【ゲッタードラゴンINFINITISM】第4回 鬼の起源
2022.10.08スーパーロボットINFINITISM 月刊ホビージャパン2021年1月号(11月25日発売)
ダイナミック企画×BANDAI SPIRITS ホビー事業部×月刊ホビージャパンで贈るフォトストーリー『INFINITISM』。『グレンダイザー』編、『マジンカイザー』編に続くシリーズ第3弾『ゲッタードラゴン』編第4回。百鬼帝国の謎に迫る早乙女博士たちゲッターチーム。百鬼帝国の巨大円盤の潜伏先を探り、ゲッタードラゴンを急行させる。
原作・企画
ダイナミック企画
ストーリー
早川 正
メカニックデザイン
柳瀬敬之
協力
BANDAI SPIRITS ホビー事業部
ホビージャパン
第4回
鬼の起源
会議室の大型スクリーンには隼人が撮影した百鬼帝国の拠点の映像が次々と映し出された。草薙武彦は興味深そうに老眼のレンズを輝かせながら吟味した。
一通りの映像を見せると、隼人が教授に話し掛けた。
「先ずは、忌憚のない意見を――」
草薙は焦点が合うよう眼鏡を掛け直して隼人を見た。
「驚いた……。何から話していいものか……」
老学者は本当に困っているようだった。それでも、考えをまとめながら、とぼとぼと語り出した。
「そもそもこの円盤だが…、いやもう、円盤といってしまうがね、ほら、覚えてないかな。数年前、イギリスのTV番組が南極に送った探検隊が行方不明になった事故――」
そういわれてミチルが反応した。
「確か、ネットの衛星マップサイトで話題になってた。南極の氷の中に巨大な空飛ぶ円盤としか思えない影があるって……」
「ああ、それだ」
8年前のことだった。第1報はショッキングな遭難事故として報じられたが、いつの間にかオカルト趣味のTV企画が主導した流れから起きた事故として、社会的には自己責任と叩かれ、忘れ去られたニュースだった。
「そういえば、そんなことあったな……」
弁慶もいわれれば微かに思い出す程度だった。
早乙女ミチルは自分のノートパソコンで件の映像を見付け出すとすぐに大型スクリーンに転送した。解析ソフトでなぞると隼人が撮影した映像と完全にマッチした。
「つまり、行方不明になった探検隊が目指していた円盤こそが、この百鬼帝国の巨大な円盤だったと……」
早乙女博士が口にした言葉に全員が頷き同意したが、問題はその事実関係が生まれた工程だった。
「答えを急いでも仕方ない。分かることから検証しよう。素材に使われている金属は銅の合金に見えるが、私の専門でないので、これについてはわからんな――。この円盤の通路などの空間の広さから見て、これを設計した知的生命体は我々と同じ二足歩行型ヒューマノイドで2.5メートルから3メートル。人類の平均的サイズより二まわり程大きい。それでほら、この部分――」
草薙は円盤内部の通路の脇に微かに見える傷のようなものを指摘した。細かい掘り込みで気付き難いが、映像を拡大するとそれと同様のものが扉や通路の壁のそこそこに刻まれていた。
現場に居た隼人も、今、教授に指摘されるまで気が付かなかった。
それは象形文字に分類される特徴を備え、地球の生物で例えるなら、蟻や蜘蛛を図案化し、その胴から伸びる複数の足が様々なパターンで幾何学的に繋がり、それ自体が精密な電子基板の配線にも見える文字だった。
「象形文字の一種だ。エジプトやインドで発見された砂岩板や日本の銅鐸などにも同様のものが確認されている」
「解読は可能ですか?」
早乙女博士がそう尋ねると草薙教授は微妙な笑みを見せた。
「ほんの一部だけなら意味がわかるといったところかな。古代伝承で被りのある部分を当て嵌める程度だが……」
その答えに全員がピンと来ていないのを見てミチルが説明を加えた。
「例えば西洋と東洋。異なる宗教。異なる言語圏でも、その要素を取り出せば同じ事件を語っていると思われる言い伝えがあります。巨人や鬼の伝説、それに〝大洪水伝説〟なんかがそうね。つまり、限定したコミュニティーに囚われず伝承を中心に事実関係を捉えれば共通体験の事象が浮かび上がる。そのポイントから言語や文字の変化を系統付けて研究するのが草薙式考古学なのです」
「お陰で、学閥からは厄介者扱いだが」
草薙が自嘲気味にそういうと、「そりゃそうですよ。信憑性ゼロの偽書関係まで持ち出されても、学会的には説得力の足しにはなりませんからね。でも、私はそこが好きなんですけど」とミチルは笑った。
