【マジンガーZERO INFINITISM】第1回 亡者たちの宴
2022.10.22マジンガーZERO INFINITISM 月刊ホビージャパン2022年11月号(9月24日発売)
柳瀬敬之リデザインによるスーパーロボットモデルの作品群を、原点の輝きを残したままフォトストーリーとして再構築する人気企画。ついにその最新作『マジンガーZERO編』がスタート!! 突如起こった大地震に、青木ヶ原の別荘に住む、祖父・兜十蔵の身を案じる甲児。崩れ落ちた別荘の地下室で甲児が見つけたものとは!?
原作・企画
ダイナミック企画
ストーリー
早川 正
メカニックデザイン
柳瀬敬之
協力
BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン
ホビージャパン
模型製作
只野☆慶
第1回
亡者たちの宴
兜甲児は可能な限りバイクのスピードを出し、青木ヶ原の林道を急いだ。西の国道に比べれば道の状態は良いが、地震の影響でアスファルトには罅が走っている。
真っすぐ進めば光子力研究所。途中で脇道に入れば祖父の別荘だ。
――もうすぐだ……。お爺ちゃん、無事で居てくれ……!
右折しようとした時、対向車線の光子力研究所の方角から猛スピードで走って来る黒いセダンがあった。
「なんだ……あの車……?」
その車は僅かな減速だけで曲がり、タイヤの軋みを上げて祖父の別荘に向かう脇道へと突っ込んで行った。
後を追うように甲児も右折した。
チラリと見ただけで良くわからなかったが、乗っていたのは揃って黒尽くめのスーツ姿の面々だった。
――研究所の人がお爺ちゃんを心配して来てくれたのか……? いや、だったら俺に気付く……。だとしたら、ナニモンだ……?
脇道の悪路ではバイクが有利だ。甲児は黒いセダンに追い着き、車内を確認した。
四人乗っていた。助手席に女。あとは男が三人。知らない顔ばかりだ。
この先には祖父の別荘しかない。甲児は車間をとって車の後ろにバイクをつけた。
暫くすると、樹海の上に広がる空に白煙が昇っているのが見えた。
――別荘の方角だ……!
林道を抜けると、祖父が終の棲家として建てたログハウス風の別荘が半壊した姿が目に飛び込んだ。
――お爺ちゃん……!?
バイクを止め、甲児は転がるように駆け出した。黒いセダンの面々も車から降りていた。
「安否確認、急いで――!」
助手席に座っていた女性が指揮を執っている。三名のスーツの男たちは半壊した別荘の敷地に踏み入った。
女が甲児を呼び止めた。
「兜、甲児さんですね――?」
「あ、ああ」
「救急車も呼んでいます。ここは私たちに任せて」
女は感情を殺した事務的な口調だったが、祖父の安否を気遣っているのはわかった。
「あんたたちは……、警察か、なんかか?」
「そのようなものです」
女は頷いた。
「私は美剣美里。兜十蔵博士の警護を担当している者です」
「警護って……。もう、引退して随分経ってるのに?」
「それだけ、兜十蔵博士がこの世界にとって重要な人物だということです」
敷地を捜索していた男が「こちらです!」と、大声で呼んだ。
美剣と甲児がそこに行くと、粉塵に塗れた家政婦が震えていた。
「キャップ……」
視線を合わせた家政婦と美剣を見て、甲児はこの家政婦も、祖父・十蔵の警護関係者だと理解した。
「十蔵博士は、どこ――?」
美剣が尋ねると、家政婦は震える指先で地下への階段がある方角を指した。
「博士は……地下に……」
地下に祖父のちょっとしたプライベートな研究室があることは甲児も知っていた。
地下なら、閉じ込められてはいるが無事という可能性もある。
甲児も加わり、手分けして階段の瓦礫をどけ、地下室のドアを蹴破った。
そこには大型ガレージほどの祖父の個人的な研究スペースがあった。
