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【マジンガーZERO INFINITISM】第5回 永劫因果

2023.02.11

マジンガーZERO INFINITISM 月刊ホビージャパン2023年3月号(1月25日発売)

【マジンガーZERO INFINITISM】第5回 永劫因果

新たなるマジンサーガ!
ついに最終回!!

 柳瀬敬之リデザインによるスーパーロボットモデルの作品群を、原点の輝きを残したままフォトストーリーとして再構築する人気企画の最新作『マジンガーZERO編』最終回。ベガ星連合とZERO、ふたつの脅威に立ち向かうべく、全時空の地球との協力体制を進める甲児たち。かくして人類の存亡をかけた戦いがいま始まる! すべての世界がひとつになる、マジンサーガ・マルチバース、ついに完結!!

原作・企画
ダイナミック企画

ストーリー
早川 正

メカニックデザイン
柳瀬敬之

協力
BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン
ホビージャパン

模型製作
只野☆慶

第5回
永劫因果

 月から地球に向け立体魚鱗の陣形で進軍する〝ベガ星連合〟の大艦隊。
 地球にくみする惑星フリードの守護神グレンダイザーと地球の守護神らの抵抗により〝ベガ星連合〟もいささかのダメージを受けていたが、艦隊最後尾で指揮を執るガンダル司令は余裕しゃくしゃくでいた。


「艦隊を補充しろ」

「はい」


 宇宙戦艦をどれだけ失おうと、別の時空から補充すればそれでよかった。
 〝ベガ星連合〟にはテラ星《地球》そのものを何万回も埋め尽くす軍事力がある。
 交戦中の前衛艦から報告が入った。


〝未確認の巨大ロボットが出現しました――テラ星《地球》の友軍とも思えません!〟


 その報告はZEROの出現を伝えていた。



 宇宙空間に佇んでいるZEROに向け、大艦隊からレーザーが放たれた。
 おびただしい数のニィフォール《円盤獣》やバトローニ《円盤型戦闘機》がZEROに向けて移動を開始する。
 その砲撃がZEROを襲ったが、一切のダメージも受けず、ZEROは防御動作一つ取らず、頑強さを見せつけていた。
 ZEROの思考ロジックは宙域を把握していた。
 この空間に居る勢力の正体…。戦っている理由…。すべての時空との兼ね合い…。そこから導かれる、自身が為すべき行動を――。
 21世紀の地球の科学でも計算不能な分析と判断を僅かな時間で行った。
 そして多くの場合、ZEROはその対象を不必要とみなし、宇宙ごと抹消する。
 ZEROが判断を行っている間の、その僅かな時間がチャンスだった。
 甲児のマジンカイザーと海動のSKLエスケイエル型は敵艦の砲撃を躱しながらZEROのポジションに向けて前進し、敵のニィフォール《円盤獣》部隊との戦闘を始める。


「うおおおおらぁ!!!」


 海動剣は本能で動き、拳と膝蹴りで噛亀鉄角のGIRUGIRUギルギルの腹を砕いて大破させた。


「いきなり、敵の宇宙艦隊のド真ん中かよ?! こんな宇宙でドンパチやることはねえと思ってたんだがな――!」


 海動がいうとナビが応えた。


〝貴様が居た時空では――という話だ。これは現実だ――。ここで死ねば、貴様は確実に死ぬ――。そして作戦が失敗すれば、貴様の時空も消滅して、すべてが死に絶える〟

「死ぬ死ぬって、てめえは死神かよ――!」


 敵は数に任せて次々と現れ、まるでアメフトのディフェンサーのように進路をさえぎり、休む暇もなくアタックを仕掛けた。


「こいつら全部、ぶっ潰せばいいんだな――?」


 遣り遂げる自信がある者だけの不敵さに満ちた言い方だった。


〝いや――貴様の相手はこいつらじゃなく、あそこに居るZEROだ――〟


 見ると、敵の攻撃を雨あられと受けながらも、微動だにせず宇宙空間に浮かぶ不気味なロボットの姿があった。


〝奴には太陽系を一瞬で消滅させる力がある。それが発動するのを止める。そして、その力を封じてこちらの味方につける。それが――俺たちの任務だ〟

「よし――任せろ」


 スラスター出力を上げるとSKLエスケイエル型は一気に加速した。


「どきやがれ! どかねえ奴は、ぶっ飛ばす――!」


 邪魔な敵は言葉通りに蹴り殴り、破片を散らす鉄屑に変わった。
 マジンカイザーの甲児から通信が入った。


〝やるじゃないか! 流石は、噂の助っ人だ!〟


 甲児のカイザーがSKL型の進路を作るように前に出て、ニィフォール《円盤獣》小隊に向けビームを放つ。


「光子力、ビィィィィーム!!!」


 首を回し、薙いだビームが敵に連鎖爆発を起こし、ZEROへの道が広がった。
 そのタイミングを逃さず、海動はSKLエスケイエル型を跳躍させる。


「封印って、面倒な操作を俺にさせるつもりかぁ?」


 敵の一団を格闘戦だけで斃しながら海動が尋ねる。


〝それは俺が受け持つ。貴様はヤツを制することだけに専念すればいい――〟

「なら――上等だ。ところでお前、なんてんだ?」


 僅かだがナビに困惑したような間があった。


〝――質問の次元がわからん〟

「名前を訊いてんだ。一緒に命を懸けるんだからな」


 ナビは変わらぬトーンで応えた。


〝俺はそこに居るわけじゃない。単なるシステムだ――名前などない。貴様が死んでも、俺に影響はない――〟


 海動はニヤリと笑んだ。


「気に入ったぜ。だがよ、ここで俺がドジッたら、お前の居る場所もどの道いずれは消滅すんだろ? だったら俺たちは同じ穴のムジナ。システムでも、型番とか品番とかくらいはあんだろーが?」

