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【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】
8U-英雄- 編 Episode 27 ブギーマンの夜 後編

2022.02.11

LTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE 月刊ホビージャパン2022年3月号(1月25日発売)

【ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSE】8U-英雄- 編 Episode 27 ブギーマンの夜 後編

 

 ULTRAMAN SUIT ANOTHER UNIVERSEフォトストーリー、8U編第4回。
 子供を攫う怪物「ブギーマン」に翻弄されつつもこれを撃破した次郎たち。しかし事件はまだ終わっていなかった。ブギーマンから子供たちを守るため、次郎とジャックは復讐に燃える戦士・東光太郎の協力を求める。

ストーリー/長谷川圭一
設定協力/谷崎あきら
ZERO SUIT/製作:只野☆慶

8U-英雄-編
Episode 27 ブギーマンの夜 後編

 真夜中の子供部屋、伝説の怪物ブギーマンがクローゼットから現れ、子供たちを連れ去る。そんな奇怪な事件がカリフォルニア州で四件確認され、調査に向かった薩摩次郎は特異能力者(デュナミスト)であるレネ・アンダーソンと協力し五件目の事件を未然に防いだ。
「ありがとう。ブギーマンを退治してくれて」
 昨夜までブギーマンに怯えていた少女ジェシカは取り戻した可愛らしい笑顔で、次郎の頬にお礼のキスをした。
「何赤くなってるのよ。昨日の夜は真っ青な顔してたくせに」
 思わず照れる次郎にレネが呆れ顔で嫌味を言う。確かに昨夜の次郎はブギーマンが見せた恐ろしい幻覚にパニック状態に陥った。その不様な姿をレネはしっかり透視していたに違いない。
「面目ない。昔からお化けのたぐいは大の苦手なんだ」
 正直に自分の弱点を次郎が告白すると、
「ノープロブレム。別に恥じることないよ。誰にだって苦手なものはあるし。大切なのはそれとちゃんと向き合い、上手くつきあうことだよ」
 恐らくレネは自分に与えられた特別な力のことを言ってるのだろうと次郎が思った時、
「その通りだ。別に恥じることはない」
 突如、背後で聞き覚えのある声がした。
「ジロー君がお化け嫌いだったお陰で、ようやく謎が解けた」
 次郎が振り向くと、いつも通り人を食ったような笑みを浮かべる巨躯の男がそこに立っていた。
「ジャックさん! どうしてここに!?」
「聞いてなかったのか? ジロー君に感謝の言葉を届けに来たんだよ。それと」
 ジャックは次郎の傍らにジッと佇むレネを見つめ、
「そろそろ彼女にも会ってみたいと思ったのさ。初めまして、レネ・アンダーソン」
 フレンドリーに右手を差し出すジャックを見つめ返し、
「初めまして。ものすごく怪しいマッチョマン」
「ん?」
「次郎がアナタをそう呼んでるから」
 レネは悪戯っぽい目で次郎を一瞥し、ジャックと握手した。

