【グレンダイザーINFINITISM】第1回 守護神
2022.07.02グレンダイザーINFINITISM 月刊ホビージャパン2019年5月号(3月25日発売)
ダイナミック企画×BANDAI SPIRITS ホビー事業部×月刊ホビージャパンで贈る新たなるフォトストーリー『グレンダイザーINFINITISM』。『マジンガーZ』『グレートマジンガー』のその後に続く『グレンダイザー』の世界を描く、オリジナルストーリー第1回!
原作・企画
ダイナミック企画
ストーリー
早川 正
メカニックデザイン
柳瀬敬之
協力
BANDAI SPIRITS ホビー事業部
ホビージャパン
第1回
守護神
フリード――そこは森と山河を抱く緑豊かな国で、星々の守護を司る者たちが住まっていた。
澄みわたる湖。城の尖塔が聳え、我々の星に例えるなら、バイキングや騎士たちが活躍した時代の小国に似ている。悠久の時の中で科学文明を極めた季節もあったが、彼らは知識との距離を見付け出し、過ぎたる力は〝伝説〟に納め、安寧の維持に必要な技術だけを利用した。
王都ヴァナヘイムは琴座《ハープスター》の神々の秩序と良識の守り人としてフリード王家によって治められていた。その働きは誇るべきものであり、義と清廉を保ち、騎士道に恥じぬものだった。
銀河に暗雲が垂れ込めたのは、琴座三主星の一つ惑星ベガのベガール・ベガⅢ世が同盟を破り、天の川銀河の侵略に動き出したことにある。
〝守護神〟の秘密と王子デューク・フリードの命を狙い、軍将ダントスの命を受けた黒騎士バレンドスは惑星フリードを包囲した。
司令円盤マザーバーンを旗艦に長距離強襲艦6隻、急襲制圧艦24隻、ニィフォール《円盤獣》を主要都市の数だけ揃え、無数ともいえるバトローニ《円盤型戦闘機》が瞬く間にフリード星の空を覆い尽くした。何人も遁れられない宇宙の檻。急襲上陸部隊はそれぞれの師団毎に〝ベガ星連合〟傘下の惑星人たちが務め、戦闘アンドロイドを放った。
「草の根を分けてもデューク・フリードを見付け出せ!」
主だった都市は破壊され、爆音の中で悲鳴と怒号がこだました。
フリード星への直接攻撃を命じ、戦いの駒を進めたといっても、恐星大王にとっては広く、遍く範囲に渡る恒星間戦争の中の、小さな戦いの一つに過ぎない。恐星大王の玉座の前には軍将ダントスと科学長官ズリルが星々を跨ぐ戦全体に関する進捗を報告するため訪れていた。
「各エリアとも順調で御座います。とくに、新たに〝ベガ星連合〟へ参加した惑星人たちは、銀河統一後の世で自星の立場を強めんがため、身命を賭して戦っております。本日は科学長官のズリルより、先刻の具申についての御説明を――」
ズリルは跪いて礼をした。
「はい――辺境の未開惑星への文明誘導についてで御座います」
ベガールは感情を見せない男だった。ビーストノイド型巨人族に属す肉体は見るからに豪傑無頼で荒事好みに見えるが、もの静かで、軍議で声を荒がせることもない。それだけに、処刑を言い渡すのも平常心で、謁見には常に緊張が付き纏った。
「〝アガルタ〟と、いったか――」
「はい」
「……面白いことを考えるものだ」
「恐悦で御座います」
恒星間戦争で重要なのは膨大な時間を加味した空間の支配だった。それは単なる制圧とは違い、その場所で時間の前後に関係なく、同じ座標のあらゆる時空で総合的に勝利するという命題を抱えている。
「我々が所有する恒星間航行システムを改良すれば、恒星系から出る技術を持たないレベル2以下の辺境惑星の幼年期に、予め〝アガルタ〟を派遣し、そこに住む知的生命体の文明に介入すれることが可能で御座います。進化ですら、我々の意のままに――」
