【ゲッタードラゴンINFINITISM】第2回 百鬼と赤鬼
2022.09.24スーパーロボットINFINITISM 月刊ホビージャパン2020年11月号(9月25日発売)
ダイナミック企画×BANDAI SPIRITS ホビー事業部×月刊ホビージャパンで贈るフォトストーリー『INFINITISM』。『グレンダイザー』編、『マジンカイザー』編に続くシリーズ第3弾『ゲッタードラゴン』編がついにスタート! 恐竜帝国との最終決戦で巴武蔵を失ったゲッターチームだが、次なる脅威、百鬼帝国に立ち向かうべく、新たなる刃を研ぎ澄ます!!
原作・企画
ダイナミック企画
ストーリー
早川 正
メカニックデザイン
柳瀬敬之
協力
BANDAI SPIRITS ホビー事業部
ホビージャパン
第2回
百鬼と赤鬼
恐竜帝国《爬虫人類》との雌雄をかけた決戦――。そこに現れ、敵将ゴールの首と巴武蔵の命を奪った新たなる敵――百鬼帝国。
単騎で現れた百鬼獣《魔王鬼》はその存在を高らかに主張し、易々と戦場から離脱した。
「トカゲの次は鬼だと……!」
神隼人の感情は怒りと嘆きに突き落とされた。
恐竜帝国《爬虫人類》との戦いの終わりを心のやりどころに踏ん張って来たが、その結果がこの体たらくだ。無力感は筆舌に尽くし難く、戦いが終わった実感すら掴めない。
しかも、日本国政府も国連軍も今後の姿勢を決定するだけの〝信念〟を持たず、唯一、百鬼帝国に対抗し得るであろう早乙女研究所の〝ゲッターロボ〟も、資金不足と支援体制が間に合わず、修理すら儘ならない状況に陥った。
新たなる脅威が予告されていても、その準備すら出来ない。隼人には、ただ待つだけの時間が耐えられなかった。
古巣の陸上自衛隊〝別班〟に復帰した隼人は、恐竜帝国《爬虫人類》との戦いのために後回しにしていた〝ある事件――〟の決着を付けようと動き出した。
そしてそれが、今の事件に繋がるものである予感を確信していた。
4年前――恐竜帝国《爬虫人類》が世界に認知される少し前、太平洋上の国際航路で起きていた〝船舶行方不明事件〟だった。
今の世の中、国際航路の船舶の動きはGPSで常に監視されている。にも、かかわらず、監視システムは一切異状を示さず、マーキングはそのままで、気が付けば貨物船やタンカーが洋上から忽然と消える事件が多発した。
まるで、20世紀に世界の七不思議に語られた〝バミューダトライアングル〟の再来だった。行方不明事件は日本国領土の海上でも発生した。
大規模な海賊行為と判断した日本国政府は〝別班〟のケースオフィサー《工作管理官》である神隼人に事件の対策と解決を命じ〝別班〟は海自《JMSDF》や海保《JCG》と連携し、日本の最東端である南鳥島周辺の哨戒警備に当たった。
隼人は囮の船舶による誘き出しプランを提案した。作戦は採用されたが、その時期にゲッターチームへの出向が決定し、実働の指揮は海自《JMSDF》の犬神竜二隊長に委ねられた。
「任せておけ、アニキ――」
それが4年前、犬神竜二と神隼人が交わした最後の言葉だった。
犬神竜二は神隼人の二歳年下の母方の従弟で、兄弟の居ない竜二は幼い頃から隼人を兄と慕い、高校もわざわざ同じ学校に追いかけて入学し、隼人を悪い手本に徒党を組んだ仲だった。
囮作戦は隼人抜きで決行され、その結果、竜二たちの部隊を乗せた囮船は――跡形も無く、太平洋に消えた。
▼ ▼ ▼
神隼人は市ヶ谷の駐屯地に居た。
昭和の初期に建てられた古めかしい旧館の二階に〝別班〟が使えるオフィスが置かれていた。
隼人は情報を整理するところから始めた。船が消えたのが、沈没したからでも異次元
に跳ばされたのでもないとすれば、物理的に説明のつく理由があるはずだ。
隼人は当時の資料の隅々にまで目を通し〝船舶行方不明事件〟を冷静に履修した。
――大型貨物船や石油タンカーだけを狙い、跡形も無く、すべて消えている……。GPSを騙すだけの科学力を持ち、武装した自衛隊を退ける力を備え、そして、そんな大規模な略奪を何度も繰り返すだけの組織力を持つ敵……!
