【マジンカイザーINFINITISM】第2回 時の女神
2022.08.13マジンカイザーINFINITISM 月刊ホビージャパン2019年12月号(10月25日発売)
ダイナミック企画×BANDAI SPIRITS ホビー事業部×月刊ホビージャパンで贈る新たなるフォトストーリー『INFINITISM』。ついにグレンダイザーとグレートマジンガーが南極海上空で突如姿を現した“アガルタ”と戦闘状態に入った。その数およそ100体。一方、兜甲児はUFOと遭遇し……。怒涛の展開が続く第2回。果たして魔神皇帝は現れるのか!?
原作・企画
ダイナミック企画
ストーリー
早川 正
メカニックデザイン
柳瀬敬之
協力
BANDAI SPIRITS ホビー事業部
ホビージャパン
第2回
時の女神
甲児は不意を突かれた思いがした。
マジンガーZのパイロットを退き、科学者としての道を歩み始め、祖父や父から受け継いだ技術を宇宙開発に役立てようと暮らして来た。
だが、心の何処かでZやグレートを越えるスーパーロボットを造りたいという思いが全くなかったわけではない。
その欲求に素直に向き合えば、Dr.ヘルと同じように科学者の闇に囚われる危険もあった。より強い力を求める欲望は悪魔の誘惑にも似ている。兜甲児に受け継がれた才能と技術は〝恐怖の遺産〟でもある。
「南極海に出現した〝アガルタ〟よりも怖いのは、その先に居る〝ベガ星連合〟です」
姫は何もかも知っているようだった。
――デュークがいっていた奴らか……!
「それに備えるために、貴殿を可能性の中に存在する未来にお連れする!」
「未来……?」
「その未来で――貴方が完成させるのです! 第三の地球の守護神を――!」
姫が白い聖殿の中央に向け「送ってください」というと、部屋が女性の声で「はい」と応えた。
その瞬間、三人の体から光が広がった。
甲児と姫と老剣士が送られた先は、何処か見覚えのある研究施設の中だった。部分的には光子力研究所やグレートマジンガーの基地だった科学要塞研究所の面影も感じられた。レールクレーンの配置は伊豆にあった祖父のロボット工場にも似ている。
だが、こちらの設備は、もっと、ずっと進んでいた。
「ここは……?」
「静止衛星フォトン・アルファーの工場区です」
「フォトン・アルファーの……」
「――但し、貴方が居た時代から、五十年ほど先の未来です」
「……簡単に言ってくれるよな」
だだっ広い工場区の中、見える人影は独りだけだった。コンソールパネルを操作する白衣を着た老人の姿があった。
「あれは……?」
気配を感じたのか、振り向いた老人が笑みを見せ、こちらに歩いて来た。
白髪混じりの髭面だったが、その顔に見覚えがある。
「……シロー、なのか?!」
老人は悪戯小僧の笑みを見せた。
「驚いたな…。ホントーに若い兄貴が現れた」
歳を取った志郎は甲児の顔を穴が開くほどまじまじと見てから姫にウインクした。
姫は軽く頷き、小さく微笑んだ。
「おい、待てよ。ここの俺は? ここにも俺が居るはずだろ……?」
「ちょっと――今は、居ないんだ」
志郎は少し困った顔をした。
「ちょっとって……。俺を過去から呼び付けたって事は……。ここの俺はもう――死んでたり……?」
「さすが兄貴。こういうことにかけては飲み込みが早いんだから……」
「お、おい…、やっぱり、そうなのか? 死んだのか? 五十年後には俺はもう、居ないのか……?」
動揺する甲児をよそに、老人の志郎は面白そうに笑んだ。
「安心しなよ。こっちの兄貴は、こっちはこっちで別の要件で行ったり来たり、忙しくしてるんだ」
「そっ……そうなのか……?」
「何たって、このフォトン・アルファーはベガ星連合の時空探索に掛からない地球宙域にある唯一の防衛施設だからね。やることは山ほどある」
「そうか、生きてたか~」
「まあ、喜んでばかりもいられないという状況には、変わりはないんだけどね」
甲児は志郎の表情が曇ったのを見て、事態の深刻さを読み取った。
「五十年後の地球か……どうなってるんだ? そんなに旗色が悪いのか?」
