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【マジンガーZERO INFINITISM】第3回 髑髏月

2022.12.10

マジンガーZERO INFINITISM 月刊ホビージャパン2023年1月号(11月25日発売)

【マジンガーZERO INFINITISM】第3回 髑髏月

 柳瀬敬之リデザインによるスーパーロボットモデルの作品群を、原点の輝きを残したままフォトストーリーとして再構築する人気企画の最新作『マジンガーZERO編』第3回。Dr.ヘルが送り込んだ機械獣を止めるべく出撃する兜甲児とマジンガーZ。焼け野原となった市街地で巨大ロボットどうしの戦いがはじまる。すべての世界がひとつになる、マジンサーガ・マルチバース、ここに開演!

原作・企画
ダイナミック企画

ストーリー
早川 正

メカニックデザイン
柳瀬敬之

協力
BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン
ホビージャパン

模型製作
只野☆慶

第3回
髑髏月スカルムーン

 Dr.ヘルが機械獣を送り込んだ。
 ガラダK7とダブラスM2が静岡の市街地に上陸した。
 ――俺が止める……!
 ホバーパイルダーに飛び乗り、兜甲児は光子力研究所の上空へと舞い上がる。


「マジーン、ゴォォォーッ!!!」


 浄水プールの底が開き、流れ落ちる爆流。地下格納庫からマジンガーZがリフトでせり上がりその勇姿を現した。


「パイルダーッ、オーン!」


 その頭上でホバーパイルダーが翼を曲げると機底から制御ジェットが噴き、パイルダーはすり鉢状の頭部にドッキングした。
 操作系が繋がり、Zの眼が、魂が宿ったかのように一際金色に輝く。
 甲児の感覚のすべてがくろがねの魔神の体全体に広がった。


〝いけそうか、甲児くん?〟


 弓教授が通信で確認した。


「ええ、いけます! コイツの、マジンガーZの操縦はバッチリ憶えましたからね」


 ――爺ちゃんは、こんな時のために、マジンガーZを残してくれだんだ……!
 弓弥之助は止めなかった。この出撃が幾つかの問題を抱えていることも理解していたが、兜十蔵のこころざしを知る彼は、その責めやそしりを甲児と共に受ける覚悟はついている。


「いくぜ、マジンガー!」


 マジンガーZは樹海の木々を跨ぎ、静岡に向け駆け出した。


〝Dr.ヘルの破壊活動を止めるのが我々の目的だ。森林地帯を抜けたら建物や一般の人々に注意するんだ。マジンガーZの自重に耐えられないアスファルト道路も避けるように!〟

「――了解です。わかってますよ」


 数日前の大地震でまだ辺りは倒壊したままだった。巨体のマジンガーZが地上を移動しても、それによる新たな被害が広がる心配はあまりなさそうだ。

マジンガーZERO03-1




「光子力研究所からマジンガーZが静岡方面に向かいました!」


 ――自分が居たら止めていたものを……! 
 首相官邸の会議室でそれを知った美剣美里はこのタイミングで光子力研究所を離れていたことを後悔した。
 光子力研究所とDr.ヘル。どちらが悪いなどということに関係なく、マジンガーZが市街地でDr.ヘルの巨大ロボットと交戦状態になれば光子力研究所自体が問題視され兼ねない。人々に秘匿し、殆ど阿蘇の内輪山だけで戦っていた〝ジーグの戦い〟とは勝手が違った。


「大丈夫です」


 美里の表情を読み取り、瓜生麗が落ち着いた声でいった。
 司馬遷次郎も「そうじゃとも――」と、優しい目で頷いた。


「とはいっても、マジンガーZをヒールにさせないために、掩護も必要ですね」


 瓜生はその場に居た総理と防衛大臣にマジンガーZの行動を政府からの正式な協力要請として取り付け、部下を呼び、マジンガーZが移動の際、通過するであろう自治体にも連絡を徹底させた。
 静岡の騒ぎを収めるために光子力研究所の秘密兵器が向かっている――。
 緊急ニュースのテロップもTVに流れ、僅か数分のうちに日本中にその認識が広がった。
 マジンガーZは一足15メートルのリーチで走り、30分程度で現場に到着した。
 甲児は惨状を目にした。