騒ぎは2年程で収まった。恐竜帝国《爬虫人類》との戦いの最中ということもあり、解決を見ずに尻すぼみに終わったが、不明のままでも収まって良かったという空気で決着がつけられ、調査は打ち切られた。
――敵の目的は……? 貨物に積まれていた資材や石油……。鉄の船ごと……。いや、物資や物だけじゃない。遺体すら発見されず、人間も消えた……。
そう考えて見直すと、恐竜帝国《爬虫人類》の影で暗躍を始めていたであろう百鬼帝国を思い浮かべるのは至極当然だった。
当時は〝点〟でしかなかった幾つかの出来事が、隼人の頭の中で〝線〟になって結び付いた。優れた科学力があり、物資と人材を欲しているのなら、大型船舶の拿捕はうってつけの方法だ。
例えば、鉄のタンカーを溶解して再製鉄するだけでも、何体ものロボットのマテリアルが賄える。
隼人は船舶の行方不明事件が発生した複数のデータから〝放火魔〟や〝通り魔〟の犯人の所在を特定するプロファイリングを応用し、その拠点があると思われるポイントを絞り込んだ。
「この辺りか……!」
だが、不確定要素も多く、既に凍結した案件を今さら持ち出し、正式に隊を動かすだけのエビデンス《根拠》には乏しい。隼人が導き出した座標はぎりぎり領海内――。排他的経済水域のボーダーラインには気を付けなければならないが〝別班〟は国内での哨戒任務であれば隊員個人の判断に基づき行動が可能だった。隼人は具申書を書き、3年前にすれ違いで配属されたという山咲という女性隊員に書類を確認させた。
「神一等陸曹。この海域は保安庁《JCG》の管轄ですし、防衛省として哨戒任務を願い出るにしても本来は海自《JMSDF》の仕事です」
書類に目を通した山咲はそう反論仕掛けたが、隼人が〝別班〟の伝説的ともいえるケースオフィサー《工作管理官》であったことを思い出し、諦めて口を噤んだ。
「釈迦に説法――でしたね」
「先ずは俺一人で確認をして来るだけだ」
山咲は隼人の真意を見抜いていた。
「専守防衛をお忘れなく」
「――ああ、わかってる」
隼人は口元で笑んだ。この2ヵ月、巴武蔵が死んでから、すっかり見せなくなっていた隼人の癖だった。
▼ ▼ ▼
翌日、白いプレジャーボートに偽装した〝別班〟の特殊小型艇を輸送機《C-130R》に積み、神隼人は厚木基地から3時間半で南鳥島に到着した。
標高は高い所でも9メートルしかなく、殆ど平らな三角の島で外周も6キロしかない。
一般の住人はおらず、自衛隊、気象庁、関東地方整備局の職員が当番として駐在していた。
隼人は輸送機のクルーを飛行場施設に残し、薄手の白いウインドブレーカーを羽織ると小型艇に乗り、単独で座標を目指した。
海は穏やかだが潮の香りが鼻孔を刺激した。南鳥島が視界から消えると太平洋を漂流し
ている感覚に襲われた。ステルス機能をONにし、静音の電動推進に切り替えた。
南鳥島から南東に197海里――睨んだ通りだった。見渡す限りの海原に、地図には載っていないゴツゴツとした島影が現れた。
それは、海に浮かぶ巨大な円盤だった。大きさは野球のスタジアムと同程度に見える。測量器で精確に測ると半径150メートルと出た。
――GPSを騙す科学力があれば、堂々と浮かんでいられるわけか……!
隼人は写真を撮り、市ヶ谷の山咲と早乙女研究所に転送した。
――よし……!
白いウインドブレーカーを脱ぎコンバットスーツに着替えた隼人は鉄の島に小型艇を寄せて上陸した。
見張りもおらず、見付かった様子もない。
ピラミッドの積み石サイズの角ばった金属が島を形成している。表面は錆びた青銅のように青みがかっていた。間近で見て、それが未知の文明のものであると確信した。
隼人は鉤爪ロープを駆使し、鉄の島の上部を目指した。
内部からの振動だろうか、低いモーター音のような響きが僅かに伝わっている。
恐らく、ここが〝船舶行方不明事件〟の首謀者の拠点であることは間違いない。
だが、その犯人が百鬼帝国だったという推理は、今のところ隼人の仮説でしかなかった。
この二つが繋がる確かな証拠が欲しかった。
上部にある凸凹の側面にハッチらしき扉を見付けた。工場区画のキャットウォークの天井に繋がるハッチだった。
身を屈め、天井穴から覗き込むと、大型の機械の前に作業をする人影が見えた。何の変哲もない工場の風景のようだった。
――ん……?!
初めは奇妙なヘルメットを被っているのかと思った。だが、そこそこにまばらに立ち、作業を続ける彼らの頭部には、額や頭頂部、こめかみ、場所も大きさも形も様々だが、確かに、角が生えていた。
注意深く見ると、人相や体格もどこか雰囲気が違った。人工的な肉体。まるで、プロテインで余計な筋肉をつけ過ぎたボディービルダーのようだった。
――鬼型の地球の未確認生命体……。それとも、鬼型の異星人……。どちらにせよ〝百鬼帝国〟とはよくいったものだ……!