「ああ、兄貴が居た時代に、地球の地の底に眠っていた〝アガルタ〟が一斉に眠りから覚めた。南極海に現れた奴らだけじゃない。地球のあらゆる場所からだ。それだけじゃない、月にも新たにベガ星連合の部隊が派遣されて来て、前線基地《スカルムーン》を建設した。腹を据えて地球を喰らい尽くすつもりだ。お陰で人類の人口は全盛期の五分の一になってしまったよ」
「そんなに……!?」
そんな未来は――誰も想像していなかった。
「今ここで必要なのは、科学者としても、パイロットとしても最良のバランスで存在する兄貴なんだ」
志郎は姫を視線で示した。
「彼女が、マリア=グレイス博士が、あらゆる時空からベガ星連合に立ち向かえる要素を絞り出し、選ばれたのが、兄貴だったってわけさ――」
「……マリア=グレイス?」
その名を聞き、甲児は時空を股に掛けた召喚劇の絡繰りを理解した。
「そうだよ。彼女がグレイス博士であり、デューク・フリードの妹のマリアさんだ。マリアさんはデュークとは違い、一足早く過去の地球に到着し、地球が、いや、地球を含む天の川銀河全体がベガ星連合の魔手から遁れるための地盤を固めていたというわけさ」
マリアは改めて甲児に向き直った。
「比較的干渉の少ない時空から、あらゆる組み合わせを検討した結果、貴方の時空をベースに準備することにしました。ここは貴方にとっては五十年後の未来ですが、ここで新しい守護神を生み出し、五十年前に戻り、ベガ星連合を迎え討ちます」
グレイス博士がマリアだとすれば、隣に居る老剣士はグレイス財団のデュルゼル公だということになる。
「……そういうことか。そうはいっても、新しいZ並みの、いや、それ以上のスーパーロボットを造るには幾つものハードルがある。現実問題として、ジャパニュウム鉱石だって足りやしない」
「そのことであれば、ご安心を――」と、デュルゼルが自慢げに髭を摩った。
「ジャパニュウム鉱石は既に必要分確保しております」
「何処から――そんな数を……?」
その問いには志郎が答えた。
「光子力と超合金の素であるジャパニュウム鉱石は特定の隕石が地球に落下して、さらに三千メートル級の活火山の地下で、最低でも四千年以上の圧縮放置がなされないと出来上がらない」
「ああ、だから、貴重なんだ。なんたって、この条件に当て嵌まる場所が富士山麓以外にないんだからな――」
「ところが、あったんだよね。同じ条件の場所が――まだ日本に!」
志郎は天井を指差した。フォトン・アルファーの天井。つまり、静止衛星の人工重力の逆は北海道であり、GCR《摩周湖国際宇宙観測センター》がある摩周湖だった。
「摩周湖周辺は太古から人の手が入っていない上、カルデラ地形からもわかるように、実は有数の火山地帯。しかも、地球物理学的規模のスパンで見れば、摩周湖の辺りには、元々三千メートル級の山麓が聳えていたんだ」
「まさか……それで北海道の摩周湖にGCR《摩周湖国際宇宙観測センター》を――?」
マリア=グレイスは甲児を見て頷いた。
志郎も万感の表情で甲児を見ていた。
「楽しみだよ。兄貴がどんなスーパーロボットを造り上げるのか……」
宇宙開発用の平和利用ではなく、武装を備えたスーパーロボットを造る。甲児にとってベガ星連合やアガルタが現れなければ決して選ばない選択肢だった。
▼ ▼ ▼
人型、魚類型、鳥類型……。空、海面、海中を雑多極まる巨神獣の群れが迫った。
剣鉄也は否が応でも暗黒大将軍が率いた七つの軍団を思い出さずにはいられなかった。
〝器〟に〝魂〟を入れる、個体としての意思を持った生体兵器システム。ベガ星連合が遠い宇宙の果てで〝アガルタ計画〟を実行したことで、鉄也は図らずもミケーネ帝国で〝闇の帝王〟が用いた技術のルーツに遭遇した。
しかし、彼がその因縁を理解するには、今少し情報が不足している。
「ブレスト、バァァァーン!!!」
グレートマジンガーの胸部放熱板から高圧熱線が迸る。鉄也はグレートを宙空にホバリングさせ、機体ごと傾けて放射角度を移動させた。高圧熱線は敵の群れを縦横に撫でたが、斃せたのは三体のみだった。
――チッ、高熱への耐性も中々のものだ……!! たくッ、骨が折れそうだぜッ!
