不安になった時、背後から声がした。
「土井垣さん」
 振り向くと薄暗がりの中、サングラスをした沙夜が立っていた。
「来てくれて、ありがとう」
「い、いや、僕の方こそ、ありがとう。ほ、本当に来てくれたんだね」
 興奮で声が上ずる。ダメだ、落ち着かなければ。ちゃんと話をするんだ。今日こそ自分がどれほど沙夜の歌声に助けられてきたか、感謝の気持ちをしっかり伝えよう。
「沙夜さん。ぼ、僕はあなたの歌が大好きです。特にあの歌、『青い夜の記憶』が。あの歌には心惹かれるんです。聞いてると涙が出る。本当に素敵な歌です」
「ありがとう。前にもそう言ってくれたね」
 沙夜は微笑み、ゆっくり土井垣の前に近づくと、
「でも……これでもあなたは、私の歌が好きだと言ってくれるかしら?」
 不意に沙夜がサングラスを外し、はっと土井垣が息を飲む。そこにあるべきものが──目が無かった。土井垣は沙夜の正体を一瞬で理解した。地底人だ。
「ぼ、ぼ、僕は──」
 土井垣が沙夜に何かを言おうとした時、激しい衝撃が走り、その場に崩れ落ちる。何が起きたのか? 薄れゆく意識の中、沙夜の横に並ぶ、やはり目の無い男の姿が見えて……。

「あかん。何度呼び出しても土井垣の奴、応答なしや」
 堀井と中島は研究室から消えたまま連絡の取れなくなった土井垣をなんだかんだと心配していた。
「まさか、あいつ……諸星さんに自分の試作品をけちょんけちょんにけなされて……」
「ありえる! あいつの豆腐のメンタルなら最悪の事態も十分ありえる!」
「すぐ探さにゃ! 中島、お前あいつが行きそうな場所に心当たりは無いんか!」
「……あります! あそこです!」「おお、あそこか!」

 応答がないのも道理。同時刻、土井垣は光も電波も届かない地下四万メートルの閉鎖空間に拘束され、奇妙なマスクを被せられて催眠状態にあった。
「……教えてもらおう。その解錠コードと始動シークエンスを」
 傍らに立つサングラスの男が問いかける。
 マスクによって自由意思を抑制された土井垣に、抗う術はなかった。

「ほんまにあいつ、どこに行ったんや?」
 翌朝、科特隊の研究室。徹夜で土井垣の行方を捜した堀井と中島がカップ麺を食べていた。
「いや、絶対にライブ会場あたりをうろついてると思ったんだけどなあ」
「しらみつぶしに探したけど何の手掛かりもあらへん。やっぱり今頃、すでに……」
 ガチャ。不意に扉が開き、ぬっと人影が現れる。
「ひーっ!」
 思わず悲鳴を上げる堀井と中島。そこには土井垣が立っていた。
「何や土井垣! お前今まで連絡もせんと、どこほっつき歩いてたんや!?」
 土井垣は答えない。
「お前、どんだけ俺たちが心配したと思ってるんだ! てゆーか何だ、そのサングラスは!」
 土井垣は黒いサングラスを掛けていた。しかも堀井と中島を無視して研究室の反対側の扉から廊下へと出ていく。
「おい、待て、こら!」「どこ行くんや!」
 後を追う堀井と中島。だが土井垣は立ち止まることなく長い廊下を歩き去って行く。
「おい」
 さらに追いかけようとする二人の背中に、諸星が声をかけた。次郎も一緒だ。
 突如帰ってきた土井垣の挙動に不審を感じ、追ってきたのだ。
「何があった?」

 研究開発セクションの深奥に設けられた保管庫。そこに並ぶ施錠されたラックのひとつに土井垣が近づき、IDカードと虹彩認証、そしてパスコードを打ち込んで解錠する。中には青いULTRAMAN SUITが動態保存されていた。SEVEN SUITの最終開発版、Version 6だ。
 土井垣が“外皮”を脱ぎ捨てる。現れた細身の男は、虹彩認証のため外していたサングラスをかけ直し、Ver.6がいつでも稼動できる状態にあることを確認してニヤリと笑った。
「やはり貴様か」
 次郎と共に保管庫の入り口に立つ諸星の声に、男──地底人は振り向きもしない。
「どうしても君たちに復讐したくてね。このスーツがあれば、例の閃光弾も恐れるに足りん」
 地底人はラックのパネルを操作し、SUITを展開、その内側に身を差し入れた。
「そいつを着込めば、僕に勝てるとでも?」
 諸星もメガネのブリッジに指先で触れ、ポインターを起動する。
「知っているぞ。このスーツと貴様のスーツの性能は同等。ならば我ら地底人が、地上で安穏と陽光を浴びて育った君たちに後れを取ると思うか!」
「あいにく僕は地球人じゃない」
 Ver.6を装着した地底人が、ソードで床を斬り裂き階下へ逃亡する。諸星に続いて次郎もZERO SUITを装着、その後を追う。Ver.6は、地下に張り巡らされた秘密ルートに侵入し、東へ向かっているようだ。

