【完全版】『機動戦士ガンダム サンダーボルト』作者・太田垣康男インタビュー!! クライマックスの舞台裏や完結後の心境など語ってもらった!【HJメカニクス28】
2026.07.31HJメカニクス28 (6月30日発売)
ライブ感のあるアイデアを
納得感のある展開に導く
──本編で転機になったと感じたのは、タール火山基地における戦闘です。スパルタンの撃沈は意外でした。
太田垣 私自身も意外でした(笑)。漫画を描いていると、自分が当初考えていたものとはまったく違う方向へ、突然物語が動き出すことがあるんです。スパルタンについても、もともとは撃沈させる予定はありませんでした。宇宙へ向かうために必要な艦ですし、そのつもりで描いていたんです。ところが、描いているうちに「ここで落とすべきだ」と思うようになりまして。実際にその展開を描き始めたら一気に筆が乗ったんです。結果として、とても象徴的なシーンになったと思います。ダリルがニュータイプとして覚醒したことを表現するうえでも、あの展開以上にふさわしいものはなかったと思います。
集団作業のアニメと違い、漫画は一人での作業ですから、アドリブで作る部分が多いんですよ。「なんか違うな……」と思ったら、そこから変えることできる。そのライブ感が漫画の良さだと思うので。ただ、あとで辻褄をあわせるのは大変ですが(笑)。
──アナハイム・エレクトロニクス社という組織の立ち位置も、劇中でとても機能していたと感じます。
太田垣 アナハイムは、本編の流れを踏まえても、「わかりやすい黒幕」として機能してくれたと思います。基本的に漫画の読者は、常に初めてのお客さんだと思って描いているんです。だから、『サンダーボルト』を読み始める時に、『ガンダム』の世界を知らないと楽しめない作品では、漫画としてあまりよくないかなと思っていて。初めて読む人でも、『ガンダム』の世界を知らなくても、漫画としてちゃんと読めて楽しめることが大事だと思ったんですよね。そう考えると、いろいろな設定も、漫画の中でスムーズに読者へ入ってもらう形のほうがいい。だからアナハイムを登場させた時も、「今ここで出せば黒幕っぽく見えるな」というタイミングは意識しました。
──すべて計算されているように見ますね。たとえば回収されたガンダムの使い途もそうです。そこがガンダムVSジオングという構図になるという展開も見事でした。
太田垣 連載の途中から『機動戦士ガンダム』のオマージュを意識するようになって、最後はガンダムVSジオングをやりたいと思ったんです。ただ、イオがまたガンダムに乗るのは普通過ぎて。対比構造を意識すると、ニュータイプに覚醒したダリルはガンダムに乗せたほうが面白い。そこでサイコザクにガンダムを被せて、パーフェクト・ガンダムという案が思いついたんです。
──ジオングの伏線も見事に回収されました。
太田垣 あれも7年越しぐらいでしたね(笑)。
──ガンダムがブラウ・ブロを合体するのも驚きました。
太田垣 『サンダーボルト』の裏テーマとして、「『機動戦士ガンダム』に登場したメカは全部出したい」という気持ちがありました。ブラウ・ブロはニュータイプ専用ということもあって、なかなか扱いが難しかったんです。
──ジオングという機体そのものが、サイコミュ・システムの伏線になっていく展開も面白かったです。
太田垣 毎回、ジオングは「大変だなぁ……」と思いながら描いた記憶がありますね。ジオングは、特に顔のバランスが難しいんです。若干タレ目なので、気をつけないと可愛く見えてしまって。ただ、魔人や王のような雰囲気が欲しかったので、どうすれば怖さや威厳が出るのか、デッサンを取るたびに苦労しました。
──謎が多いサイコミュ・システムが、これほどわかりやすく描かれたのも重要だったと思います。
太田垣 多数のSF作品で、「人間の脳がパーツとして使われる」という展開はいろいろありましたよね。レヴァン・フゥもクローンですし、そこに彼の顔が乗っていたら、サイコミュ・システムとして、とても納得感があるかなと思ったんです。
SF作品を描くとき、SF設定が先行してしまうケースって多いじゃないですか? ただ、読者が見たいのは設定ではありません。ガンダムも専門用語がたくさんありますが、漫画では設定がわからなくても「物語がすぐ理解できる」というぐらいまで、単純化しなければいけないという気持ちはあります。もともと『ガンダム』は映像作品ですから、漫画のワンカットで、映像に負けないような説得力のあるシーンを作らなければいけないんです。100の言葉を尽くすよりも、1枚の絵で伝わるほうが重要なんです。
──実はジオングにもう一人乗っていた……という謎の展開もドラマチックでした。
太田垣 多くの読者の方にも好意的に受け止めてもらえたのは、嬉しかったですね。イオがカリストをすぐ仲間に迎え入れる展開も、受け入れてもらえたみたいで。カリストについては、とてもセンシティブな問題だったと思うんです。「でも、きっと『サンダーボルト』の読者ならわかってくれる!」と思って描きました。カリストの件に限らず、『サンダーボルト』を描いていて実感したのは、ファンのみなさんからのダイレクトな反響です。これは大きな刺激になりましたし、読者のみなさんを信頼できたからこそ、思い切った表現にも挑戦できたと思うんです。読者のみなさんとキャッチボールをしながら作品を作っているような感覚は、とてもいい経験になりました。
対照的な結末を迎えた
2人の主人公
──土壇場でカーラの裏切りがありましたが、あの展開は驚きました。
太田垣 割と早い段階で、「ラスボスはカーラにしよう」と決めていたんです。幼児退行してしまった彼女が正気に戻ったとき、この状況を見てどんな行動を取るだろうと考えたんですよ。きっと、いまだに殺し合いを続けている世界に絶望して、「全部ぶっ壊してやる」と思うんじゃないかなと。最後にみんなが積み上げてきたものをひっくり返すジョーカーとして彼女を使おうと思いました。
──どの段階でカーラの裏切りを構想されたのですか?
