【モスピーダ外伝】 11 データシップ ─Data ship─ 【GENESIS BREAKER】
2023.07.12機甲創世記モスピーダ外伝 ジェネシスブレイカー●柿沼秀樹、マーシーラビット 月刊ホビージャパン2023年8月号(6月23日発売)

機甲創世記モスピーダ公式外伝第11話!
TV放映より40周年を迎えた『機甲創世記モスピーダ』。本作のメインクリエイターである荒牧伸志、柿沼秀樹両氏を迎えた公式外伝小説『GENESIS BREAKER』の第11話。2083年1月、インビットから地球を奪還するため、人類史上最大規模の地球降下作戦「ラージスケールオペレーション2083」が開始された。インビットの反撃で大打撃を受けた艦隊だったが、なんとか特務隊を収納したカプセルを地球に向け射出する。地球に降り立った特務隊のゲイトとエブリは、北米大陸にある敵の拠点とされる“レフレックス・ポイント”を目指す。
STAFF
原作/タツノコプロ
企画協力/千値練
キャラクター原案/湖川友謙
小説・ストーリー構成・設定/柿沼秀樹(DARTS)
メカニカルデザイン・設定/荒牧伸志
メカニカルデザイン協力・設計/前野圭一郎(T-REX)
イラストレーション/マーシーラビット
スペシャルサンクス/戸張雄太(T.E.S.T)
RIOBOT 機甲創世記モスピーダ外伝 GENESIS BREAKER 1/12 VRS-077F イントルーダー ゲイト
絶賛予約受付中!
●発売元/千値練●25300円、2024年3月予定●1/12、約15cm●原型・設計/前野圭一郎(T-REX)
詳細は「月刊ホビージャパン 8月号」P.335に掲載!
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データシップ ─Data ship─
| インビットの使命
途方もないエネルギーを必要とする重力波通信によって、577.3光年も離れた蟹座、M44プレセペ散開星団に浮かぶ、巨大な“船”の画像が、インビットの拠点であるレフレックスポイントの作戦室に映し出された。繭を束ねたような構造の超巨大宇宙船は、時空から孤立可能な外殻で全体を覆われ、その船体の大半は“現宇宙”の生命、文明、構造のデータで満たされ、残りのスペースが推進器だった。宇宙収縮の際の絶望的な速さをエネルギーに変える転換炉はすでにテスト済みで、その船首は収縮点に向けられ、最後のデータの束を辺境宇宙から受信中だった。天文学的には1秒にも満たない、あと600年という短時間で、現宇宙が一点に凝縮されることを観測して以来、数千年をかけて彼らはこの船を建造した。来世に現世の全てを転送するという壮大な仕事を使命として存在するインビットは、言わば宇宙の遺伝子としての機能を、既に何千タームも行ってきていた。それは我々人類が使う時間の概念を超えた長大な時空間の性で、彼らがそれを怠れば宇宙は空虚で無価値なものになってしまうだろう。
船の製造行程はすでに98%が消化済みで、搭載した無限に近い量のデータの整理と、予備推進器の点火システムのテストのみが残されていた。
一方、インビットを単なる“生存圏を略奪する侵略者”としてしか理解できない人類火星軍の最後の攻撃軍が、火星を離れ地球圏へと進む様子も映し出された。彼らの兵器も、この短期間に進化を遂げ、戦闘時に正面に立つのは無人化、AI化された戦闘用マシンたちだった。敵を倒すという単純な目的を追求した破壊のための軍隊だ。それは火星の物質的、人的資源を総投入した、人類側の最後の巻き返し作戦だった。
レフレックスポイントの作戦室の広いホールには、地球侵攻軍の人類兵士からコピーされた数千名のインビット指揮官が集められ、最高意思であるレフレスからの指示が下された。それは言語ではなく、映像でもなく、どうすべきか、なにが最善か、と言うイメージとして、結論として示されると、各員は自分の役割を瞬時に理解しそして直ちに行動に移った。その中にあってインビット・ゲイトは、オリジナルのゲイトの記憶の中から彼女の生い立ちと、彼女が地球に派遣された理由を反芻した。血脈と言う十分条件で、再び地球の支配権を奪還しようと目論む一族の、独善的な欲望を果たすため、ゲイトは育てられた。しかし地球が残されなくてはその目的は達成されないはずだ。インビット・ゲイトは、ゲイトとの唯一の共闘条件をそこに見出すと、ゲイトへの交信を試みた。