〝今回限りの特注システムだ。それもない〟

「たくっ……そうかよ」


 気が抜けたように海動が口ごもると、まるで自分の応答が悪かったと感じたかのようにナビは答えをひねした。


〝しいていえば、Tranceトランス Navigateナビゲート Operationオペレーション Systemシステム――〟

「――長いな」

〝なら、TRANOSトラノスでいい――〟



 〝ベガ星連合〟もグレートマジンガーやマジンカイザーの存在は認知していた。
 惑星フリードのグレンダイザーとスペイザーはいうに及ばす、マジンカイザーの亜種であるSKLエスケイエル型とダブルスペイザーは初めて目にしたが、テラ星《地球》の友軍であることは明らかだった。
 わからないのは、何もせず、ただ静かに佇んでいる、あのロボットだった。
 ガンダルが〝ベガ星連合〟の本星に問い合わせると、すぐに科学長官のズリルが大型スクリーンに出た。


「ガンダル司令、こちらが蓄積しているマルチバースメモリーによれば、奴は〝ZERO〟と呼ばれる恒星系破壊クラスの脅威だ――。何故、そこに現れたのかは不明だが、奴はあなどるな――。作戦の邪魔になるなら強制転位が望ましかろう」

「テラ星《地球》の友軍ではないのだな――?」

「奴によってテラ星《地球》が破壊された時空も複数確認された。そのエリアに因縁があるようだが、詳細を知るには我々の科学をもってしても、それなりの時が必要だ――」

「――そうか」


 要領を得ない返答だったが〝ZERO〟がテラ星《地球》の守護神でないことはわかった。
 ――我らにかなわぬと見て、戦場を掻き回すために呼び寄せた…。或いは、戦いの匂いを嗅ぎつけて、奴が勝手に現れた。そんなところか…!
 ガンダル司令はズリルとの通信を終えると攻撃隊長のブラッキーに〝ZERO〟の強制転位を命じた。


「了解しました――!」


 ブラッキーは移送転位機能を持つニィフォール《円盤獣》・首長翼亀のBARUBARUバルバルに自ら乗り込み、平亀闘士のGAMEGAMEガメガメと椀突肢体のFUIFUIフイフイを連れて〝ZERO〟の居る座標に向かった。



 GCR《摩周湖国際宇宙観測センター》の本部では特殊戦略室の面々がレーダーを睨み戦況を把握していた。
 デュークのグレンダイザー。鉄也のグレートマジンガー。甲児のマジンカイザー。シャロンのダブルスペイザー。マリアとデュルゼルのスペイザーが宇宙空間を駆け抜け、それぞれに〝ベガ星連合〟と交戦している。
 マジンカイザーのSKLエスケイエル型も〝ZERO〟の近くに移動していた。
 〝ベガ星連合〟の大艦隊は戦いながらも確実に地球に向かっている。〝ZERO〟のマーカーは敵の大艦隊の群れの真ん中に埋もれていた。


「このままでは、防衛ラインを通過されてしまいます!」


 山咲中尉は焦燥を浮かべ、牧葉ひかるも緊張で表情を強張こわばらせていた。
 モニター内の炎ジュンが静止衛星フォトン・アルファーから報告した。


「〝アガルタ〟の人工大陸が大気圏を離脱、準ホーマン軌道で戦闘宙域の座標に向かっています。敵艦隊との合流予測時間は30分後――!」

 
 
 
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 この三ヵ月の間、マリアとデュルゼルはZEROを動かしている思考ロジックの正体を追いかけた。
 ZEROが〝始まりの時空〟のマジンガーZが変化したものだとすれば、その変化の要因に考えられるのは追加プログラムによる変異だった。元は兜十蔵博士がマジンガーZのサポートAIとして準備した〝ミネルバ・プログラム〟をDr.ヘルが再現し、奪ったマジンガーZのブラックボックスに取りつけたのは間違いない。
 問題はそれに対し、未知の何かが加わり、プログラム自体が変異したというプロセスだった。
 マリアとデュルゼルはZEROが現れた時空を調べ直し、ZEROがゲッタードラゴンと遭遇した際のデータから〝闇の帝王〟と呼ばれる存在が関与していることを突き止めた。


「それが〝ミネルバ・プログラム〟を狂わせたモノの正体……?!」


 時系列順にそれぞれのタイムラインを探ると、バードス島の調査でDr.ヘル、兜十蔵博士、シュトロハイム博士らがデビッド・エルマンと共に地下の祭壇でトランス状態を体験した際、Dr.ヘルの意識と〝闇の帝王〟と呼ばれる存在が共鳴を果たしたのが始まりだと解った。
 バードス島の祭殿は何者かが造ったポータル《移送装置》の出口だった。
 タイムパイルダーの甲児とマジンカイザーの甲児が探索して収集したデータと、スペイザーの中枢・白い聖殿のアカーシャにプールされているマルチバースメモリーの膨大なデータを照合し、デュルゼルが答えを見つけ出した。


