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【マジンガーZERO INFINITISM】第4回 多元宇宙作戦

2023.01.02

マジンガーZERO INFINITISM 月刊ホビージャパン2023年2月号(12月23日発売)

【マジンガーZERO INFINITISM】第4回 多元宇宙作戦

 柳瀬敬之リデザインによるスーパーロボットモデルの作品群を、原点の輝きを残したままフォトストーリーとして再構築する人気企画の最新作『マジンガーZERO編』第4回。ベガ星連合とZERO、ふたつの脅威に立ち向かうべく、全時空の地球との協力体制を進める甲児たち。かくして人類の存亡をかけた戦いがいま始まる! すべての世界がひとつになる、マジンサーガ・マルチバース、ここに開演!

原作・企画
ダイナミック企画

ストーリー
早川 正

メカニックデザイン
柳瀬敬之

協力
BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン
ホビージャパン

模型製作
只野☆慶

第4回
多元宇宙マルチバース作戦ストラテジー

 地球防衛構想は〝ベガ星連合〟という敵を世界に開示することで急激に動き始めた。
 犬神大佐率いる国連軍特殊戦略室は東京の市ヶ谷から北海道のGCRグランドコントロール《摩周湖国際宇宙観測センター》に本部を移し、牧葉ひかるは先の犬神の言葉通りグレイス博士《マリア》との対面を迎えた。
 新しい本部には、犬神隼人、山咲美穂、シャロン・ワトソン、牧葉ひかる、GCR所長の宇門源蔵、グレートマジンガーの剣鉄也。牧葉ひかるが密かに〝月明かりの王子〟と名付けたデューク・フリードも居た。通信用ディスプレイは光子力研究所と静止衛星フォトン・アルファーともオンラインで繋がり、モニター画面の中には弓弥之助と娘のさやか、炎ジュンの姿もあった。
 顔合わせの挨拶を始めていると、扉が開き、太平洋で消えた兜甲児と大学生と見間違えるほどに若い、薄いグレーのスーツを着た女性が現れた。
 ――この人が…グレイス博士。
 牧葉ひかるは噂の博士の美しさに圧倒された。弓さやかと炎ジュンは甲児の無事な姿を見て微笑み、モニター同士でアイコンタクトを交わしている。デューク・フリードとグレイス博士《マリア》は長き別れからの再会に思いを馳せ、人知れず頷き合った。
 ――マリア。
 ――お兄様……。
 離れていたがデュークとマリアの間では互いのアストラルAI《守護妖精》を通じて詳細の確認は済んでいた。
 ワトソン博士の娘であるツナギ姿のシャロンが甲児に手を振った。


「イエイ、コージ」

「シャロン…!? 何で、君がここに…?」


 カナダの航空学校に居るはずのシャロンは自分の唇の前で人差し指を立て、「パパには、内緒だからね」と笑った。
 最後に指令室に入って来たデュルゼルが「此処ではこの出で立ち、少々、浮いておりますかな……」と、宮廷剣士の姿で白髪混じりの頭を掻いた。
 この時空のメンバーが揃った。
 犬神隼人が、グレイス博士がデュークの妹のマリアであることを語り、マリアがデュルゼルと過去の地球を訪れてからの経緯を語った。
 そして、兜甲児自身が太平洋で自分が消えてから体験したことを話し、一同は情報を共有した。
 常識では起こり得ない話の連続だった。
 牧葉ひかるは理解しようと懸命に頭を働かせたが、自分の頭がオーバーヒート寸前であることも自覚していた。
 南極圏に現れた人工大陸の勢力だけではなく、その親玉である〝ベガ星連合〟そのものと、それとはまた違った問題である、時空を跨ぐ〝ZERO〟の脅威までもが加わっていた。
 ――ダメだ……。もう、限界かも……!


