【グレンダイザーINFINITISM】PROLOGUE 漂泊の王子
2022.06.25グレンダイザーINFINITISM 月刊ホビージャパン2019年4号(2月25日発売)
ダイナミック企画×BANDAI SPIRITS ホビー事業部×月刊ホビージャパンで贈る新たなるフォトストーリー『グレンダイザーINFINITISM』。『マジンガーZ』『グレートマジンガー』のその後に続く『グレンダイザー』の世界を描く、オリジナルストーリーだ!
原作・企画
ダイナミック企画
ストーリー
早川 正
メカニックデザイン
柳瀬敬之
協力
BANDAI SPIRITS ホビー事業部
ホビージャパン
PROLOGUE
漂泊の王子
遠い、異国の物語だ――。
それは、村外れの峠よりも遠く、国境を別つ河よりも遠い場所。大陸を阻む大海よりも、ずっと遠い国の話だ。遥か太古の伝説でもあり、遥か未来の物語でもある。
星々を渡る力を持つ者には、過去も未来も意味を為さない。彼らと接触する運命の時空に居合わせたとしても、それは重なった宇宙の襞が起こした、予め決められていた偶然という必然なのだ。
また、その結果が齎すであろう一つの未来も、或いはどこかの刻の中では既に起きている一つの過去でしかないのかも知れない。
琴座《ハープスター》の神々は戦に明け暮れていた。
全ての世界を我が手に――!
原始の本能も知的生命体の野心も、星の神々の欲望ですら、どの時空であっても同じだった。
制圧し、統制し、自らの理想で世を満たす。
そこには善なる証しも、悪なる証しも存在せず、ただ、次の段階に大宇宙が向かうための混沌が取り巻いている。
琴座《ハープスター》の戦乱の渦の中心に君臨するのは、ベガ星の恐星大王と恐れられるベガール・ベガⅢ世だった。
ベガは既に、主要な時空に於いて天の川銀河を囲むエリアの知的生命体のほぼ八割を支配し、〝ベガ星連合〟の属国として傘下に置いていた。
その大勢力に抵抗しているのはフリードと呼ばれる星を旗印とした、たった二割の叛乱軍だった。
そもそも、琴座《ハープスター》とは、ベガ星、デネブ星、アルタイル星の銀河同盟を意味していた。ベガが侵略的統一を表明する以前は、三つの主惑星の友好を意味するものだったが、侵略的統一に同意せず、反旗を翻したデネブ星とアルタイル星は〝ベガ星連合〟により制圧されて幽閉状態となり、アルタイル星の守護星であったフリード星も琴座《ハープスター》に非ずとの御布令が回り、叛乱勢力の煽動者としての烙印を捺されることとなった。
ベガ本星の玉座に座するベガール・ベガⅢ世は軍将ダントスの報告を受けていた。
「フリード星にはバレンドスが向かいます。必ずやあの星の〝守護神〟の秘密、手に入れて御覧に入れましょう」
軍将ダントスの戦略は抜かりなく、最早、天の川銀河の知的生命体のほとんどを支配したベガの恒星間制圧は揺るぎないものに見えた。
だが、ベガはフリード星に残る伝説に、僅かな危惧を覚えていた。
――友星に流れたる亡国の王子、漂泊の果て、〝守護神〟と立ちて、真の〝勇者〟と成り、再び還らん。為すべきことを為さんがために。
未来は過去でもある。
やがて、絶大な力を持つベガが歯牙にもかけなかった辺境の星が立ちはだかり、〝ベガ連合〟の来たるべき春を脅かす存在になる可能性も、無きにしも非ずだった。
「王子の名は、デューク・フリードだったな」
「はい」
「確実に殺せ」
「――畏まりました」
遥か彼方の宇宙で――星の神は賽を振った。
▼ ▼ ▼
国際宇宙ステーションが一定の成果を上げて以来、民間の研究機関の主体的な協力がブームとなり、官民合同のプロジェクトが多く立ち上がった。
そんな中にあって、合金技術と独自のフォトン・エネルギーの運用にかけて他の追従を許さない光子力研究所は引く手あまたで諸外国からオファーを受けていたが、兜財団から全権を託された弓弥之助は、頑なに首を縦には振らなかった。
マスコミがその手の報道をTVやネットで配信する度に、石頭で頑固な弓所長のイメージは強化され、所長室で書類仕事を手伝っている娘のさやかも苦笑いだった。
「お父様。いつもムスッとしていて、ネットでお伽噺の『笑わない王女』のおっさん版みたいだって話題になっているわよ」
「おっさんは、ひどいな……」
「超合金並みにガードが固いって書き込みもあったわよ」
「超合金か。上手いこというもんだな」