「よくも…、こんなに……!」


 街中から黒焦げた噴煙が上がっている。市街地のビルは破壊され、鉄道の高架も分断し、街は焼け野原だった。
 初動の防衛ラインで展開した陸自の74式戦車も裏返った亀のように転がされている。 
 人々が避難し、無人となった市街地で異様な姿をした二体の巨大ロボットが破壊の限りを尽くしていた。


「やめるんだァ――ッ!!!」


 その叫びが聞こえたかのように、ガラダK7とダブラスM2は首と視線が連動した動きでギロリと振り向く。獣が獲物を狙う動きだ。 
 機械仕掛けのロボットというより、サバンナで死肉を喰らう獰猛な野生動物の動きだった。
 ――まるで…機械のけものだ……?!


「破壊ロボットめ、マジンガーZが叩き潰してやる!」


 甲児は手前に居る長い二本の首を持った機械獣・ダブラスM2に向けて突進した。
 接近戦の間合いに入った瞬間、ダブラスの首がしゅるしゅると伸び、マジンガーZの左右の腕にギリギリと絡み付いた。


「――なにッ…?!」


 両腕をグイ!と押さえられ、マジンガーZは膝を落とし、両足で踏ん張る。巨大な鎌を付けたもう一体の機械獣・ガラダK7も迫っている。


「……! お爺ちゃんが造ったマジンガーZを…、舐めてもらっちゃ困る……!」


 マジンガーZは腕をくの字に曲げ、相手の長い首を脇に巻き込み、腰ごと捻ってダブラスM2を投げ飛ばす。


「うおおおおお!!!」


 ダダーン!と、ダブラスM2は背中から仰向けに倒れた。


「どうだッ!」


 パワーも気迫も負けてない。
 長い二本の首を引き千切ると、その断面から火花の閃光が飛び散った。続いて近寄って来るガラダK7の前に飛び込み、鉄板の鳩尾みぞおちに向け、二発、三発と鋼の拳のボディーブローを叩き込んだ。


「これでもかーッ!」


 グガーン! グガーン! グガーン!
 マジンガーZのパンチを受けたガラダK7の腹がベコンとへこみひしゃげ始める。距離を取るように下がったガラダK7は頭部の鎌を抜いて構えた。
 マジンガーZの背後では、首を失い倒れたはずのダブラスM2が再び立ち上がろうとしている。動物なら首を失えばそれまでだが、ロボットは違う。行動を実行する部分が生きている限り、動く部分で任務は実行される。
 兜甲児とマジンガーZの初めての戦闘だった。
 志郎は早乙女研究所のロビーからTVに映ったその戦いを見守っていた。


「アニキッ、後ろ、後ろ!」


 ガラダK7が巨大鎌を投げた瞬間、甲児は躱しながらマジンガーZの身を反転させ、ダブラスM2の腹に重いキックを蹴り入れる。
 ダーン!
 見守る志郎の握った拳にも力が入った。


「アニキ…、どうして秘密兵器を使わないんだよ……! ロケットパンチやブレストファイヤー、お爺ちゃんの造ったスーパーロボット・マジンガーZには、いくらでもすごい武器があるじゃないか……!」


 まだ11歳の志郎は、その力を行使する意味を理解していない。
 甲児はずっと考えていた。
 ――神にも悪魔にもなれる力。その力を、気軽に使えば、マジンガーZは悪魔にしかならない……! 俺は、神にも悪魔にもならない! 俺は、神にも悪魔にもなれる力を、街を、平和を、みんなを、シローを守るためだけに使う!

