HOME記事キャラクターモデル【モスピーダ外伝】 10 ポールシフト ─POLESHIFT─ 【GENESIS BREAKER】

【モスピーダ外伝】 10 ポールシフト ─POLESHIFT─ 【GENESIS BREAKER】

2023.06.09

機甲創世記モスピーダ外伝 ジェネシスブレイカー●柿沼秀樹、マーシーラビット 月刊ホビージャパン2023年7月号(5月25日発売)

【モスピーダ外伝】 10 ポールシフト ─POLESHIFT─ 【GENESIS BREAKER】

 機甲創世記モスピーダ公式外伝第10話!

 TV放映より40周年を迎えた『機甲創世記モスピーダ』。本作のメインクリエイターである荒牧伸志、柿沼秀樹両氏を迎えた公式外伝小説『GENESIS BREAKER』の第10話。2083年1月、インビットから地球を奪還するため、人類史上最大規模の地球降下作戦「ラージスケールオペレーション2083」が開始された。インビットの反撃で大打撃を受けた艦隊だったが、なんとか特務隊を収納したカプセルを地球に向け射出する。地球に降り立った特務隊のゲイトとエブリは、北米大陸にある敵の拠点とされる“レフレックス・ポイント”を目指す。

STAFF

原作/タツノコプロ
企画協力/千値練
キャラクター原案/湖川友謙
小説・ストーリー構成・設定/柿沼秀樹(DARTS)
メカニカルデザイン・設定/荒牧伸志
メカニカルデザイン協力・設計/前野圭一郎(T-REX)
イラストレーション/マーシーラビット
スペシャルサンクス/戸張雄太(T.E.S.T)

『機甲創世記モスピーダ』のまとめ動画が観られる!
QRコードでCHECK!

QRコード モスピーダ

https://youtu.be/vmBSPvN5kCI

RIOBOT 機甲創世記モスピーダ外伝 GENESIS BREAKER 1/12 VRS-077F イントルーダー ゲイト

絶賛予約受付中!

●発売元/千値練●25300円、2024年3月予定●1/12、約15cm●原型・設計/前野圭一郎(T-REX)


10
  ポールシフト ─POLESHIFT─

 ゲイトたちの前に現れたのは、敵、インビットの新型ディバイスだ。中身に相当する合成筋肉の組織こそがインビットで、硬質な外殻が人工物なのか、それとも外殻も含めてインビットの本体なのかすら判明していないため、人類の前に次々と現れる新種の敵、正面兵器(直接戦闘行動する兵器)をそう呼称する。今までとは異なるスマートなディバイスが数基の大型を従えていた。そしてそのスマートな甲冑から姿を現したのは、身長は5ft6inの女性だった。やがてその顔が燃え上がる炎と爆発を受けて露わになると、ブレイカーズの面々は驚きの声を上げた。イーグルは「なんの冗談だ!!」と唸るように言った。
 一番早く理解したのがエブリだった。ゆっくりとゲイトに歩み寄ると、なぜか声を殺して言った。


「あの時、抜き取られた身体データを使って複製を作ったのよ。奴らの技術なら他愛もない部類ね。」と。


 関節のサーボモーターの音を殺すように、静かに歩み出てシモンズが意見を言う。「第一次降下作戦の最前線から帰って来た中隊長が、こんなことを言っていた。今日100人の兵士が戦死すると明日、インビットが100体増えてる…と」。さすがに頭脳明晰のイーグルは、その不気味な風説を幾度か反芻してから言葉にした。「まさか…奴らの…“原料”は…人間ってことなのか!!」
 しびれを切らして、ゲイトと同じ顔を持つパイロットが口を開いた。


「16層ある命令指揮系統の上部3層は人類の兵士を使う場合もある。私のボディガードも…」と言うと、彼女の後ろに控えていた大きな新型ディバイスの正面が開いてパイロットが姿を現すと、彼らも“人間”に見えた。

「なんてことだ!!」とイーグルが一歩、後退った。

「われわれは人間の兵士だった時の記憶と、インビットの記憶を持っている。人間は“発生”してから“死滅”するまでの片道の生命循環しか持たないが、何度でも個体の再生が可能で、種族としては“前宇宙”から“現宇宙”、そして“来宇宙”へと、ビックバン(爆発的拡大)とビッククランチ(爆発的収縮)を貫通するインビットには、人間のような時間、空間、感情の概念はない」