ダブルハーケンを構えたグレンダイザーは波を裂き、海上を滑るように移動した。
突然、海面から巨大な水柱が上がり、ウツボ型の巨神獣・海竜のリバイアが眼前に立ち塞がる。リバイアは頭部から伸びた触覚の先にある人の顔で毒付いた。
「こんなロボットが、この惑星に居たとは報告を受けてないが――。我らの邪魔をするのであれば、容赦はせん!!」
――やはり、間違いない……。デネブ星の巨神獣だ……!
間近で確かめたデュークは、デネブ星の皇太子・ティラ・デルの身に起きたであろう災いを思い、この戦いの落としどころを模索した。
――だが、敵として立ちはだかるのなら、今のデュークは戦うしかない。牙口を開けて迫り来る海竜に背を向けることなど出来はしない。
「んくッ……!!」
ダブルハーケンが一閃し、海竜のリバイアの長い胴体を真っ二つに斬り裂いた。心がひりひりした。事情に如何なく、敵を斃さねばならないのが戦場だった。
グレンダイザーとグレートマジンガーのコクピットにフォトン・アルファーからの通信が入った。
〝――デューク、宜しくね。私はフォトン・アルファーの炎ジュン。オペレーションナビはこちらで一元化するわ。早速だけど鉄也、国連軍の現場担当者が話をしたいって――〟
――冗談だろ……。
地球防衛構想の準備期間、随分、議論を交わしたが、鉄也は未知の敵に対するフロント連中の楽観視には呆れ果てていた。眼前の敵に希望的観測は通じない。
「もう、戦闘は始まってるんだ――!」
鳥人型の巨神獣・ファギャルンにバックスピンキックを浴びせながら鉄也は応えた。
「つまらん押し問答をしてる時間はないって伝えといてくれッ!」
〝――言ったわよ。当然でしょ……〟
「ん…?」
ジュンがその手の人間を自分以上に嫌っていたのを思い出した。
その間にも、グレートマジンガーとグレンダイザーは大挙して押し寄せる巨神獣を何体も薙ぎ倒した。
〝――それが、いつもの感じじゃなくて、窓際の、例の準備室の特殊戦略室の仕切りらしいの。まあ、だったら聞いてあげてもいいかなって……〟
ジュンは鉄也の応答を待たず、特殊戦略室とチャンネルを繋げた。
「え、おい…?」
〝――国連軍特殊戦略室の山咲です〟
オフィス用の軍制服を着た黒髪の女性だった。話すつもりはなかったが、ジュンが繋げてしまった以上、聞くしかない。
「グレートの剣だ。前線用のオープンチャンネルだ。グレンダイザーのデュークも聴いてる。要件をいってくれ――?」
〝――はい。オーストラリア及びニュージーランド海軍のフリゲートが後方の攻撃可能エリアに待機しています。〟
――戦艦が俺たちを掩護するだと?
「通常兵器じゃ、傷も付けられないぞ。武装は――?」
〝――ESSMがあります〟
「発展型シースパローか……」
〝――こちらで改良したミサイルを積んでいます。先程のグレートの戦闘を映像解析し、エリア攻撃でも敵の結晶体に有効であると判断しました――〟
山咲の表情には傲りも不安もなかった。
「そんなもの――いつ、開発したんだ?」
〝――巨大戦闘ロボットの脅威は今に始まったことではありません。グレイス財団を通じて民間研究所の協力を得ている特殊戦略室には、ある程度の準備があります。但し、本当に効果が出るかどうかは、やってみなければわかりませんが――〟
この相手は信用出来ると思った。
「いいだろう、座標を送る――! 俺とデュークで誘き出す!」
コクピットの小型スクリーンから山咲の姿が消えると、鉄也はデュークとジュンに作戦を伝えた。
「デューク、敵を引き連れて座標の位置に集めたら、タイミングを見て急速離脱だ! フリゲートからのミサイルで一掃する。ジュン、特殊戦略室と連携する。各艦の発射準備が整い次第、カウンダウンを始めてくれ!」
〝――了解!〟
ESSMの最大射程は50km。特殊ミサイルの効果範囲は凡そ半径50m。それを十隻のフリゲートから3発ずつ同時に発射し、30機分の効果面でエリア攻撃を仕掛けるミッションだ。上手くすれば、かなりの数の巨神獣にダメージを与えることが出来る。
二手に分かれたグレンダイザーとグレートマジンガーは、それぞれに追っ手の群れを引き連れ、座標の中心に向かった。
「さあ、追って来いッ――!」
炎ジュンはフォトン・アルファーの主任管制席で複数のモニターを睨みながらタイミングを待っていた。
「発射準備完了! カウントダウンを始めるわよ!」
〝――よっし、デューク、引き連れた互いの群れをポイント上で交差させるぞ――!〟
〝――承知した!〟
イナゴの大群のように蠢く二つの巨神獣の群れが、グレートとグレンダイザーを追って折り重なった。
「特殊ミサイルの飛行速度はマッハ2.5以上、グレンダイザーはわからないけど、いくらグレートでも、発射してからじゃ、逃げられないわよ!」
〝――こっちだって、まだ、死んでやるつもりはない……!〟
座標の上空に着いた二体のスーパーロボットは一騎当千ならぬ二騎当千の構えで互いに背を合わせ、自分たちを囲むように群がる敵を迎え撃った。
「ハンドビィィィーム!!!」
「ネーブルッ、クラスタァァァー!!!」
二人は激しい肉弾戦の間にも、広範囲にダメージを与える攻撃を手数に混ぜた。
鉄也は目視とレーダーで巨神獣たちの動きを確認した。
――あと20秒、奴らがこのまま集まれば、すべてエリアに入る……!