既に地上の人類より早く地球に誕生していた〝爬虫人類〟の存在が確認されている。今更、驚くべき程のことでもなかった。
だが、これで繋がった。
〝船舶行方不明事件〟の裏付けを得た隼人は先ずそう思ったが、同時に、別の可能性も思い浮かべた。
――いや、だとすれば……連れ去られた人間たちは?
その者たちがどうなったのか、幾つか想像出来た。だが、それはどれも受け入れ難く、辛く無慈悲な顛末の想像だった。
キャットウォークの天井裏にあるハッチから、一先ず外に戻ることにした。
鉄の島の頂点、ゴツゴツとした鉄の広場の真ん中に一人の人影が佇んで居た。
少し遠いがその顔には見覚えがあった。
「……竜二!?」
「アニキ……、きっと、来てくれると、思ってた……!」
懸命に自らの感情を制御するかのように、犬神竜二はゆっくりと区切って話した。
額には10センチ程の一本角が生えている。隼人は自分が思い浮かべた悪い可能性の一つが、当たってしまったことを知った。
竜二の瞳を優しく見たまま隼人は右手をさし伸ばした。
「帰るぞ、竜二――」
犬神竜二はゆっくりと首を横に振った。
「だめなんだ、アニキ……。俺は奴らの、百鬼帝国の戦士に改造されてしまった……! 奴らの命令が俺の意識を乗っ取る……! うおおおおおお……!」
大きく叫ぶと、その表情は脳内物質に支配された凶悪な戦闘兵器に変貌した。
角の生えた竜二は常人の数倍の速度とパワーで隼人に飛び掛かった。
「うおおおおおお……!」
――んくッ!
飛び退き転がり、躱すのがやっとだった。
〝よせッ――!〟と、口に出し掛けたが隼人は止めた。相手の目を見て、既に言葉ではどうしようもないと理解した。
――仕方ない……。少々手荒いが、痛みで思い出させてやる……!
隼人は軽く身構え両腕の筋肉を解し、百鬼の強化兵となった竜二を睨んだ。
「かかって来い、竜二!」
「うおおおおおお……!」
闘争本能で間合いを詰める竜二の攻撃は受ける者が常人なら脅威だった。
だが、神隼人は違った。寸前の見切りで攻撃を躱すと、「目だ! 耳だ! 鼻だ!」と間髪を入れず、狙いすましたカウンターを見舞った。
「んぐッ、んがッ、んごッ――!」
強化筋肉で膨れた竜二の巨漢が隼人の繰り出したボディーブローで宙に舞った。
尻もちをつき倒れ、意識の底にある声が絞り出た。
「ア…、アニキ……?!」
「思い出せ、お前は軟じゃない――。その程度で頭の中を乗っ取られるな……。取り返して、お前にそんな仕打ちをした敵に、吠え面をかかせてやれ!」
隼人の手荒な檄は敵の洗脳より濃厚に竜二へと届いた。
「んぐぐ……」
抗い、気を失ったが、竜二の表情は穏やかだった。
「驚いた。生身の人間が原始的な殴り合いで強化戦士の洗脳を解くとは……これは興味深い――」
声がした方向を見ると幹部らしき老人が強化兵士たちを率いて立っていた。
緑がかった肌。スキンヘッドに湾曲した小ぶりの2本の角を生やしていた。
「私はグノー。神隼人、漸くお目に掛かれましたな」
覚えがあった。あの戦いの最中、コクピット通信に割り込んで来た声だ。
「その者が貴方に関係があるらしいと知り、余興のつもりで準備していたのです。それにしても、たった一人でやって来るとは、命知らずにも程がある」
隼人は口元で笑んだ。
「一人だと。それは違う――」
ここに着き、画像を転送した時から隼人は作戦をプラン2に変更した。
隼人は耳にすっぽりと収まるハンズフリーのインカムを装着していた。
「待たせたな。竜馬、弁慶――」
「なんだと……?!」
意味が分からずグノーが狼狽えると、隼人が恐ろしい笑みを見せた。
「大型船の失踪事件は元より、恐竜帝国《爬虫人類》との最後の戦いに水を注されたからな――。その上、お前たちは武蔵の命までをも奪った。人類を舐めてもらっては困る……! 貴様らは先手を取ったつもりだろうが、こっちは、いきなり王手って寸法だ――!」
それを合図に背後の海から爆発するように波飛沫が上がり、ゲッタードラゴンが舞い上がった。
「これが新しいゲッター。ゲッターロボG――ゲッタードラゴンだ!」
三本の赤い角が放射状に天を突き、赤いマントを靡かせたその勇姿は、巨大な〝赤鬼〟にも見えた。
〝百鬼〟と名乗る鬼の帝国を屠るため、巨大な〝赤鬼〟が今、その姿を見せた――。
第2回 百鬼と赤鬼 完
【グレンダイザーINFINITISM】
【マジンカイザーINFINITISM】
【ゲッタードラゴンINFINITISM】
第2回 百鬼と赤鬼
【鋼鉄ジークINFINITISM】
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【マジンガーZERO INFINITISM】
第5回 永劫因果 (終)
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