「種を蒔き、過去から操作すればそれで済むということか」
「はい――琴座《ハープスター》の境界にある太陽を利用すれば、それに必要な多次元転位装置を完成出来ます」
「――進めるがいい。期待している」
石造りの王宮の一室に老剣士と姫と思しき二人の姿があった。
「姫、お急ぎ下さい」
「お兄様は――?」
「必ず、向かわれておられます――! さあ、姫も!」
マリアは回廊を抜け、松明だけが灯る薄暗い階段を駆け下りた。内砦に出たところでバトローニ《円盤型戦闘機》から降下したアンドロイド部隊と鉢合わせになった。
老剣士はニヤリと笑み、臆することなく剣を抜き、老体と思えぬ剣技で群がるアンドロイドを一掃した。この星の遺物科学である鋼の刃は機械兵士の装甲をものともせず、紙の如くに斬り裂いた。
「参りましょう。地下道を脇に抜ければ、隠し通路が御座います!」
その頃――謁見の間ではフリード王の許にアンドロイド部隊を従えた黒騎士バレンドスが踏み込んでいた。
バレンドスは油断のない目で周囲を見た。
宮殿の中は静まりかえっている。王と王妃以外、近衛兵はおろか、宮殿付きの従者一人すら見えない。
「いまさら抵抗するつもりはない――そういうことか?」
黒騎士はゆっくりと薄刃の剣を抜き、フリード王の鼻先に向けた。
「バレンドス、そなたが、切っ掛けの刃に選ばれたか――」
守護星は違えど、元は琴座《ハープスター》の守り人同士、知らない仲ではない。
「フリード王。この星の守護神の秘密、今ここで明かして頂こう。良い返答を頂ければ民たちは救けよう。但し、王子のデュークだけは〝伝説〟の手前もある。生かしておくわけにはいかない。それが条件だ――」
「それが――そなたの星の運命か……」
切っ先を突きつけられているフリード王の方がバレンドスを憐れんでいた。
フリード王妃も静かだった。
「宇宙のいたる場所で幾度となくこのような場面が繰り返されて来たのでしょう。知識や技術、悠久の時の中で私たちは多くを学んだはずなのに……」
「皆、どこかで理解しているはずなのに、調和を破る事態が必ず訪れる。それも受け入れるべき必定なのか……」
「俺はッ、守護神のことを訊いている!」
同じ、守り人でも、守るべき志は根底から異なる。〝義〟と〝大義〟の間に対話の余地はない。
「ベガールが始めたこの戦は、これまでにないものとなる。全ての世界を巻き込み、大宇宙の調和を根底から脅かす災いだ。そなたをここに攻め込ませたのは、自らの望みを阻むであろうものの正体がわからないからだ。主だった時空の歴史にすら〝伝説〟でしか残されていない。〝ベガ星連合〟を以ってしても痕跡さえ掴めぬ存在――畏れているのだ。それこそが守護神。かつて、過ぎたる力として封印されたこの星の技術の到達点――大いなる戦神」
「戦神だと……!?」
〝王家の谷〟と呼ばれる岩肌と砂地が織り成す盆地には古代遺跡が疎らに残っている。
巨大な盆地の縁沿いは大小様々なメンヒル《環状列石》が立ち並び、古代の息吹と移りゆく世界の虚しさを伝えていた。
追手を逃れた王子デューク・フリードは、そのほぼ中央に位置する祭壇跡に居た。
肩までの髪が谷に渦巻く風に揺れている。
葉脈を模した深い緑のケープの外出着を着ていた。地球の人間なら二十代半ばに見えるが、身に付いた立ち居振る舞いが彼を年齢以上に大人びて見せているのかも知れない。憂いを秘めた瞳のせいで優しげな顔立ちに見えるが、引き締まった眉は戦士を思わせ、内なる意志の強さと王家の品格を感じさせた。
――使いたくない……。何故だ……! 使うことがあってはならないと、ずっと祈り、願い続けていたのに……!