| ゲイトからの呼びかけ
北大西洋に面した大陸の東端に宇宙基地がある。かつて20世紀、初めて人間を乗せて地球軌道を飛んだ宇宙カプセルもここから打ち上げられた、そんな宇宙開拓時代の要所だ。インビット来襲時に多くの人々が、月や火星に避難した際にも、ここは宇宙港として機能したが、今、それらの施設は破壊され、赤さびた幾つかの巨大なガントリーが風に吹かれて突き立っている。しかしその地下には、秘密の巨大施設が残されていた。
それは世界大戦時にICBMの格納庫として使われた施設で、接近する監視衛星や武装衛星などを破壊できる高出力のレーザー迎撃システムも健在だった。
情報局はここを、火星軍の急進派たちによる地球環境を一度破壊してリセットしようとする計画“セカンド・ジェネシス計画”を阻止するための拠点に選んだ。そして敵、監視網をすり抜け、降下に成功したオルドリン率いる特殊工作員たちがここに集まっていた。
ゲイトたちもその末席に居た。そして改めて防止作戦のために送り込まれて来た30そこそこの若き指揮官オルドリンと、その部下40名、そして彼らの装備に目を凝らした。彼らと遭遇した夜は月も無く、さらに敵に視認されることを恐れ、装備したブラックライトの元での行動が続いたため、その詳細はこの地下施設に再集合することで初めて明瞭となったのだ。全身漆黒に塗られたアーモファイターとアーモボマーたちは、以前に増して、強力な兵装を装備している。また多数の携帯火器、迫撃砲、AI搭載自動追尾弾に音跡追尾弾。そして第三次降下作戦用に開発された最新のアーマーサイクルと、そのドライバーたちである。注視すべきは“生身の人間”と思われた40名ほどの兵士たちだった、彼らは微かなサーボモーター音を放って歩く機械化歩兵だった。ロボット兵士の開発は随分と以前から行われていたが、彼らはギアとフレームで稼働する旧来式の無骨なロボットではなく、歩兵の補充要員として生産された、人間と見間違う、そんな外観を持つ最新型だ。しかし高次な自律性を有するため、オルドリンの指示を聞きながらも、それを録音し前頭連合野に記憶しつつ、しかしせわしなく装備の整理、点検を行っていた。体自体は合成筋肉で稼働するが、肩や腰の強化フレームはモーター駆動で、数ヵ所にライドアーマーとのコネクターが見受けられた。
ゲイトが、彼らを目で追いながら「自分たちが随分旧式に思えて来たわ」と呟く。と、シモンズが「それは俺のセリフだ。俺の体は当時の一番ありふれた代替え人工筐体だからな。そろそろ買い替え時が来たらしい」とぼやいた。「兵士の頭数合わせのためではなくReplenish-man(補充兵員を指すスラング)だけの部隊は初めて見たわ」とエブリも感嘆符付きで言う。イーグルは「奴らにも地球の唯一無二性が理解できると良いんだがな」と、どこかで入手した地球製違法タバコに火を付けた。
オルドリンは情報局の意思を端的に述べた後、“セカンド・ジェネシス計画”妨害工作のあらましに移った。
「現在地球に派兵された兵士、および火星から地球圏に向かっている第三次降下部隊の兵士たちは、一様にインビットを撃退し地球を取り戻す事を至上目的と教育されている。従って火星軍上層部の独善的な強行作戦、つまり彼らが“月の向こう側作戦”と呼称する地球壊滅計画“セカンド・ジェネシス計画”の全貌を知れば、少なくない有志が我々に賛同するとのシミュレーション結果がここにある。これは心の動きではなく論理的思考に置ける作用を分析した結果であり、合理的、論理的思考を訓練された兵士であればあるほど顕著な例となる。我々は手始めにこの施設の高純度通信システムを使い、北米大陸に展開中の各部隊、兵士、ひとりひとりこれらの情報を送付する。インビットもろとも制限無き打撃により地球環境も破壊せんとする愚かな作戦の顛末も添えてだ。その後大陸数ヵ所に集結拠点を設け、集まった志願者と共闘し、火星軍上層部の無謀な地球壊滅計画を、実力を持って阻止するものである。作戦の詳細、手順はデータとして送信する」と締めくくった。
