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【モスピーダ外伝】 09 マイ ネーム イズ ゲイト ─My name is gate─ 【GENESIS BREAKER】

2023.05.09

機甲創世記モスピーダ外伝 ジェネシスブレイカー●柿沼秀樹、マーシーラビット 月刊ホビージャパン2023年6月号(4月25日発売)

【モスピーダ外伝】 09 マイ ネーム イズ ゲイト ─My name is gate─ 【GENESIS BREAKER】

 機甲創世記モスピーダ公式外伝第9話!

 TV放映より40周年を迎えた『機甲創世記モスピーダ』。本作のメインクリエイターである荒牧伸志、柿沼秀樹両氏を迎えた公式外伝小説『GENESIS BREAKER』の第9話。2083年1月、インビットから地球を奪還するため、人類史上最大規模の地球降下作戦「ラージスケールオペレーション2083」が開始された。インビットの反撃で大打撃を受けた艦隊だったが、なんとか特務隊を収納したカプセルを地球に向け射出する。地球に降り立った特務隊のゲイトとエブリは、北米大陸にある敵の拠点とされる“レフレックス・ポイント”を目指す。

STAFF

原作/タツノコプロ
企画協力/千値練
キャラクター原案/湖川友謙
小説・ストーリー構成・設定/柿沼秀樹(DARTS)
メカニカルデザイン・設定/荒牧伸志
メカニカルデザイン協力・設計/前野圭一郎(T-REX)
イラストレーション/マーシーラビット
スペシャルサンクス/戸張雄太(T.E.S.T)

『機甲創世記モスピーダ』のまとめ動画が観られる!
QRコードでCHECK!

QRコード モスピーダ

https://youtu.be/vmBSPvN5kCI

09
  マイ ネーム イズ ゲイト ─My name is gate─

|  廃墟 

 そこは闇に飲み込まれた廃墟の街だった。巨大なビル群が、墓石のように立ち並び、何層にも発達した地下都市は陥没し、最下層には雨水や地下水が溜まり湖を形成していた。文明の痕跡が幾重にも折り重なり、グランドキャニオンと化している。そんな混沌の中心に、赤々とした炎が見て取れた。ビルに突き刺さるようにして大破した航空機は原形を留めず、幾度か小さな爆発を繰り返す。
 月のないその夜、数機の無人アーモボマーが未明の地平線に降下した。高度なステルス性と、自身の幻を発生させる欺瞞装置を搭載した全身黒塗りの特殊機体だが、しかし敵の監視網を避けるための回避行動がネガティブな結果となってしまった。重要な貨物を搭載した3号機は、予定降下地点を100マイルも離れたこの廃墟のビル街に、タッチダウンして大破したのだ。



 コード887-887を繰り返すコールは、「投下物資を回収されたし」との指令だった。「聞かなかったことにもできるぞ」と、呟いたのは星空を背に瓦礫のてっぺんで、幸か不幸か、アーモボマーの墜落を目撃してしまったイーグルだった。しかしゲイトは直感でその“物資”の回収指令に動いた。しかし数マイル先からでも目視できる炎は、味方だけでなく、同時に敵も呼び寄せる結果となってしまった。ゲイトたちより数分早く到着した小隊と、飛来した敵パトロールとの間で熾烈な殲滅戦が始まっていた。


「加勢に行こう、あの数なら蹴散らせる!」と勇むシモンズをゲイトが制した。そしてエブリに命じた。「887の送信者に尋ねて…問題の大切な“ブツ”は何処か…と」。しかし「愚行だな…もうすぐアーモボマーは燃え尽きる。AIだってオシャカだろうに」とイーグル。

「AIユニットは高高度で射出している。恐らくずいぶん遠くの安全な何処かに降下したはず。こちらのホネスト・アイデンティティ・コードを送れば」と言いつつ、エブリは自身でも暗記できない120桁の認識番号を送信した。すると1秒と置かずに返信が成された。

「やはりあのド派手な墜落は欺瞞だ。ブツはここから数1.2マイルほど離れた陥没地帯に投下された。座標を得たが発見を恐れて“ブツ”は誘導ビーコンを出してない」とエブリが告げた。