デュークの読みも同じだった。
「剣殿、いい頃合いのようだ――!」
「よっし、ジュン――カウントダウン10秒の後、ミサイル発射だ!」
〝――了解! カウントダウンを開始するわよ――! 9、8、7、6、5――〟
目の前の巨神獣をそれぞれ跳ね飛ばすと、グレートマジンガーとグレンダイザーは一気に上昇した。
「4、3、2、1、ミサイル発射――!!」
次々と発射された30機の弾道が海面と平行に伸びる幾筋もの糸となった。ミサイルは各艦のイルミネーター《火器管制レーダー》で制御され、低空であやとりのように軌跡を絡めながら座標地点を目指した。
「着火するわよ!」
爆破ポイントに到達し、プログラムが作動した。
シュピッ――!!
エリア一面に連鎖爆発が起こった。
至る所で強烈な閃光が迸る。直径数百メートルにも亘ろうかという海面がその数秒間、連続する衝撃波で激しくのたうった。
巨神獣たちは、まるで散弾銃を浴びた水風船のようにボロボロに砕け、海の藻屑となり沈んでいった。
鉄也は眉を曇らせてジュンに尋ねた。
「敵の状況は――?」
〝――少なくとも、海上には、もういないようね。深海に逃げた奴が居るかも知れないけど、広域レーダーには反応ないわ――〟
「それにしても、強力過ぎだろ――。使い方を誤れば、敵の戦闘ロボット以上の脅威にも成り兼ねない。俺たちが戦場で巻き込まれないとも限らないしな……!」
グレートに乗る自分が味方の新兵器を恐れることになろうとは思ってもなかった。
〝とにかく、鉄也は光子力研究所に戻って――しばらくは地上待機ね。研究所には特殊戦略室の犬神大佐が来ているらしいから、その辺り、直接訊けば何かわかるかもね。デュークはGCR《摩周湖国際宇宙観測センター》で部屋を用意するそうだから、そっちに――じゃっ、二人とも、お疲れさま――〟
「――了解だ」
「承知した――」
アガルタを撃退したものの、鉄也にはまた新しい危惧が浮かんだ。
――特殊戦略室か……。本当に、信じるに足る、背中を任せられる味方なのか……!
デューク・フリードはアガルタの指揮官であろうティラ・デルのことを考えていた。
――百体どころじゃない。彼が任務として動き出したとすれば、この星を何度も侵略するほどの兵力を蓄えているはずだ……! 今回はこれで済んだが、地上での戦いが続くようなら地球に未来はない――。どう、守ればいい……?!
グレンダイザーがリミッターを外せば容易くアガルタを葬ることが出来るだろう。
だが、惑星の地上でそのパワーを使用すれば地球にも深刻な被害が及んだ。先ほどのミサイルの比ではない。
ベガ星連合の属国となり、敵だった恐星大王に仕えることになった民たちを大勢見て来た。デネブ星の皇太子ティラ・デルは聡明な男だ。それだけに、デネブ星の復活を成し遂げるためならば悪魔の仮面を被り、地球をその生贄として徹底的に甚振り、ベガ星連合で信頼を得ようとするのは必定だった。
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