【鋼鉄ジーグ INFINITISM】第3回 不死団と闇
2022.11.12スーパーロボットINFINITISM 月刊ホビージャパン2021年5月号(3月25日発売)
ダイナミック企画×BANDAI SPIRITS ホビー事業部×月刊ホビージャパンで贈るフォトストーリー『INFINITISM』最新章『鋼鉄ジーグ』編。ハニワ幻神・ 暴迂羅 をジーグバズーカで葬ったジーグだが、休み間もなく、邪魔大王国の女王・ 妃魅禍 が新たな刺客を送り込んできた。マッハドリルを装備したジーグが大観峰に向かう!!
原作・企画
ダイナミック企画
ストーリー
早川 正
メカニックデザイン
柳瀬敬之
協力
BANDAI SPIRITS ホビー事業部
ホビージャパン
第3回
不死団と闇
外輪山の北に位置する大観峰――。
草木の緑に覆われた巨大なクレーター状の地形はあまりにも広大で、京都盆地がそのまま収まりそうな規模だった。
その高原地帯の人里離れた大地に、半形の怪人・壬魔使の姿があった。
壬魔使は地中に眠る迦楼羅の器に 妃魅禍 から授かった分け御霊を注入した。
「妃魅禍様の力を得て、目覚めよッ、迦楼羅―ッ!!!」
大地が割れ、巨大なその姿が現れた。
礫と粉塵を撒き散らし、深淵からもがき出た姿は、これまで現れたハニワ幻神とは違っていた。
確かに、体を構成する素材は他のハニワ幻神と同じく土を固めたもののように見えるが、表面の質感は微妙に違い、すべすべした青銅色にテカっている。
その形体も〝埴輪〟というより、さらに手の込んだ〝土偶〟を思わせた。
例えるなら、ずんぐりとした遮光器土偶に荒神の息吹が吹き込まれ、元の意匠を残しながらも好戦的な巨大戦士に変化した、そんな姿をしている。
「おお、流石は八部衆の器! さあ、存分に暴れるがいい!」
ハニワ幻神・迦楼羅は外輪山の峰に向けて歩み始めた。
その先には、人々の住む町が広がっている。
ハニワ幻神・暴迂羅を斃した宙のもとに遷次郎から脳波通信が入った。
〝――宙、別のハニワ幻神が現れた! 大観峰だ――!〟
「なんだって……!」
〝――邪魔大王国が本格的に目覚めたようだな……。これからは、もっと敵の動きも活発になる――!〟
「わかった。大観峰だな――すぐに行くッ!」
――と、応えたものの、今居る〝くじゅう連山〟とは距離もあり、地上を行くには足場も悪い。
〝――宙さん、マッハドリルを出すわ!〟
ビッグシューターの卯月美和だった。
追加武装であるマッハドリルはジーグの攻撃特性を上げるだけでなく、このような場合、移動手段にも使えた。
「さすがミッチー、その手があったな! おっし、頼んだぜ!」
ビッグシューターは上空を旋回してジーグの背に回り、マッハドリルを射出した。
「マッハドリル、シュート!」
背を向けたままジーグは軌道を合わせ駆け、天に向け大きく飛翔した。
「それッ!」
宙はタイミングを計り、ジーグの両腕を上腕部から先を切り離す。
「ビルドッ、オフ!」
後ろから接近した二本のマッハドリルがそれぞれ肘の球体関節に磁気で引き寄せられ、ガシャン、ガシャンと合体した。
「ドッキング成功! チェンジ、マッハドリル、セット!」
マッハドリルとジーグは一体となり、ドリルの噴射で大空に舞い上がる。
あっという間にF1のレースカー以上の加速で雲が流れた。
「こいつは、すげぇ……!」
くじゅう連山を越え、鋼鉄ジーグは西の大観峰に向け一気に飛び立った。
▼ ▼ ▼
宙とビッグシューターの美和に指示を出しながらも、司馬遷次郎たちはビルドベースの研究室で今後の計画を詰めていた。
「擁塞作戦だ。幸いなことに、邪魔大王国の本拠地はわかってる。第一防衛ラインは外輪山――。奴らを市街地に出さないよう、先ずは可能な限り閉じ込める」
美剣美里が遷次郎に尋ねた。
「自衛隊の出動を要請しますか?」
「ああ。だが、戦闘での掩護を頼むのはまだだ――。彼らには避難の誘導を優先してもらう。ジーグが敵の足を止めている間に、九州全域の人々を安全圏まで脱出させる」
「九州の人々、すべてを……」
「市民が居ては戦えん――。どんなに宙が頑張っても、奴らが市街地に出るのは時間の問題だ。市街地も戦場になる。その前に人々を、福岡、大分、宮崎を経由して本土に逃がし、最終的には出来得る限り、九州を無人にする」
誰も口にしなかったが、まるで、去年ブームになった〝日本〟が沈むという特撮映画のようだと思っていた。
「迅速な行動を促す必要がありますね」
「理由は、君が考えてくれ」
美剣美里は反射神経で答えた。
「中岳の第一火口から大量の有毒ガスが発生、大規模な地震の兆候も確認された――というのはどうでしょう?」
「なるほど……」と、遷次郎は感心した。
「そのくらいの嘘なら、後でバレても許してもらえるだろう」
「余計な混乱を抑え、一人でも多くの命を救うためです」
美里は、あくまで冷静に応えた。