「後戻りして…匂いでも嗅いで探せってか?」と言いつつも、シモンズが先んじて走り出した。先ほど通過してきた陥没地帯のどこかに投下されているのだ。全員が座標を受け取ると、ビルの谷間を走破して現場に急行した。



 陥没地帯は透明度の高い大きな水溜まりとなっていて、地下鉄の構内を飲み込んで広がっていた。見つかるはずがない…とシモンズが愚痴を言おうとしたその時、索敵センサーに何かが反応した。「人類軍の応答パルスだ。この水溜まりの底に沈んでいる」とエブリがセンサリングの結果を告げた。その時、サイドカーのシートに収まったネセサリーが前方の闇を指さして言った。「来るよ…」と呟いたのだ。
 全員がネセサリーの指した闇に照準すると、来客は猛スピードで闇を突いて突進してきた。「新型…ムース・タイプ!無焦点レーザー装備!! 離れて戦えっ!!」とのエブリの叫びに全員が、呼応してモトスレイブ状態に移行し、同時にその場から後方にスラスタージャンプした。そして初めてセメントの天井に行動を制限されていることに気づいた。そんな有利とはいえない環境にあって、唯一シモンズだけはその場に留まると、搭載している大口径火器を肉薄する敵の真正面にぶち込んだ。
 敵の応射も激しく、ほぼ相打ちの様相となったが、幸いにもシモンズの一撃は敵のセンサーアイを貫き、敵の動きを封じた。だが敵の背後から二番手が現れると、暗渠は激しい撃ち合いで昼間の明るさとなり、火花と爆炎が広がっていった。そしてその新型たちは、明らかに人類側の正面兵器“ライドアーマー”対応に特化しており、致命弾を見舞おうと背後に回り込んだエブリとそしてゲイトにも、素早く対応した。二人の真上の天井めがけて放たれた敵の最大出力のレーザーが天井を突き崩し、それはゲイトの頭上に落下した。1トン近い構造物がゲイトを襲うと、ゲイトの意識はそこで…途絶えた。


|  目覚め 

 ゲイトは、1分とも千年と感じられる眠りから目覚めた。
 混沌からの覚醒の自覚はあるものの、ここが何処で、自分が何者なのかを特定できないまま、周囲を見渡した。深い闇と、時折シグナルのように明滅する赤い光点が見える。ここは何処だ? と心で問いかけると、ほぼ同時に数千枚の図面、構造図が脳裏に去来する。私は誰だ、と自問すると同じように、自身の身体データが必要なだけ提示された。体を構成する骨と歯を除いた37兆2000億個の細胞は質、機能ともにオリジナルを尊重してコピーされてはいたが、すべては人工物に置き換えられていた。数ヵ月前にインビットとコンタクトした際に、オリジナル・ゲイトから取得した身体データの具現化が完了したのだ。今の彼女には、支配階級のイズメイア家の継承者として育てられた幼少時から今日までの記憶に加え、果てしない時間と空間を共有するインビットの記憶を所有していた。
 彼女は今、巨大な構造物の中心にいた。数百階層重なった巨大なストラクチャーは、それ自体、生き物のように神経とフレームとで紡がれていた。地中深くにまで突き立てられたロッドが、地球コアの熱をエネルギーに変える変換機に接続され、無尽蔵の原動力となっている。ここはインビットたちの要害、レフレックスポイントの中心に位置するプレグナント・ゾーン(pregnant zone)だ。彼女がゆっくりと羊水のようなジェリーから歩み出すと、専用のスーツが裸身に纏わりつき、更に彼女専用の戦闘用ディバイスがその外を覆った。そしてその意識はダイレクトで果てしない容量の記憶バンクと繋がった。
 インビットたちが“前宇宙”から繰り越した文明と生命のデータソースの海には水平線がなく、時間の無限ループと空間の無限ループがただただ存在していた。過去と未来、果てと果てが無段差で繋がったその記憶には一切の境界線がなく、ゲイトはそこで初めてインビットたちが時間や場所の概念を有さない意味を知った。人類が信じている過去、未来、果て、と言った概念はあくまでも仮のもので、すべてはひとつなのだ。そしてインビットたちの使命、あるいは存在そのものも宇宙の一部であるため、人類の唯一の本能である“種族の延命”などは、それらと照らした時、なんの意味を持たないことも理解できた。しかし地球の奪還に焦りを覚えた人類は、今、疑心暗鬼に駆られ、“インビットの火星侵略”という在りもしないシナリオを恐れ、究極の戦略を決定した。その作戦がインビットの“大目的”の妨げとなる可能性が、たちどころに算出され数値化されると、同時に彼女、インビット・ゲイトの使命も定まった。