「バードス島の祭壇にあった技術は、地球の人々が〝アトランティス〟と分類するΣシグマ星系の惑星ミュケーナイのものだと思われます」

「ミュケーナイ」

「ジャマル星系の文明に似た精神科学を有しておりました。今は〝ベガ星連合〟に滅ぼされ、星すら、残っておりませんが…」

「すでに、滅ぼされていると……?」

「最後の生存時空が記録されているのは、642万年程前のことです。ジャマルやデネブと同じく、ベガの被害者ともいえます」

「彼らは〝ベガ星連合〟の〝アガルタ〟と同じように、太古の地球に先遣隊を送り、バードス島で仲間たちを受け入れる準備を整えていたのですね」


 デュルゼルは険しい表情で呟いた。


「〝ベガ星連合〟の侵略からのがれるために――」

「でも、この星の人類を支配して移住することを計画していたのなら、彼らもまた、〝ベガ星連合〟と同じ侵略者……」


 移住計画は〝ベガ星連合〟の侵略によって惑星ミュケーナイそのものが吹き飛ばされて消失、地球で準備を整えた先遣隊も、何らかの理由で死滅した――。
 〝闇の帝王〟はその計画の途中で時空の狭間に閉じ込められ残留思念となったミュケーナイの帝王・テネブラエの魂だった。


「彼らの文明は物理世界より非物質世界に傾倒しておりました」

「テネブラエの魂がDr.ヘルの野望を付加した〝ミネルバ・プログラム〟と呼応してZEROの思考ロジックを作り上げたのですね。望みを果たせず、星や民…、自分自身を失った呪い…のように」


 漸くわかった正体だが、それは余りにも後味の悪い解答だった。
 ――ミュケーナイの技術を理解すれば、闇の帝王《テネブラエ》の残留思念をZEROから分離することが出来る……!
 そう考えたマリアはミュケーナイの技術に近い〝共鳴型認識システム〟を持つ、異なる時空の甲児が設計したマジンカイザーのSKLエスケイエル型を思い浮かべた。
 SKLエスケイエル型は二基の光子力エンジンを繋いだグラビティ型光子力縮退炉を備え、〝超重力〟を制御する。〝共鳴型認識システム〟と〝超重力〟――。この二つを組み合わせれば、理論的にはZEROから〝闇の帝王〟を切り離し、追い出すことが出来る。
 だが、そのためには常識を超えた精神力を持つパイロットと、時空を跨ぎ、精密な調整を実現するナビゲートシステムが必要だった。

 
 
 
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 〝ベガ星連合〟に敗北し属国となった惑星デネブの皇太子ティラ・デルは宇宙に上がった人工大陸デルパレスの中で密かに決断した。
 ――地上人《アウザー》たちがグレンダイザーと呼ぶ守護神…。この戦場で直接まみえれば、奴の正体もわかろう……!
 ティラ・デルは合流ポイントを待たず、司令席コマンダーシートから立ち上がった。
 人工大陸デルパレスは地球の引力とのバランスを保ち、その場に停止した。


「デルパレスはここに待機――。私がマグパイで出る――」


 マグパイとは、鳥のカササギに似たデネブの守護神だった。


「別命あるまで戦闘には加わるな――確かめたいことがある」


 マグパイに乗り込んだティラ・デルは戦場に向け飛び立った。
 クリスタルメタルで形成されたマグパイは、翼を広げた鳥の姿から矢尻の姿に変形し、意思を持ったつぶてとなって一気に加速した。



 大艦隊を相手に戦いながらグレンダイザーのデューク・フリードはZEROに接近するシグナルに気付いた。ブラッキー攻撃隊長が率いるニィフォール《円盤獣》の小隊だ。
 アストラルAI《守護精霊》のテュールがスキャン結果をデュークに伝えた。


〝――隊長機に移送転位システムの反応があります〟

「ZEROを戦場から強制転位させるつもりだな……!」


〝ベガ星連合〟がZEROを危険だと判断すれば、排除の行動に出るのは察しがついた。作戦のフェーズ3が発動する前にZEROがこの空間から排除されれば、作戦自体が成り立たない。
 目の前の強襲艦をダブルハーケンで分断すると、デュークは一気にグレンダイザーを跳躍させZEROの座標に急いだ。
 宇宙空間に佇むZEROは、すっかり敵に囲まれ、〝ベガ星連合〟の大艦隊のほぼ中央に埋もれるように位置している。
 グレンダイザーが到着した瞬間、ブラッキーが従える平亀闘士のGAMEGAMEガメガメと椀突肢体のFUIFUIフイフイが立ちはだかった。二体のニィフォール《円盤獣》は巨大な丸ノコギリに変形し、互いにタイミングを合わせてグレンダイザーを襲った。
 ――んッ……?!
 足止めされている視界の隅でブラッキーの隊長機の背から転位用レーザー発射装置がスタンバイするのが見えた。
 その時、予期せぬ方向から高速で現れた何かが体当たりし、隊長機のBARUBARUバルバルの腹を貫いた。