「最終防衛ラインは関門海峡だ。何があっても邪魔大王国を九州の外に出してはならん」
美角鏡が補足した。
「妃魅禍の影響圏が広がれば、本土側に埋まっているハニワ幻神の器も暴れ始めます。そうなったら、ジーグ一体だけでは手の施しようがなくなります」
「あとは、戦力の増強と支援の手筈だな」
遷次郎がそういうと、それには美角美夜が図面を開いて説明した。
「特化用ユニットの、スカイパーツ、アースパーツ、マリンパーツと、それらを射出するための列車砲。それから、独立した電子頭脳を搭載した掩護機体・パーンサロイドを予定しています」
それまで黙っていた大利博士が口を開いた。
「これらを精確に運用するには専用の静止衛星が必要だ」
遷次郎も頷いた。
「ああ、プランと図面はあるが、予算と組み立て工場の手配、防衛庁との交渉。政府が、この緊急非常事態をどこまで理解してくれるかが、カギだな……」
「そうですね……。呉の造船所なら」
美剣美里はそういいながら、一同の顔を見渡し、「取り敢えずは、以上ですか――?」と、確認した。
「承知しました。今、この時点を以って、日本国政府の許可を受けたと認識して頂いて結構です。ビルドベースの皆さんは為すべきことを為して下さい――。問題があれば、我々が対応致します」
「ん?……本当に、いいのか?」
「全部やったら、幾らかかるか、わかってるんだよ……ね?」
提案した司馬と大利の方が面を喰らっていた。
「そもそも、あんたに決定権があるのか?」
些か無礼ではあったが遷次郎は美里に直接尋ねた。
「我々の決定権は情報第二担当理事官のゼロが持っています」
「ゼロって……?」
スパイ映画じみたワードに大利博士が反応した。
「秘匿事項の多い公安では、統括官のことを〝ゼロ〟と呼びます」
「そうなんだ……」
「〝ゼロ〟は承諾します。ご安心を」
強情な反論や質問の嵐を予想していた遷次郎には拍子抜けだった。
「そういわれてもな……あんたたちのことを、もっと、話のわからん、戦時中の内調のような組織かと思っていたが……」
遷次郎には戦時中の理化学研究所時代の印象が強く残っていた。
「かつての内調や今の外事は国家のシステムと利益を守るのが仕事です。我々は、公共の安全と秩序を守るのが仕事です。極端にいえば、たとえシステムとしての国が変化し、形を変えたとしても、その地に守るべき人々のコミュニティーがあればその安全と秩序を守る――それこそが我々の矜持なのです。その思いは、どれだけ歳月を経ようとも決して死なない、不死の信条です。そのための準備は整っています。ずっと昔から――」
美里の視線の先には美角美夜と鏡が居た。彼女の言葉は美角姉弟に向けて発せられているようにも見えた。
▼ ▼ ▼
マッハドリルを装着したジーグと、美和が乗るビッグシューターは僅か数分で大観峰に到着した。
巨大な遮光器土偶が外輪の内側の崖を峰に登ろうとしていた。
「なんだッ、アイツは……?!」
子供の頃、歴史の授業で写真を見た遮光器土偶がいっそう悍ましさを増した姿でそこに立っていた。
〝――宙さん、そいつは迦楼羅という特殊なハニワ幻神だ!〟
外輪北部の監視カメラからその姿を確認した美角鏡が脳波通信で語り掛けた。
「特殊な、ハニワ幻神……?」
〝――ええ。呪術で動くハニワ幻神にも、その製造の工程によりヒエラルキーがあります。迦楼羅は、いってみれば八部衆という上位個体に含まれるハニワ幻神です――。今まで戦ったものとは、別物と考えて警戒してください……!〟
「ああ、わかったッ!」
マッハドリルを腕に付けたジーグは噴射口を下に向け、空中でホバリングしながら迦楼羅を見据えた。
「アイツ、峰を越えて町に向かうつもりか……! そうはさせるか……!」
ジーグは前のめりに角度をつけると一気に噴射し、上空から体当たりの軌道をとった。
「いっくぜぇぇぇ! ドリルッ、アタァーックッ!!!」
高速回転した二つのドリルの先がハニワ幻神・迦楼羅の腹部に向け、突き刺さる。これまでの相手なら、この一撃で砕き、確実に粉砕する勢いだった。
「なにッ――?!」
ドリルは腹部に突き刺さり回転を続けるも、迦楼羅はガシリとジーグを掴み、むんずと放り投げた。
「うおわわわわわ……?!」
ジーグは外輪の崖の斜面に激突し、土砂と粉塵に塗れて滑り落ち、尻もちをついて漸く止まった。
「……なんて、硬い野郎だ……!」
〝――宙さん、大丈夫?〟
ビッグシューターの美和の心配そうな声が聴こえた。
「ああ、ちょいと甘く見ていた。鏡の忠告通りだ。アイツは、今までのハニワ幻神とは一味違う……!」
遮光器土偶を思わせる迦楼羅の腹部を見ると、僅かに二つの穴が空き、罅割れが広がっている。
宙に閃きがあった。
――そうか、奴はサナギのようなものなんだ……! 表面の土偶の体はただの鎧……! この中に本体が隠れてる……! 隠れているのは、まだ奴が成体に成り切れていないからだ……!