一握の砂を強く握り、心の中で呟いた。王子はそれを行使することの意味を知っていた。
王都を襲う〝ベガ星連合〟の攻撃が遠くに聴こえる。
――父上……、母君……。
「お兄様――!」
マリアとデュルゼルが到着した。
王子は心の呟きを振り払い、背筋を伸ばし、「始めよう」と、威厳のある声でいった。
「ええ――為すべきことを、為さんがために」
懐から柄状の神器・ガルトロッドを取り出し、思いを込めて静かに握った。
フリード王家が代々受け継いだ使命。その中でも最悪の事態にのみ行う選択。膨大な歴史を重ねる宇宙で――それがこの時空の、自分の時代に起ころうとは……。
「我が名は、デューク・フリード……!」
するとナノ反応が始まった。
眩い光がデュークを包み、特殊ポリマーが宇宙防護服を形成した。
「目覚めよ! グレンダイザーッ!!」
それを合図に地響きが鳴り轟き、谷底の遺跡群を囲むように巨大な光のサークルが現れた。一つ一つの頂点は盆地を取り囲むメンヒルの先端だった。
大地に描かれた巨大な光の輪はぐんぐんとエネルギーを増し、円の中心であるデューク、マリア、デュルゼルの三人の頭上で集約され、さらなる臨界を突破する。
突然、ぐわっと広がり、光の轟音が聴こえるかのように弾け、天空を越え宇宙に向け、光の柱を発射した。宮殿からも、それは見えた。
「なんだ?! あの光の柱は……!!」
「〝大いなる災い〟を止めるには過ぎたる力を使わねばならない。そしてその力を行使するためには、この星の命運をも委ねなければならないのだ――」
光の柱は惑星フリードの月――衛星ウルドに到達した。
「これがフリードに、静かなるウルドが古より寄り添っていた理由だ……」
金色の照り返しを受け、光の柱の中を、デューク、マリア、デュルゼルの三人のシルエットが猛スピードで上昇していた。
衛星ウルド。それはフリード星唯一の衛星で酸素も目ぼしい資源もなく、フリード星と引力を干渉し合い潮の満ち引きを安定させるくらいの慎ましい星だと思われていた。
だが――違った。〝王家の谷〟からの発射された光の柱が到達した瞬間、慎ましやかな月は豹変した。網状にひび割れた表面から溶岩と炎を滲ませ憤怒の表情となった。
大地は見る見る砕け、灼熱の皺が走り、星の崩壊するプロセスが走馬灯の速度で展開した。フレアの如く溢れたエネルギーはフリード星との引力に鬩ぎ合い、粉々になった地表はアステロイドベルト状になり、激しく流れる礫塊の奔流をのたうたせた。惑星フリードを包囲していた〝ベガ星連合〟の大艦隊は急激な速度で小太陽化するウルドの重力場に陣形を乱し、礫塊に打たれ爆発し、あれよといううちに半数以下になった。
惑星フリードでは地軸移動が起こった。惑星全体を包む急激な方向転換――大暴風と大津波が発生した。相対的な慣性が働いているので地殻の崩壊こそないが、乱れた引力バランスは太陽を巡る星の道を変化させた。
デューク・フリードとマリア、デュルゼルは、白い円形の空間に居た。宇宙船のブリッジのようでもあったが、計器がひしめく人工的なものではなく、預言を授かる神官の聖殿に似ていた。やわらかな光に穏やかな重力制御が施され、ただそこに立っているだけで必要なもの全てに囲まれている感覚がした。
マリアは空間に語り掛けるように口を開いた。
「エイル、ここはもう、スペイザーの中なの?」
空間を包み、静かだが明瞭で心地よい女性の声がそれに応えた。
〝はい――皆さんは今、スペイザーの中枢にいらっしゃいます。全データの移送、完了しています〟
続いてデュークが尋ねた。
「テュール、システムの同期は正常に働いているか?」
〝はい――エイルも私も、デューク様のセキュリティコードにより、遺物科学との接続に成功。システムは良好です〟
こちらは落ち着きと優しさを備えた男性の声だった。〝エイル〟と〝テュール〟はフリード星のパーソナルモバイルでマリアとデュークが遺物科学との橋渡しとしてそれぞれにカスタマイズした物理的実体のないアストラルAI《守護妖精》だった。
「エイル、フリード星の様子は――?」
マリアが尋ねた。
〝ウルドの破片が隕石となり一部落下して被害が出ていますが、惑星の生存環境に影響はありません。それよりも、太陽系の周回軌道に大きなズレが生じています。このまま周回を続ければ、フリード星は凡そ5年で太陽に吸い込まれてしまいます〟
「生命体の生存限界は――?」
険しい表情でデュークが尋ねた。
〝複合的作用も考慮すると1周目の接近で85パーセントの確率で生存不可能に――2周目の接近では死の星になっています。生命体の生存限界は1年もありません〟
「軌道を回復させる方法は――?」
〝残念ながら、有効な手段はありません〟
それを聞き、一同が項垂れた瞬間、〝お待ちください――〟とテュールが発言した。
〝物理的にはエイルの計算通り、軌道を回復する手段はありません。ですが、フリード星の生存可能状態を維持することは可能です〟
王子と姫と老剣士の表情に一縷の希望が射した。
〝我々自身が誘導体になることで小太陽化するウルドのエネルギーを亜空間シールドに転換させます。フリード星をそれで包み込めば、停止した空間に留められます〟
「なるほど、時空を越えて、星ごと避難させるということか……!」
〝歪みの微調整には極めて慎重な対応が望まれます。スペイザーの中枢・アカーシャ。つまり、ここからの連携が必要です〟
「任せて」
「好都合ですな。止まった時間の中にいるのなら、太陽に突っ込むこともないし〝ベガ星連合〟も手が出せない」
デュルゼルはニヤリと笑んだ。
「我々がすべてを解決してからここに戻り、再び刻を動かせば、何の問題もないということですな」
三人は互いを見て頷いた。
「よし、グレンダイザーで出る……! マリアとデュルゼルはスペイザーからサポートを頼む――!」
「ええ!」
「承知致しました」
燃え盛るウルドの内部から、さらに強く、荘厳な輝きが広がった。月の残骸は輝きに打ち消されるように四散し、その中央に、それは浮かんでいた。
礫塊の洗礼から逃れた〝ベガ星連合〟の残存艦隊の前に、眩い光に包まれたそれは突如として降臨した。
「まさかッ――あれが……?」
輝く巨大な円盤の上に立った鋼の巨人は戦いの権化に見えた。
屈強な体躯、左右に突き出た鋭い角、眼光が光る。挑まんとする敵を歓喜で迎え撃つ、隙のない姿だった。
――戦神……?