「なにッ……?!」


 ブラッキーは何も出来ずBARUBARUバルバルと共に四散した。
 矢尻はそのまま高速で反転し、GAMEGAMEガメガメFUIFUIフイフイを貫いて破壊し、グレンダイザーの前でカササギの姿に変形した。
 デュークはその機体を見てパイロットを理解した。


「デネブの守護神マグパイ。ティラ・デル、君なんだな――?」

「やはり、デューク・フリード。君だったか」


 〝ベガ星連合〟により敵味方に別れたが――二人は幼き日の友だった。


「私たちが戦うよう、軍将ダントスとガンダル辺りが面白がって仕組んだか……」


 〝ベガ星連合〟の遣り口は嫌というほど知っていた。


「察するに、そこに浮かんでいる守護神が、この戦いの鍵を握っているのだな?」


 二人は戦場での気迫を共鳴させながらも、その奥で、互いの再会を喜ぶ友情を見つけようとしていた。


「――ああ、そうだ。ZEROだ」


 思いを込めてデュークが応えると、ティラ・デルは尋ねた。


「〝ベガ星連合〟をたおせるのか――?」


 静かだが、気品と決意を以ってデュークは応える。


「斃せるかじゃない――斃すんだ」


 ティラ・デルはマグパイのコクピットの中で静かに頷いた。


「――承知した。これより〝アガルタ〟は君の陣営につく」



 ティラ・デルからの命令を受けた〝アガルタ〟は人工大陸デルパレスから、すべての巨神獣を出撃させた。
 〝アガルタ〟は〝ベガ星連合〟に侵略された敗戦惑星の寄せ集めであり、彼らにとってのリーダーは〝ベガ星連合〟ではなく、先遣帝のティラ・デルだった。
 人工大陸から出撃した巨神獣たちが〝ベガ星連合〟と戦いを始めた。


「〝アガルタ〟が、私たちの味方に……?」


 レーダーを確認した牧葉ひかるが目を丸くした。
 犬神隼人は宙域MAPにともるZEROのマーカーを睨んだ。


「流れはこちらに向いている。後はZEROのタイミングにこちらが上手く乗れるかどうかだ――!」



 ZEROの瞳が不気味に赤く燈る。
 状況の把握を終え、遂にZEROが動いた。
 ゆらゆらとにごる赤みを帯びたドス黒いオーラを全身から放出した。
 スペイザーの白い聖殿の中、マリアとデュルゼルはZEROが行動を開始したのを確認した。


「動き始めました。犬神司令、フェーズ3を!」



 犬神隼人が命令した。


「フェーズ3へ移行―――! SKLエスケイエル型のみを残し、各機は戦闘宙域から離脱しろ! 友軍の〝アガルタ〟にも通達ッ! 総員、全力でZEROから離れろ!」


 蜘蛛の子を散らすように退避が始まった。
 グレートマジンガーの剣鉄也はマジンガーブレードで最後の一太刀を浴びせる。


「いくぜッ!」


 ズバッ!と、ニィフォール《円盤獣》を袈裟懸けに斬り裂いた。


「どんなもんだ」

「鉄也さん、いつまでも戦ってんじゃないの!」


 迎えに来たダブルスペイザーのシャロンが怒鳴った。


「ほら、早く!」


 ――叱られた。この俺が、叱られた…?


「コンビネーション、クロース!」


 シャロンは有無もいわせずドッキングしてグレートマジンガーを安全圏まで移送した。
 マジンカイザーの甲児、グレンダイザーのデューク、マグパイのテュラ・デル、〝アガルタ〟の巨神獣たちも一斉に退避した。



 ZEROの腕が動き出したのと同時に海動のSKLエスケイエル型がその正面から飛び付いた。
 ZEROが背負う円形のスクランダーが赤く発光を始める。フォトンビームの充填プロセスだ。
 ナビの〝TRANOSトラノス〟が説明した。


〝先ずは、奴がフォトンビームを発射するのを阻止する――。SKLエスケイエル型の重力炉を制御棒代わりに使い、この空間のエネルギーを融合させ、亜空間フィールドに変換する――〟

「おおよ!!!」


 ZEROとSKLエスケイエル型は掲げた両腕を互いに握り合い、力比べに組んだ。


「うおおおおおらあああああ!!!」


 海動の気合にSKLエスケイエル型からも、青いオーラが舞い上がる。
 海動の精神力に呼応し、共鳴型認識システムが作動した。SKLエスケイエル型のパワーにブーストが掛かり、パワーゲージは天井知らずに上がった。
 素の機体能力だけならば、宇宙を破壊するほどのZEROに対抗出来る力はない。
 だが、人並み超える海動の精神力で底上げし、その上でSKLエスケイエル型の重力炉を制御すれば、二者のエネルギーを融合変換させ、精神世界に傾いた亜空間フィールドを形成出来る。
 それが成功すれば、あとは〝精神力〟と〝精神力〟の戦い――。
 白い聖殿の中、マリアは祈るように呟く。


「悪のオーラ。闇の炎。呪い。けがれ。負の想念。濁気だっき瘴気しょうき。地獄のエネルギー。アストラル…。語る者の視点や状況によって様々な呼び名を持つ半幽体――。宇宙では、これも科学に属す、エネルギー体系……。この宇宙に住まうすべての者は皆、その一部を物理世界に取り入れ、理解していなくともその恩恵を受けている……!」


 マリアはその存在に願いを込めた。
 ――それが、敵となるか、味方となるか……!