「それで、何をすりゃーいいんだ?」


 剣鉄也がぶっきらぼうに尋ねるとマリア=グレイスが応えた。


「どちらの脅威も止めなければ、地球も、宇宙も滅ぼされてしまいます。〝ベガ星連合〟と〝ZERO〟。どちらも、私たちが総掛かりになっても難しい相手です。でも、この二者の存在を利用すれば、対抗し得る手段もあります。皆さんの協力を望みます」


「わかった――」と、犬神隼人がそれに応え、即座に指示を始める。


「山咲中尉――」

「はい」

「グレイス博士から聞き取った情報をまとめタクティカルプランを作成しろ――」

「了解――」

「ワトソン特務中尉――」


 シャロンは慌てて敬礼した。


「イエス!」

「光子力研究所に行き、弓教授と協力して有人型スクランダーを完成させろ。無重力空間の戦闘を想定し、お前のレギュレーションに合わせるんだ」

「イェッサー!」

「牧葉中尉───」

「はい!」

「コンタクトをする〝異なる時空の友軍〟をリストアップしろ――」

「え…? 異なる時空のって…? ど、どうやって……?」


 ひかるの混乱は当然だった。グレイス博士が説明を加えた。


「牧葉さん、大丈夫です。未来の兜甲児さんと志郎さんが協力してくれます」


 気が付けば、壁の大型スクリーンに白髪の甲児と志郎が映り手を振っていた。
 惑星フリードのアストラルAI《守護妖精》の通信技術の応用だ。
「えええええ……?!?!?!?!」と、初めてその姿を見た一同は驚愕とも悲鳴ともつかぬ奇妙な声を上げた。


「シローちゃんまで頭白くなっちゃって…」


 弓さやかは小型ディスプレイの中で笑いをこらえるのに必死だった。


「やあ、さやかさーん。こっちは元気だよー」


 白髪の志郎が手を振っているのを見て、さやかは自分がどうなっているのか気になった。


「ねえ、そっちじゃ、あたしは、あたしはどうなってんの――?」


 すると白髪の甲児が志郎の前に出て、悪戯っぽく返した。


「だめだめ、それはいえない。時間管理局に叱られるからな」

「時間管理局―――?」


 さやかが信じかけたとき「また、それらしいこといっちゃってアニキ――」と、志郎が突っ込んだ。


「それっぽいだろ、アハハハハハ…!」


 甲児に笑われたさやかは「バカ!!!」と、怒りと愛情の一言を吐き捨てた。
 剣鉄也は隣に居る兜甲児を見て笑んだ。


「未来でも、君の性格は相変わらずのようだな」

「ああ、こればっかりはね。でも、ここで乗り越えなきゃ、あの未来もない――。鉄也さん、グレートマジンガーを宇宙空間でも行動出来るように改修して欲しい」

「わかってる。俺も全力を尽くす――」



 その日から三ヵ月、マリアが〝ベガ星連合〟が月に現れると割り出したⅩデイに向け、それぞれが準備を整えながら日々を重ねた。
 全時空の地球から必要な設備と資材と技量を持つ人物がリストアップされ、コンタクトのタイミングとその方法が細かく検討された。
 未確定の未来は制御出来ない。歴史改変もZEROを確実に消滅させるためには選べない――。その微妙な制約を縫いながら、それぞれの時空に存在する〝希望〟を紡ぐ困難な作業だった。
 狙いが外れた際の代用案も各時空に合わせ何千通りもシミュレートされた。どんな問題が発生しても、必ずリカバー出来なければ世界が滅ぶ、史上最悪の戦いだった――。
 また一方、〝ベガ星連合〟の先遣隊として目覚めた〝アガルタ〟との戦いはデューク・フリードのグレンダイザーが受け持ち、この三ヵ月のうちに巨神獣と12回の戦闘が交わされた。
 惑星デネブの皇太子ティラ・デルもグレンダイザーが惑星フリードの守護神であり、それに乗っているのが旧友のデュークであることに気付き始めていた。


「ベガ星連合の本星から、あのロボットについての返答がないのは奇妙……。どうみても、あれほどのものが地球ごときの守護神であるはずがない……!」


 ティラ・デルは惑星フリードの守護神の姿こそ知らなかったが、幼い頃、デュークに聞いた惑星フリードの御伽噺おとぎばなしからイメージした姿は地上人《アウザー》たちがグレンダイザーと呼ぶあのロボットの姿だった。
 ――あれが惑星フリードの守護神なら……乗っているのは……!

