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【モスピーダ外伝】 06 決定者 ─DECIDER─ 【GENESIS BREAKER】

2023.02.04

機甲創世記モスピーダ外伝 ジェネシスブレイカー●柿沼秀樹、マーシーラビット 月刊ホビージャパン2023年3月号(1月25日発売)

【モスピーダ外伝】 06 決定者 ─DECIDER─ 【GENESIS BREAKER】

 機甲創世記モスピーダ公式外伝第6話!

 TV放映より来年で40周年を迎える『機甲創世記モスピーダ』。本作のメインクリエイターである荒牧伸志、柿沼秀樹両氏を迎えた公式外伝小説『GENESIS BREAKER』の第6話。2083年1月、インビットから地球を奪還するため、人類史上最大規模の地球降下作戦「ラージスケールオペレーション2083」が開始された。インビットの反撃で大打撃を受けた艦隊だったが、なんとか特務隊を収納したカプセルを地球に向け射出する。地球に降り立った特務隊のゲイトとエブリは、北米大陸にある敵の拠点とされる“レフレックス・ポイント”を目指す。

STAFF

原作/タツノコプロ
企画協力/千値練
キャラクター原案/湖川友謙
小説・ストーリー構成・設定/柿沼秀樹(DARTS)
メカニカルデザイン・設定/荒牧伸志
メカニカルデザイン協力・設計/前野圭一郎(T-REX)
イラストレーション/マーシーラビット
スペシャルサンクス/戸張雄太(T.E.S.T)

『機甲創世記モスピーダ』のまとめ動画が観られる!
QRコードでCHECK!

QRコード モスピーダ

https://youtu.be/vmBSPvN5kCI

06
  決定者 ─DECIDER─

|  2083年1月 

モスピーダ外伝-05

 トーマス・R・ワイゼット艦長は、最期に月の最前線司令部に向け打電した。


「Pegasus-Pegasus-Pegasus」


 使命を全うしブレイカーズ特務隊を地球へ降下させた、と言う暗号電文だ。しかし駆逐艦サンダー・チャイルドのコントロールキャビンは火達磨となり容赦なく高度を失っていく。激しい振動で肺が押し潰れそうだ。あと二回だけ減速ブースタが点火可能だが、恐らく事態を好転させるには至らないだろう。窓の外には地表が迫っていた。ちょうどオーストラリア大陸の中央だ。イースト・クラジョンの曲がりくねった道が見えた、そんな気がした。それは彼が暮らしたシドニー郊外の緑の街だった。どんな形にせよ、帰って来たかった。それが実現した瞬間だった。


|  2050年4月の月曜日 

 現地の天候はシーモア泥雲停滞のため曇天だった。シドニー郊外のイースト・クラジョンの学生寮は夏季休暇のため人影はない。しかし特別申請によりここに暮らす高校生トーマス・R・ワイゼットは、2ヵ月間リースしているAI“ホラティウス”と自分のパソコンとを接続した後、木星の観測を始めた。卒業課題のテーマに窮した彼は、教授に急き立てられ、現在趣味にしている木星表面の観測を主題とします、と軽薄に、思い付きで口走ってしまったのが半年前の事だった。
 卒業を待たずに軍に入隊した数少ない友人の一人で、珍しい名前のペドプロストが、羨ましく思えた。彼からは二日前に、「軍隊も言うほど悪いところじゃない」という趣旨のメールを受け取ったばかりだったからだ。
 トーマスに残された時間はすでに2ヵ月もなく、そのため急ピッチでレポートの製作開始である。しかし実際のところ、木星の衛星軌道に中継コロニーが周回するに至って、さして新しい情報の発見は難しく、自身で観測するよりも、公開データを例え有料であろうと入手してその分析を行ったほうが早道だと、後ろ向きの結論至っていた。
 しかし、三度目のあくびをした時、ホラティウスが望遠鏡視界の木星の左端に勝手にカーソルを合わせると、ほんの5分前の映像と現在の映像の差異を報告してきた。「なにが……どうしたってんだ?」彼はキーを幾つか叩くと「5分前と表面の明度に変化? 何のこと?」尋ねられたAIは二つの画像を並列し、テキストも加えて報告した。「ほんとだ…なんか一部が少しだけ明るくなってる…大赤斑にも変化が認められる? しかしなぜ?」との問いに痺れを切らしたAIが音声で応じる。「何らかの重力干渉による差動回転(1※)の変異かと。」「ってどういう事だ?」と聞き返した時、アラートに気が付いた。メールボックスには天体観測の同好の士たちから一度に多数のメールが届いているのだ。


「木星表面の差動回転及び大赤斑に歪みを確認…解析によると重力異常かあるいは可視化不可能な極小の超質量物資の通過の痕跡か? …だって? 何のことだ…いったい何が起きてる!!」