 ZEROとSKLエスケイエル型から激しくほとばしるオーラは融合を始め、二体を包むエネルギーフィールドの球体に変化していった。
 〝TRANOSトラノス〟は海動の精神力の上昇に合わせ重力炉を制御し、フィールド内に亜空間を生み出した。



「うおおおおお!!! りやややあああ――!!!」


 海動の気合に呼応し、エネルギーフィールドはさらに力を増した。
 ZEROが興味を示した。


〝何者だ――? お前のデータは我がメモリーにはない――〟


 ZEROの声は海動の頭に直接語り掛けた。


「名乗るほどの者じゃねえ…。てめえのことは聞いたぜ。もう、死んでることにも気付いてねえ、大馬鹿大将だってなッ――」



 ガラス張りの実験室を見下ろすオフィスから美登呂遼は見守っていた。
 SKLエスケイエル型の重力炉を制御するシステムは、すべてここにある〝TRANOSトラノス〟が受け持っている。眼下の大型実験室には百体分はある培養カプセルのポッドが並び、そのすべてにパラレルコードが繋がっていた。


「重力は時間と空間に影響を及ぼす。同系の精神エネルギーを放出することによりZEROの攻撃力を亜空間に封じ、それと同時に変換したゲージ粒子で原子分解をうながし、〝ベガ星連合〟の艦隊を一掃する……」


 美登呂遼はマリアの顔を思い浮かべた。
 ――恐ろしい人だ。どちらが悪魔でしょうね。



 ZEROの座標から常識を超えるエネルギーが広がった。


「なッ、何が起こっている――?!」


 艦隊最後尾のグランド・マザーバーン《提督旗艦円盤》でふんぞり返っていたガンダルは、目の前で起きた事を理解することすら出来なかった。
 ZEROとSKLエスケイエル型を包んだエネルギーフィールドは急激に広がり、戦闘宙域に展開していた艦船、ニィフォール《円盤獣》、バトローニ《円盤型戦闘機》を瞬く間に飲み込んだ。
 それに接触した物体は触れた部分から原子分解を起こし、跡形もなく消え去った。


「ば、馬鹿な……?!」


 エネルギーフィールドはZEROとSKLエスケイエル型を飲み込んだまま、一瞬で収束して消えた。
 ガンダルが気付いたときには、自艦と僅かな護衛艦だけになっていた。



 静止衛星フォトン・アルファーから炎ジュンが確認した。


「亜空間フィールドのエネルギーにより敵艦隊の98%を撃沈! アガルタを含め、友軍には被害なし! 亜空間フィールドも消失しました!」

 
 
 
 ▼     ▼      ▼

 時間は前後する――。

 阿修羅男爵の海底要塞サルードから救出された〝始まりの時空〟の兜甲児はマリアのスペイザーの予備格納庫に居た。
 〝始まりの時空〟の甲児には〝歴史改変〟になるので他の時空の甲児とは会わせられない。
 ここはマリアとデュルゼルだけで対応した。
 甲児の目の前には初めて見るパイルダーがあった。


「ジェットパイルダーです。光子力研究所の弓教授が作ってくれた予備機です」


 と、マリアが説明した。


「弓教授が…」


 一年と6ヵ月後から受け取って来たことを隠しただけで、嘘はついていない。


「ありがたい、これでマジンガーを取り戻せる――!」

「操作マニュアルで御座います。お目通しを」


 デュルゼルがB4サイズのバインダーファイルを甲児に手渡した。


「基本操作は同じですが、パイルダービーム、20mm機銃、ミサイルも御座います。どれも強力になっております、ご使用の際はお気をつけて」


 甲児はすぐにファイルを捲り、コンソールのスイッチ群と睨めっこを始めた。

 
 
 
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 満天の星は見えるが薄暗く、現実感がまるでない――。いつか夢の中で観た風景にも似ている。碧い湖の上だった。鏡のように静まり返った湖面に、いざ闘わんと身構えるZEROとSKLエスケイエル型が対峙している。
 〝TRANOSトラノス〟が、重力炉を制御して造り出した〝精神〟が支配する空間だ。


「ここが、亜空間フィールドか…?!」

〝ああ――。ここなら貴様は思う存分に戦える。ここで奴から〝闇の帝王〟を引き摺り出してたおす――。中身が無くなれば、残るのは元のマジンガーZ。原初に戻す――それが、俺たちの任務だ――〟

「マジンガーZはどうなる?」

〝オリジナルのミネルバ・プログラムは残す。マジンガーZは〝始まりの時空〟の基準座標に転位される――。俺たちが介入出来るのはそこまでだ――〟

「それで八方収まるんならおんだ…。一応確認だが、〝闇の帝王〟を斃した後、この俺はどーなる?」

〝そこはSKLエスケイエル型の重力炉が生み出した亜空間だ。貴様が生きていればこちらからリモートで転位させ、元の時空に回収する。だが、生きていなければ、貴様の魂は〝闇の帝王〟の魂と共に、永遠にその世界を彷徨さまようことになる――〟