天井は崩れ、壁際に並んだスチール製の大型電子機器もひしゃげ、長テーブルにあったフラスコやビーカーも砕け散っている。
天井の梁に渡した鉄骨が滑り落ち、部屋の真ん中の床に折り重なっていた。
その隙間から倒れている祖父が見えた。
「お爺ちゃーん!!!」
甲児の声を聴き、十蔵は最後の力を振り絞った。
「こう、じ、か……!」
状況を見れば、十蔵が最期の時を迎えているのは明らかだった。
美剣は部下たちと一歩下がり、甲児と十蔵に別れの時間を委ねた。
▼ ▼ ▼
1966年――ギリシャ沖・バードス島の調査が始まり二日目。
学者陣は謎の地下回廊と全島調査の二班に分かれ、予定通りスケジュールは進められた。
移動の多い全島調査は若い兜剣造とオリバー・ワトソンに任され、地下回廊の調査は兜十蔵、ヘルシンク、シュトロハイムの3名が担当した。
一日目は現場に到着し、民間のデベロッパー会社、ABM《アメリカン・ボーリング・マスター》がこれまでに発掘した回廊にデビット・エルマンが案内したところで高齢の学者たちが体力の限界を迎えた。
謎の回廊は分類的には古代ギリシャ様式の石柱の回廊に見えたが時代を特定するヒントになる宗教的レリーフ等は今のところ見つからず、科学的な年代測定の結果を待つしかない。
「これは――興味深い」
ヘルシンクの目は爛々としていた。
目に映るすべてが好奇心を刺激した。案内人のデビットによれば、回廊の先は緩い傾斜になっており、右回りに、さらに地下深くへと続いているとのことだった。
明けて二日目――。デビットに先導され、十蔵、ヘルシンク、シュトロハイムの三博士は整備されたずい道を越え、さらに奥まで下った。
寒さを覚えるほど涼しく、自分たちの足音と、つららを伝って落ちる水滴が反響している。闇が広がっていた。ヘルメットのライトとそれぞれが手にしたカンテラや懐中電灯の灯りだけが頼りだ。
歩くたび、自分たちの影が小悪魔のダンスのように怪しく揺らいだ。回廊の周囲を鍾乳石が取り囲んでいる。それはまるで、巨大な何者かの胎内に居るようだった。洞窟は次第に広くなり、天井も高くなった。石柱の間隔は変わらない。その幅から換算すると鍾乳窟は半径25メートルほどあり、それが回廊を包み螺旋状に沈んでいるのがわかった。
十蔵は鍾乳窟の壁に灯りを向けサーチライトのようにゆっくりと横に薙いだ。
「何じゃ、あれは……?」
洞窟の壁を背にし、巨大な何かが並んでいるように見えた。
「ただの岩じゃない……!?」
シュトロハイムも息を呑んだ。四人が灯りをその方角に向け、交錯した光がそれを映し出す。
「まさか……巨人像?!」
ヘルシンクの声も震えていた。
それも一体や二体では無い。20メートルはあろうかと思われる様々な石像が横一列に三十体は並んでいる。
「まるで、蓮華王院の三十三間堂じゃな」
十蔵の喩えはその場に居た誰にも理解出来なかったが、状況は正にその通りだった。
ただ違うのは、並んでいたのは仏像でなく、二本足や四本足、姿形も様々な、巨大な石像であるということだ。
一行は一番端に立つ石像に近寄った。
髑髏の顔を持ち、その頭部から左右に大鎌のような触覚が突き出た巨人だ。
離れて見た感じでは砂岩を切って積み上げた石像に見えたが、近くで照らして視ると、表面はつるりとし、丸みを帯びたぬめりがある。
十蔵は灯りを近づけ、それに触れた。
「洞窟の天井から滴った炭酸カルシウムによる自然のコーティングじゃな。この下にあるモノの材質は――鉄じゃな。化学反応を起こし、酸化しておる」
シュトロハイムが反論した。
「この中に鉄の巨人が眠っていると? そんなことは有り得ません。いかに古代ギリシャの文明が進んでいたとしても、それほどの鋳造技術があったとは、とても思えません」