太田垣 構想自体は、4巻、5巻を描いている段階ですでにありました。ただ、思ったとおりの展開にたどり着けるかは、手探りでした。カーラの表情や言動で、ずっと伏線は張り続けていたんですよ。「あの変な顔や言動はそうだったのか」と、カーラの裏切りの瞬間に読者が気づいてくれればいいなと思っていました。
──本当にすべてをひっくり返しましたね。
太田垣 ただ、やっぱり彼女も戦争の被害者だと思うんです。カーラについては、単なる悪役として描いたつもりはありません。もし自分自身が力を手に入れたら、黙ってはいられないだろうなと思うんです。だからカーラがやろうとしたことには、とても共感できますし、自分の中ではリアリティのある行動なんです。
──クリードのガンタンクが、ダリルに一矢報いた場面は胸が熱くなりました。
太田垣 基本的には先程申し上げたように対比なんです。ニュータイプが乗る最高の機体という組み合わせがあるのなら、その対比になるのはガンタンクだろうなと。自由に飛び回れないし、砲台にしかならない。パーフェクト・ガンダムに一矢報いるとしたら、一番遠い存在を使いたいなと思っていました。その対比がうまく伝わっていたらうれしいですね。
──最後にダリルが旧ザクに乗るところに悲哀を感じました。
太田垣 『機動戦士ガンダム』の最後で、アムロは「ごめんよ、まだ僕には帰れるところがあるんだ」といって仲間たちのもとに帰っていきますが、実はあのシーンに対する逆オマージュなんです。ダリルは自分にとって、普通の男の子の代表なんです。その子が身に余る力を得てしまい、行使し続けたことで、こんな事態を招いてしまった。ちょっとしたボタンのかけ違いで、救いのない最後になってしまったんです。「ダリルを救ってほしい」という意見もあったのですが、最後にカーラに抱かれるところは唯一彼に残された救いだなと思っています。
──確かに印象的なシーンでした。
太田垣 23歳ぐらいのころに、ローマでピエタ(磔刑のあと、十字架から降ろされたキリストを聖母マリアが抱く姿を表した彫刻)を見たんですよ。手塚治虫先生も最後に『トイレのピエタ』という構想を残されていて、ピエタという題材はどこか心の奥底に残っていました。最後のダリルのカットを「どんな風にしようかな」と考えながら描いていたら、何かに似ている気がしたんです。「あ、ピエタだ」と。そのイメージとつながったときは、自分でもちょっと驚きました。
──ニュータイプの力を手にしたダリルと違い、イオはカリストへの態度も含め、仲間や家族との絆を強く感じさせるキャラクターになりました。
太田垣 これは日本にはないメンタリティかもしれません。アメリカの兵士は、「家族や仲間を守るために戦う」という強い意識があります。実は世界的に見れば、イオがやっていることは、かなりスタンダードな振る舞いなんです。それがいいか悪いかは別なのですが、あのイオの振る舞いは、大人としての一番いい着地点だろうなと思っています。
──マンションを借りて3人で暮らすという展開は、逆に驚きました。
太田垣 この回だけ、異様にホームドラマっぽいですよね(笑)。逆にこのあとになにがあるのか、不安になった方もいらしたようですが。
──メカファン的にサンダーボルトガンダムの登場が衝撃でしたが、この機体はどのような経緯で誕生したのでしょうか?