「いいだろう…そこまで言ったからにはご説明願おうか! このあと地球をどうするつもりだ!!」とシモンズが言う。

「地球は我々の最後の中継地だ。蟹座の恒星、アクベンス、タルフ、アセルス・ボレアリスなどのエネルギーと周辺星団を素材として巨大なデータ・シップは完成しつつある。その船に“現宇宙”の全ての文明と生命データを搭載した後、600年後に迫った宇宙収縮に備え航路を決定し、“来宇宙”へと飛翔する。それがインビットの使命だ。それが運命なのか何者かの意思によるかは不明だが、何も行わなくては爆発と収縮の度にすべてが失われて宇宙はひたすら空虚なものになってしまう。“現宇宙”に文明が存在し地球人類が存在するの“前宇宙”から我々がそれらの元を搬出に成功したためだ」


 一度大きく深呼吸してから、ゲイトが口を開いた。


「宇宙が拡張から縮小に転じるのはもっと遥かに先のはずでしょ…600年て、もうすぐじゃない」

「時間、空間、波動、力場はそれぞれ無縁ではない。人間が便宜上、そう分類しているだけで、縮小に転ずれば時間も逆進する。我々の高度な“宇宙複合循環測定”によれば今回の収縮には特徴があり収縮が始まればいろいろとイレギュラーが発生する。そのため“船”は6重の時間、空間、波動、力場繊維で編まれ、宇宙の縮小速度に対して加速、減速が可能なモーターも搭載している。しかし残念ながら辺境領域への探査、情報収集にはもう時間がない。地球圏が最後の中継地となった」


 話が佳境を迎えた時、彼女の部下が突如飛来し、何かを彼女の前に投げ捨てた。それは“動かなくなった” パートソン指令だった。


「彼がターゲットだったの!?」とエブリが反射的に言った。

「この男はあと数体存在する。火星軍の地球侵攻作戦の担当者でオリジナルからの複製だ。全て探し出して始末する」

「その作戦があなたたちにとって不都合だから?」とゲイト。

「奴らの思考は恐ろしいほど短絡的で危険だ。地球地殻に超高圧縮金属を撃ち込み、地球の磁場を逆転する破壊的ポールシフト(極逆転)を発生させるつもりだ。地上の文明、大半の生物が死滅する。我々インビットが地球掌握の後、火星を侵攻すると、疑心暗鬼に駆られての行動だ」


 そこでイーグルが歩み出た。「あんたらの壮大な移送計画がホントなら、火星の連中を説得できるはずだ!」
 インビット・ゲイトが目線も動かさずに返答した。


「奴らに話が通じると? 彼らの度重なる地球奪還作戦決行の度に、我々はあらゆる言語で中止を勧告したが、陽動作戦と断じられ意味はなかった。我々の拠点の中心には地球圏の全てのデータが世界樹の形となって生育完了した。ほどなくその全てを蟹座へ向けて送信する。飛翔の準備は整いつつある。邪魔するものは全て破壊抹殺する。この破壊計画を立案・決行せんとするこの男のように」


 言い終わるとインビット・ゲイトは踵を返してマシーンに収まろうとした。その背中にゲイトが声をかけた。


「なぜ“わたし”をコピーしたの?」


 するともう一人のゲイトは、ゲイトの目の前まで引き返すと「お前たちの目的が我々とのコンタクトだったからだ。だが失望した。その目的は単に我々を知り、攻略方法を立案しようという…未知のものを恐れ警戒し排斥せんとするが故の狭小な探求心だ。狼や熊と変わらない」
 インビット・ゲイトはゲイトを見つめたまま後退し、目線を宙に浮かして最後に語った。


「地球圏の全データを“船”に積載するか否かはレフレスが決定する。大宇宙を14分割した第14セクターの総責任者だ。彼女は既に世界樹となった地球の生命・文明のデータの集積と一体化しそれを吟味している。彼女自身がレフレックスポイントであり、飛翔する船、そのものだ。原則“全てを可能な限り”積載するが、必ずしも全てを搭載するとは限らない」