十蔵に代わり、ヘルシンクがそれに応じた。
「剝がせば――解る」
ヘルシンクは腰に下げていたピッケルを握るとザクザクと表面を削った。10センチ四方を四角く抉ると金属の表面が現れた。
「兜博士の読み通りじゃ。これは、とんでもない発見じゃな……ふふふ」
一行はさらに進み、幾体もの巨人が並ぶ回廊を道なりに下り、最深部と思われるフロアに辿り着いた。
そこは地上のゴードン・クラグの中心点の真下に位置する半径20メートルほどのドーム空間だった。
「ここが、一番奥ですね」
それぞれが照らすと、屈折した灯りが最深部の様子を浮かび上がらせた。
「祭壇か……?」
シュトロハイムは見たままの印象を口にした。ドームの中央にはマヤ式ピラミッドのような階段スロープがあり、その頂上に炎を燃やすためと思われるスペースがあった。
一行は階段を昇り、祭壇と思われるモノに向き合った。
すると――正面の篝場に巨大な青白い炎が一気に広がった。
「うおっ?!……とととと……?!」
それは、青い炎の腕を広げた悪魔のようにメラメラと妖しく揺らいだ。
流石の十蔵も、ヘルシンクも、シュトロハイムもたじろいだ。四人は青白い炎から広がった閃光に包まれた。
その瞬間、彼らの意識は宇宙に跳んだ。
十蔵は、自身の脳に直接語り掛ける何者かの意思を感じた。
〝闇の帝王〟の力を開放せし者――。
〝闇の帝王〟の封印を解きたる者――。
〝神〟にも〝悪魔〟にもならん。
それこそが、
宇宙のすべてを制する力なり――。
十蔵には、宇宙に浮かぶ悍ましき仁王の姿が見えた。
――ハッ、これはッ……!?
夢、希望、望みがエネルギーとなり渦巻いている。それはまるで、宇宙すべての生命の遺伝子に植え付けられた欲望という呪い。
最強の力を我が手に、やがては宇宙のすべてを我が手に――。
良くも悪くも、その思いのふきだまりが宇宙を進める根源的力なのかも知れない。
宇宙は欲望にとらわれた亡者たちを必要としている――。
……一瞬だったらしい。気が付くと元の祭壇の前に立っていた。巨大な青白い炎は既に消えていた。
四人は呆けた表情で、今自分たちの身に起きたことを目まぐるしく反芻した。
十蔵は二人の博士たちを見た。
「シュトロハイム博士?」
「は、はい、声が……聴こえました」
「Dr.ヘル?」
「ふふ…、ふはははは……! ここは、まったく、愉しい場所よ……!」
人智を越えた啓示――。だが、それを発した存在が善なるものの保証はなく、また、それを受けたものが悪を成すとも限らない。
時は流れ、ZEROが生まれ出でる土壌はそれぞれの場所で飽和を迎えるのだった。
▼ ▼ ▼
「甲児……!」
「お爺ちゃん……」
兜甲児は地下の研究室に倒れていた祖父・十蔵の身体を優しく支え上げ、その上半身を起こした。
「お前は、神にも悪魔にもなれる……!」
「なにいってんだ、爺ちゃん……! 今、救急車が来るからッ――」
十蔵は震える指先で研究室の奥の扉を指した。その先は甲児も足を踏み入れたことのない場所だった。
「お前への贈り物が、その先にある……。マジンガーZじゃ……!」
「マジンガーZ……?」
「これから何が起こっても、それに抗えるだけの力じゃ……。 今、儂が、お前やシローにしてやれる最後の、唯一の贈り物じゃ……! よいな、甲児。シローを守ってやるんじゃぞ……」
甲児の腕の中で、兜十蔵は静かに息を引き取った。
▼ ▼ ▼
二日後――光子力研究所の居住エリアで兜十蔵の葬儀はしめやかに執り行われた。
十蔵の引退以降、光子力研究所を継いだ所長の弓弥之助教授。その娘の弓さやか。顔見知りの研究所の所員たち。美剣美里らも列席していた。
甲児は弟の志郎を気遣いながら式を滞りなく終え、静岡の実家近くにある兜家の墓地に十蔵の遺骨を埋葬した。