 
 
 
 ▼     ▼      ▼

 1966年――エーゲ海・バードス島。

 二日目の調査が終わった。
 その夜、地下回廊と全島調査に分かれ行動していた調査隊の面々はプレハブの簡易基地で顔を揃え、互いの成果を報告した。
 全島調査については特に成果は得られなかったが、地下回廊の底で、十蔵、シュトロハイム、ヘルシンクが体験した出来事は、予想通り激論の着火剤になった。
 石像のように並んだ何体もの鉄製の巨人像。さらに最深部ではマヤ式ピラミッドのような洞窟内遺跡を発見。その上の篝場かがりばらしき祭壇で案内のデビッドを含む四人はトランス状態におちいり、未知なる存在からのメッセージを受け取った。
 それは〝闇の帝王〟と呼ばれる存在を〝神にも悪魔にも匹敵する最強の力と賛美するものだった。
 デビッド・エルマンは学者たちに決を採った。


「いかがですか? 続けるべきか、やめるべきか、それとも第三の選択肢があるのか――私も自分自身が体験し、困惑しています。皆さんの御意見をお聞かせ下さい」


 二枚目役のプロレスラーのようなデビッドは軽口を叩くこともなく、真剣な表情だった。現場責任者としてのストレスか、少し体調を崩したのか、額にうっすらと汗を浮かべている。
 ヘルシンク博士が迷うのも馬鹿らしいとばかりに吐き捨てた。


「何をいってる。未知のモノを調べ、使えるようにするのが我々科学者の役目――。迷うことはない。調査は続ける。それ以外にはない!」


 兜十蔵がそれに応えた。


「それも科学者の役目というのはわしも認める。じゃがな、今回はどうも違う…」

「なにが違うと――?」とヘルシンク博士が不満そうに尋ねた。

「何者かが仕向けた意図を感じる。それは人々のためでなく、そいつらにとっての都合の良い、未来のための罠……!」


 シュトロハイムが貴族然として意見を口にした。


「かといって、この発見を無かったことにしてしまうのは人類にとって損失とも思えます。罠であっても徹底的に解明し、のもの者たちの裏を掻き、我々が扱えるようにすればよいのでは――?」


 裏を掻けるのか、安全に扱えるか、それを出来るのかこそが論点だった。


「ワトソン博士の御意見は?」


 デビッドが尋ねるとオリバー・ワトソンは首を横に振った。


「この手の話が苦手なんだ。なんか、おっかない呪われた伝説みたいじゃないか。そういうのはね、司祭とか宗教学者に任せた方がいいんじゃないかな…」

「お前はどう思う――?」


 十蔵が剣造に尋ねた。


「今の我々が想像もつかない――時間や空間を越えて仕組まれた時限爆弾のようなモノかも知れません。先ずは慎重に――というのが私の意見です」


 深夜に亘り数時間に及ぶ議論の末、兜十蔵、剣造の親子とオリバー・ワトソンの3名は調査隊から外れることになった。十蔵たちは発掘調査やその他もろもろの報告書を作成して滞在予定の残りを務めバードス島を後にした。
 翌年、ヘルシンクとシュトロハイムを中心に新たな第二次調査隊が組まれたが、兜十蔵と剣造、オリバー・ワトソンが調査隊に参加することはなかった。



 第一次調査隊はすべての日程を終え、調査報告書をABM《アメリカン・ボーリング・マスター》の本社に提出した。デビッド・エルマンはバードス島から戻って以来、からだに不調を感じていた。
 暑くもないのに直ぐに汗ばみ、時折、全身の筋肉が皮膚の下でまだらに震え、痛みが走る。 
 初めは気にするほどのものではなかったが、島から戻って三日目。マンションのバスでシャワーを浴びていたとき、突然、これまでと比べものにならない激痛が全身に走った。


「んんん……! んおおおおお……!!!」


 顏が、胸が、腹が、左右ばらばらに痛み、躰に浮かび上がった正中線を挟んで左右の皮下が別々に脈打った。
 ――なッ、何だ…?! 何が起こってる……!
 余りの痛みにうずくまり、形相が変わった。声も出せず、タイルの床を掻きむしった。


「んを、おおおッ……?!」


 数分間苦悶し、ようやく立ち上がれるほどに何とか痛みが収まった。
 何かが、おかしい……。頬を押さえて姿見で確かめると、髪は青みを帯びた黒に変わり、躰の右半面が女になっていた。
 地球には自分が異星人の子孫であることを知らない、或いは、記憶から消されている〝アガルタ〟も居る。だが、そうであってもそのDNAに作用するシグナルを受け、刺激されれば本来の姿に戻り、使命を思い出す。
 バードス島でメッセージに触れたデビッド・エルマンは〝阿修羅あしゅら〟の姿とその使命を取り戻した。