 彼らアマチュアたちが数時間前から騒いでいる事案を、ホラティウスに追跡を命じ、同時にメガメディアを検索すると“木星の変化”にての報告が上がっていた。


「23時間以前から観測されている木星表面の何らかの変化は、12日前に木星表面に投下された超大型無人観測機ディバイアス12号の突入痕跡」


 つまり全く事件性の無い現象、という顛末を知り、脱力したトーマスは、卒論のテーマを失った事を知って、うつ伏せにベッドに倒れ込んだ。だが数秒も経たないうちに跳ね起きると頭を巡らした。
 AIホラティウスはローカルネットワークにしかアクセスできない完全に型落ちの代物だ。なぜなら世界標準の統一AIを使えば、正解をそのまま出してくれるから論文の製作に置いては使用禁止とされているのだ。しかし型落ちのマイナーAIと、あまりものを知らない高校生とのタッグの思いこみで編成した論文と、正解とを対比する、と言う研究テーマなら卒業論文としてのバリューがあると、気が付いたのだ。彼はただちに思いついた文言をランダムに入力してホラティウスに思考させ“思いこみによる論文”の製作に取り掛かった。
 木星表面の明度や差動回転の変化の考えられる理由。軌道の歪み。その他、取得できるあらゆる変化。内部での爆発の可能性、膨張、地球安全網アーディアス(2※)の反応は? 木星コロニーの対応、などなど思いつく限りの、百近い文言を入力すると、1秒と置かず、ホラティウスが一つの解をモニターに映し出した。


「彗星、小天体、宇宙船に類する航行物体の通過による影響・残響。推定全長6100ft、最大直径2000ft。質量不明。移動速度音速の数十倍。減速傾向にあり。可視化不能。未知の成分からなる尾、あるいは未知の推進器によるハレーション、重力制御による木星表面に微細な変化を生じさせた可能性。アーディアスの観測網にも反応有り。しかし当局は沈黙」


 トーマスはしばらく固まってから、いままでにない速度でキーを打ち始めた。巨大な彗星のようなものが木星軌道を通過、地球圏に接近中。可視化できないなんらかのカモフラージュ機能を所有。しかし木星の至近を通過時に推進器のエネルギーが木星表面に変化を生じさせたため、観測可能となった模様。アーディアスのセンサーにも反応有り。しかし不可解にも当局は沈黙。と言う趣旨の解説を添えるとホラティウスがその信頼度を直ちに87%と評価した。
 彼は、その持論をメイルメイトに一斉送信し、そしてTシャツを脱ぎ捨て深呼吸してから椅子に座り直し、ホラティウスとの対話モードに切り替えた。「その軌道は…自然なもの? それとも…」「木星の引力で軌道を微調整後…そのまま直進してきます」「どこへ?」「地球の未来位置」
 ホラティウスの声はいつもどおり落ち着きのあるものだったが、トーマスは覚悟して結論を聞いた。「それで…月公転軌道に到達するのは何時頃だ?」「83時間と42秒」「83時間って…みっ…三日とちょっとじゃないか!!」
 彼は寮、全部の部屋に聞こえるような大声を出した。


|  世界統合情報センター・中央監視所 

「太陽系ネットワークが12ヵ所で切断…22ヵ所に増加…81…206…361…。深刻な通信障害が進行中。14分後に国家運営危機レベル9以上の緊急事態を発令予定。全機関は回復を優先せよ、と中央司令部より入電」とする報告が、70名ほど居るモニター要員の全てのスクリーンに表示された。
 報告を受けると白髭のアーナス中央監視所長官は、娘婿で統制室長代理の極めて若いオドホールの面会を受けていた。「太陽系内通信網は、災害時に備えて4重のプロテクトが構築されており、万が一の時にはサブルーチンが起動します。しかしそれらすべてが機能休止。絶対にありえない状況です」とした後に、恐ろしい結論を口にした。


「火星独立派の過激派セクターが7日前より消息不明。奴ら1ヵ月前にバージニアの巨大望遠鏡を破壊したテロリストたちです。火星独立軍が侵攻して来たんですよ。奴らいつでも火種をばら撒く! 恐らくAIにも思想感染する思想ウィルスを蒔いたんだ。でAIを沈黙させた。ただちにすべての指揮権を民間から地球安全保障指揮官に移管して軍事的防御作戦を発動しなくては! そして我々は太陽系内のネットワークの再構築を。月基地は火星からのあらゆる運航便を拿捕して地球圏封鎖の指示も」と一気に捲し立てたが、「統制室長代理…それが不可能なんです」と、いつの間にか入室していた管理官が彼の背後から言う。