その翌日――甲児はバイクの後ろに志郎を乗せ、半壊したままの祖父の別荘を訪れた。
父も母も五年前に他界している。血の繋がった唯一の大人、大好きだったが祖父が死に、二日や三日で悲しみが癒えるはずもなかった。
「なあアニキ、お爺ちゃんが居なくなって、ここ、どうなっちゃうの?」
「どうするにしても――確かめなきゃなんないことがある」
「お爺ちゃんが最後に言ってたってこと?」
「――ああ」
祖父を運び出した際に瓦礫を外に出したので、甲児と志郎はすんなり地下の研究室に辿り着くことが出来た。
「爺ちゃんが指してたのはこっちだ」
甲児はその扉の前に立った。
「地下なのに、こっちにも部屋が……?」
ノブを回すとカチャリと音がし、開けると、闇に包まれた長い通路が続いていた。
「アニキ、なんだか怖いよ……」
「地震でいろいろ散らばってるかも知れない。注意しろよ」
壁の照明スイッチを押すと天井の蛍光灯がパカパカと明滅し、やがて白く燈り、奥に続く細長い通路を照らし出した。
「いくぞ、シロー」
「うん」
別荘の地下の研究室から、孫の甲児たちにも内緒で十蔵が密かに造り上げていた地下大工場への連絡路だった。
――爺ちゃん……、こんな工場を…、いつの間に……?!
通路は地下工場のキャットウォークに繋がっていた。優に体育館ほどの広さはある。
甲児と志郎の視界の先に、これまで見たこともないモノがあった。
「なんだッ……アリャー……?!」
タラップの向こうに巨大な横顔が見える。
「鉄の顔……?」
まるで奈良の大仏の顔をいきなり真横から見たときの感覚と、その大きさだった。
――まさか……。ロボットか……? なんて、でかいんだ……!
「これが……マジンガーZ……!」
頭部の上半分はお椀のように抜けて何もなく、目と鼻は人のようにあり、耳の部分は尖った突起が突き出、口は機関車の先頭にあるカウキャッチャーのような鉄マスク。左右の胸には逆への字型の赤い鉄板が付いている。階段を降りて下から見上げると、全長20メートルはありそうな巨体だった。
「マジンガーZ。コイツが――爺ちゃんが俺たちに残してくれたモノだ……!」
「……お爺ちゃんが……」
工場の隅に見慣れない乗り物があることを志郎が気付いた。
「アニキ、アレ――!」
「ん?」
コクピットの左右にプロペラの付いた小型のヘリコプターのようだった。開閉式のキャノピーは開いている。そこから乗り込む構造のようだった。
甲児はその機体とマジンガーZの頭部の椀の形状を見て閃いた。
――そうか……!
「アニキ、どうしたんだよ?」
「たぶん、こいつでマジンガーZを操縦するんだ――」
コクピットを覗いた甲児は驚いた。
操縦席はバイクのタンクを跨ぐような単車構造で、ブレーキ、アクセル、チョーク、スピードメーターにタコメーター、ライトスイッチに至るまで、誕生日に十蔵から贈られたバイクと同じ位置にあった。
――爺ちゃん、そういうことか……。
甲児はポケットからバイクの鍵を取り出すとシートに座り、鍵をキーシリンダーに差し込んで、捻った。
ブロロロロロ……!
コンソールのパイロットランプが並ぶように燈り、エンジンが起動した。
「シロー、危ないから離れてろ!」
強化ガラスのキャノピーが自動的に降りた。
「え? 運転できっのかよ!?」
志郎が離れたのを確かめると、甲児はアクセルを静かに吹かした。踏み込みに反応して左右のプロペラが猛回転を始め、機体は軽々と垂直に浮かび上がった。
「アニキ、無茶だって! なんとなくで運転出来るようなシロモノじゃないって!」
下から志郎が叫んだが、勢いで宙に上がった甲児も動揺していた。
「うおっと……わわわッ――?!」
――コイツを、アイツの頭の上に載せりゃァ、いいんだろッ……!?