 
 
 
 ▼     ▼      ▼

 雪に覆われた白い荒野――。

 美剣千草はWSOの中型輸送機《グレンキャリー》でターゲットの気配を追い、白銀の地平を睨んでいた。近づき過ぎれば雪崩なだれを起こし兼ねない大雪を載せた崖も見える。


「この辺りよ――ゆっくり回頭して!」


 千草はパイロットにインカムで指示した。
 中型輸送機《グレンキャリー》はそのままの高度を維持し、ホバリングしながら回頭を始める。窓に張り付いて地上を見下ろす千草の視界を、舐めるように白銀の大地が横に動く。
 不意に雪煙が舞った。何かが動いてる……! 6匹、いや、10匹の変異体ビーストの群れがまっしぐらに白銀を駆けている。
 それが目指している方向に目をやると、ジャンプスーツの戦闘服に皮のポンチョをまとっただけの男が立っていた。
 ――居た…!
 男は輸送機に目もくれず笑みを浮かべて立っていた。ギラつく眼が接近する変異体ビーストの動きを読み、腰を低く構え、相手が飛び掛かった瞬間、狙いすました拳で次々と殴り飛ばす。
 ビーストたちは、顎に、顔に、腹に拳を喰らい、魂を抜かれたように停止し、次々と雪原に斃れた。
 まだ、終わってない。その騒ぎを嗅ぎ付けた次のハンターが群れ始めた。
 さらに大きく、強暴な変異体ビーストが4匹、男に向かっている。


「あの真上に――!」


 千草は機を男の上空に移動させると長物を覆っていた布を剥がし、側面扉を開け、鞘に収まった太刀をそのまま垂直に落とした。


「エペ――!!!」


 落下した太刀が男の傍の雪原にズサリと刺さって直立した。
 エペと呼ばれた男は、上空の千草と雪原に日時計のように刺さった太刀を同時に確認した。


「こいつはいい。鬼に、金棒ってな――!」

 
 
 
 ▼     ▼      ▼

 どの時空にも常識を超える天才は居る――。
 だがそれ故に、それを極めるためのリビドーは光と闇が混在する混沌の中にある。


「禁域に触れる研究を続けていれば、いつか必ず、現れると信じていました」


 ミドロ・コーポレーションのCEO《最高経営責任者》・美登呂みどろはるかは不気味とも見える美しい笑みを浮かべた。


「それはこの私を、神をもおそれぬ者としてさばきを下すために現れる者か――。或いは、世界を救えとささやく悪魔か……。私にとってはどちらも同じ。この宇宙の片隅から何処まで真理に近づけるのかしか――興味ありませんからね」


 タイムパイルダーで時空を越えて現れた甲児とマリアに美登呂遼は嬉しそうにいった。


「ともあれ、この日を千秋せんしゅうの思いで待ちわびていたのは事実です」


 マリアは世界が直面している危機を伝えた。


「…そういうことでしたか」


 美登呂遼は恐ろしいほど冷静にこの状況を受け入れ、理解した。


「思っていたより深刻ですね」

「必要なのは、時空を越えて重力炉を制御する技術です。単なるリモートでなく微調整に対応するものでなければなりません。あらゆる時空の地球を探しましたが、その技術を持っているのは――貴方だけです」

「それは光栄なことだ。ですが、あなたの星の技術ではダメなのですか?」


 科学者なら当然の疑問だった。


「同様の技術はあります。ですが、それでは意図が悟られた場合、相手からも制御されてしまいます。同根の技術は使えません」


 甲児も付け加えた。


「同じ理由で〝非公式科学者協会〟が既に知っている技術とも違うものでないとダメなんだ」
「なるほど、腑に落ちました」


 美登呂遼は暫く腕を組み、深く考えた。


「協力してくれるのか?」


 考えがまとまったのか美登呂遼は「ええ」と静かに頷いた。


「喜んで協力致しましょう。ただ、条件が一つ――」

「足元を見るのかよ…?」


 美登呂遼は落ち着いた声で応えた。


「当然の権利ですよ。宇宙を救おうというのです。条件の一つや二つ、呑んで頂かなければ、割が合いません」

「何だよ――その条件ってのは?」

「特段難しいことではありません。それを行えばネットワークの核は動かせなくなる。かといって、あなた方のお仲間がここに常駐するのは私も好みません。よって、その制御を、私のところにある信頼のおけるアナログ・インターフェイスにさせよういう御提案です。それを、呑んで頂けるのなら――」