目にした者たちがそう感じた瞬間、それは跳び上がり、星の海に舞い上がった。
コクピットの中、デューク・フリードは祈るように呟いていた。
「……邪魔をするな――。君たちが〝ベガ星連合〟に下ることで存えることを選び、今は敵同士でも、元は善良な星の民ばかり――傷つけたくはない。傷つけたくはないんだ……!」
王子の思いとは裏腹に、その姿は余りに勇猛そのもので〝ベガ星連合〟の惑星人たちは恐れ戦き、生き残るために無理にでも奮起し、戦意を振り絞って立ち向かった。
艦から対巨大格闘兵器用ニィフォール《円盤獣》のGIRUGIRUが出撃した。
その姿は無数のトゲに覆われた巨大な亀に似ていた。トゲの付いた円形の甲羅を高速回転させ、まっしぐらに迫る。数人の乗組員が搭乗する有人型の大型戦闘兵器だ。
「やめるんだ――君たちと戦うつもりはないんだ!」
ドガガガガガガガ……!!
回転した無数のトゲが絶え間なく打ち付けた。思わず両腕で防御すると、今度は巨大なトゲ鉄球に変形して円盤の重力制御を使って一瞬で間合いを取り直し、全身を乗せた体当たりを仕掛けた。
ガガガガ、ガガーン!!
「んッ、く――!」
体当たりの衝撃を受け、デュークは漸く自分が戦場に居ることを実感した。
――私は……甘いのか……!
〝――お兄様。時間がありません。こうしている間にもフリード星の軌道が……!〟
マリアの声がヘルメットの耳元に届いた。
GIRUGIRUの攻撃は容赦なく続いた。
〝守護神〟は器に相応しい〝心〟を必要としている。だが、それだけではなく、その思いを戦場で為し遂げるには、経験と覚悟が必要だった。
デュークの心は優し過ぎた。
「お兄様――!!」
スペイザーの中枢にある白い聖殿でマリアが叫んだ。
白い聖殿は静寂を保っていた先程までとは違い、データスクリーンやビジュアルモニターがマリアの立つ空間を囲むように幾つも浮かび、随時更新されるデータを忙しく映し出している。離れた壁沿いでもデュルゼルが宙域の立体MAPを確認していた。
「御注意を――ニィフォール《円盤獣》の新手が参ります!」
――戦うしかないのか……!
初めはグレンダイザーの姿に怯えていた 〝ベガ星連合〟の残存艦隊だが、相手の迷いを感じ取り反撃の余地ありと読み、GIRUGIRUに加え、四足牙狼のURUURUと円楯闘士のDORUDORUを差し向けた。各艦のフェイザー砲も掩護とばかりに掃射を開始した。
デューク・フリードは〝伝説〟の一節を思い出していた。
――今、為すべきことは……!
眉間に刻まれた険しい皺は、覚悟を越えた決意だった。
「ダブルッ、ハーケンッ――!!」
デュークの叫びにグレンダイザーの両肩から湾曲した刃が抜き出で、それを左右に握り二つの柄尻を合わせると、身の丈以上もある両刃の長薙に変化した。
「――すまない。今ここで、斃れるわけにはいかないんだ……!」
深い過振りの一振りでGIRUGIRUの機体は真っ二つに斬り裂かれた。
「為すべきことを、為さんがために――!」
避けられない戦いを受け入れても尚、決して大局を見失わず――の、王家の理。
その瞬間、王子は守護神と一体になり、王子自身が守護神となった。
第1回 守護神 完
【グレンダイザーINFINITISM】
第1回 守護神
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新たなる「INFINITISM」
【マジンガーZERO INFINITISM】
第5回 永劫因果 (終)
©ダイナミック企画・東映アニメーション