小型の機体はマジンガーZの椀型の頭の上で、ふわふわゆらゆらと前後左右に揺れた。
「あ、危ないって…、アニキッ……!」
思うように位置が定まらない。
だが、接近と離脱を繰り返し、何度かトライするうちに、甲児は感覚的に微妙なアクセル調整を身に着けた。
――よし、いけるッ……!
小型の機体はマジンガーZの頭部の椀、すなわち、人間でいえば脳の場所にピタリと収まった。ドッキングした瞬間、マジンガーZの目が一瞬強く、黄色く輝いた。
操作系統が繋がった。
これで動く――と、甲児は確信した。
「先ずは、慣らし運転だ――!」
「おい、マジかよ……アニキッ!」
巨体の脚をゆっくりと動かし、大型搬出ゲートのスロープに向け、歩み始める。このまま外に出るつもりだと志郎は悟った。
――たくっ…、アニキ……もう!
無理をすれば地下工場の天井を崩しかねない。志郎は地上に繋がる搬出ゲートのスイッチを探した。
「どこだ、どこだよ……、ここか!」
ぎりぎりで巨大な金網のゲートが縦に開き始めた。地上側の偽装外壁も連動し、動き出したのが分かった。
「アニキ、腰を曲げさせろ! 頭を下げるんだ!」
甲児もいろいろと試してみたが、バイクの動き以上の操作は解らなかった。
「わかんねえよ!」
「だから、いったじゃねーか。馬鹿アニキ!」
ゲートの端が頭の椀に引っ掛かり、金網がぐしゃりと曲がった。
マジンガーZはお構いなしに、同じ歩幅で悠然と地上へのスロープを歩んでいる。
美剣美里と黒いスーツの男たちは兜十蔵の別荘の裏手に位置する樹海を挟んだ林道で待機していた。
甲児と志郎の動きは把握していた。
小高い山地の斜面が開き、偽装外壁のゲートが口を開けている。
樹海の緑の屋根の上、藍黒と沈んだ銀色の巨体の、その上半身がゆっくりと歩み出て来た。
マジンガーZを確認した美剣美里はトランシーバーに語り掛けた。
「出て来ました。被害が出る前に対処をお願いします」
〝了解しました――〟
応えたのも女性の声だった。
樹海から、美しい女性のシルエットをした巨大ロボットが立ち上がった。
〝さやか、くれぐれも無理はするな――。相手は兜十蔵博士が造り上げたスーパーロボットだ。そのつもりはなくともアフロダイAを弾き飛ばすくらいのパワーはある――〟
光子力研究所から見守っている弓弥之助だった。
「――はい、お父さま」
アフロダイAはマジンガーZの方向に機体を向け、両腕を横に広げ静止を促すポーズをとった。
マジンガーZを歩かせることに夢中になっている甲児は、その先の視界まで気が回らなかった。
「よし、速足だ…」
前進と右折と左折は辛うじて解ったが、加速からの戻しがわからない。車でいえば、通常のブレーキとエンジンブレーキとハンドブレーキがごっちゃになった感覚で、勝手にクラッチが詰まり、パワーを残したままカクカクした動きになっていた。
「なんか、違うな……これか?」
それと睨んだスイッチを押したがマジンガーZの両腕が阿波踊りをするように指を開いて挙がっただけだった。
「こっちが腕の連動か……。でっ、どうやったら戻る……?」
パニックになりそうだった。
すると、外部スピーカーから弓さやかの大声が樹海に響き渡った。
「甲児くん!!! 何やってんのーッ!!!」
両腕を広げて仁王立ちしているアフロダイAに、甲児は漸く気付いた。
「ん? さやかさん?」
マジンガーZは両腕を挙げたまま、何かに観念したかのように停止した。
▼ ▼ ▼
マジンガーZとアフロダイAのコクピット通信が繋がると、取り敢えず必要な操作をさやかが通信で伝え、何とか甲児が操縦してマジンガーZを光子力研究所に運び入れた。
志郎も美剣の車で研究所に送られ、甲児と志郎は大人たちに囲まれることになった。