「いってることが、よくわかんねぇ……」


 理解したマリアが甲児に噛み砕いて説明した。


「つまり、こちらの研究所をベースに制御用AIを込みでシステムを組み込むのなら実現出来るが――その場合は彼を信じ、一任しなければならない――そういうことですね?」


 と、最後は美登呂遼に問うた。


「さすがはグレイス博士。聡明な方だ」


 美登呂遼の提案は尤もだが、悪魔との契約に思えないこともない。しかし、全時空を探しても、この技術を持っている者は、この男以外になかった。


「……信じるしかないか」


 甲児とマリアは視線を合わせ暫く考え、頷き合い、美登呂遼を見た。


「貴方を、信じましょう」

「結構、では、こちらにサインを――」




「サインまでさせて、本当に悪魔との契約だな……」


 美登呂遼との契約を終え、タイムパイルダーに乗り込んだ甲児はマリアに感想を漏らさずにはいられなかった。


「甲児さんは、次はあの時空ですね?」

「ああ、あそこには出来れば行きたくなかったんだが…。光子力エンジンとマテリアルを確保するのにどうしても必要だからね――」

「私はスペイザーで〝始まりの時空〟の準備に移ります」


 二人を乗せたタイムパイルダーはミドロ・コーポレーションの屋上ポートで僅かに上昇すると、光に包まれ、一瞬で姿を消した。

 
 
 
 ▼     ▼      ▼

 〝始まりの時空〟では、その世界での兜甲児とマジンガーZの歴史が着々と紡がれていた。
 Dr.ヘルが送り込んだガミアタイプの殺人アンドロイドの襲撃により光子力研究所は大打撃を受け、ホバーパイルダーとドッキング出来なかったマジンガーZは何本もの大型チェーンに拘束され、飛行ドローンで海底要塞サルードに運ばれた。
 甲児は懸命にパイルダーで追跡したが、バルガスV5、トロスD7、ゴーストファイアーV9、キングダンX10の機械獣軍団に阻止され、マジンガーZとドッキングも出来ず、海に墜落した――。
 甲児は海底要塞サルードの阿修羅男爵に捕まり、鉄格子てつごうしの牢獄に居た。
 ――んくッ、阿修羅男爵めッ……!
 ようやく意識を取り戻したが、手首も足も鉄枷てつかせに繋がれている。鉄の臭いが鼻腔びこうをつく。ジャリっと重い、くさりが音をたてた。


「くそ、何とかしないと……!」


 バードス島に向かう海底要塞サルードの上空にステルスモードで姿を隠したマリアのスペイザーが併走していた。当然だが、この時空では最先端とされるDr.ヘルの科学技術も惑星フリードの科学には遠く及ばない。
 見えないスペイザーから瞬間転送で送られた美剣美里と来栖くるすじょうが率いる〝特殊作戦群準備室〟の精鋭たちは阿修羅男爵に気付かれることなく、完璧な隠密行動で甲児が居る牢獄に辿り着いた。


「美里さん……。あれ、少し、老けてない?」


 特殊作戦群の隊員が手枷足枷を焼き切るのを見ながら甲児は尋ねた。


「失礼ね、兜さん――。でも、合ってる。貴方の知ってる私とは、ちょっと違うから」


 確かに率いているメンバーも、いつもの黒いスーツの面々とは違った。


「よくわかんないが、謝っとく。ゴメン――。それより、マジンガーZを取り戻さないと……」


 それには、隊長の来栖が応えた。


「いや、今は君が無事ならそれでいい――。ここは奪われるのが正解なんだ。そうでないと、本当の意味でマジンガーZも――この世界も救えない」


 物腰の柔らかい話し方だが、何か、深い理由があるのは甲児にも伝わった。
 詳しく話せないギリギリのライン――。
 この時空の甲児が物事を決定する因子を誘導してはならない――。
 マリアとデュルゼルからの要注意事項だ。この世界の甲児が自分で選んだエントロピーでなければ〝始まりの時空〟が移動する要因になり兼ねない。
 それでも甲児を納得させ、マジンガーZをここに残し、甲児のみを救出し、この時空の甲児に望みを託す地盤を作らなければならなかった。
 甲児の決断は早かった。


「わかった、信じるさ。あんたたちを――!」


 希望のピースが一つ繋がった。

 
 
