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ノモ研 「クリアーパーツと接着剤」【野本憲一モデリング研究所】

2021.10.16

野本憲一モデリング研究所 月刊ホビージャパン2021年11月号(9月25日発売)

ノモ研 「クリアーパーツと接着剤」【野本憲一モデリング研究所】
ノモ研40

 今回はクリアーパーツに適した各種の接着剤について、その特徴と使用例を紹介していく。クリアーパーツは取り付けに粗があると目立ちやすく、うまく行えると作品の印象がグッと良くなるポイント。たいていは塗装後や仕上げ段階での接着なので、パーツ表面や周辺の塗装を痛めにくい接着剤を選び、個々の状況に応じた手順をとっていく。

製作・解説/野本憲一


ありがちな失敗例

こうした事態を避けるために接着剤の選択が重要、というお話。

プラセメントを使った接着でパーツが曇ったり、塗装が溶けて色が付いた
▲プラセメントを使った接着で、ハミ出してパーツが曇ったり、塗装が溶けて色が付いてしまった……。というのは一度は経験すること。こうしたリスクを避けるには「パーツや塗装を溶かさない」「ハミ出しても剥がせる」接着剤を使うのが近道だろう
瞬間接着剤を使った周辺で起こる「白化」現象
▲瞬間接着剤を使った周辺で起こる「白化」現象。これは気化した成分の硬化で起こるもので、拭いたり擦るくらいではとれない。低白化タイプや硬化促進剤を併用することで低減が期待できるが、それでも絶対に起こらないとはいえない。硬化時間や接着強度などが近い他の接着剤も検討しよう

接着剤選びのポイント

 仕上がりを優先すると以下の3点が重要。
・パーツや塗装を痛めない(痛めにくい)
・硬化後が透明
・ハミ出しなど修正が可能
 さらに接着箇所に応じて「接着の強さ、硬化時間、処置のしやすさ」などを加味して適したものを選ぶ。通常のプラキット製作では汎用的な2〜3種があれば、あとは使い方の工夫でほとんど対応できるだろうが、普段使わないタイプも特徴を把握しておけば困った時の助けになるかもしれない