研究所の所員たちや同席した美剣たちも腕組みして見ていた。
「まったく、無茶にもほどがあるでしょ!」
甲児と同い歳の弓さやかが一番辛辣だった。
「マジンガーZのコクピットの高さなら、転んだら、死んでたわよ! シローちゃんだって、踏み潰されて死んでいたかも知んないのよ!」
改めて口にされ、志郎は顔面蒼白だ。
「まあまあ」と、弓教授がとりなした。
「とにかく、無事で何よりだった。マジンガーZの詳しい操縦方法についてはうちの三博士にマニュアルを作ってくれるよう頼んだ。何にしても、それをしっかり勉強してからだ」
光子力研究所の三博士とは、祖父・十蔵が現役だった頃からの信頼の置ける主任研究員で、甲児は幼い頃から〝のっそり〟〝もりもり〟〝せわし〟と、仇名を付けていた。
「済みませんでした」
甲児は素直に謝った。
その時――研究所の代表宛てにTV電話の呼び出しがあった。
「弓所長。国際電話ですが通常の回線ではありません。既存のシステムに割り込んだ違法通信です」
それを聞き、美剣の眼光が鋭く光った。
「わかった。ここで出る。大型モニターに映してくれ」
68インチの真空管TVを埋め込んだ壁の大型モニターにその顔が浮かび上がった。
つり上がった目。皺だけらの顔。ぼさぼさに伸ばした背中まである白髪。鼻下と顎に長い白ヒゲを蓄えている。亡くなった兜十蔵と同じくらいの西洋人だった。
〝私の名はラース・ヴァレリアン・ヘルシンク――〟
しゃがれているが、意思の強さを感じさせる声だった。
弓教授はその顔に見覚えがあった。
「光子力研究所の、所長の弓です。貴方が……ヘルシンク博士……?!」
老人はニマリと笑んだ。
〝 Dr. ヘルで結構――親しき者はそう呼ぶ。十蔵もな。先ずは亡くなった兜十蔵博士のご冥福を祈り、その遺族、親しかった方々にお悔やみを申し上げる――〟
「お気遣い、有り難う御座います」
〝本来ならば葬儀に参列したかったのじゃが、ここは異国の地、致し方あるまいと見送らせて頂いた――〟
「お気持ちだけで十分です。十蔵博士も、さぞ、お喜びのことと…」
Dr.ヘルはモニターの中で神妙に頷き、少し間を置いてから本題に入った。
〝さて、それでじゃ…。兜十蔵博士の長きからの友人であり、共に鎬を削った研究者仲間として、彼の研究を引き継ぐ事にした。兜博士の研究はこの私が全うすると誓おう!〟
突然の宣言に弓弥之助は言葉を失った。
「それは……どういった意味でしょうか?」
Dr.ヘルは悪魔のような表情を浮かべた。
〝光子力エネルギー。超合金Zについてのデータ。及び、それら技術の集積として兜十蔵博士が造り上げたマジンガーZを引き渡して頂こう――!〟
「な、なにを…仰っているのです……?!」
Dr.ヘルの狂気が弾けた。
〝お前たちには無理じゃ! 兜十蔵が目指した至高の高みを理解することすら出来まいて! ふっはっはっはっはっはっ……! この儂が完成させてやるッ……!宴の始まりじゃ! 抗っても無駄じゃ! 十蔵が目指した最強の魔神はこの儂の手によって完成してみせる!!!〟
暫くの間、狂気の高笑いだけが木霊した。
第1回 亡者たちの宴 完
【マジンガーZERO INFINITISM】
第1回 亡者たちの宴 ←いまココ
第5回 永劫因果 (終)
これまでの「INFINITISM」シリーズ
【グレンダイザーINFINITISM】
【マジンカイザーINFINITISM】
【ゲッタードラゴンINFINITISM】
【鋼鉄ジークINFINITISM】
©ダイナミック企画・東映アニメーション ⒸGo Nagai・Yoshiaki Tabata・Yuuki Yogo/Dynamic Planning