「勘弁してくれよ。勝手に人の心を読むのは」
 移動中のシボレー・コルヴェアの車中、次郎が愚痴ると、
「ソーリー。でも次郎は心の声がダダ洩れだから」
 レネが涼しい顔で言い返す。
「アハハ。最初はどうなることかと思ったが意外といいコンビじゃないか」
 運転席でハンドルを握るジャックが愉快そうに笑う。
「からかわないでください。それよりジャックさん、さっき俺のお陰で謎が解けたって言ってませんでしたっけ?あれ、どういう意味です?」
「例の波動パターンの正体がわかったのさ」
「波動パターンって、いつも事件現場で観測されていた」
「そうだ。昨夜も同じ波動が強烈に放たれた。ジロー君の体から」
「俺の、体?」
「正確には、脳からだ」
 ジャックは昨夜、南カリフォルニア支部ソーカルの一室でブギーマンとZEROの戦いを一部始終モニタリングしていた。そしてZERO、否――、次郎が、ブギーマンが見せる幻覚にパニックに陥った時、例の波動パターンを観測したのだ。
「つまり、それって……」
「恐怖だ。人間が抱く恐怖の感情こそが例の波動の正体だったわけさ」
「恐怖の、感情……」
 茫然と呟く次郎の横でレネが言う。
「さっきから何の話をしてるの? 私にもわかるように説明してよ」
「つまりだな……」
 ジャックは初めて次郎とレネが出会ったルート89の事件、更に今回のブギーマン事件の現場から同じパターンの波動が観測され、それを異星人が集めていることをレネに説明した。
「要するに人間の恐怖を煽る為に異星人は都市伝説に見立てた怪事件を立て続けに起こした。実際二つの事件はネットで全米に拡散され、人々に不安と恐怖を与えた。その不特定多数の感情も奴らに収集されていることも確認されてる」
「でも理由は? 恐怖の感情なんて集めて異星人は何をするつもりなんでしょう?」
「それはまだわからない。ただはっきりしてるのは、更に人々に恐怖を植え付けるために次の事件が起きるに違いないってことだ」
 ジャックは次郎の問いにぶっきらぼうに答えると、
「君にはもう見えてるんだろ?」
 ミラー越しにレネを見つめ、そう問いかけた。
「……うん。ビジョンは見えたよ」
 そうだ。次郎は思い出す。ジェシカを救い出したあと、ブギーマンの事件はまだ終わっていないとレネは言っていた。あの時既に彼女は次の事件を予見していたのだ。
「何が、見えたの?」
 焦る気持ちを押さえながら次郎が聞くと、
「今度は一人じゃない。大勢の子供たちが一度にブギーマンにさらわれる」
「大勢の子供たちが……! いつ? どこで?」
 予想外の情報に次郎は驚き、気持ちを抑えきれず立て続けに聞く。
「事件が起きるのは……今夜。場所は……はっきりとはわからない。でも多分……もう少ししたら、もっとはっきり見えると思う……ごめん」
「……いや。レネが謝ることないよ。俺こそ……何か焦らせて、ごめん」
 今までさらわれた四人の子供たちを必ず連れ戻す。その強い使命感が次郎を急かしていた。でもレネに頼ってばかりじゃいけない。自分でも出来ることを考えなければ。改めて次郎が思った時、
「まだ時間もあるようだし、少し寄り道するか」
 不意にジャックが言うとハイウエイを脇道へと外れた。