水性形(ウレタン樹脂)接着剤

無溶剤でプラパーツを溶かさずに接着。7〜8年程前から模型用が販売され、プラキットやディオラマなどでの小パーツの接着に広まっている。

ハイグレード模型用
▲プラを溶かさず、また塗装も痛めない水性系の接着剤。硬化前は水で拭き取れ、塗装も痛めない。扱いやすく、ハミ出しも整えやすいのでクリアーパーツの接着には最適。2〜3時間で固定される
ハイグレード模型用/セメダイン/550円/20ml(ハイグレード模型用)
液は透明
▲液は透明。出した段階での粘りはあまりなく、筆塗りもできるほどゆるめ。爪楊枝の先に付けて引いても「糸引き」(細く糸状に引き伸ばされること)がなく、点々と少量ずつ付けやすい
拭き取りのテスト
▲拭き取りのテスト。ラッカー系の塗装面(グレー)の上に垂らしたものを、水を付けた綿棒で拭いている。跡が残ることなくこすり取れた
クリアーパーツ(航空機のキャノピー)の接着
▲クリアーパーツ(航空機のキャノピー)の接着。接着面が小さな所では点々と付けていき、貼り合わせる。適度な粘性でこうした作業が行いやすい
貼り合わせ後、はみ出た接着剤を早めに拭き取る
▲貼り合わせ後、はみ出た接着剤を早めに拭き取る。パーツ間の接着力はすぐには発揮されないので、数時間は動かないよう静置しておく。ズレやすい場合はマスキングテープなどで仮止めしておく
大きめパーツでの例
▲大きめパーツでの例。カーモデルの窓ガラスパーツの貼り付けで、仮合わせして上下の辺に接着剤を付けている。広めに塗った場合はすぐに貼らず、2分ほど置いて粘性が少し高まってから貼り合わせる
ボディパーツに貼った状態
▲ボディパーツに貼った状態。裏側から窓パーツを貼っているので、表から仮止めのテープを貼っている。囲みの箇所にハミ出しがあるが、ここで拭き取り作業をするとパーツが浮いたり、余計に広げることもありえる。そのため硬化後に対処する方法を選択
ハミ出しへの対処開始
▲接着剤が乾いてパーツが固定されたら、ハミ出しへの対処開始。取り除きたい部分をパーツのフチに沿ってナイフで切り込みを入れ、貼り合わせたところと分けられるようにする
エナメル溶剤を塗る
▲次にハミ出しと下のパーツ面の間に流すようにエナメル溶剤を塗る。すると密着していたところが緩んで、徐々に剥がれるようになってくる(エナメル溶剤)
ピンセットでつまみ上げ
▲ハミ出しがめくれるようになり、ピンセットでつまみ上げられた。剥がした箇所には跡も残っていない。これもパーツや塗装面を痛めない特性のおかげ
凹みにクリアーパーツを埋め込む接着
▲次は凹みにクリアーパーツを埋め込む接着。パーツの底面段差があり、底面でペタリと貼る方法はとりにくい
良くない状態の例
▲これは良くない状態の例。凹みの底面に接着剤の跡が見えている。接着面が透けて見えるところでは、こうした点に注意が必要
パーツ側面のみに接着剤を付ける
▲ということもあり、やはりパーツ側面のみに接着剤を付け(筆塗り)、粘性が増した状態で凹みに入れるという方法をとることに。なお、使った筆も硬化前なら水で洗える
オレンジ色のクリアーパーツを収めた状態
▲オレンジ色のクリアーパーツを収めた状態。接着剤は半乾きに近い状態で入れたので、底面や表面側へのハミ出しはなく、修正がいらない状態。クリアーパーツを入れてから隙間に塗る方法もあるが、それについては次の例を参照

水性形(酢酸ビニル)接着剤

いわゆる「木工ボンド」タイプの接着剤。これもプラパーツや塗装を痛めないもので、クリアーパーツの固定には古くから用いられている。

タミヤ クラフトボンド
▲この種の製品は数々あるが、ここではタミヤ クラフトボンドを例に行う。液は白色で、乾くとご覧のように透明になる。細口ノズルで少量ずつ出しやすい。そのまま細部にも付けやすい
タミヤ クラフトボンド/タミヤ/330円/20g(タミヤ クラフトボンド)
接着シロのないクリアーパーツの接着
▲接着シロのないクリアーパーツの接着。先のウィンカーの例と似たようなものだが、接着面が表面に近くて粗が目立ちやすい。接着の前にパーツの収まりを確認、必要なら整形しておく。塗膜の厚さで填まらない、なんて場合もある

接着跡が見える

クリアーパーツの四隅にだけ接着剤を付けた場合
これはクリアーパーツの四隅にだけ接着剤を付けた場合で、その接着跡が見えてしまっている。こうした固定方法を選ぶこともあるが、それが見えてしまっては仕上がりとしてちょっと残念
周囲の隙間に接着剤を塗る
▲クリアーパーツを配置した周囲の隙間に接着剤を塗り、固定する方法。塗り込みやすいよう、接着剤は水分を加えて少し緩くしている。隙間に入ったもので固着させるイメージで、完全に埋めるようにはしていない
周辺に付いたハミ出しを拭き取って仕上げる
▲周辺に付いたハミ出しを拭き取って仕上げる。目立つような跡も残らず固定できた。剥がそうとすれば簡単に剥がれる程度のもので、強固な固定ではないが、リスクが少なく、やり直しも効く方法だ