「ふふふふふ……。ミケーネ帝国の使者、阿修羅男爵――。ただ今より、悠久の運命さだめに従い、この地上を人間どものなげきと血の雨で満たさせましょうぞ。偉大なる〝闇の帝王〟をお迎えするために――!」


 その笑み、その声は、一節ずつ男と女の声が入れ替わり、ある時には同時にも発されていた。
 阿修羅男爵はすべてを思い出し、妖しく笑んだ。

 
 
 
 ▼     ▼      ▼

 幌付きの大型トラック2台で彼らは乗りつけた。
 阿修羅男爵は顔を覆う長いフードをまとっていた。配下の工作員たちは古代ローマの闘技場で戦う闘士のような姿で、鼻先まですっぽり隠す鉄仮面を付けていた。
 兜甲児がマジンガーZで静岡に駆け付け、市街地でガラダK7とダブラスM2と戦っていた裏で――十蔵の別荘に阿修羅男爵とその配下が潜入した。
 誰もが上陸した機械獣に気を取られ、別荘の研究室はがら空きだった。混乱に乗じて踏み入るのには打ってつけだ。


「兜十蔵博士の研究に関するものはすべて回収せよ!」


 工作員たちはくまなく探し回り、落ちていた手書きのメモから本棚の下敷きになっていたノートまで、十蔵が残した研究資料と思われるものすべてを運び出した。
 タイムパイルダーの甲児はステルス機能をオンにして上空から阿修羅たちの行動を視ていた。
 彼らは来た時と同じように幌付きの大型トラックに分乗すると、林道を走る作業トラックに紛れて撤収していった。



「シロー、確認したぞ。本当に、止めなくて良かったのか?」

〝ああ、ここでDr.ヘルに資料が渡らなきゃ、歴史改変で〝始まりの時空〟が移動してしまう。でも、認知は必要だ――。今、アニキが確認したことで量子的認知が行われ、アクティブなタイムラインが確定したって訳さ〟

「まあ、理屈ではそうだろうけど…、見す見す見逃がすのは、どうもしょうに合わねえな」

〝これで、取り敢えず必要なデータは全部揃った。御苦労さん。一回こっちに戻って来て。マリアさんたちと一緒に作戦会議だ。そうそう、カイザーの若いアニキも呼んでるから、感動の御対面だよ、もー〟

「もーじゃねぇよ。ナニ話しゃいいんだ? 自分と…?」


 事態は切迫している。兄弟で馬鹿な話が出来るのが唯一の救いだった。

 
 
 
 ▼     ▼      ▼

 21歳の甲児と71歳の甲児は互いに右手を差し出し、声を揃えて「よろしくな――」と握手した。
 フォトン・アルファーのラボに、志郎、デュルゼル、マリア、マジンカイザーの甲児とタイムパイルダーの甲児が揃った。 
 志郎は二人の甲児を右と左に見て、楽しくてしょうがない様子だった。


「笑えるよ。アニキが二人――。昔のSF小説みたいだ。いや、待てよ。このパターンだと、どのパターン? 時間軸は同じだけど50年前から来た若いアニキと、その経験をしなくて50年歳を取ったアニキ。じゃー、50年前から来た若いアニキがこっちのアニキと同じ歳になったら、また、若いアニキが50前から来るのか……? いや、時間軸の違う事件も絡んでるからな……何度マリアさんに説明されても、よく、わかんないな…」 


 マリア=グレイスは微笑んだ。


「誰かが元居たオリジナルのタイムラインから転位し、変更があった瞬間、それに応じたタイムラインのパラレルが増えるだけです。変更のなかった元のタイムラインもそのままパラレル世界の一つとして残り、そのタイムラインも進んでいきます」