 インビット・ゲイトがディバイスに収まると、吐き捨てるようにスピーカー音声で告げた。


「火星軍の最後の反撃…第三次降下部隊の大船団は既に火星を出発した。最後の警告だ…すべての侵攻計画、破壊計画を中止しろ。結果は見えている」


 そう告げると彼女とその部下たちは現れた時と同じくらい速やかに夜空に飛翔した。エブリが全員に見向いて手を広げ。「600ポンドくらいはありそうなあのディバイスが飛翔するのに、熱い高圧ガスもスラスターも使わず、一瞬で夜空に飛んだ…明らかに急速に進歩してる。第三次降下部隊が壊滅させられるのは、ハッタリじゃなさそうね…」と自嘲気味に言う。


|  別動隊 

 小山ほどもある岩陰にゲイトらは潜み、特殊部隊の到着を待っていた。情報局から届いた暗号通信が、特殊部隊の派遣を通告してきたのだ。月のない夜に密かにやってくるのだ。通常の増員や欠員を埋めるための補充兵員でないことは確かだった。
 地平線の彼方では小規模な戦火が認められる以外、虫も鳴かない静かな夜だったが、突如高高度で火花が散った。エブリが軍用スコープで事態を探る。「2…いや3機の機影。戦闘機だけど新型ね…翼の後退角が通常のと違うとAIが言ってる。アッ、囮の熱源を盛んに放出してる。敵の高射砲にはまだ見つかってない…」
 事態を把握してゲイトが叫ぶ。


「通信…誘導ビーコンは出さないから可能なとこに降下してと伝えて。こっちがそこまで行く」

「それが賢明だ。敵は個体も部隊も機敏さを増してる。敵のレーダーサイトを避けてタッチダウン可能なとこに降下させろ。面倒だがこっちからその降下地点に行く」


 イーグルが合意した。


モスピーダ外伝-10

 幸運にも派遣部隊の二機の戦闘機は、枯れた森の奥深くに半分墜落気味に降下した。全体を真っ黒な電波吸収剤で包んだ新型だった。パイロットは一名だが、後部のブースターには特設の積載スペースが設けられ数名の兵士が同乗していた。機体と同じ、全身真っ黒な戦闘服に身を包んだ兵士は、力の籠った敬礼とともに話し始めた。


「軍での階級は少佐ですが情報局・特務隊・特別侵攻計画司令官のオルドリンです」


 イーグルとシモンズが同時に口を開こうとしたが、ややシモンズが先に聞いた。彼の搭乗機を指さしてから。


「こいつは新型だ…第三次降下作戦用か?」

「spiteful(スパイトフル=黒いレギオス)です。表面は構造発色で黒からブルー、オレンジに変色可能。再突入時の高熱でも変質しない特殊塗料で…」

「で…我々との合流の意図は?」とゲイトが割って入った。


 オルドリンはメットを取ると一拍置いて話し始めた。


「情報局は地上特派員たちからの情報を招集、分析してレフレックスポイントにエネルギーの集積を感知し、彼らが…つまりインビットたちが飛び立つ準備に入ったのではないかとの憶測を立てています。地上に置ける敵の防衛拠点の数も減っている。その他さまざまなデータから…」

「鋭いわね…情報部の分析官は優秀だわ、で」とゲイトが促す。

「ここからは特一級守秘義務情報でして…」とオルドリンが言い淀むと、少しイラついたエブリがゲイトを指さして、

「情報局・局長のその上の某イズメイアー家の筆頭の娘よ!あんたの給料を査定している上級武官の上の上の上の上の…」


 もういいから、とエブリを押しのけてゲイトが、「続けて」と言ったが、全てを察したイーグルがしゃしゃり出て来て。「ははあん…大体分ったぞ。情報局は直線行動的な軍に対していつも懐疑的だ。あれだろ、降下作戦が芳しい結果を出せなかった時の…某地球壊滅作戦にかかわる話だな」と勿体付けて言うと、オルドリンはミュージカルのような分かりやすい驚きを浮かべて「どうしてそれを!」
 続いてイーグルの後ろからシモンズが言う。「なあに昨晩、通りすがりの司令官に聞いたのさ。地球の北極と南極をだ…その…入れ替えて逆さまにして…」
 シモンズのその判りずらい解説を聞くと、オルドリンは深呼吸してから続けた。