 二時間後、三人が到着したのはモロベイという小さな港町だった。
 まず次郎の目を引いたのが、沖合のまるでお椀を伏せたような大きな岩だ。
「モロロック。この地にいたネイティブアメリカンの聖地だ」
 ジャックが地元のガイドのように説明する。
「あの……どうして、ここに?」
「アイツがいるからだよ」
 ジャックの言葉を聞いた瞬間、次郎の頭にある男の顔が浮かんだ。
「お。いたいた」
 暫く海沿いの道を進むと、モロロックを遠くに望む桟橋の上で一人の男がシャドーボクシングをしているのが見えた。
「……やっぱり」
 次郎が呟くと同時、気配を感じたのか男がこちらを振り向く。それは東光太郎だった。
「よお。どうだい、調子は?」
 まるで旧知の仲のようにジャックが光太郎に声を掛ける。
「またアンタか。何の用だ?」
 相変わらず素っ気なく答える光太郎の目には敵意すら浮かんでいる。
「まどろっこしい前置きは無しだ。俺たちと一緒に戦う気は無いか?」
「それなら何度も断ったはずだ」
「ああ、確かにな。だが今度は前とはちょいと事情が違う」
「何が違う?」
「こいつらがいる」
 ジャックは芝居がかった大げさな仕草で次郎とレネをこなした。
「お前にはこいつらの力が必要だと思うぜ。そうだろ?」
「どういう意味だ」
 無視して立ち去ろうとする光太郎に、
「決まってるだろ。お前の目的を果たす為にだよ」
 ジャックの言葉にふと光太郎が立ち止まる。
「余計なお世話だ。俺には誰の助けもいらない」
 そう吐き捨て再び歩き出す光太郎に、
「待ってください! 光太郎さんは復讐をしようとしているんですよね!」
 思わず次郎がその背中に叫ぶ。
「知ってます! 異星人に親友を殺されたことは!」
「……」
「俺の相棒も光太郎さんと同じです! 大切な人たちを殺した仇を倒すと誓い、戦っています! それは哀しくて苦しい戦いです! 相棒はアナタを助けたいと思ってる! 俺もそれは同じです!」
「……」
「彼女も……レネだってそうです! あなたの事ずっと心配してます! 俺たちに手伝わせて下さい! 光太郎さんの仇を見つけるのを――」
「仇なら……もう殺した」
「……え?」
「親友を殺した異星人は……俺がその場で……殺した」
 絞り出すように光太郎が言った時、レネがはっとなる。
「今……彼の心が視えた」
 目の前で大切な親友デイブを無残に殺された直後、光太郎は炎の超人として覚醒し、仇の異星人を跡形もなく焼き尽くした。だが……
「怒りは……消えることが無かった」
 そうレネが呟くと、
「そうだ! お前の言う通りだ! 俺は仇を打ったあとも異星人への怒りや憎しみが消えることは無かった! むしろ異星人を倒せば倒すほど俺の中でその感情は大きく燃え上がるばかりだ! 助けたいだと? ふざけるな! これはお前らにどうこうできる問題じゃないんだ!」
 感情を一気に吐きだすように光太郎が叫ぶと、
「ああ、そうだろうな。お前の復讐は永遠に終わることはない」
 静かにジャックが言う。
「何故だかわかるか? いや、もうお前は気づいてる。……だろ?」
「……」
 光太郎は答えない。するとジャックが語り出す。
「俺の知り合いの話だ。その男は天涯孤独で誰も他人を信じちゃいなかった。生きるのに必要なのは己の力だけ。喧嘩三昧の日々の中、危うく命を落としそうになった時、偶然ある日系人の兄妹と出会い、助けられた。そして生まれて初めて人の優しさに触れ、やがて本当の家族のようにつき合うようになった。元々はル・マンのテストドライバーだった兄は事故で足を悪くして今は自動車の修理工場をやっていた。その男は工場を手伝い、自分もル・マンに出たいという夢を持つようになった。そしていつしか妹とは恋人同士となり、夢に向かって精一杯に生きて、小さな幸せも噛みしめていた。でもそんな細やかな日々は……呆気なく打ち砕かれた。兄妹が異星人に殺されたんだ」
「そんな……」
 思わず次郎が呻き、光太郎とレネは無言のまま、ジャックの話を聞いていた。
「その男は怒りに燃え、大切な人たちを奪った異星人を、血を吐くような日々の中で必死に探した。そして一年後、ようやく仇の異星人を探し出し、追いつめ、殺した。だが……その男の怒りは消えることが無かった。……何故だ? 何故!? 自問自答し、男は気づく。その怒りは自分自身に向けられたものだったことに」
 ぴくりと光太郎に動揺の色が浮かぶ。
「実はその男は知っていたのさ。兄と慕った男が、心から愛した恋人が死んだのは……全て自分のせいだと。自分の浅はかで愚かな行動のせいで二人は異星人に狙われ、殺されたんだ。だがその事実を認めたくなくて、復讐という感情でずっと誤魔化してきた。だから復讐を終えた時、その事実と向き合うしかなかった。逃れられない現実と。……だからその男は決して消えることのない後悔と贖罪を抱えながら……今も自分が生きる理由を……その答を探しているそうだ」
「……」
 光太郎は無言で拳を強く握りしめる。まるでジャックの言葉が自分に向けられたもののように。
「あの……その男の人って、もしかして――」
「俺じゃねーよ」
 次郎の言葉をすかさずジャックが遮ると、無言の光太郎をジッと見つめ、
「もっと、大きなものの為に戦え」
 そう言うと何かを手渡し、その場を立ち去った。
「ちょっと、ジャックさん!」
 慌てて次郎がその後を追い、レネは無言で佇む光太郎に、
「待ってるから」
 優しい笑顔を向け、やはりジャックの後を追った。
 一人残された光太郎の手には、星のような形をしたバッジが握られていた。紅いセンターストーンの嵌まったベゼルの周囲に一回り大きいプラチナのリングと、それに内接するデルタ型のウイング。その各辺からリングの外まで突出するスパイクが三本。そのうちの一本が長く、それぞれにサテライトストーンが配置されている。一見、何の変哲もないアクセサリーだが、可視光線の帯域を超える視力を得た今の光太郎の目には、集積回路と送受信機が収められた超精密デバイスの一種であると知れた。