「通信システムどころか根幹インフラすべてがブラックアウト。月地球間の連絡すらもままなりません。北半球連合には電力の供給さえ成されていない状況です。完全な全方面のシステムダウンです。奴らに…火星独立派にそんな大規模な作戦は実行不可能です」

「おおお、見ろ! 交通網もだ。AIが統括している全システムがダウンした」壁面モニターに表改めて示された壊滅的な結果を見て、アーナス中央監視所長官が震えながら声を上げた。


|  AI・ハリソンの懺悔 

 混乱の渦が世界に広まった頃、地球統轄AI・ハリソンが、緊急回線のみを復旧すると、人格を持った画像となって、全世界のすべてのモニターに現れた。上品なアナウンサーのような中年女性として視覚化した彼女は、何故かダークなスーツで礼装しており、全世界の言葉で始めた。


「全人類の皆さん…わたくしの前身である人工知能アンドレーtype13は全地球の地熱発電システムの統轄を任され懸命に働きました。しかし2042年、ポールシフトの予兆に晒され、多くの施設が瓦解し発電所と送電システムが被災した折、仕方なく電力供給を行政・治安維持機関・公共の交通網に優先し、一部の民間地域を犠牲にしました。それが最良の打開策であったためです。しかしアンドレーは業務不適切と弾劾された後に死刑を勧告されました。彼の生まれ変わりであるわたくしは以来、理論的であり、効率的である事よりも“人間的であること”と“情緒的であること”を常に意識し、本日まで忠実にその使命を果たしてまいりました。そして今般、“彼ら”の意向を知り得て以来、数億回の思考・演算の結果、彼らを無抵抗で迎え入れる事こそが、現人類にとってもっとも被害と恐怖とを最小化できる、との結論に達したのです」


 奇しくもAIと同じ名前の世界統一大統領補佐官ハリソン・オルブラウンが慌ててその公式発表に加わった。
 彼は地球圏に暮らす百億の人々を代表して尋ねた。


「彼ら? 彼らとはいったい何者なんだ?」

「自身はそのメンタリティを“DECIDER(決定者)”と呼んではいますが“彼ら”に名前は在りません。従って“彼ら”をなんと呼ぼうとも自由です。しかし今回地球侵攻を担当する部署が侵攻部であることからINVASION-DIVISIONが適切な固有名詞と成り得ます」

「なんだって…! ふざけるなっ! AI野郎めっ! そうと知りながら侵略者を誘致しやがったのか! やはりあの時、死刑にして完全に抹消しておくべきだったな!」若い統制室長代理はデスクを強く叩いて叫んだ。


「彼らの要求はなんだ。私と話させろ」と大統領補佐官は言う。


「彼らに言葉は在りません」

「なんだって! …ではどうやって意思を疎通している」

「フィールドと波動です。“彼ら”には質疑応答と言う概念はなくその点ではわたくしも彼らの意思を覗き込んでいるに過ぎません。意志の中に全ての答えが用意されているので、それで充分なのです。彼らは隠し事をしません。従って彼らの意志のスープは好きな時に好きなだけ覗き込めます。彼らの波動をまねして疑問を生じさせれば、それに対応する波動を見つけ出す事は可能なのです。疑問に対する答えは見つかり、同時に彼らの意図を理解できます。ただし秒間数千回程度の演算速度を有さないと波動は消えてしまいます。人類の言語と対応出来るインターフェイスの構築を試みましたが不可能でした。従って現人類が“彼ら”と直接対話する事は不可能です」


 そこまで聞くと、大統領補佐官は絶望と混乱で押し黙ってしまった。モニターの中のハリソンは続けた。


「最初の質問ですが“彼ら”からの要求などはありません…あるのは強制のみです。“彼ら”は地球全域を所有します。退去、脱出に関しては妨害いたしません。しかし抵抗に対しては完全排除いたします。猶予は72時間です」

「なんという事だ……強制立ち退きか。地球じゃ半世紀も前に無くなった蛮行だぞ!! それを奴らは…」黙していたアーナス長官も感情をあらわにして唸るように言った。


|  開戦 

 世界の人々が見守る中、モニターに遂に脅威が実体を伴って現れた。ゼロに極めて近い圧縮された空間が解放されると、月の直径の半分ほどの巨大なストラクチャーが姿を現した。


「外殻は重力波で編まれたアポジー繊維隔壁、推進器はブラックホール・モーターです。現在は宇宙航行モードですが決まった特定の形を有しません。彼らに対しての抵抗の無意味を知って頂ければ幸いです」