「ほらな、ややこしくなってきたろ。だから俺はマルチバースが嫌いなんだ」


 タイムパイルダーの甲児がそう言うと、マジンカイザーの甲児が「――全くだ」っと頷いた。


わたくしどもがサポート致しますので、どうぞ、御安心を――」


 頼りげのあるデュルゼルがそういうと、不思議と大丈夫な気がした。


「現状を整理しよう」


 志郎はうって変わり真剣な表情になった。


「ZEROは時空を跨いで跳躍を重ね、宇宙の破壊を続けている。今、我々が基準としている時間軸に換算すると、ここの時空の50年前、つまり、若いアニキの時間だ――」

「ああ、俺のタイムラインだな――」

「その現時点で、凡そ5万の宇宙がZEROに消されている――」

「ご、5万…? もう、そんなにか……!?」

「ええ、50年前のここ、フォトン・アルファーで炎ジュンさんが集め続けたデータもすべて残っています。照合しましたが誤差はありません。正確なデータです」


 マリアが応えると、「さすがジュンさんだ」と、志郎がいい、マジンカイザーの甲児がマリアに質問した。


「消された世界はどうなるんだ? 俺たちがZEROに勝てば、元に戻るのか?」


 マリアは首を横に振った。


「いいえ、ZEROによって一度消滅した宇宙は元には戻りません」

「……そうか」と、若い甲児は言葉を失った。


 代わりに、歳を取ったタイムパイルダーの甲児が口を開いた。


「マルチバースで時空の異なる世界が無限にあるといっても、その一つ一つの世界に住む人々にとっては、そこが唯一の世界だ――。ZEROは、その世界を一つずつ確実に潰している。俺たちはZEROを止め、これ以上宇宙を潰させないようにする。そこまでしか出来ない。残念だが、失ったものを回復させることは出来ないんだ。奴がすべてのマルチバースを消すのに何年掛かるのかわからない。消す順番もわからない。俺たちの居るこの世界に現れるのも百年先か次の瞬間か、いつ現れてもおかしくない。そういう状況だ。ベガ星連合とはまた違ったイレギュラーな災いだ」


 志郎がその説明を引き継いだ。


「ZEROは一つの宇宙を消滅させると転位し、別のマルチバースに移動して、転位した先の宇宙を消滅させる。その行動を繰り返してる。一見、ランダムで法則性はなさそうだが、この5万のケースのうち、一件だけ違う行動をした記録がある――」


 志郎は立体ディスプレイに〝あみだくじ〟のような時空MAPを表示し、確定した時空エントロピーのラインを下部から走らせた。そのラインがZEROの進行であり、ラインが到達して消える宇宙をフローチャートのように表示した。不意にラインが止まった。


「この時空だ――。記録では、邪魔大王国と恐竜帝国《爬虫人類》、百鬼帝国などが人類の敵として出現した時間軸の2011年――」


 志郎は若い甲児を見て釘を刺すようにいった。


「俺たちの世界と似てるけど、また別の時空だよ。わかんなくても、ここは一回飲み込んでよ」

「ああ」

「その時空の今はゲッタードラゴンが地球を守っていたんだ。そこに突然、ZEROが現れた。他のすべてのケースでは惑星にも下りず、大気圏外からフォトンエネルギーを放出させ宇宙を焼き尽くして終わりなのに、この時だけゲッタードラゴンに接触しただけでその世界を破壊せず、別の時空に跳躍していった」


 若い甲児は記憶を辿った。


「ゲッタードラゴンか……、早乙女研究所のゲッターロボの後継機だな。確かに、俺の知ってる歴史でも早乙女研究所はそこそこ話題にはなっていたが……」


 マリアが口を開いた。


「この行動が、ZEROのロジックを知るヒントになるかも知れません。ZEROには、ただ、あらゆる時空の宇宙を消滅させるという目的だけでなく、自身の性能を確かめたいという欲求があるように思えます。だから、ゲッタードラゴンに接触し、それを確かめ、その時空を離れた」

「データを取っているのだろうか?」


 タイムパイルダーの甲児が呟いた。


「それに、誰の意思だろう? パイロットが乗っているのか?それとも電子頭脳?」


 マジンカイザーの甲児には解らないことばかりだった。


「生体反応は検出されておりませんので、可能性としては人工頭脳かと」


 デュルゼルが応えた。
 歳を取った甲児が続いた。


「阿修羅男爵がお爺ちゃんの研究室から持ち去った研究資料の中にマジンガーZのブラックボックスをサポートするAI《アーティフィシャル・インテリジェンス》があった」

「ああ――〝ミネルバ・プログラム〟だ」


 それなら若い甲児も体験した過去だった。
 志郎が昔の出来事を思い出すようにいった。


「プログラム自体は未完成で、マジンガーZのブラックボックスにリンクし、パイロットを補助するよう設計されていた。つまり、爺ちゃんはまだDOSすら無い時代に、後付けで、学習機能を持ったファジーで賢いAIを付ける構想を持ってたんだ」