「秘密作戦は正にグレートリセットです。軍の急進派が推し進めていて、実行されると地上は完全に破壊されます。自然や生態系も壊滅して…彼らはそれを“新・新世紀”と」

「つまり…」と、ゲイトは慎重になって、「降下作戦失敗時には…インビットも地球も死滅させるという事?」と尋ねる。

「言いづらいのなら、軍籍が一番長い俺が説明しよう…。火星軍はもともと火星防衛軍だった。つまり地球に独立戦争を仕掛けて火星独立を勝ち取ったいわば反乱軍でもある。この際地球を壊滅させられれば、地球の統治者である世界統一政府を排除し、地球を火星の植民地にできる。何年か前そういう内容のイカレた小説がベストセラーになっただろ」とイーグル。

「“月の向こう”だ。ジョナサン・ホーフェンス著。第一世代の火星入植者は、火星の希薄大気に適合するように生体改造された上に過酷な労働に酷使された。その時の恨みを忘れず、火星を植民地として卑下して来た地球統一政府に何時の日か、一丸となって報復しよう! 地球大気を火星のそれと同成分の希薄大気化し、希薄大気でも活動可能な“火星人”を送り込んで地球をマーズ・フォーミングし、火星の植民地としよう。と、酔いつぶれた政治家の独白で始まる下劣なナショナリズムを掻き立てる小説さ。まさかそれを今更実行しようとは…」とシモンズ。

「地球破壊工作の作戦名は“月の向こう側”作戦です。軍の最高武官たちは、まさにその何十年も昔の小説に象徴されるナショナリズムに陶酔しているんです」


 とオルドリンは落胆したが。


「判るわ…第一次、第二次降下作戦の戦死者は地球に置ける三回の世界大戦の4倍。そして成果はゼロ。次が最後の降下作戦。不成功ならもはや極端な作戦しか残されていない」


 とエブリが理解を示した。


「それはもしかして元テロリストの感想? それともあなたの持論?」とエブリは語気を強めた。

「精神作用の話よ! 失敗失敗失敗…と続くと論理的にも感情的にも、成功が望めないならオールリセット、全部壊してやり直しっ、て言う境地に達するのよ」

「簡単に言えばヤケクソだな。で、情報局は地上の我々にどうしろと」とイーグルが結論を求めた。

「我々の部隊はあと三組、降下しました。狂気のグレートリセットを阻止します。更にすでに降下している工兵部隊にも情報局の支持で動く部隊が居ます。彼らと合流して総戦力を増やしてから実行に移す予定です」


 オルドリンの説明を聞き終わると、ゲイトは沈思黙考…しばし夜空を見つめてから。


「あっちの“ゲイト”がやろうとしている事と……奇しくも同じってことね」と呟いた。

つづく


CHARACTERS
 登場人物

#10 インビット

モスピーダ外伝-10 インビットゲイト
モスピーダ外伝-10 インビットE~I
モスピーダ外伝-10 インビットJ~N

designed by Hideki Kakinuma


【 GENESIS BREAKER 】

01  侵入者 ─イントルーダー─

02 スナイパー ─The Snipe ─

03 デスポイント ─Dess point─

04 コンタクト ─Contact─ 前編

05  コンタクト ─Contact─ 後編

06 決定者 ─DECIDER─

07 白い要塞 ─WHITEFORTRESS─

08 ホライゾン ─Horizon─

09 マイ ネーム イズ ゲイト ─My name is gate─

10 ポールシフト ─POLESHIFT─  ←いまココ

11 データシップ ─Data ship─

12 火星人との戦争をとおして ─Through wars of worlds invaded by mars─ new

この記事が気に入ったらシェアしてください!

Ⓒタツノコプロ

オススメの書籍

月刊ホビージャパン2023年7月号

ご購入はこちら

タツノコプラモアーカイブ

ご購入はこちら

キャラクター・プラモデル・アーカイブVol.001

ご購入はこちら
PAGE TOP
メニュー