一部始終を聞き終えてゲイトが独り言のように言う。
「インビットたちの主張に嘘がなければ、私たちが何もしなければ、彼らはこの後、地球をやがて去る…“もう一人のあたし”から知りえたインビットの情報は、彼らの目的が現宇宙の終焉を飛び越えて“来世”にすべてを繰り越すという大使命を負っている事や…とにかくそうした情報は火星情報局に届いたの?」
エブリが応えた。「軌道上の通信衛星との交信が回復したのですでに情報は送信した。恐らく月の裏の司令船には届いて、今頃は火星情報局の担当士官が受け取り、分析に入った頃」
それを聞くや紫煙を吐きながイーグルが口を開いた。
「遅きに失したな…第三次降下部隊はすでに火星を発った。それに、その情報を、戦争を主導している火星軍上層部が信じるとは思えない。奴らの解決方法は破壊しかない。そのための組織だからな。奴らにとっては、インビットの行動はどうでもよくて、すでにグレートリセットそのものが目的化している、と見ることもできる。いや、そう見たほうが現実的だ。事実、第二次降下作戦発動時も、作戦発動後は敵インビットの動向如何に関わらず、敵本拠地まで侵攻し敵を殲滅する事のみが最優先された。地球残留者たちや環境に齎される被害は一切考慮されなかった」
その発言に続けて、顎に手を添えたままシモンズは言う。
「インビットの行動は証明できない未来の一つだからな。いや、どの未来も証明は出来ない。ただどのパターンの未来を信じるか、その選択だけは出来る。そうだろネセサリー」と問うと、投擲弾の詰まった大きなケースに腰かけて半分眠っていたネセサリーが、とりあえず敬礼を返した。
シモンズの意見が終わるのを待って、意を決したかのようにイーグルがタバコを投げ捨ててからゲイトに見向くと。
「あえて聞くが…我々を送り込んだイズメイア家の意図は、インビットとコンタクトしてあわよくば共闘し、自分たちに有利に地球占領を進めんとする独善的火星軍部に先んじて、地球に置ける利権を確保するためだ。再び支配層にのし上がる絶好の機会だからな。この際だから誰がより利己的で誰が抜け駆けしようとしている悪党か、なんて無粋な事は問いたださんよ。しかし誰一人として“共通善”を目的として行動している奴はこの世の中にいないものなのか?!」と言い切りそして続けた。
「そうと知ってるからこそ」
と前置きしてから、ブレイカーズの面々を見渡してから。
「お前たちも消去法でこの部隊に参加したんだろ。恐らく…」
と言いつつエブリに見向くと。
「政府施設の融合炉を二つだか三つ吹っ飛ばした元テロリストは、司法取引で無罪放免と交換に…」
次にシモンズに目線を送ると。
「マシン兵士は高価な人造肉体を得るために」
小さなネセサリーに向かっては。
「“限定されてる肉体の成長”を解除するのにも超法規的対処と資金が必要だ」
そして最後にゲイトに視線を戻すと。
「あんたはあんたで支配者一族の血脈の束縛からは逃れられんしな」
そして最後の最後に自身の行動動機を吐露するに至った。
「俺は俺でだ、再生施術を複数受けているため元々の記憶がない。恐怖も痛さも思い出も持ってないから、もう一度だけ人生をやり直したくてな。軍務から解放された平凡な生涯ってやつを、ついでにシモンズと同じだが、新鮮な肉体も希望ってわけだ。このまま軍務に従事して居ちゃ、また戦死して再生を繰り返すだけの人生だからな」
ゲイトは、そのイーグルの懺悔にも似た語りが終わるのを待って、何時になく冷めた表情となると一歩二歩、歩み出でから皆に振り返り。
「インビットがなんたるか、を既に送信済みなら…我々の使命は終わったことになる。イーグルが言うように、私に残された使命は、軍部急進派たちの過度な破壊を阻止して、地球をなるべく無傷で取り戻し、戦後イズメイア一族の影響を最大化する事くらい」と、冷めた口調で続けた。そして一度大きく息を吸い込んでから。
「私の権限で、今日、ブレイカーズは解散とするわ。上層部には、各員が使命を全うした旨を報告しておく。当局は個人それぞれと交わした契約を履行されたし…とも」
突然の解散発言に、各員がそれぞれの顔を見た。