モニターで見物している美登呂虎之介も薄笑いを浮かべていた。
草薙教授は軽く頭を掻いてホワイトボードに向かった。
「過去に見付かった〝蟲型象形文字〟で、その言語変換が確実なのはこの単語だけだ。まあ、君たちが知りたいことの足しになるかどうかはわからんが……」
草薙はボードマーカーのキャップを外すと縦に〝蟲型象形文字〟を六つ書き、その横に漢字ですらすらと六文字を並べて書いた。
宇佐荒羅龍神――。
読めずに表情をしかめた竜馬が質問した。
「なんて読むんだ……?」
「後ろの二文字の〝龍神〟は敬称なので音にしなくていい。ウザーラと読む」
「……ウザーラ」
「この〝蟲型象形文字〟を使っていた者たちが〝闘神〟として畏れ、崇めていた存在だ――」
「闘神、戦いの神……?」
隼人にとっても興味深い話だった。伝承に残る闘神とは、戦いに於ける最終兵器のことを語っている場合が多い。
「教授、その文字の解読はどのようにして?」
「その前に、私のロジックを簡単に説明させてもらおう」
早乙女博士、流竜馬、神隼人、車弁慶、早乙女ミチル。リモート用のモニターからは美登呂虎之介が興味深く見守っていた。
「ミチル君の話にあったように、私は正史に囚われず、伝承の中にヒントを求めている。勿論、中には役に立たない情報も多いが、それでも注意深く眺めて見ると何らかのリンクが認められる事がある。例えば先程も出た〝大洪水伝説〟がそうだ。旧約聖書でいう『ノアの方舟』の原型に当たるウトナピシュティムの〝大洪水伝説〟は紀元前5600年頃の地中海から黒海にかけての大洪水がモデルであったとされている。また一方、ムー、アトランティス、レムリアなど、失われた大陸の伝承も世界各地に存在する。古代の哲学者プラトンが提唱したアトランティスは紀元前9400年に水没したとされている。それぞれの伝承にある洪水の推定発生年月日を並べると古いもので紀元前9400年、比較的新しいものでは紀元前1800年に地球規模の洪水があったとされている。大切なのは洪水の記憶が何処から継承されているかということなんだ」
草薙教授の言葉は熱を帯びていた。
「大規模な共通体験は人々にインパクトを残し、センセーショナルであるが故に、必ず、それぞれの時代の思想・宗教と結びつく――。その結果、教義の中のストーリーに組み込まれる。これは何も大きな事件だけでなく、身近な小さな伝説でも同じことだ。例えば日本の妖怪、カッパや鬼の伝説もそうだ。自分が住んでいる地域にカッパや鬼の伝説が残っていたとしても、それがオリジナルとは誰も思っていない。しかし、我が村の話として伝わっている。オリジナルではないが似たような事件が昔あり、教訓として伝わったのだろうと誰もが自然に理解している。つまり、〝何々のようだ〟という伝言ゲームから、いつの間にか〝ようだ〟が外されて、それぞれがオリジナルになるローカライズ現象が発生する。それでも言語学、宗教学、民俗学、考古学などを加味すれば、元になった事件と人間の関わりが見えて来る――というのが私の研究の基本姿勢だ。だから、ときどき正史から外れたものを根拠に突拍子もないこともいってしまうが、私の中ではそれなりに真実かどうかの取捨選択はしている。それでだ――宇佐荒羅龍神の解読に至った流れだが、数年前、ひょんなことで調べる機会を得た銅鐸に、これと同じ〝蟲型象形文字〟が刻まれていてね。ここに来て、期せずして日本の古代史と失われた大陸が結び付いた」
「日本の古代史とアトランティスのような伝説がですか?」
早乙女博士が聞いた。前置きがあったにせよ、信じ難い展開だった。
「この論旨自体は偽書の世界では珍しいことではない。例えば、その筋では有名な『竹内文書』でも〝ムー〟や〝レムリア〟のことを〝ミヨイ〟や〝タミアラ〟として記載されている部分もある。いや、むしろ重要なのはそこではなく、降臨伝説の解釈だ」
「天孫降臨――地上に降臨した神々。確かに、視点を変えれば異星人の到来と読めないこともない」
顎に手を当て、思いを巡らすように隼人がいった。
草薙は続けた。
「こういうネタは夢があるからな。これまでもSF好きが定期的に騒ぎ出すこともあったが、残念ながら学問というフィールドで語れるだけのエビデンスはなかった。しかしもし、降臨した神々と失われた大陸の人々が同じ系譜の者たちであったと証明されれば、話は変わって来る――。円盤の中から見付かったこの〝蟲型象形文字〟で、それがはっきりとしたというわけだ」