「感心してる場合――?」
自動扉が静かに開き、聴きなれた声がした。
「――気にしなくっていいさ」
「甲児くん」
渡米の挨拶に寄った兜甲児だった。
「俺たちは知ってる。光子力エネルギーや超合金の使い方は、ちゃんと見定めないとな。それを任せられると思ったから、お爺ちゃんは弓教授に所長を任せ、光子力研究所を託したのさ」
甲児はいつになく真面目な表情でそういったが、もっともらしい言葉より、スーツにネクタイという超レアな余所行きスタイルに、さやかは吹き出しそうになっていた。
「なんだよ?」
「いえいえ、見惚れてるのよ」
「これでも、向こうで世話になるワトソン博士に失礼がないように、悩んだんだぞ」
「オッケー似合ってる。いい線いってるから、安心してー」
「じゃー、なんで、笑ってんだ……」
〝ミケーネ帝国〟と呼ばれる謎の勢力と戦い、甲児たちがその侵略を退けてから二年の歳月が経過していた。ミケーネが人類に仕掛けた戦いは国家間戦争のレベルを遥かに超えており、各国が保有する軍備では、彼らが送り込んで来た巨大な機械生命体・戦闘獣に太刀打ち出来なかった。
戦車も戦艦も戦闘機もほとんど役に立たず、〝敵〟を撃退したのは、一民間の研究所が極めて個人的に開発し、所有していた〝マジンガーZ〟と〝グレートマジンガー〟という、二体のスーパーロボットだった。
結果として、世界が誇る最新鋭の兵器より〝強い〟ことが証明されたことで、スーパーロボットが次世代の軍備対象になってしまった。弓弥之助が仏頂面で誘いを断り続けているのは、正しく、そのためだ。
甲児にもその気持ちは伝わっていた。
「お爺ちゃんが造ってくれたマジンガーZは戦うための兵器なんかじゃない。グレートだって、親父がミケーネを想定していたから戦闘用に徹しただけで、志が違うんだよ。そこんとこが、いまいちわかってもらえてなくて。この研究所に近寄って来る奴らは、マジンガーのことを兵器としてしか見てねえからな――たくっ!」
「甲児くん、言葉遣いが悪くなってる」
甲児は「……いけねッ」と頭を掻いた。
「漸く、お爺ちゃんや親父の後を継いで、科学の勉強を真面目にしようって決めたのに……。アイツに、マジンガーに乗っていた頃の感じが、今でもつい、出ちゃうんだよな」
弓弥之助は十分に理解し、冷静に見極めていた。スーパーロボットが認知されてしまった以上、何らかの態度を明らかにする責任はある。
「この二年、技術供与を目的とした誘いばかりだったが、実は、国連の方から提案があってね」
「国連――? 国連ってあの、でかい会議場で、ずらーっといろんな国の人が集まってる、あの国連?」
突然、舞い込んだ大きな話に、甲児の目は点になった。
「ああ、それだよ。人類以外からの攻撃にのみ備える〝地球防衛構想〟というプロジェクトだ。エネルギー研究、天体観測、ロボット工学が連携し、地球の安全を監視し、守る組織を設立するために協力して欲しいといって来た。今、検討しているところだが、条件が合えば、進めてみようかと考えている」
「地球防衛構想か……。なるほど。少なくとも、それなら光子力研究所が武器商人の片棒を担がされることはなさそうだ」
「片棒だなんて……」
さやかは言葉遣いを指摘するのも諦めて呆れていた。
「俺は所長を信頼していますから、所長に任せます。それに、起こっては欲しくはないけど、ミケーネのような奴らが、もう絶対に現れないという保証はどこにもない……! そのための準備も、何かしなきゃならない」
「甲児くんが似合わない勉強を始めるって言い出したのも、実はそういうことだもんね。兜家は、代々、天才科学者の家系なのに、自分はマジンガーに乗って暴れてただけじゃないかって――」
「似合わない――は、余計だろ……」
「甲児くん、本当に、私がついていってあげなくていいの?」
「いいよ。高校生じゃないんだから」
「まあ、私もやることあるし、お父様だけじゃ、ここも大変だもんねー」
「兄貴ィ!」と、所長室の外から、甲児の弟の志郎が叫ぶ声がした。
「まったく何やってんだよもー。タクシー待たせてんだからさー! そんなに、さやかさんと離れるのが辛いのかよー!」
「……シローの奴」
この日、兜甲児はアメリカに旅立った。自分を磨き、平和のためになる新しい力を身に付けるために。
二年後――。