 
 ▼     ▼      ▼

 そして――その日が訪れた。

 月の裏側――ヘルツシュプルング・クレーター。

 ベガ星連合のベガール・ベガⅢ世がテラ星《地球》の攻略を決めた瞬間、昨日まで何もなかった月の大クレーターにテラ星《地球》攻略前線基地・スカルムーンが現れた。
 時空を操作する〝アガルタ計画〟の応用だ。どれほど時間を要す計画でも、過去にさかのぼり始めれば完成のタイミングは制御出来る。
 無論、彼らだけでなく、マリアによって50年後のフォトン・アルファーに召喚された兜甲児が〝マジンカイザー〟を完成させたのも同様の絡繰りだ。
 多元宇宙作戦《マルチバースストラテジー》はとっくに始まっていた。
 ベガ星連合は完成したスカルムーンの座標に向け、至る時空から望む数だけの艦隊をワープアウトすれば良かった。
 ベガール・ベガⅢ世の命を受けたガンダル司令はブラッキー攻撃隊長を従え、マザーバーン《大型司令円盤級》4機、長距離強襲艦5隻、急襲制圧艦8隻、大型輸送艦5隻、ニィフォール《円盤獣》300体、バトローニ《円盤型戦闘機》700機というテラ星《地球》攻撃部隊の大艦隊を編成した。
 惑星フリードを攻略した黒騎士バレンドスの戦力を遥かに上回る物量だ。
 あらかじめ〝アガルタ〟として送り込んでいたティラ・デルの地上部隊も居る。
 テラ星《地球》の背後に、惑星フリードの守護神・グレンダイザーが居ても、十分に蹂躙じゅうりん可能な戦力だった。



 それを迎え撃つ、グレンダイザーのデューク・フリード。マジンカイザーの兜甲児。グレートマジンガーの剣鉄也。甲児が設計した有人型スクランダーをさらに改良したダブルスペイザーにはシャロン・ワトソンが乗り込んだ。地上のGCRグランドコントロール《摩周湖国際宇宙観測センター》や光子力研究所。静止衛星フォトン・アルファーだけでなく、それぞれの時空にも、この史上最大の作戦に対応すべく仲間たちがスタンバイした。

マジンガーZERO04-1


「ベガ星連合の出撃を確認――」


 GCRグランドコントロール《摩周湖国際宇宙観測センター》の本部で山咲中尉が告げると、司令の犬神が作戦の開始を宣言した。


「フェーズ1ワン発動――棺桶かんおけを起こせッ!」


 行動を隠した秘匿用語だが、その命令は言葉そのものだった。



 ありふれた町の山の上――黄昏時を迎え麻布都珠勾まふつくす神社の裏山の神体岩に多卦流たける美夜受みやずは居た。
 巫女姿の卯月美和が下から見守る中、二人は二つの銅鐸どうたくのうちの一つ、司馬しばひろしの命を救うために使った多卦流の銅鐸は既にないが、美夜受の銅鐸を天に掲げ、暮れかけた空に映る月を見詰め、静かに念を送る――。
 銅鐸から一筋の光が月に達した。



 その瞬間、銀色のクレーターを下から突き破り、月面から二本の巨大な柱が現れた。二人が乗って来た母艦・ラングーンのエネルギー発生体の部位の一部だ。
 巨大なクワガタの角にも似た二本の柱には攻撃能力だけでなく特殊な通信機能があり、すべての時空の全宇宙に届く通信波増幅システムが備えられていた。
 多卦流と美夜受は月の周辺に集まった〝ベガ星連合〟の武装反応を増幅させ、すべての時空に放った。
 増幅した戦いの気配で〝ZERO〟おびき出す。それが隼人の立てた作戦のフェーズ1だった。



 戦闘が始まった。
 グレンダイザーがダブルハーケンをかかげ先陣を切る。
 背中には地球があった。今のデュークにとって第二の故郷と呼ぶにはここで過ごした時間はまだ少ない――。だが、時を超えた因縁は充分に理解していた。