「選択肢はいくつかあるわよ。やがて到来する第三次降下隊と共に地球奪還作戦を遂行する、あるいはオルドリンの部隊と共に地球破壊作戦の最後に控えた“セカンド・ジェネシス計画”阻止のために戦うという道もね」と、言い残すとゲイトは少し離れたところに止めてあった愛車イントルーダーに向かって歩き、振り返らずにシートに収まり、ゆっくりとメットを被りスピーカー音声で最後の一言を発した。
「もう一人の私が呼んでいる」
そしてスロットルを回し前輪を浮かせて地上へ続くキャットウォークを駆け上がった。
全員が取り付く島もない状態でそこに残された。
「お役御免…てかい?」とはシモンズ。
「任務コンプリートなら…私は正式一等火星市民になる。自由なね」とエブリ。
「俺は軍隊以外の職探しか」とイーグルが誰にともなく言った。
言い終わると全員がネセサリーに振り向いた。しかし彼女は糸の切れた人形のように、いつになく無邪気な寝顔を晒していた。
| 共闘
小高い丘の上にもう一人のゲイトの姿がある。厳ついNOVAタイプのスーツ姿だ。目の前に駐車したゲイトがバイクから降り立つと、インビット・ゲイトの部下たち数体が夜空から降下して来て報告をした。そしてその結果をもう一人のゲイトが語った。
「破壊作戦の首謀者たるパートソンの複製はすでに半数を始末した。あと一人か二人で片が付く。その後は既に搬入された“ポールシフト”を誘発する弾体を見つけ出して破壊する。輸送機ではなく小型の再突入グライダーで大陸の数か所にすでに投下されているのは確認済みだ。従って見つけ出すのは我々にとって容易いことだ」
それを受けてゲイトが問う。
「それじゃあアタシの仕事はもうないと?」
するとインビット・ゲイトは夜空に立体スクリーンを展開し、地球圏へと迫りくる火星軍の第三次降下部隊の大艦隊を映し出した。黒い戦艦、黒いシャトルに黒い戦闘機たちは、電波や光学機器に視認されにくい隠密性の高い塗装で塗装され、大半が無人システムによって運用されていた。
「降下部隊は三派に分かれ、それぞれが一斉攻撃を仕掛けて来るつもりだ。大部隊を地上に送り込んだ後、殲滅戦を仕掛けて来る。以前と違うのは投入される主力が、ロボトロニクス兵士に自律兵器、火器で、つまり死を恐れぬ無人機と言う点だ」
と解説した後、映像には見慣れぬ物体が映し出された。
「艦隊はまた荷電粒子ミサイル群を曳航してきている。艦隊正面に数発、最後尾に数発だ」
映像がズームされるとその詳細がより克明に映し出された。
「星屑にカモフラージュした我々の無数のセンサードローンが彼らの艦隊の詳細を伝えて来る。この布陣にはある意味を読み取れる」
「…意味?」
と問うゲイトにもう一人のゲイトが答えた。
「前面の一群はレフレックスポイントに向けて射出するためのもの、そして後方の一群は…」
そこで一度言葉を切り、しかし続けた。
「離陸する我々の船を破壊するつもりだ。彼らは今までに得た情報から我々が地球圏を離脱する可能性も視野に入れ、我々インビットの殲滅を期した作戦を立案したのだ。彼らはなによりも、火星への侵攻を恐れ、我々が地球圏を離脱する可能性も大いなる脅威と捉えているのだ」
映像が虚空に消えるとインビット・ゲイトは何の言葉も残さず、飛行体制を取り、部下たちを引き連れて残された仕事を片付けるため、再び夜空に飛翔した。
残されたゲイトは夜空の銀河を見上げて大きく息を吸った。
つづく
MECHANIC
メカニック
#11
SPITEFUL
MISSILE
IKAZUCHI
IZUMO
SPITEFUL/Armor Fighter-DBtype(Drastic Battle type)
IZUMO/2000ft classBRS(Battle-RifleShip)
designed by Hideki Kakinuma,Shinji Aramaki
【 GENESIS BREAKER 】
09 マイ ネーム イズ ゲイト ─My name is gate─
11 データシップ ─Data ship─ ←いまココ
12 火星人との戦争をとおして ─Through wars of worlds invaded by mars─ new
Ⓒタツノコプロ