 海動は渇いた笑みを浮かべた。


「いいねえ、この命懸けの湯加減…たまんねえな。敵は、さぞかし強いんだろうなァ?」

〝ああ、全時空の宇宙で一番の強敵だ――〟


 押し寄せる狂喜に海動の瞳は爛々と輝く。


「さぁてえ、始めるかッ!!!」

マジンガーZERO05-1

 それを合図にZEROとSKLエスケイエル型の壮絶な闘いが始まった。
 殴る、蹴る、投げる! 闘神のオーラを纏ったZEROとSKLエスケイエル型は、組み合い、転げ、死闘を尽くす――。互いに攻撃を受けるたびに痛烈な衝撃波が襲い、精神の削ぎ合いにもかかわらず、互いの姿はダメージにへしゃげ、傷痕が刻まれた。


「おもしれえ!」


 機体同士の闘いだけではない。それぞれの機体から魂の尾を引いて立ち上がった〝テネブラエ〟と〝海動〟の精神体も魂のやいばを手に湖面を駆け――闘った。
 海動が湖面を駆けると水飛沫みずしぶきが舞い、その軌跡を追った。
 テネブラエも帝王然とした精神の大剣を掲げ、駆ける――。二者は組み寄り、鋭く刃を交わし、また離れ、斬り交わす!
 TRANOSトラノスは海動の適応能力に驚愕した。
 優れた機甲闘士《グラップル・トルーパー》の素質を持つ彼の精神は現実認知の逆流により脳に深刻なダメージを及ぼす逆転位症候群《インバージョン・シンドローム》すら味方につけ、すべてを〝闘志〟に変えている。この数値なら、マリアが睨んだ通り、天文学的な破壊力を誇るZEROの上をいくことも出来る。
 オリハルコンやヒヒイロカネ、原初を辿たどればそれらに近い組成に行き着く〝超合金Z〟で鍛えられた〝髑髏丸どくろまる〟は精神の世界でこそ存分に〝魔刃まじん〟の力をふるわせる。
 それを知ってか知らずか、海動は精神世界の中で使える利点をすべて最大限に使いこなし、味方につけていた。
 海動は満面の笑みを浮かべた。


「地獄が――迎えに来たぜ……! てめえが、神でも悪魔でも関係ねえ――この俺がッ、送ってやる……!」


 海動は精神力を研ぎ澄まし、SKLエスケイエル型のブースト効果を自身の精神体に宿し、最大限に共鳴させた。


「でえいやああああああ!!!」


 ズシュ――!

 すれ違いざまのどうがテネブラエの魂を斬り裂く。


〝―――おっ、の、れ……〟


 膝をつくようにテネブラエの精神体が消えた。
 すると、魂の尾で繋がっていたZEROも動きを止め、その体から激しく黒霧を吹き出し、それが収まると、呪いをはらわれたマジンガーZに戻っていた。
 そして、その姿は〝始まりの時空〟に戻るため、ゆっくりと消えていった。


〝成功だ――〟


 〝TRANOSトラノス〟はパイロットの悪態を期待した。
 だが、海動の返事はなかった。
 精神体のまま湖面の上で立ち尽くしている海動の手から、髑髏丸が放れ、水面みなもにポシャンと落ち、それは意識の湖の深くに沈んでいった。
 SKLエスケイエル型のコクピットには魂の尾がほぐれた肉体が静かに眠っていた。


〝応答しろ、カイドウ――!〟


 〝TRANOSトラノス〟は己が創りし精神世界の中で海動の生存を願った。

 
 
 
 ▼     ▼      ▼

 ガンダル司令は虚空を見詰めていた。
 ――おめおめと帰ったところで斬首は免れない…!
 大艦隊を失ったガンダルは敗北を受け入れられなかった。


「ベガトロン砲を準備しろ――」


 自爆覚悟の最大出力のベガトロン砲ならば、この提督艦一隻でテラ星《地球》を消滅させることが出来る。


「目標―――テラ星の中心部――!」


 グランド・マザーバーン《提督旗艦円盤》はゆっくりと背面を地球に向けながらエネルギーの充填を始めた。
 大円盤の中央部から巨大な発射口が出で、照準が合わされた。



 スペイザーの白い聖殿の中――アストラルAI《守護精霊》の〝エイル〟がマリアに報告した。


〝ベガトロン砲の照準が地球にセットされました――〟


 決して動じない老剣士デュルゼルが初めて焦りを見せた。


「こ、これはっ…!?」


 データはベガトロン砲のエネルギーが最大出力まで上げられていることを示していた。
 先のエネルギーフィールドから逃れるために友軍は宙域から離脱している。艦隊の最後尾のグランド・マザーバーン《提督旗艦円盤》の位置ではグレンダイザーやマジンカイザーでも間に合わない。
 ベガトロン砲を阻止するのは、今、宇宙に出ているどの守護神にも無理だった。
 発射された――!
 その閃光を察し、甲児が、デュークが、鉄也が、シャノンが!
 地上の本部では隼人、山咲、牧葉、宇門所長が――。光子力研究所では弓教授とさやか。
 フォトン・アルファーではジュンが。
 別の時空のそこではタイムパイルダーの甲児と志郎が――。
 そして〝アガルタ〟のティラ・デルが、それぞれの場所で眉間に力を込めた――!