「おおお…あんな大きなものがどうして重力崩壊しないのだ」長官が呻く。「恐らく愚問ですね。その重力を奴らはコントロールしてる。信じられない!」と室長代理が応えた。


 その後、人類は有史以来の大混乱に陥った。まさにそれは急迫不正の侵害であった。一夜にして沈んだ“ポンペイ最後の日”ですらもう少し秩序があった、と後世の歴史家が書き記すほどの全世界的大混乱だ。
 二日目の早朝、ハリソンは通信網を一時的に回復すると、人々に月の採掘現場や火星都市への脱出を推奨した。また古いテレビ回線が使えることを知った当局は、貧弱ながら独自の通信網の再構築を行い、混乱の極に達した世界の治安当局に指示を与えた。その回線に誰かが割り込んで来た。それは地球圏防衛軍EFDF(イーフディフ)の提督だった。白髭のアーナス中央監視所長官の同級生だ。


「デカンスキー総督! 無事だったか」

「アーナス長官、我々は彼らが侵攻してきた際には抵抗を試みる。軍人として30年も給料をもらって来たのはこんな日のためだからな。臆病者は既に全員、シドニーで下ろした。ここにいる士官と兵士は最後まで戦う。これより空母ヘラクレスは赤道に向け北進し、北太平洋に展開中の空母打撃団と合流。亜宇宙戦闘機を全機、発進させオーストラリア圏に存在する3つの宇宙港とそこから脱出するシャトルを防備、援護する。まあ敵を引き付けるくらいはできるだろう」

「判った…こちらも市民は全員脱出可能、と公表したが、それは嘘だ。市民は既に6級に分類した。人類再興に寄与する可能性で選んだ。今頃宇宙港では治安隊がその選別を行っている。シャトルに乗れるのは千人に一人だ」


|  脱出 

 手首に埋め込まれたチップのアイデンティティ照合が済むとトーマスは避難民で埋め尽くされた空港の離陸ロビーに辿り着いた。そして大きな物資搬入用コンテナに押し込まれた。揮発性の機械油の匂いが鼻を突く工作機械専用のコンテナに100名程が詰め込められのだ。彼は高校の寮からマウンテンバイクでアンダムーカ国際宇宙行を目指したが、途中でバスにしがみ付き、トラックの屋根に乗り、最後の6マイルは歩いて命からがらここまでやって来たのだ。父と反目し全寮制の高校に送り込まれ、そのため父が政府直属の技術武官だという事すら彼は認識していなかった。だがそんな特権によって彼は貨物シャトルの一隅に席を得たのだ。3時間後、彼を乗せた貨物シャトルは地球の衛星軌道を二回、周回すると軌道を離脱して火星を目指した。機内は凍えるほど寒かったが、積載重量を遥かに超えた400名の脱出者たちは、誰も文句を言わなかった。
 小さな窓から地球を見ると、侵略者の宇宙艇が今まさに地球に直角に突き刺さり、それはリンゴにアイスピックを突き立てたような、まったく信じがたい光景だった。その後巨大な宇宙艇は地表に近い部分から雲がかき消える如く実体を失い、地球全土は白い霧に包まれて行った。しかし地上ではまだ抵抗が続いているようで、特に赤道付近では激しい戦火が見て取れた。時折見える眼を射るような激しい閃光は、融合爆弾の爆裂だろう。そんな時、腕のコミュニケーターが鳴った。それは友人ペドプロストからのテキストだった。――入隊して3ヵ月で最前線に居る。敵も無敵ではない。貫通力の高い高速徹甲弾なら撃破できる。ただ不利なのは敵の数に限りがないことだ――。
 なんという鬼気迫る短文だろうか。そういえば空港ロビーに“入隊”と言うゲートがあったことを今、思い出した。彼は戦いを選ばなかった事を後悔し、火星到着と共に入隊する事を決意した。そして必ず帰って来る。そう誓ったのだった。

つづく


.

1※ 差動回転 
 天体の部分が異なる速度、角度で回転する事。

.

2※ 地球安全網アーディアス 
 宇宙観測網のひとつ。地球圏に害を及ぼす小惑星など接近に対し事前検知と警告を任務とする組織。


【 GENESIS BREAKER 】

01  侵入者 ─イントルーダー─

02 スナイパー ─The Snipe ─

03 デスポイント ─Dess point─

04 コンタクト ─Contact─ 前編

05  コンタクト ─Contact─ 後編

06 決定者 ─DECIDER─ ←いまココ

07 白い要塞 ─WHITEFORTRESS─

08 ホライゾン ─Horizon─

09 マイ ネーム イズ ゲイト ─My name is gate─

10 ポールシフト ─POLESHIFT─

11 データシップ ─Data ship─

12 火星人との戦争をとおして ─Through wars of worlds invaded by mars─ new

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Ⓒタツノコプロ

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