 老朽化し解体を待つ無人の工業団地に出たVer.6は、胸に手を当て呼ばわった。
「メカテレスドーーーーン!」
 地震と共に、つい先日霞が関で取り逃がしたメカテレスドン二世が地を割って出現する。
 と同時にケリチウム磁力光波が周囲に通信障害を引き起こした。しかし二人のULTRAMAN SUITには既に対抗措置が施してある。本部との通信にも支障はない。
「こっちは俺が引き受けます!」
 転送したゼロランスを手に、ZEROがメカテレスドンに躍りかかった。
「新米には荷が重い。悪いが手早くかたづけさせてもらう。本部、A装備、モードD」
 SEVENが各二挺のEXライフルとワイドショットを転送し両手に構える。
「こうか? A装備、モードD」
 Ver.6も、ソードを鞘に納めて同じ装備を転送する。
 ほう、とSEVENがわずかに顎をしゃくった。
「驚くことはない。コードも同じ、規格も同じ。君に使えるものは私にも使える」
 無人の団地街を舞台に、赤と青のSEVENによる銃撃戦が始まった。窓ガラスが弾け飛び、壁が蜂の巣となり、たちまち一棟が倒壊した。
 C装備。D装備。手を変え品を変え、棟から棟へ、上階から下階へ、二色の旋風は縦横無尽に飛び交いながら、双方一歩も譲らない。
 一方のZEROも、メカテレスドンを攻めあぐねていた。メカテレスドンの装甲には、スペシウム兵器が通用しないのだ。スペシウムの刃が触れる寸前、装甲の表面が鏡面状に変化しスペシウムの奔流をすべて反射してしまう。装甲自体も恐ろしく厚く、突こうが斬ろうが小ゆるぎもしない。

「これは、スペルゲン反射膜です!」
 本部で戦況を見守る井手に、コンソールに向かうマヤが報告する。
「おかしい……地球に存在しないスペルゲンを、どうやってこんなに大量に」
 井手が疑念を口にする。地底にはもう使える技術も資材も残ってはいなかったはずだ。なぜここまで戦力を立て直すことができたのか。加えて希少なスペルゲンを大量に使用したメカテレスドンのメタリックガード装甲──敗残の地底人に調達先があるとは思えない。
『井手さん! どうすれば!』
 次郎の助言を求める声で、井手は我に返った。
「スペシウムは使うな! なんとか装甲を物理的にこじ開けて、動力源を叩くんだ!」
『物理的にって、石でもぶつけろっていうんですか!?』
 その会話を、指令室の入り口で中島と堀井が聞いていた。
「聞いたか?」「聞いたで、わしらの出番や!」

 ZEROは、倒壊しむき出しとなった一棟の鉄骨を引き抜き、武器にしようと試みた。だが打つにも投じるにも自分の方が振り回されてしまい、思うに任せない。元より人のサイズと重量で扱うには無理があるのだ。バランスを崩したところにメカテレスドンのツメが迫る。
 間一髪、砲弾のように飛来した銀のSUITがZEROを救った。
 ZOFFY SUITを装着した早田だ。
「早田さん!」
「枯れ木も山の賑わいさ。手を貸そう」
 今度は二人で鉄骨を振るう。メカテレスドンの脳天を直撃、やや怯んだ様子だ。
 気休め程度だが、時間稼ぎにはなる。

「ほ、褒めてやる。に、人間にしてはよくやった……」
 Ver.6をまとう地底人がソードを構えつつ言った。息が上がっている。
「光栄だな」
 同じくソードの鞘を払いながら、さして光栄でもなさそうに諸星が応じた。
 周囲には撃ち尽くした火器やカートリッジの類が散乱している。
「こ、ここまでは互角。だが剣においては技量がものを言う。スーツの性能には頼れんぞ」
「同感だ」
 しばしの沈黙の後、風を切って二つの流星が交錯、一方がどうと倒れた。
「な、なぜだ……スーツの設計は同じはず──」
 無論、倒れたのはVer.6の地底人である。SUITに頼っていたのは彼自身だった。
「洗練の差だ。設計は同じでも、もう一度作ればさらに精度が上がり完成度は高まる。人間も同じだ。この僕が、今日初めてスーツを装着したド素人に後れを取ると思うか」
 SUITが解除された地底人に諸星はそう答え、ソードを納めた。