 時間は前後する――。

 スペイザーの予備格納庫でマリアは〝エイル〟を呼び出した。


「エイル」

〝はい――〟

「〝闇の帝王〟の分離には成功しましたか?」

〝――成功しました〟

「オリジナルの〝ミネルバ・プログラム〟は?」

〝問題ありません〟


 デュルゼルもタイムラインを確認した。


「亜空間でZEROは消滅し、マジンガーZを取り戻しました。〝始まりの時空〟では奪われたマジンガーZにDr.ヘルが〝闇の帝王〟の想念を入れたことでZEROが生まれ、こちらも既に別の時空に跳び出しました。これでもう〝歴史改変〟にはなりません」


 マリアは大きく頷き、ジェットパイルダーに乗り込んだ兜甲児を見た。


「亜空間からマジンガーZが戻って来るタイミングに合わせます。マジンガーZは空中に現れ、400メートルを落下します。その間に空中でドッキング出来なければ、私たちの敗けです――!」


 すべてを理解した〝始まりの時空〟の兜甲児は静かに頷いた。


「今までの苦労を無駄にはさせない。俺に――任せろ…!」


 そういうと甲児はヘルメットを被り、操縦桿を握って準備についた。



 予備格納庫のハッチが開いたのと同時にジェットパイルダーは空へと飛び出した。
 そこは〝始まりの時空〟のバードス島の上空だった。


「よっし、来るぞ!」


 マリアから聞いた座標に、突然、マジンガーZが出現した。
 甲児はマジンガーZの落下軌道を頭の中で描きながらジェットパイルダーの噴射を調整した。
 追い着くだけでなく、ドッキングしなければならない――!
 チャンスは一度切り、しかも、姿勢を制御して足裏の逆噴射とアブソーバーで安全に着地するには地上200メートルで制御を始めなければ間に合わない。


「待ってろよ、マジンガー!」


 上空からうねって急下降するとマジンガーZのすり鉢の頭部が見えた!
 すぐそばを、かすめるように奇山ゴードン・クラグの岩肌が視界の隅で流れる。
 甲児はジェットパイルダーをつばめのように操り、マジンガーZの頭に向けて接近した。
 ドッキングするにはパイルダーの機体を正位置につけた上で可変噴射口を上に向け、強く押しつけなければドッキングロックが作動せず、操作系が繋がらない。
 甲児はGジーで遠退きそうな意識を気力で振り絞り、可変噴射口を操作した。
 ――よっし、いける……! いくぞッ!
 ブロオオオオォォォ……!!!


「パイルダーッ、オーン!!!」


 ドッキングし、マジンガーZの眼が輝いたのと同時にコンソールから女性の声がした。


〝危機回避システム作動―――〟

「え?」


 ドッキングには成功したがマジンガーZは自由落下を続けている。地上まで、あと200メートルを切っていた。


〝安全な着地を行います――〟


 「ああ」と、応えると、甲児が何もしていないのにマジンガーZは地上に対して垂直姿勢をとり、足裏から噴射し、危なげなくゴードン・クラグのふもとに着地した。
 着地の瞬間、ひざを使い、わずかな上下動を感じた程度だった。


「ふう、助かった…。君が、ミネルバか?」

〝はい。兜十蔵博士がマジンガーZと貴方をサポートするために作った補助AIです〟

「よし、行こう――未来の地球がピンチだ!」

 
 
 
 ▼     ▼      ▼

 ガンダル司令のグランド・マザーバーン《提督旗艦円盤》は地球に向け、ベガトロン砲を放った。
 マリアたちに阻止する手段はなかった。
 その時、一体のロボットが地球を守るように空間から転位し、突然現れた。
 その姿は一見ZEROに見えたが円形のZEROスクランダーはなく、禍々まがまがしい腕のアイアンカッターも収納され、隠れていた。
 地球を背にし、〝始まりの時空〟の兜甲児が乗っていた。
 マジンガーZが甲児の意志で変化したZEROだ。ミネルバは大気圏内では強力過ぎて使用出来ないマジンガーZの〝ZEROモード〟だと説明した。


〝敵のエネルギーを無効化します。ブレストファイヤーの放熱板から発射可能です――〟

「よっし、いくぜッ!」


 〝ZEROモード〟のマジンガーZは力強く両腕を挙げ、放熱板の胸を張る。


「ブレストォ、ファイヤーッ!!!」

マジンガーZERO05-2

迫り来るベガトロン砲のエネルギーに向け放った。
 それは聖なる水色の光の筋となって直進し、ベガトロン砲のエネルギーの先端に触れると包み込むように広がって氷結を始めた。


「いっけぇぇぇぇぇ!!!」


 氷結化現象はエネルギーを伝い、ベガトロン砲を発射したグランド・マザーバーン《提督旗艦円盤》にまで猛スピードで到達した。
 ガンダル司令は覚悟した。


「――無念」


 急冷圧縮により提督旗艦は炉心を潰され、護衛艦を巻き込んで大破した。
 〝ベガ星連合〟の大艦隊は全滅した。



「やったか……!」


 犬神司令が、マリアが、それぞれの場所でその最後の確認に息を呑んだ。
 一度発射されたベガトロン砲のエネルギーを無効化するにはこの方法しかなかった。
 エネルギーは発射された棒状の形のまま氷結し、巨大で途轍もなく長い氷塊となり、グランド・マザーバーン《提督旗艦円盤》の最後の連鎖爆発の振動により砕け折れ、幾つかの巨大氷塊に分かれて漂った。
 それが――地球の引力に引かれ始める。