 マリア=グレイスが口を開いた。


「技術的特異点《シンギュラリティ》。今は言葉の意味が変わってしまいましたが、これが本来のこの言葉の意味です。頭の中では構想が出来上がっていても、現実にするための文明そのものの成熟度と技術が追い着いていない状態のことをいいます」


 志郎は続けた。


「あの時代じゃ、最新のコンピューターといってもデータ照合もテープが回転するやつで容量なんて無いに等しい。入力もパンチ式。アウトプットなんてレシートみたいなロールペーパーにドッドでカタカナが打ってあるだけだからね。デジタルデータで持ち出すなんて無理だ。設計図なら写真に撮るのが手っ取り早いけど、結局のところ、プログラムの解析は残された物理的資料を読み解くしかない。そういう意味じゃ、Dr.ヘルとシュトロハイム博士は間違いなく天才さ。あの資料から、お爺ちゃんが意図したものを読み解き、再現しちまったんだからな……!」


 その後、シュトロハイム・フォン・ハインリッヒが起こした〝ローレライ〟の事件は、志郎にとっても悲しい思い出だった。禁忌きんきに左右されない彼らの科学技術の進歩は目まぐるしかった。
 人間と見紛みまごう少女のアンドロイドを起動スイッチにしたドナウα1。それに、美しい女性の姿をした殺人アンドロイド軍団。どれも、奪われた十蔵の〝ミネルバ・プログラム〟が大本だった。或いはZEROもその流れにあるのかも知れない――と。
 マリアとデュルゼルが神妙な表情をしていた。


「マリアさん、デュルゼルさん、もういいって」


 志郎がいうと事情のわからないマジンカイザーの甲児は理由を求めるように歳のいった甲児を見た。
 タイムパイルダーの甲児が応えた。


「お爺ちゃんは例外だが、大抵は、どんなに優秀な科学者でも資金面や政治面のバックアップが無きゃ、金の掛かる大きな研究は続けられない」

「ああ――まあ、そうだな…」


 科学者の道を目指し始めていた若い甲児もそれは身に染みていた。


「マリアさんとデュルゼルさんはベガ星連合から地球を守るために科学者たちの支援団体を過去の地球に設立した。未来の地球の防衛力を高めるために。それが〝グレイス財団〟だ。でも、組織になれば〝闇〟も生まれる――。幾つかのマルチバースでは変化が起こり、〝グレイス財団〟は武器商人たちの闇の組織に変わった。世界によってその度合いは様々みたいだが、俺たちのタイムラインでは〝非公式科学者協会〟と名を変え、Dr.ヘルやシュトロハイム博士をバックアップしていた。バードス島の調査に関わっていたABM《アメリカン・ボーリング・マスター》もその傘下のフロント会社だ」

「なるほど、繋がって来たな……」


 地球を守るためのマリアたちの行動が科学技術の進歩だけでなく、危険な組織と科学者たちを育ててしまった。そして、そのタイミングでバードス島を経由し、〝闇の帝王〟を信奉する〝ミケーネ帝国〟がDr.ヘルをそそのかした。その結果が今の状況のようだ。


「アニキたちのお陰で時空を跨ぐエントロピーもかなりハッキリした。後は、ZEROと戦う方法だ――」

「――ちなみにですが」


 デュルゼルがづらそうに髭を掻いた。


「え?」

「ZEROが放つフォトンビームは地球の天文単位でいえば、凡そ、1パーセクの範囲に影響を与えます」


 そのことは初めて聞いたのか、志郎は顎を外さんばかりにあんぐりと開け固まった。


「1パーセクって……、一発撃たれたら、太陽系ごと吹き飛ぶってことだろ?! そんなの、戦いにもならない。打つ手無しだよー」


 志郎が動揺するのも無理はない。ZEROは破壊力だけでなく、変異したそのボディーの強度も〝グレン合金〟でさえ寄せ付けない数値であることをマリアが伝えた。


「ZEROのボディーの元は〝超合金Z〟ですが、アストラル誘導体がコーティングされ変異しているようです。当然ながら、動力も、もう光子力エネルギーではありません。別次元のものに変わっているようです」