太田垣 最後に「エピローグを1巻分使って描きたい」ということは、編集部や編集長に伝えていました。そこでいろいろなキャラクターの最終回を描きたいなと思ったんです。はたして「イオの最終回はどうなるだろう?」と考えたとき、「きっと彼はまだ戦い続けるだろうな」とすぐに思い浮かびました。
サンダーボルトガンダムは、最後にイオが花道を飾る機体です。それなら量産機や既存の機体ではなく、オリジナルしかない。今まで描いてきた『サンダーボルト』のデザインの集大成ですね。それはずっと支えてきてくれたファンのみなさんへ向けた、最後の打ち上げ花火になるんじゃないかなと。自分の中では、あの作品世界のZZガンダムという位置づけです。「自分がZZガンダムを描くなら……」という意識で描いてみました。
──サブキャラクターたちのその後も描かれたのは、ファンとして安心しました。
太田垣 『サンダーボルト』は外伝という表現媒体があったので、多彩なキャラクターを主人公にした群像劇になりました。それも描いていて楽しかったですね。
──個人的にはビリーに思い入れがありましたが、彼の成長を実感した展開でした。
太田垣 ビリーは一番主人公っぽいキャラクターでしたね。最終的に、一番大人になったと思います。彼は「自分の器はこれくらい」という身の丈を理解している。そして、自分が守るべき人たちや大切な仲間を見つけたことで、彼は成長したのかなと。
──そしてソニアが生きていたのは、うれしいサプライズでした。
太田垣 キャラクターの生き死にに関しては、まったく狙っていたわけではありませんでした。ただ、戦争という状況ですから、いつ流れ弾に当たって死ぬかもしれない。そういう緊迫感は、常に意識したいと思っていたんですよ。主人公の仲間だからといって、安全ということは絶対にありません。読者のみなさんは、「リリーとカリストのどちらかが死ぬだろう」と思っていたみたいですね(笑)。
──最後には、シロッコらしき人物まで登場しましたが……。
太田垣 「きっとよからぬことがこのあとも起こるんだろうな……」という予感を連れてくるキャラクターが欲しかったので、「もうこの人しかいない!」という気持ちでした。まさか後ろ姿だけで、あれほど反響があるとは思ってもいませんでした。
──ある意味、ハッピーエンドだと感じられますね。
太田垣 ええ。イオたちにとって、あれはハッピーエンドなんです。自分たちの能力を存分に活かせる場所に最後はたどり着いたので。「どうせ戦うなら、納得のいく兵器で納得のいく環境で戦いたい」という気持ちがまさにそうです。どこかで彼らには、まだ騎士道精神みたいなところがあって、消耗戦で死ぬような戦いは自分たちも望んでいる場所じゃないと思っているんです。「敵も最強の機体で、俺たちも最強の機体で戦いたい!」、それは『ガンダム』世界のロマンと通じるところがあります。イオたちがそこに着地したのは、『ガンダム』作品として、いい落としどころだったのではないかと思います。
──今後、再度『ガンダム』を描くとすれば、どんなテーマで描きたいですか?
太田垣 13年描ききったので、これ以上のものが自分から出てくるとは思えません(笑)。もし描くとしても『サンダーボルト』の外伝的作品でしょうね。読者の方からも外伝を望まれる声が多いので。ただ、そうそうはできませんが……。
──最後にファンのみなさんにメッセージをお願いします。
太田垣 13年という長きにわたって連載を続けることができたのは、本当にファンのみなさんの支持のおかげです。読者のみなさんとのキャッチボールを重ねながら作品を描き続けられたことは、自分にとって大きな財産になりました。
漫画の連載は完結しましたが、アニメはシーズン2で止まっています。個人的には、ぜひ最後まで映像化してほしいという思いがあります。そのためにも、作品を愛してくださるみなさんには、引き続き声を届けていただけたらうれしいです。
『サンダーボルト』はまだ終わりではありません。これからも作品がさらに盛り上がっていくことを願っています。長年応援してくださったみなさん、本当にありがとうございました。そして、これからも『サンダーボルト』をよろしくお願いします!
『機動戦士ガンダム サンダーボルト』特集!!
「HJメカニクス28」
メカ好きオトナのホビー専門誌
2012年から連載が始まり、2025年12月についに全229話にて完結を迎えた、太田垣康男氏のガンダム漫画『機動戦士ガンダム サンダーボルト』。OVAおよび、それらをまとめた映画2作が展開され、また、HGおよびMGでガンプラも展開されてきた大ヒット作です。HJメカニクスではコミック完結を記念して、これまで発売されてきたガンプラを中心に完全新規作例を掲載。本誌自慢のプロモデラーが腕を振るい、立体方面から本作の魅力を改めて掘り下げます。
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