27UAU02

「間違いない。この場所だよ」
 次第にはっきりするレネのビジョンに従ってジャックはコルヴェアを走らせ、サンタモニカの海沿いにある遊園地に到着した。
 既に日は暮れていたが多くの家族連れや若者たちで賑わい、子供たちの姿もある。
 レネの幻視通りここに異星人が現れ、子供たちが襲われれば大パニックが起き、多くの負傷者が出るに違いない。
 ジャックは国防省権限で遊園地の営業を停止。客たちを全て園内から退避させるが、ホラーハウスに入った数人の子供たちが戻っていなかった。
「まずいな……」
「これがレネの視たビジョンか」
 次郎たち三人は無人のホラーハウスの中へ。
 薄暗いハウスの中には奇怪な人形が並び、子供たちを怖がらせるには十分な雰囲気を醸し出している。普段の次郎なら間違いなく尻込みするところだが、今は子供たちを救わなければという強い意志が恐怖を打ち消していた。
 暫く迷路のような狭い路を進むと、不意に大きな鉄の門が三人の前に立ち塞がった。
「行き止まり……!?」
「違う。この先に子供たちがいる」
 レネの言葉に次郎が門扉を押すがビクともしない。いや、何か開ける方法があるはずだ。
 次郎が必死に考えを巡らせた時、ガン! ジャックが無造作な前蹴りで扉を粉砕した。
「行くぞ」
 門をくぐり更に先へと進む三人。やがて地下へと続く階段が現れる。
「この先に……」
 レネの言葉に従い階段を降りると、そこには信じられないほど広大な地下空間が広がっていた。そして――、
「助けて」「怖いよ」「怖いよ」「怖いよ」
 微かに聞こえる声に次郎たちが目を凝らすと空間の中央に不気味な柱が屹立し、その柱を起点とした巨大な蜘蛛の巣が張り巡らされ、そこに多くの子供たちが羽虫のように捕らえられていた。
「怖いよ」「助けて」「助けて」「パパ」「ママ」
 恐怖の声を必死に上げる子供たち。中には過去にブギーマンに連れ去られた四人の子供の顔もあった。
「待ってろ! 今すぐ助けるから!」
 次郎が子供たちを捕える柱のひとつに手をかけた瞬間、その腕を掻き切ろうとするように大鎌が閃いた。反射的に手を引っ込め、かろうじて回避した次郎が鎌の出所を目で捜すと、林立する柱の陰から、大鎌を、鉈を、大鋏を手にしたブギーマンが次々に姿を現した。奇怪なことに、どう見ても細い柱の陰に身を隠せるようなサイズではない。
「あの一匹だけじゃなかったのか……!」
 サンタ・クラリタで黒焦げになったブギーマンが脳裏をよぎる。
「ここで一網打尽にできりゃ、西海岸も元通り静かになるってもんさ」
 ジャックが右腕のブレスレットに触れ、JACK SUITを装着する。次郎もZERO SUITをまとった。このような地下でも転送システムは正常に働くらしい。
「レネ、君は安全なところへ」
「泣き叫ぶキッズたちを放って隠れてろって? 馬鹿にしないで、こう見えても──」
 レネはどこに隠し持っていたのか、一三連発のベレッタPX4ストーム・サブコンパクトを抜いた。その目の前で、ブギーマンたちが折り重なるように密集し、悪趣味なキャンディー細工のごとく身を絡ませ合って巨大な集合体を形成した。鋏を逆さにしたような頭部は天井に届き、子供たちを背に金属的な呻き笑いを上げて三人を見降ろしている。
 レネはベレッタのセーフティを元に戻して再びしまい込んだ。
「オーケイ、時には人の忠告を聞くことも大事よね。グッドラック!」
 お座なりな投げキッスをよこして引き下がるレネを確認し、JACKとZEROは後にギランボと名付けられるブギーマンの集合体に向かって身構えた。
 ピッケルのように尖った右手の先を、大鎌や鉈に変形させてギランボは攻撃してくる。やすやすと餌食になる二人ではなかったが、地の利は向こうにあった。第一に敵は常に子供たちを背にしており、EXライフルやワイドショットのような大型火器を使うわけにはいかない。第二に、天井や柱の陰を埋め尽くす闇の向こうがどうなっているのかわからない。ゼロスラッガーを投じてもまるで手ごたえがなく、どこまで飛んでも反対側に出ることがない。まるで異次元につながっているようだ。ブギーマンが狭いクローゼットや細い柱の陰に潜める理由はこれだろう。第三に、エネルギーの消耗が異常に激しい。この不可解な闇に閉ざされた地下空間は、時間の進行速度が違うのかもしれない。子供たちも疲れ切ってもはや声を上げる気力もなく、みるみる衰弱しつつある。急がなければ。
 しかし焦れば焦るほど思考は鈍り、体力は失われてゆく。
『しゃんとしろ次郎! レネが呼んでいる!』
 ZEROの意思が、浮足立つ次郎に喝を入れた。見ると、レネがしきりに上を指さしている。何か直近の未来を幻視したのか。
「上?」
 二人が見上げるや、轟音を立てて天井が砕け、巨大なグリッパーのついた金属アームがギランボを掴み上げた。破れた天井の上に、星空を背にして三〇〇メートルはあろうかという銀色のバカでかい飛行船が浮かんでいる。金属アームはその底部から伸びていた。
「スカイハンターがなんだってここに!?」
 ジャックの驚きをよそに、赤い火の玉がアームを駆け下り、子供たちを絡め取っている蜘蛛の巣を焼き払った、落下する子供たちを、三人がかりで抱き留める。
 火の玉の正体は、もちろん光太郎だ。
「光太郎さん!」
「来てくれると思ってた」
「けどその身体じゃ、チビ共を火傷させちまうな」
 一同の言葉に、炎の超人は背を向けたまま答えない。
だがその手には、ジャックが託したバッジが握られていた。
 バキン、グリッパーを押し拡げて縛を脱したギランボが、一同の前に着地し咆哮する。
 怒り狂っているのは明らかだ。
 おもむろに、光太郎が口を開いた。
「俺は異星人と戦う。この子たちを守る為に。ウルトラマンとして!」
 超人の手がバッジをかざすと同時、エメラルド色の光が衛星軌道から降り注ぎ、燃え上がる身体を包み込んだ。その炎のような赤と銀のSUITで──
「光太郎……」
「光はいらない。ただのタロウだ」
 JACKとZEROとTARO、三人のULTRAMANの反撃が始まった。天井が破られたことで闇の力場が崩壊し、エネルギーの蒸散も収まっている。子供たちを傷つける心配もない。条件はイーブンだ。
 TARO SUITは従来のULTRAMAN SUITと異なり、防護や強化ではなく抑制に特化した機能を持つ規格外装備だ。しかしその余剰熱は、攻撃にも的確に転用される。彼が拳を打ち込むとき、足刀を薙ぐとき、噴き出す炎が威力を倍増させた。
 JACKが腕部内装式収縮ソードで、ZEROがゼロランスで援護する。
「いいねェ、それ。貸りるよ」
 え? と思う間もなくランスを奪われるZERO。JACKはランスを逆手に──穂先ではなく石突を前方に向けて構え、途方もない腕力で投擲、ギランボを床に縫い付けた。動きの止まったギランボの顔面に、TAROがひたと掌を当てる。
 ボン! TARO SUITの後頭部に設けられた排炎用ダクトから二メートルもの余剰エネルギーが噴き上がったときには、床に突き立つさかさまのゼロランスを残し、ギランボは消し炭と化していた。