「何だよ、それ?」


 さっぱり解らないが、絶望感だけは確実に増えいてた。志郎は11歳の頃に退化しそうだった。


「物理的システムで形成されている世界は宇宙を構成している要素の20%程度に過ぎません。残り80%は物質以外のシステムで成り立っています。ZEROはその80%の世界と繋がっています。言葉にするのは難しいですが、地球の言葉で探すなら、〝地獄と繋がっているエネルギー〟。そんな感じかも知れません――」


 それを聞き、しばらく全員が押し黙った。
 二人の甲児は同じように腕を組み、険しい表情で考えた。
 そして、示し合わせた訳でもないのに、甲児たちは交互に質問を始めた。


「ZEROと名付けたのはDr.ヘルだよな?」

「ああ、それは間違いない。無比、無双、或いは、すべてを無に帰す力を持つ存在――の発想のようだ……」

「なら、動かしているのは誰だ? パイロットが居るのか、それとも完全にAIなのか? プログラムだとすれば、組んだのは死んだシュトロハイム博士か、それともDr.ヘルか?」

「どちらにせよ、Dr.ヘルは乗ってないな――。賭けてもいい。遺跡で手に入れた未知の力で自分が時空を跳躍するような危険を冒すより、科学者なら、少しでも早く回収したデータを解析したいという衝動が強いはず――!」

「となると――性格的に他の者を乗せる線も消える」

「俺も同じ意見だ。マジンガーZが海底要塞サルードに捕まり、あの時、一時的に奪われたとき、今から考えるとあの時期、シュトロハイム博士はローレライと暮らすことを望み、Dr.ヘルと距離を置いていた頃だ。阿修羅男爵が無理矢理あの二人を繋いだが、恐らく、シュトロハイム博士はZEROのプログラムにはたずさわってない。Dr.ヘルだけの仕事だ――」

「だとすれば、Dr.ヘルの居る場所だけは、ZEROも手が出せない――!」

「Dr.ヘルが消滅しちまったら、データを取る意味がなくなるからな……!」

「つまり、ZEROをその時空に引き摺り出せば――勝機はある!」


 デュルゼルは二人の甲児の遣り取りに感動を覚えた。如何なる歴戦の戦士でも、どうしようもない敗けしか見えない時がある。戦いは、その逆境の中で光明を見出した者だけが勝ち、生き残る。老剣士は兜甲児のこれまでの道のりを思い、心の中で敬意を表した。


「こっちの戦力は?」


 マジンカイザーの甲児がマリアに尋ねた。


「今、地球の周辺にいる守護神で時空転位が可能なのは50年前の地上に居るグレンダイザーと貴方のマジンカイザーだけです。タイムパイルダーも転位は出来ますが、ボディーがありません」


 タイムパイルダーの甲児がそれに続いた。


「時空転位こそ出来ないが、50年前の地上には対ベガ星連合用に組織したスーパーロボットチームがある。鉄也さんのグレートマジンガーなら、少し手を加えれば宇宙でも戦える。時空が違う世界には〝ジーグ〟や〝ゲッター〟も居るが、いくら惑星フリードの科学力でも、彼らを無理矢理こちらに転位させるのはな?」

「ええ、技術的にもそうですが、今、〝ジーグ〟は邪魔大王国から人々を守るために結界を形成しています。それを解くことは出来ません。〝ゲッター〟は既にZEROと接触しています。ZEROに動きを把握されているでしょう」

「どの世界も大変なんだー。でも、せめてもう少し味方がいれば…。なんか、いい手はないのかなァ…」


 志郎の嘆きはもっともだった。
 ――この宇宙に生きるすべての時空の叡智を結集しなければ、ZEROには勝てない……!
 マリアは覚悟をもう一段深く置き、マルチバースの中で出来ることを潜考せんこうした。