SEVEN vs 地底人

「洗練……バージョン6と7の違いはそこだったのか」
 指令室で、井手は長年の謎がようやく解けた気がした。

 メカテレスドンが、倒れた地底人に気を取られる。
 その隙を逃さず、ZEROとZOFFYが渾身の力で鉄骨を突き入れた。
 装甲がたわみ、メカテレスドンが動きを止める。
 だがそれも束の間、即座に回復し、再び暴れ始めた。
「だめか!」
「運動エネルギーが足りないんだ。それを取り回せるだけのパワーと、命中精度も」
 次郎の嘆きに、早田が分析を述べる。しかしそれを補う手段がない。

 その時、一台の大型トレーラーが秘密ルートのゲートから走りこんできた。
 コンテナの側面に見慣れた流星マークがある。科特隊の専用車だ。
「お待たせ!」「何とか間に合ったか!」
 トレーラーから堀井と中島が降り立つ。
「堀井さん! 中島さん! どうして!?」
 唖然とする次郎に堀井が答える。
「話は後や。諸星さん、こいつ使うて下さい!」
 トレーラーの荷台が開くと、そこには異様な兵装が搭載されていた。中島が開発したαスペリオルの銃口に堀井の曙丸が接続され、それを土井垣が開発したハーキュリーズが握っている。
「名付けて対怪獣即席合体力線重鉄伐斬剣《トロイ・トータル》や!」
「長っ!」
 物も長ければ名前も長い。説明する間も惜しんでSEVEN SUITに装着する。
「おい、まさかこのガラクタで──」
「さすが諸星さん、察しがいい!」
 中島がそう言った時には、二人ともトレーラーの後ろに避難していた。
 背中のハイドラヘッドが火を噴き、巨大な鉄拳が地を叩く。その反動で、SEVENはメカテレスドンの頭上高く舞い上がった。握った巨剣を、メカテレスドンの頭頂めがけて振り下ろす。砲身のアクチュエータが狙いを補正し、超振動を伴った刃が正確に装甲の“目”に沿って真っ二つに斬り裂いた。その切っ先は、胸部で脈動するゲルマタント反応炉に達している。
 トリガーを引くと、発射された刃が炉心に深々と突き刺さった!
 着地したSEVENの背後でメカテレスドンはくずおれ、完全に沈黙した。
「……やった!」
 一同の歓声を他所に、SEVENは重い兵装をパージするや、腰のソードを抜いた。
「有人兵器だったとはな」
 意外な言葉に、次郎たちが振り返ると、二つに割られたメカテレスドンの頭上で、サングラスの女が自動小銃様の武器をこちらに向けていた。
 ザッ、その場にいた全員が身構える。
 そこへ──
「待って! 待ってください!」
 現れた土井垣がメカテレスドンとの間に割って入り、SEVENたちに叫ぶ。
「土井垣さん……!?」
 ZEROを装着した次郎、そしてSEVENとZOFFYも土井垣を見つめ、
「なぜ止める?」
 諸星の冷たさを帯びた問いかけに、土井垣が叫ぶ。
「あれは、沙夜さんなんです!!」
「……沙夜?」
 勿論その名を諸星たちは知らない。だが土井垣は尚も叫ぶ。
「彼女は歌手です! 歌で僕に希望と勇気をくれたアイドルです!」
『次郎。あの男は何を言ってるのだ?』
「俺にもよくわからない」
 ZEROの疑問に次郎が、必死に叫び続ける土井垣を見つめて言う。、
「でも……土井垣さんが嘘を言ってないのだけはわかる」
「どうしてアイドルが地底人の兵器に乗っている?」
 再び諸星が土井垣に問いかけると、
「それは……彼女が地底人だからです!」
 沙夜の正体を暴露する土井垣の目からは涙が流れていた。今までずっと必死に隠し通してきたであろう沙夜の秘密。サングラスを絶対にとらなかった理由はそれだ。もし正体を知られれば二度とアイドルとして歌えなくなるだろう。それでも土井垣は叫ばずにはいられない。
「僕は沙夜さんに死んでほしくないんです!!」
 その叫びはメカテレスドンに搭乗する沙夜にも届いていた。
 脳裏に昨夜のことが思い返される。催眠マスクでVer.6の情報を得た兄は用済みとなった土井垣を始末するよう沙夜に命じて、科特隊本部へと向かった。
だが沙夜は躊躇した。今までずっと自分を応援してくれて、自分の歌を大好きだと言ってくれた土井垣を、やはり殺すことは出来ない。
 沙夜は未だ意識不明の土井垣を解放し、格納されたメカテレスドンへと向かう。兄がVer.6を手に入れたと連絡が来れば同時に出撃する手はずになっていた。
「……沙夜……さん」
 沙夜がメカテレスドンに乗り込む瞬間を、土井垣は意識を取り戻し、見ていたのだ。
「お願いです! 彼女を殺さないでください!!」
 土井垣の叫びに攻撃を躊躇するSEVEN、ZOFFY、ZERO。その時、
「今だ、沙夜! 奴らを抹殺しろ!」
 地面を這う兄が沙夜に叫ぶ。サングラスは壊れ、瀕死の状態だ。
「復讐しろ! 奴らに殺された我ら同胞の恨みを晴らせ!」
「……兄さん」
「沙夜! それがお前のやるべきことだ!」
 逡巡する沙夜。目の前には自分を必死に庇ってくれる土井垣がいる。
 でも、ここまで来たらもう後戻りはできないことを沙夜は知っていた。覚悟してこの場に来たのだ。二度とアイドルには戻れない。もう二度と歌えはしないと。
「……ごめんなさい」
 そう呟くと、沙夜は下ろしかけていた銃口を上げ、発砲を始めた。
「やめろ! やめてくれ! 沙夜!」
 銃撃音の中、叫ぶ土井垣の声はもう沙夜には届かない。
 次郎は早田の言葉を思い出していた。
 戦いは勝者がいれば敗者がいる。そこには恨みや憎しみが残る。平和を守りウルトラマンとして戦うには、そういうものを背負う覚悟が必要だ。
「やるしかないのか……!」
『次郎。いいんだな。それで』
「……ああ」
 ZEROの確認に、次郎が頷いた時、
「待つんだ。薩摩君」
 なぜかZOFFYがZEROを制止した。
 銃撃音が止んでいる。弾切れか?
 代わりに、女の嗚咽が聞こえてきた。沙夜だ。
 泣いている。
 とっくに心は折れていたのだ。