27UAU01

「お見事、お見事」
 ぱんぱんと拍手をしながら、見知らぬ黒人紳士が二人のSPを引き連れて近づいて来た。
 SUITの装着を解除したジャックがすかさず食ってかかる。
「アルバート、てめェ!」
「おやおや大尉、えらくご機嫌斜めじゃないか」
「大尉はよせ、とっくに軍は除隊してる! それより何のつもりだ!」
 始まった英語での言い争いを、次郎は目を白黒させながら見守るほかない。聞けば、紳士の名はアルバート・ウェイアンズ。科特隊米国支部の責任者で、モロベイで別れた後に光太郎と接触し、例の飛行船でここに送り届けてくれたということらしい。何でもW.I.N.R.と呼ばれる即応部隊が、ロサンゼルス郊外に拠点を持っているのだとか。
 その大型飛行船スカイハンターはホラーハウスの焼け跡上空に係留され、降下した医療スタッフが子供たちに必要な検査と処置を施している。
 ジャックにしてみれば自分の仕事に横入りされた形で、余計な借りを作ることになってしまい、それがはなはだ面白くないようだ。MATにも科特隊にも、色々と思惑があるのだろう。仲良くすればいいのに、と顔を見合わせる次郎とレネだった。

 夜明けの遊園地。子供たちと親が抱き合い喜び合う。その笑顔を見つめる一同。
 既にスカイハンターは引き上げている。
「ありがとう。助かったよ」
 握手を求めるジャックに、
「アンタの為に戦ったんじゃない」
 以前と変わらぬ調子で光太郎が言い、その場を立ち去る。
「たく、素直じゃねーな」
 苦笑するジャックに、
「おなかすいた。朝食おごって」とレネ。
「わかった。うまいビールが飲める店に行くか」
「ちょ、朝からビールって」
 呆れながらも微笑む次郎。ジャック、レネ、そして光太郎。アメリカに来て新しい仲間たちが出来たことがとても嬉しかった。



つづく

【8U編】

恐怖のルート89 前編

恐怖のルート89 後編

ブギーマンの夜 前編

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Ⓒ円谷プロ ⒸEiichi Shimizu,Tomohiro Shimoguchi

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