弁慶がまだ整理出来ていない頭を掻きながら尋ねた。
「古代日本に降臨した神々と、百鬼帝国の円盤を造った者と、失われた大陸で暮らしていた超古代人が同じ系譜を持つ宇宙人だということですか? でも、時代が違い過ぎるんじゃ……?」
それには隼人が答えた。
「確かにそうだが、だからといって一概に無い話だともいえない」
「異星人が恒星間規模の移動をして来たとすれば、地球に到着するタイミングに意味はない。光の速度を越えるのだからな。その気になれば、どの時代にも到着出来る」
と、早乙女博士が補足した。
草薙は大きく頷いた。
「それが始めに私がいった〝大洪水伝説〟の本質だ。どの洪水がオリジナルの〝大洪水伝説〟なのかは重要ではない。大切なのは、洪水の記憶が何処から継承されているのかということだ」
リモートで見ていた美登呂虎之介が堪らず質問した。
「遠く離れた未知の惑星から何らかの意図を持って地球を訪れた異星人たちが居た――そういうことでしょうか?」
「ああ、そういうことになる」
草薙はモニター用のカメラに向かって頷いた。
「なるほど……。つまり、〝大洪水伝説〟のオリジナルは、地球の出来事ではないという可能性も見えて来たわけですね。あ、いや、失礼――」
しゃべり過ぎたと反省したのか美登呂虎之介は小さく笑み、再びモニターの中で気配を消した。
「この〝蟲型象形文字〟が地球上で確認されているのは、私の知る限り、日本、エジプト、インド、それとムー、アトランティス、レムリアなどの失われた大陸の伝説に関連するとされる一部の地域だけだ。そして面白いことに、神智学や人智学といったネオサイエンスと呼ばれる思想体系の中にも失われた大陸と宇宙や死後の世界を包括して世界観に組み込んでいるものが多い。まるで、異星人の記憶のように――」
草薙教授は意味有り気に言葉を止めた。
▼ ▼ ▼
その時――会議室のインターホンが鳴った。ミチルが出ると先程と同じ所員がモニター越しでも判る青ざめた表情で固まっていた。
〝――防衛省からのお客様です。ホットラインで来ていますので会議室のモニターに転送します〟
緊張しているのか所員の言葉は要領を得なかった。客なら直接出迎えればいいし、TV電話なら来客ではない。だが、その答えはすぐにわかった。
部屋の入口から武装した10名程の小隊が入って来たかと思ったら、会議室の大型スクリーンに一目で自衛隊の幕僚とわかる男の顔が映し出された。
陸上幕僚長の是川だった。竜馬、隼人ともよく知った顔だ。なだれ込んで来た小隊も竜馬の古巣である〝特殊作戦群準備室〟の精鋭たちだった。戦闘行動ではないので短銃はホルスターに収めていたが、その威圧感は計り知れないものがあった。
「なんだ……?」
突然の展開に草薙教授は立ち尽くしていた。
モニターに映る是川は挨拶も抜きに切り出した。
「神一等陸曹の身柄を拘束する。今回の件に関しては防衛省で聴聞会を開くことになった。隊員の指示に従い、即時の出頭を命じる――!」
「チッ、何すましてやがる……!」
幕僚長の演出をぶち壊すかのように竜馬が噛み付いた。
「その後はどーすんだ? どうせ、なにも考えてねーんだろ。隼人を閉じ込めたとこで百鬼帝国の脅威は変わんねえぞ。むしろゲッターを動かせなくなる分、対応策は少なくなる。それでも世間への体裁のために、取り敢えず捕まえるってか……。全く、馬鹿どもが――! クソして寝てろッてんだ!」
「流隊長、そのくらいにしてあげて下さい」
小声で助け舟を出したのは現隊長の来栖丈だった。始終、粗暴で荒々しい竜馬とは違い、来栖は猛暑でも涼し気だった。口調が柔らかく、一見、二枚目の優男にも見えるがその能力は折り紙付きで、竜馬が自分の後釜として作戦群の隊長に任命した。
「幕僚長も大変なんです。国会や国連への報告義務もあるし、ゲッターは勝手に戦うって宣言するし、方々からどうなってんだってツッツキ回されて……」
「隼人を黙って連れて行かれて、腐らせてる暇はねえんだ! 連れて行かれたら最後、こいつは二度とシャバには出られなくなっぞ!」
「おいおい……」と、当の隼人が一番冷静に構えていた。気の毒なのは登場の一言以来一言も発せずモニターの中で渋い顔をしているしかない是川だった。
「あの、失礼――その件でしたら」
見兼ねた美登呂虎之介がリモートのモニターから話し掛けた。
「ん?」と、全員が注目した。