合わせに塗り、固める

合わせに塗り、固める
クリアーパーツと周囲の合わせを埋めつつ、塗り重ね固定している。完成後に見えない側ではこうした方法もとれる

エポキシ系接着剤

二液混合型で強固に固定できる。力の掛かる場所や隙間のある接着で助かる。

エポクリアー
▲無色透明でアクセサリーなどの用途向け。透明度も高くクリアーパーツの接着にも適している。5分硬化とは硬化が始まる時間でそこまでが作業時間の目安。その後数時間で実用強度、24時間で最終の接着強度になる
エポクリアー/ボンド/748円/15g
A液、B液のどちらも透明
▲A液、B液のどちらも透明でこれを同量よく混ぜ合わせてから塗布する。若干の糸引きはあるが使いづらいほどではない。硬化が始まるまでは粘着力はなく、エナメル溶剤を付けて拭き取りもできる。硬化し強度がでるまではパーツ位置をテープなどで保持するようにしたい
バイクのカウルと透明シールドのパーツの接着
▲バイクのカウルと透明シールドのパーツの接着。肉薄のパーツ同士が複雑な面で嵌合するパーツのため、重ねるだけではピタリと収まらず、両パーツを沿わせつつ固定する必要があるのだ。特に後端が浮いてしまいやすい。そこで接着強度の高いエポキシ系を使うという判断
左側合わせで置いた状態
▲上のシールドは向かって左側合わせで置いた状態。右は少しズレている。カウルの紺色は塗装でクリアーコートまで済ませた状態。接着後の修正で損傷や磨きが必要になっても多少はカバーできるようにしている
塗り残しがないよう塗布
▲湾曲した接着面の全体でしっかり固定したいので、塗り残しがないよう、カウルの上辺に沿って接着剤を塗布している。接着面がパーツ越しに見える箇所でもあるので、塗り残しがあると露わになってしまう
仮止めした状態
▲透明シールドを重ねて仮止めした状態。前側のテープは中心位置の目安。懸案の後端側はシールドとカウルの重なりをクリップで押さえている。ここを固定すると前側のフィッティングもよくなった。このまま硬化を待ち、ハミ出しの処理は後回し
ズレもなくしっかり固定されている
▲硬化後にクリップを外したところ。後端のシールドとカウルの重なりがズレもなくしっかり固定されている。位置決めとエポキシ系の接着強度のおかげ
ハミ出し修正
▲ハミ出し修正は先の例と同様で、まず合わせ目にナイフの刃を沿わせ、切り込みを入れておく。パーツに傷つけないように慎重に
塗装面のハミ出しにエナメル溶剤を付ける
▲次に塗装面のハミ出しにエナメル溶剤を付け、少し待つ。するとエポキシ部分の密着が緩むので、溶剤を付けた爪楊枝で少しずつ押し、剥がすようにしている
シールドとカウルをフィットさせて取り付け
▲シールドとカウルをフィットさせて取り付けできた。シールド越しに見える接着面も空気が入ったりせずに密着しているのがわかる。塗膜の傷みはペーパー掛けとコンパウンドの磨きで修正した