|  襲撃 

 人類側の暗号を解読する必要はなかった。目的を持った重要な要人は、他の将兵とは異なり、手厚く守られ秘密裏に行動、移動する。そのため機密保持の動向、防御の手厚さを数値化するソフトに寄ればひとりの対象を割り出すのにさしたる時間は要さなかった。それはレフレックスポイント北東部の大原生林を超えた岩場に、一週間ほど以前に布陣した444ギャリソン(駐屯地)に着任したひとりの男であった。やがて決行されるであろう大作戦のキーマンであり統合本部直属の最前線一等司令官の肩書を持つ男だった。固有名詞はパートソン指令。本作戦の地上における全権だ。彼らの秘めたる作戦をくじくには、当人の排除と、使用されるツールの破壊がもっと も手早い。インビット・ゲイトは重攻撃型3、汎用戦闘型6の編成を選択すると、レフレックスポイントの射出ポートに立った。重力波が彼女を十数秒で高度4000ftに打ち上げると、そこで彼女の選定した攻撃部隊と合流した。湿った外気が装甲を氷結させたが、彼女は気にも留めず、目的地への最短距離を飛行した。



 経脈の圧迫による意識の途絶と衝撃から、ゲイトはようやく回復した。駆け付けた援軍によりゲイトらは窮地を脱し、問題のマテリアルはあるべき所、444駐屯地に搬入されていた。彼女たちが回収した全長50インチに満たないケースが、タングステンとベリリウムの合金であると分析したシモンズは言う。「ありゃ特殊砲弾の信管だな。火星の山を吹き飛ばす掘削作業で使ったことがある。超硬質ケースはそのためだ」と、負傷した右腕を自身でメインテナンスしながら語る。「レフレックスポイントを吹き飛ばす融合爆弾か何かのか?」とイーグル。「わざわざ信管を別に搬入するからには、ただの爆弾じゃないわね。恐らく本体は既に搬入済みで、それで最後に起爆のための信管を送り付けて来たのよ」とは元テロリスト、エブリの洞察だ。首を摩りながらようやく立ち上がったゲイトが言う。「岩場の西は広大な原生林でその向こうがレフレックスポイント。もしかしたら地中貫通弾で内部破壊を誘発する作戦かもね」
 全員がなるほど、とゲイトに見向いたとき、テントの前に立つ歩哨が靴を鳴らす音が聞こえて、ひとりの軍服姿の男が入って来た。軍服は火星正規防衛軍のものだが、勲章兼アイデンティティ・パスは司令官のそれだった。若い。20歳代にも見える容姿と階級が全く不釣り合いだった。充分にその自覚があるようで、彼は始めた。


「階級と年齢は不問だ。呼称はパートソン指令で統一している。444ベースへようこそ。私は本作戦の全権だ。そして本作戦は目下地球侵攻プログラムの最上位に位置している。その作戦に不可欠な物資の回収に協力いただき感謝する。あれがなくては始まらんのでな」と一息で解説した。

「よほど強力な兵器なのですね、指令」とゲイトが問う。

「この戦争を終わらせる程度の威力はある…とだけ申し上げよう。火星上層部もいい加減、成果を出さないと焦れていてね。少々乱暴な作戦だが、7日前、火星幕僚会議に置いて全会一致で承認された。」

「もしかすると、あなたがその提案者ですか?」とのゲイトの質問に、指令はポーカーフェイスで小さく頷いた。聞きたいことは山ほどあったが、指令は慌ただしく呼びに来た副官と共に、敬礼だけを残してその場から立ち去った。