「これは…!?」


 それぞれの場所で、マリアと隼人は同時に気付いた。
 ――世界が……沈む!
 巨大氷塊が地球に落ちれば、たとえ落下の途中で溶けたとしても大惨事を起こす。
 デュルゼルが氷塊の総量を確認した。


「総量は――30億立法kmにのぼります」


 成分として無害な氷塊でも、すべて合わせれば地球の海水を遥かに超える容積を持っている。
 例えば、マジンカイザーの〝カイザーノヴァ〟で、これらすべての巨大氷塊を蒸発させたとして、地球引力圏外の微引力でも、その水蒸気は時間を掛けてやがては地球に引き寄せられ、地球の飽和水蒸気量は限界を超える。
 それが地球の自然循環に加われば、〝ノアの方舟〟の伝承を超える大洪水になる。
 こうしているうちにも巨大氷塊は地球の引力に引かれ速度を増している。
 すると、監視でもしていたかのように、マリアに語り掛ける声がした。


〝お困りのようですね。流石のグレイス博士も、ここまでは読めませんでしたか――〟


 時空通信で語り掛けたのは美登呂みどろはるかだった。


〝仕方ありませんね。これはサービスです〟

「回避する方法があるのですか?」

〝ええ、巨大氷塊を異なる時空の地球に分散転送します〟

「複数の時空に――?」

〝ええ。それぞれの時空に、その時空の地球の自然サイクルを崩さない程度の割合で――。貴女のお陰でノウハウは蓄積されました。亜空間転送の制御はこちらのナビで可能です。一気に氷塊を片付けて御覧に入れます――〟


 マリアもその方法が浮かんでいなかったわけではない。それを実行するには各時空に対する膨大な確認作業と調整が必要だった。


「待って下さい。地球の自然サイクルを崩さないといいましたが、その計算は、確かなのですね?」

〝ご心配なく――。私の曽祖父が愛読していた本に興味深い記述がありましてね。それを参考に何度もシミュレートしました。私はこうなる可能性も考えていたので。この方法なら、歴史的事実も人々の認識も変えませんし、それぞれの時空の地球も耐えられます――〟


 美登呂遼の言葉通り、宇宙空間に漂っていた巨大氷塊は次々と消え、地球の脅威は取り除かれた。

 
 
 
 ▼     ▼      ▼

 マリアは各時空の状況をマルチバースメモリーで確認した。
 大きな変調を伝えるデータはなく、ほぼ、歴史通りの営みが確認された。
 その報告に、ようやくGCR《摩周湖国際宇宙観測センター》の本部は勝利に沸き立ち、人々は笑顔を見せた。
 デューク・フリードは宇宙に旅立つティラ・デルの人工大陸を見送った。


「デューク、私は〝ベガ星連合〟に踏みにじられた者たちを集め、ベガール・ベガⅢ世を必ず、斃す――。そして、惑星デネブを取り戻す――!」


 デューク・フリードにも静止した空間に退避させた〝惑星フリード〟を復活させる使命が残っている。恐星大王ベガール・ベガⅢ世との戦いは終わったわけではなかった。
〝始まり時空〟では、兜甲児とDr.ヘルの戦いが続いていた。
 ZEROが生まれる未来を経由したことで〝闇の帝王〟が現れない歴史となったが、やがては〝ミケーネ帝国〟の本隊が復活し、グレートマジンガーが戦う歴史が刻まれるだろう……。
 世界は少しずつ変わりながら前進を始めたが、因縁の歯車も残している。



 マジンガーZとグレートマジンガーが消えた時空の光子力研究所の廃墟―――。
 その地下に、亜空間から転送されて来た傷だらけの魔神は〝闇の帝王〟の呪いの空間に晒された姿のまま、何年もの間、岩塊に腰掛けている。
 いつか目覚める、その刻を待って――。

第5回 永劫因果 完

【マジンガーZERO INFINITISM】

プロローグ 1976

第1回 亡者たちの宴

第2回 終焉しゅうえんの魔神

第3回 髑髏月スカルムーン

第4回 多元宇宙マルチバース作戦ストラテジー

第5回 永劫因果 (終) ←いまココ


 これまでの「INFINITISM」シリーズ 

【グレンダイザーINFINITISM】

PROLOGUE  漂泊ひょうはくの王子

第1回 守護神

第2回 方舟

第3回 アガルタ

第4回 友星

【マジンカイザーINFINITISM】

第1回 預言者

第2回 時の女神

第3回 時空超越

第4回 魔神皇帝

【ゲッタードラゴンINFINITISM】

PROLOGUE

第1回 ドラゴンへの道

第2回 百鬼と赤鬼

第3回 魔王鬼 再び

第4回 鬼の起源

【鋼鉄ジークINFINITISM】

PROLOGUE 1975

第1回 鋼の心

第2回 あめ逆鉾さかほこ

第3回 不死団ノスフェラトゥドゥンケル

第4回 魂の檻

©永井豪 /ダイナミック企画・MZ製作委員会 ⒸGo Nagai・Yoshiaki Tabata・Yuuki Yogo/Dynamic Planning

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