「その件でしたら、もう、話はついています。本日中にも内閣府から通達があるはずです」
「え?」と、また全員が驚いた。
「国連軍の一部機能と日本の防衛省の一部機能を併合し、この日本に国連軍の出先機関として〝特殊戦略室〟を試験的に立ち上げることになりました。神一等陸曹はそのメンバーとして選出されており、所属は既に国連軍にあります。尤も、今の所は書面上のみの組織ですが……。ちなみに登録されている氏名と階級は国連軍式で犬神隼人中佐です」
「苗字が違うぞ?」
弁慶が聞くと隼人が応えた。
「俺はお袋の連れ子で、親父の跡は直系の姉が継いでいる。混乱するから普段は通り名として、同じ〝神〟を名乗っているが、戸籍上は〝犬神〟だ」
「と、まあ、そういうわけですので防衛省には国連軍の隊員を拘束する権限はありません。〝特殊戦略室〟は治外法権であり、よって、自衛官としての任務中に反目する早乙女研究所のゲッターに乗ったという構図は根本から崩れ去るわけです。御理解、頂けましたか?」
よくもまあそんな屁理屈を考え、仕込んだものだとその場に居た殆どの者が苦笑いだったが、幕僚長は振り上げた拳を降ろす機会を得て、内心、ほっとしている様子だった。
是川はモニターの中から隊員たちに撤収命令を出すと、現れた時と同じく、終わりの挨拶も無しにパシャリと通信を切った。
「あーあ、流隊長の嫌味が、かなり効いたみたいですね。こっちに八つ当たりが来ないか心配だ」
来栖はそうぼやきながら隊を撤収させ帰って行った。
草薙教授も日を改めて話を伺うとして、今日のところはお開きにすることになった。
「なんだったんだ……」
「隼人がお咎めなしになったということだけはわかったが、国連軍の出先機関って何だ?」
「俺も初耳だ」
竜馬も弁慶も隼人も、早乙女博士ですら蚊帳の外だった。
――少なくとも、今回は良い方向に転んだが、いつも上手くいくとは限らない……!
早乙女博士は事態が収拾した安堵より、美登呂虎之介の暗躍ともいえる人並み外れた行動力に疑念を浮かべていた。
――私が、気を付けるしかないか……。
腹の内を見せないのはお互い様だった。
▼ ▼ ▼
隼人が百鬼帝国の巨大な円盤に仕掛けた発信機は磁気型だった。このシステムは潜水艦の探知などに使用するMAD《磁気異常探知機》の発展型で発信機から特別な識別リズムを磁気で発生させ、それを静止衛星と早乙女研究所の2点で捕捉し位置を割り出すものだ。音波型に比べて敵に悟られにくいが難点もあり、地球規模のスキャンを行うには地球そのものの磁場が邪魔になり受信側のスキルとリソースに大きく依存した。
まして、相手が長距離を移動しているともなれば位置の特定は尚更困難になる。
三日が経っても識別リズムは受信出来ず、隼人は自分のミスに苛立っていた。
拳を握り、諦めかけたその時、レーダールームのブースに詰めていた所員が隼人の方を向き、右腕を垂直に上げて合図した。
「探知しました――!」
「よしっ!」
大型モニターのMAP上に位置が表示された。そこはアフリカとアメリカに挟まれた大西洋のど真ん中だった。
――アトランティス……?!
草薙教授のレクチャーのせいか、その場所を見て真っ先にそう発想した。この辺りは、かつてアトランティス大陸があったとされている海域だ。
竜馬、隼人、弁慶を乗せたゲッタードラゴンはマッハ4で大西洋を目指した。
美登呂虎之介は執務机の上に置いた小さなノートパソコンから自社のネットワークにアクセスし、系列にある研究員のリストを指先で捲っていた。そのデータは古く、8年前のフォルダに分類されているものだった。画面をスワイプした指先が止まった。
――やはり、居ましたね。
目当ての人物が見付かり、人知れず、哀れみとも微笑みともつかぬ顔をした。
そこにはブライアン・ドレフェスという研究員のあらゆる個人情報が仔細に至るまで表記されていた。
添付ファイルの写真データには、長身で筋肉質という恵まれた体躯には似つかわしくない、内気で消え入りそうな表情をした男の顔が写っていた。
――そう、この顔だ。覚えていますよ。科学者としての才能はあったが、人付き合いは苦手のようでしたね……。弱々しい仮面の底に、いつも怒りを隠していた。
美登呂虎之介はゆっくりと立ち上がり、高層階にある社長室の窓から夕暮れのビル群を見下ろした。
「――面白いことになりました」
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