「ベガ星連合を、押し戻す――!」


 気迫でハーケンをぐごとに、円盤獣は二つに斬られ爆発した。
 甲児のマジンカイザーはカイザースクランダーのスピードを活かし、速攻戦闘で敵の陣形をかき回す。


「カイザーのスピードについて来られるか!」


 移動しながら敵集団を見定め、収束型光子力ビームとカイザースライサーの二刀流で敵の戦力を削いだ。
 ダブルスペイザーを背中に付けたグレートマジンガーは艦隊のかく乱を担当した。
 〝ベガ星連合〟が自分たちに意識を集中しているうちはいいが、いずれ、ごうやし、地球に向けて砲塔を向けるのは予測出来た。
 そうなる前に敵の艦隊を足止めし、これ以上、地球に近づけさせない作戦だ。
 剣鉄也はシャロンが操縦するダブルスペイザーに移動を任せ、グレートマジンガーの光子力ビームで敵戦艦を重点的に攻撃した。
 敵の攻撃も凄まじい。宇宙戦艦の間を縫うグレートをシャワーのような幾筋ものレザーが追いかけた。
 シャロン・ワトソンの操縦は素晴らしく、先の先を読み、敵の攻撃を避け続ける。鉄也は素直に感心した。


「凄いな……。戦闘経験はないんだろ?」

「ないよ」

「無重力空間戦も初めてなんだろ?」

「まあ、最近のシミュレーターが優秀ってことっしょ」


 シャロンは敵ミサイルを軽く躱しながら答えた。
 血の滲むような戦闘訓練を重ね、実戦を積み、戦闘のプロとしての自覚と能力を身に着けた日々も今は昔――これが世代差というものかと鉄也は思った。
 マザーバーン《大型司令円盤級》を中心にした敵艦船の密集エリアだ。この距離ならダブルスペイザーがなくても宇宙空間用に改修した姿勢制御システムで戦える。


「シャロン。この辺りでいい。分離してグレートを落とせ――」

「了解―――また、迎えに来るから!」

「おう!」

「セパレーション、ゴー!」


 シャロンの掛け声と共に背中のドッキングロックが外れ、グレートマジンガーとダブルスペイザーは分離した。


「グレートの力を見せてやるぜ! サンダァァァ、ブレェェェーック!!!」


 人差し指を掲げたグレートの指先から雷撃がほとばしる。
 激しいスパークは宇宙空間を弾けながら走り、マザーバーン《大型司令円盤級》と長距離強襲艦を2隻沈めた。
 シャロンもダブルスペイザーで戦った。
 グレンダイザーのハンドビームと同じグレンフェーザーを武装したダブルスペイザーは単機の戦闘能力でも巨大ロボットに引けを取らない。


「見た目で舐めたら、後悔するよ!」


 シャロンは機体を錐揉きりもみ状に回転させながら敵の攻撃を躱し、三連掃射のグレンフェーザーで群がる敵を蹴散らした。




「〝アガルタ〟が動きました!」


 南極圏の監視を受け待っていた牧葉ひかるが告げると、南極から宇宙空間へと続く軌道MAPがスクリーンに表示された。
 ティラ・デルの〝アガルタ〟が人工大陸デルパレスごと浮上している。
 確認した山咲中尉が犬神に報告した。


「人工大陸の上昇を確認! 宇宙空間に揃った我々の戦力を挟撃きょうげきする狙いのようです」

「ZEROの反応はまだないか――? ヤツが現れる前に挟まれるのは拙い――」

「まだ――現れません」


 ――簡単には食いついてくれんか……!
 すべての時空の宇宙を範囲にした壮大なの魚釣りだった。
 だが、ここで〝ZERO〟が現れなければ〝ベガ星連合〟との戦いはただの消耗戦になる。
 〝ZERO〟を含めた解決をみなければ、たとえ勝っても、真の解決にならない――。
 隼人は次の一手を決断した。


「ビーコンにゲッタードラゴンと同じ固有振動波を加えろ。ヤツの大好物のはずだ」

「なるほど――!」


 山咲が調整を加えて間もなく、バードス島の奇岩・ゴードン・クラグがフォトン反応を発し、月に近い空間に〝ZERO〟の出現反応があった。


「ZEROが、出現しました!」

「よし、喰らいついたな! フェーズ2ツーに移行――助っ人を招待しろ!」



「了解だ——!」と、前線で戦っていたマジンカイザーの甲児が応え、時空を越えて一気に転位した。
 助っ人には時空転位機能がない。助っ人を〝ZERO〟の居る時空に転位させるには、甲児のMTP型がタイムマシンの役割を果たすしかなかった。
 助っ人の機体は見た目は甲児のMTP型と殆ど変わりなかったが、マテリアルが足りず、カイザースクランダーと胸の放熱板はオミットされていた。胸回りに何もなくシンプルだが、こちらのマジンカイザーには共鳴型認識システムが搭載されている。
 それが〝ZERO〟という、極めてイレギュラーな存在に対抗するためにマリアが選んだ隠し玉だった。
 SKLエスケイエル型のコクピットのナビが起動した。