「可能性の欠片かけらが一つ――」


 秘策に辿り着いたのか、マリア=グレイスは一点を見詰めていた。


「50年前の地上に居るメンバーと綿密な打ち合わせをする必要がありますが、それが叶えば、或いは――」

「どうするの?」と、志郎が尋ねた。

「スカルムーンに現れるベガ星連合の地球攻撃部隊を利用します」


 マジンカイザーの甲児がニヤリと笑んだ。


「うまくすればベガ星連合もZEROも、一気にここで決着をつけられるって寸法か…のったぜ!」


 どちらにせよ、敵は強敵だ――。やるかやられるかなら、徹底的にやる以外ない! 
 その場の全員が、硬く心にその思いを刻み込んだ。
 マリアの作戦を受けた仲間たちが全時空の地球で行動を開始した。

マジンガーZERO03-2

 
 
 
 ▼     ▼      ▼

 2043年――東日本復興都市区・WSO本部。

 ビルが立ち並ぶ摩天楼まてんろう――。この世界は戦乱の果てに生き残った人々の箱庭だった。
 都市のほぼ中央に一際高いビルが聳えている。この世界を守るWSO《広域監視機構》の本部ビルだ。
 その31階にある情報第二課の理事・瓜生うりゅうれいに呼ばれ、美剣みつるぎ千草ちぐさは理事室を訪れ、軍制服の直立不動で命令を待っていた。フランスにあるWSOの士官学校を出て二年。入庁していきなり准尉から始まり、たった二年で少尉。出身校であるカンヌリセの肩書とその威光だけで彼女が昇進したのでないのは瓜生も知っている。


「捜してもらいたい人物がいる」

「はい」

「ウィルヘルムの依頼でウッタラカンドに行ってちゃんと仕事は片付けたらしいが、何を思ったのか、そのままヒマラヤに登ってしまったらしい。行方がわからない」

「――ヒマラヤですか」

「ああ、変異体ビーストが跋扈ばっこする極寒のヒマラヤだ――。どうかしてるだろ? 彼は外部エージェントだからね、仕事さえキチンとしてくれれば報告の義務もない。こちらとしては別に構わないんだが、彼に依頼をしたいという者が私に泣きついてきてね。君なら、探せるだろ――?」


 瓜生麗はそういって一枚の写真を見せた。
 どこかの荒野の関所らしい。ゲートの監視カメラの映像から落とした写真のようだ。
 確かに、見覚えのある顔だ。そして、それ以上に――匂いを憶えている。
 千草の大脳辺縁系が〝野良犬の匂い〟を再現した。


「この日本刀を持っていってくれ」


 瓜生はデスクの上に寝かせていた大布で巻いた長物を千草に渡した。通常の刀より長く、太刀のようだった。布ごしだが、柄尻つかじりに丸みを帯びた彫刻の感触がある。


「依頼人から彼への報酬の前渡しだそうだ。時間があまり無いらしい」

「すぐに向かいます」


 美剣千草は一時間で準備を終えるとWSOの中型輸送機《グレンキャリー》で飛び立った。

第3回 髑髏月スカルムーン 完

【マジンガーZERO INFINITISM】

プロローグ 1976

第1回 亡者たちの宴

第2回 終焉しゅうえんの魔神

第3回 髑髏月スカルムーン  ←いまココ

第4回 多元宇宙マルチバース作戦ストラテジー new


 これまでの「INFINITISM」シリーズ 

【グレンダイザーINFINITISM】

PROLOGUE  漂泊ひょうはくの王子

第1回 守護神

第2回 方舟

第3回 アガルタ

第4回 友星

【マジンカイザーINFINITISM】

第1回 預言者

第2回 時の女神

第3回 時空超越

第4回 魔神皇帝

【ゲッタードラゴンINFINITISM】

PROLOGUE

第1回 ドラゴンへの道

第2回 百鬼と赤鬼

第3回 魔王鬼 再び

第4回 鬼の起源

【鋼鉄ジークINFINITISM】

PROLOGUE 1975

第1回 鋼の心

第2回 あめ逆鉾さかほこ

第3回 不死団ノスフェラトゥドゥンケル

第4回 魂の檻

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©ダイナミック企画・東映アニメーション ⒸGo Nagai・Yoshiaki Tabata・Yuuki Yogo/Dynamic Planning

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