SEVEN 対怪獣即席合体力線重鉄伐斬剣《トロイ・トータル》

「兄さん……」
 投降した沙夜は、地面に這いつくばる地底人の男を見つめ、言った。
「もう……終わったんだよ」
「そうかもしれないな……」
 男は最後の力で立ち上がると沙夜を抱きしめる。その手には小型爆弾が握られていた。
「沙夜。一緒に同胞たちのところへ行こう」
 爆弾のスイッチを押そうとした時、
「やめろおおお!」
 近くにいた土井垣が迷わず走り出すと地底人の男に組み付いた。
「アホ! 死ぬ気か!」「離れろ、土井垣!」
 堀井と中島が同時に叫ぶが土井垣は地底人の胸倉を掴み、拍子に手から爆弾がこぼれた。
 それをすかさずZEROが拾うと天高く投げ上げた。遥か上空で爆発音が響く。
 だが土井垣はまだ地底人の男から手を離さず、叫んだ。
「沙夜さんの歌声に僕は救われたんだ! 沙夜さんの歌は僕にとって掛け替えのない宝物なんだ! 頼むよ! 沙夜さんに歌わせてやってくれ! 頼むから!」
 最後は泣き声になっていた。土井垣の顔は涙と鼻水でぐしょぐしょだ。そんな土井垣を見つめ、沙夜が微笑む。
「……私……歌うよ」
 驚く地底人の男が目の無い顔で沙夜を見つめる。
「私、アイドル続ける。そしたらまた聞いてくれる? 地底人だけど……」
「そんなの関係ないよ! 聞くよ! 誰が何を言おうと僕は沙夜ちゃんを応援するから!」
「……ありがとう……土井垣さん」
 そんな二人を地底人の男が見つめ、
「……勝手にしろ」
 沙夜から離れると地底人の男は歩き去る。だが次の瞬間、放たれる光線がその胸を貫いた。
「役立たずめ。折角、復讐の手助けをしてやったというのに」
 愕然の一同の前、現れる異形の異星人──ダークゴーネ。
『貴様は!』
 その姿に反応するZERO。
「ほう、私を知っているようですね。なら理解が早いな。もうじき我が偉大なるあのお方がこの星を支配します。ではまた」
 姿を消すダークゴーネ。
「兄さん!」
 同時に沙夜が倒れた地底人の男に駆け寄り、抱き起す。
「ねえ、しっかりして!」
「沙夜……お前は生きろ……」
 地底人の男は沙夜の手を握り締め、微笑んだ。
「大好きな歌を……歌って」
 沙夜の腕の中で息絶える地底人。
「兄さあああああああん!」
 号泣する沙夜。見つめる一同。土井垣も掛ける言葉もなく立ち尽くした。

「この歌は私がまだ小さい頃、家族と一緒に見た夜空の記憶を元に作りました」
 数日後、ライブハウスのステージに沙夜はいた。
「この歌を、とても遠い所に行ってしまった大好きな人に捧げたいと思います。聞いてください。青い夜の記憶です」
 静かに歌い始める沙夜。美しい歌声がライブハウスを満たした。
 客席で聞く土井垣。傍らには堀井と中島もいる。
 万感の思いを込めて歌う沙夜。サングラスの下にはきっと涙が光っているに違いない。彼女が見た青い夜空に瞬く星のように。そう土井垣は思った。

つづく


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