静寂が包む宇宙。地球の大気層は薄皮一枚でしかない。地表から、たった100キロ上昇すれば大気圏の外に出る。ソフトボールの大きさに換算すると表面から僅か1ミリ。地球の生命はその奇跡の中で生きている。
地球の周囲を回る人工衛星は高度278キロから460キロに浮かんでいる。地球の自転と同じ方向に、同じ速度で移動し、地球から見るといつも同じ場所に居るように見える人工衛星を静止衛星という。
高度456キロ。地球軌道のもっとも外周に〝静止衛星フォトン・アルファー〟は設置された。その姿は国際宇宙ステーションのような筒状ポッドのジョイント構造ではなく、大型コンテナの集積体ともいえる巨大な空間を有するものだった。30万重量トンのタンカーと同様のスペースがあり、外宇宙観測、衛星通信、無重力工場区を備えた宇宙基地ともいえる設備だった。
フォトン・アルファーは国連が主導する〝地球防衛構想〟に基づき、UNF《国連軍》と光子力研究所と摩周湖国際宇宙観測センターが協力して運用する官民一体の国際防衛機構に帰属した。
構想から僅か二年で稼働に漕ぎ着けたのは、〝ミケーネ帝国〟との戦いから世界が学んだ危機感に他ならない。
故に、その指揮・管理の多くも経験者に委ねられることとなり、グレートマジンガーのパイロットだった剣鉄也がターミナルマスターと警備主任を務め、そのパートナーとして活躍した炎ジュンも主任管制官の任に就いていた。
剣鉄也はコンソールに並んだ複数のセンサーの反応に違和感を覚えた。
――んッ……?!
何かの〝予兆〟だと直感した。
周辺宙域の微弱な重力異常が感知され、監視影像が一瞬揺らいだ。
「ジュン、センサーに異状はないか?」
管制官たちを従えて操作パネルに向かっていた炎ジュンも同じことを感じ、言われるまでもなく確認作業に取りかかっていた。
全員の顔に緊張が浮かんだ。
データを分析したジュンは現実とは思えず、言葉をためらった。
「信じられない……! このデータが指し示している現象は――?!」
「何だッ――?」
「亜空間トンネルによるワープアウトよ……? 座標は、水平2時、垂直11時の15キロのポイント! すぐに来るわ!」
座標の方角――突如、漆黒の宇宙に様々な光が入り混じった渦穴が開いた。
それはフォトン・アルファーから肉眼でも見られる圧巻の大パノラマだった。
揺らぎが重なり、おぼろな色を滲ませ、雷の如く放電し、中心部に近付くにつれてエネルギーは強く発光し、渦巻いた。恰も地獄の釜の蓋が開き、煉獄の紅蓮の炎が噴き出したかのような光景だった。
もし、渦のエネルギーが届けば、フォトン・アルファーも跡形も無く爆発する。
最早、何が起こっても不思議はない。管制官の多くは〝死〟を意識した。
――本気かよ……!
追尾モニターは活きている。たとえ、自分たちが全滅してもデータは北海道にある地上の観測センターを経由して光子力研究所に送られ、弓所長が事実関係を把握し、有効利用してくれるだろうということだけが救いだった。
「無事に生き残ったら、ビデオを観せて解説しながら自慢してやろうぜ……! 宇宙の神秘を生で見たってなッ――!」
鉄也は怯える管制官たちの気持ちを解そうと笑顔を作った。
恐らく、人類がそれと認識して初めて遭遇するワープアウトの瞬間だった。
すると宇宙の渦穴から光に包まれた巨大な人型の何かが――姿を現した。
「角ッ――?!」
金属に見えるが、放電と光の渦でモニター越しではその細部も色も質感も判らない。
だが、頭部の耳の部分から左右対になった二本の角が突き出ているのが見え、北欧のバイキングや西洋の鎧騎士を連想させた。
データ計測によると、その大きさはグレートやZとほぼ同等だったが、今はそれ自体が生命体なのかロボットなのかも定かではない。
巨大な人型の物体は五体を広げ、そのまま地球の重力に引かれるようにして地平と水平が描く、ゆるやかなカーブの大気層に落下していく。
「落下予測地点は――?」
「出たわよ――。北半球。日本の、北海道。摩周湖周辺!」
「まさか……。あの巨大な人型の物体は、ここの地上支援施設・GCR《摩周湖国際宇宙観測センター》を目指しているのか……!!」
そんな偶然は宇宙の何処に於いても有り得ようはずもない。
あるとすれば、予め決められていた偶然という必然だった。
PROLOGUE 漂泊の王子 完
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