光硬化型接着剤

前回でも少し触れた光硬化の透明接着剤。クリアーパーツ越しに接着面に光を当て、短時間で硬化させ固定できる。

UVジェルグルーS、紫外線硬化接着剤 UVクリアー
▲模型向けUV硬化型、透明接着剤2種。光源はそれぞれ別売の紫外線LEDライトを用いる。光が当たらないと硬化しないわけで、貼り合わせの一方が透明な箇所で使う。硬化時間はUVジェルグルーは約60秒、UVクリアーは10秒程度と短い
(左)UVジェルグルーS/ガイアノーツ/1650円/15ml
(右)紫外線硬化接着剤 UVクリアー/スジボリ堂/880円/10g
(UVジェルグルーS)
それぞれをプラ板に付着させたサンプル
▲それぞれをプラ板に付着させたサンプル。どちらもサラサラに近い粘度。これを拭き取ったのが下でUVジェルグルーは少し溶けたような攻撃性が見られる。UVクリアーは擦り跡が残る程度で傷みは少ない
透明プラ材(L形)を接着したもの
▲グレーの塗装面に透明プラ材(L形)を接着したもの。UVジェルグルーの接着は強固。UVクリアーは力を掛けると浮きそうにはなる。どちらもハミ出し部分の表面はベタ付きがある状態
UVクリアーは硬化後も「エナメル溶剤で剥がせる」特性がある
▲UVクリアーは硬化後も「エナメル溶剤で剥がせる」特性がある。それを両方で試したもので、UVクリアーでは接着部分が軟化し、プラ材からめくれるように分かれた。接着力やハミ出しへの対処で使い勝手が異なる。UVジェルグルーでは接着はしっかり維持され、塗膜が板から剥がれるほど、という結果
光硬化での接着手順
▲カーモデルのウィンドウパーツを例に光硬化での接着手順。余白部分に接着剤を点付けし、パーツを所定の位置に置くように合わせる。硬化前は粘着力がない点に注意
UVライトを照射
▲位置決めが済んだらUVライトを照射。すぐに硬化し、接着が完了する。ライトを照射するまでは硬化が始まらないので、事前の作業時間はとりやすい。固まるタイミングを自分でコントロールできるのはこの接着剤の利点(UVライト)
表からの仕上がり
▲表からの仕上がり。光硬化の接着面はどちらかが透明でないといけない(クリアーパーツでも接着面を塗装しているとだめ)ので、活かせる場面が限定されるが、条件が合えば作業時間も短くメリットがある

透明粘着シート

両面テープの様に粘着して貼り合わせるもの。手順を踏んだ使い方なので、そこを詳しく紹介。

両面粘着シート 超透明
▲50ミクロンという極薄で透明の粘着材(黄色に見えるのは台紙の色)。シールやテープの「糊」の層だけを接着面に付けることで、厚みを生じさせず密着させられる
両面粘着シート 超透明/ハセガワ/880円/2枚入り(両面粘着シート 超透明)
通常のシール類を同様
▲このシートは上からPET、糊、台紙が重なっている。まずは台紙ごと手頃な大きさに切断し、次に台紙から透明な層を剥がす。ここまでは通常のシール類を同様
透明プラ板に貼ってみる
▲サンプルとして透明プラ板に貼ってみる。粘着面を重ね、その後に透明PETを剥がすと「糊」の層だけが表面に残る。接着剤を極薄に塗ったような状態だ
方眼の面に貼ったところ
▲それを方眼の面に貼ったところ。粘着部分の透明度、均一な様子が確認できる。液体と違ってハミ出しなど心配がない接着ができることにもなる
粘着して、伸びたりしやすい
▲この製品の注意点は「糊」の層。ピンセットに付くとこのように粘着して、伸びたりしやすい。台紙やPET面を剥がす際にこんなことになりがち
ルームミラーの取り付けに使ってみる
▲ルームミラーの取り付けに使ってみる。ガラス表面の内側に貼るところで、接着跡がクリアーパーツ越しに表から見える箇所だ。パーツの接着面にはすでに切り出したシートを貼ってある
ウィンドウパーツの内側
▲ウィンドウパーツの内側から、□モールドに合わせて貼っていく。接着の場合は囲うように周囲をマスクするが、この場合はそうした作業なしで位置だけを合わせれればいい
位置を合わせて貼った状態
▲位置を合わせて貼った状態。クリアーパーツ越しにみると、粘着層の跡がまだらで見た目がよくない。クリアーパーツがわずかに曲面でミラーのパーツ面とは完全にはフィットしないためだろうか。これは押し付けたり、貼り直しても同じだった
貼った跡が均一な仕上がり
▲貼った跡が均一な仕上がり。クリアーパーツ面に密着しやすいよう「糊」を二重にすると、このようにうまくいった。両面テープなどでも二重にすると密着するのと同じことだろう。固定もより確実になる
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