〝出番のようだ――〟

「ん?」

 いきなりコンソールからすかした男の声が話し始めたので、うたた寝をして出番を待っていたその男――美剣千草にピックアップされた〝エペ〟こと海動かいどうけんは怪訝な表情で口をがらさせた。


「何だ、しゃべんのかよ」

〝文句でもあるのか?〟

「切るぞ」

〝切ってもいいが、その場合、今から10分後には、貴様は必ず死ぬ――〟

「ナビのくせに、おもしれぇこというじゃねえか」


 その外では――SKL型の傍にスタンバイしたマジンカイザーの甲児が予期せぬアクシデントに困惑していた。
〝ZERO〟が出現したことにより、転位先座標の時空が不安定に揺らぎ、SKL型を送る座標の固定が出来ない。


まずいな…。こいつは計算外だ……!」


 このままでは作戦が頓挫する。
 この事態に気付き、静止衛星フォトン・アルファーの老甲児と志郎は行動を始めていた。


〝おい、甲児――!〟


 タイムパイルダーの甲児からだった。


「なんだよ甲児――。こっちは大変なんだ……!」

〝わかってる。俺に考えがある。今、タイムパイルダーで座標位置に向かってる。そこで俺が緊急信号を出す。そっちからは50年後の座標だ。それを狙え――。シローがその間の月軌道を再計算して――〟

「そうか……! ありがとう、兜甲児。サイコーだぜ!」


 すべてを聞く前に甲児は理解し、マジンカイザーのアストラルAI《守護妖精》を呼び出した。


「エイル2ツー

〝――はい、マスター〟


 心地良い女性の声が応えた。


「俺が初めてカイザーに乗った時、二つあった緊急信号の月の方――月の軌道をベースに再計算、作戦宙域の現在の座標に換算して確認。それが、敵の隙をついてSKL型を送れる座標だ――!」

〝――確認しました。間違いありません。座標の固定、完了しました〟

「だろ――よし、SKLエスケイエル型を送る、転位ッ!」


 カイザースクランダーが超時空の反射カタパルトと化し、SKL型を一瞬で時空転位させた。



 戦闘の真っ只中、〝ZERO〟の前にマジンカイザーのSKL型が現れ、ついで、甲児のマジンカイザーも現れた。マリアとデュルゼルが乗るスペイザーも戦闘に加わった。
 マリア=グレイスは仲間たちにげきを飛ばす。


「敵は〝ZERO〟にあらず――。〝ZERO〟を制する者が〝ベガ星連合〟の非道をただし、宇宙に平和をもたらすでしょう!」

マジンガーZERO04-2

第4回 多元宇宙マルチバース作戦ストラテジー 完

【マジンガーZERO INFINITISM】

プロローグ 1976

第1回 亡者たちの宴

第2回 終焉しゅうえんの魔神

第3回 髑髏月スカルムーン

第4回 多元宇宙マルチバース作戦ストラテジー  ←いまココ

第5回 永劫因果 (終)


 これまでの「INFINITISM」シリーズ 

【グレンダイザーINFINITISM】

PROLOGUE  漂泊ひょうはくの王子

第1回 守護神

第2回 方舟

第3回 アガルタ

第4回 友星

【マジンカイザーINFINITISM】

第1回 預言者

第2回 時の女神

第3回 時空超越

第4回 魔神皇帝

【ゲッタードラゴンINFINITISM】

PROLOGUE

第1回 ドラゴンへの道

第2回 百鬼と赤鬼

第3回 魔王鬼 再び

第4回 鬼の起源

【鋼鉄ジークINFINITISM】

PROLOGUE 1975

第1回 鋼の心

第2回 あめ逆鉾さかほこ

第3回 不死団ノスフェラトゥドゥンケル

第4回 魂の檻

©ダイナミック企画・東映アニメーション ⒸGo Nagai・Yoshiaki Tabata・Yuuki Yogo/Dynamic Planning

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