 足音が遠ざかったのを確認するとイーグルが発言した。「あのアイデンティティ・パスは第三次降下作戦の指導者のひとりだな。」「火星統合司令部、直属か」とはシモンズ。「恐らく今、北半球に布陣した部隊に置いて、一番のお偉いさん…てとこね」とエブリ。「しかし、そりゃあどんな作戦なんだい? この駐屯地の規模はかなり小さいぞ。将兵はざっと見て数十人、AFVだって20両もない。火砲に至っては数門だ。それでいったい何ができる?」とイーグルの発言はもっともだった。「まさか爆弾抱えて特攻みたいな、そんな作戦なら関わりたかないね。野蛮すぎる」とのシモンズの発言が終わると、「第三次降下作戦は最後の奪還作戦となるのは知ってるでしょ。人員、物資には限りがある。失敗は出来ない。だから…」とゲイトがその先を言い淀むと、イーグルが続けた。


「知ってるさ。北米大陸ごとレフレックスポイントを吹っ飛ばすっていう禁じ手はずいぶん以前から語られてきた。クラスト・ボム(地殻爆弾)だったっけ。降下作戦の不成功時の最終手段だ」

「威勢のいい話だな。人類にそんな勇気があれば、だが。この際ネセサリーの意見も伺おうか」とシモンズが振ると、その横に座っていたネセサリーが、耳に手を当てて、ほら聞いて、というジェスチャーをした。突如、緊張が走ったその数秒後、けたたましく警報が鳴り、対空砲火が火を噴いた。敵襲を告げる警報だった。全員が直ちにプロテクターを身に着け戦闘準備に入った。


|  会敵 

 火砲が火を噴き、夜空に火球が広がっていく。襲来した敵は巧みにその砲撃を交わしたが、最新の近接信管は、それでも優秀で、三次元機動力に長けた敵を正確に追尾すると、空中で二体の敵を撃破した。しかし残りの戦力はベースキャンプ中心のレーダーサイトと地中に埋没式に設営された仮設司令部を急襲した。歩兵たちはショートレンジで有効な携帯ロケットランチャーを担ぎ出すと、敵、新型の前と後ろから狙い撃ちして応戦した。
 近くで砲弾が炸裂するとテントは吹き飛ばされ、ゲイトたちも最前線に立たされた。めちゃくちゃに援護射撃を行いながらイーグルが怒鳴った。「撤退か!!それとも命がけでその大事な荷物だが信管だかを守るのか、すぐに決めてくれっ!」と、決断を迫られたゲイトは躊躇なく決断した。


「撤退だ!このベースを放棄する!」とのゲイトの声にシモンズも賛成した。「懸命だな、敵は新型の殲滅部隊だ。先手を取られてしまったからには出直すのが良策ってもんだ!」と意見は纏まり一行は直ちにバイクモードに移行すると、火器を乱射しながら後退した。


 しかし。その退路に黒い影が立ちはだかった。
 銃撃戦の閃光がその見慣れない敵を照らす。体高約7ft。人間のようなシルエットはデータにない新手だった。それは攻撃の意図を示さず、数歩、ゲイトらに歩み寄ると、正面の装甲が開いて中からパイロットが姿を現した。イーグルがメットを跳ね上げて目を擦る。
 そして「なんの冗談だ!」と呟いた。

モスピーダ外伝-9

つづく


【 GENESIS BREAKER 】

01  侵入者 ─イントルーダー─

02 スナイパー ─The Snipe ─

03 デスポイント ─Dess point─

04 コンタクト ─Contact─ 前編

05  コンタクト ─Contact─ 後編

06 決定者 ─DECIDER─

07 白い要塞 ─WHITEFORTRESS─

08 ホライゾン ─Horizon─

09 マイ ネーム イズ ゲイト ─My name is gate─ ←いまココ

10 ポールシフト ─POLESHIFT─

11 データシップ ─Data ship─

12 火星人との戦争をとおして ─Through wars of worlds invaded by mars─ new

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Ⓒタツノコプロ

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