〝――どうするの、宙さん?〟
「先ずは、腕をつけ直す!」
マッハドリルの腕では戦闘パターンが限られる。不安もあるが、ここが決断の刻だった。
〝――でも、ここで使ったら、腕の予備パーツがもう無くなるわよ! いいの?〟
「わかってる――いいから腕をシュートしてくれ!」
〝――もう!〟
「ジーグパーツ、シュート!」
ビッグシューターが予備パーツの腕を射出した。
「ビルドッ、オフ!」
マッハドリルを外してジャンプしたジーグに予備パーツの腕が合体した。
「よっし、本体を引き摺り出してやる……!」
大地に降りたジーグは両腕を交錯させ構えた。
「マグネットパワー・オン!」
磁流波エネルギーが隅々まで行き渡り、ジーグのパワーが上昇する。ジーグの眼に、宙の瞳が宿った。
「いくぞッ!!!」
鋼鉄ジーグは迷うことなく迦楼羅に駆け寄り、その腰に両腕を回した。
「ジィーグ、ブリィィィカァーッ!!!」
ミシミシと土偶の外殻を締め上げる。マッハドリルで空けた穴の罅割れが見る見る全身に広がり、青銅色の表面が罅だらけになった。
グシャン――!と、砕けた瞬間、一回り大きく膨らんだ本体が発光しながら遂に姿を見せた。
「ようやく、本体を現したな――!」
遮光器土偶の殻から出た迦楼羅は繭から出た蛾のように翅を広げる。
「飛ばすかよ!」
宙は迦楼羅の本体が定着する隙を与えなかった。
戻った腕で翅を毟り取ると、胸にある四つの発射口から磁力ロープを伸ばし出す。
「マグネット、ロォォォープ!」
磁力ロープは電磁ネットに変化し、飛行型に変態を始めた迦楼羅を包み込んだ。
「おうらよッ!!!」
腰を下ろし、渾身の力で引く。
鋼鉄ジーグは電磁ネットに包まれた迦楼羅をジャイアントスイングの要領で振り回し、外輪の内側に向けて大きく投げ飛ばした。
ズドドドガーン!!!
大観峰に振動と轟音が響き上がった。
ジーグは両腕を掲げスピンストームの発射口を迦楼羅に向けた。
「――俺たちは無力じゃない。鋼鉄ジーグが居る! 邪魔大王国ッ、この時代に目覚めたことを、後悔させてやる……! スピンッ、ストォォォームッ!!!」
一直線に放出された磁流波エネルギーが迦楼羅を貫き、迦楼羅は八部衆への変態を終える前に消滅した。
「何者だ…、あやつは……⁈」
人知れず、大観峰の物陰から見届けていた壬魔使は思わぬ強敵の出現に喜びで体が奮えていた。
「もしや、凄ノ王の化身……! いや、あやつは違う…。だが――」
壬魔使は妃魅禍に事の次第を伝えるべく、地に潜るように姿を消した。
▼ ▼ ▼
ビルドベースが提出したプランは美剣美里により即時実行に移された。
彼女がどのような手段で諸々を納得させたのかは分からない。
だが、日本国政府、防衛庁、九州の自治体のすべてが一斉に動き出し、脱出作戦と邪魔大王国との戦闘に向けての準備がなされた。
宙は一月で七体のハニワ幻神を斃し、その間に六割の熊本県民の脱出を終えることが出来た。
しかし、ここからが苦しい戦いの始まりだった。理想や方針がどうであれ、様々な理由で移動が困難な者たちも居る。その人々を守るため、ボランティアや医療従事者や護衛も必要だった。目標は阿蘇周辺の熊本だけでなく、九州全域の脱出だった。
また、ビルドベースの面々も例外なく多忙を極めた。
司馬遷次郎と大利敏継はジーグの戦いを補佐しながらも交代で呉と種子島に渡り、特化用ユニットと衛星の開発を急いだ。
美角美夜と鏡も昼夜を問わずビルドベースに詰め、陰ながら宙をサポートした。
流石に三ヵ月が過ぎると邪魔大王国の存在を市民に隠し切れなくなったが、それまでには九州全域の七割の脱出を終え、疎らに残るコミュニティーの把握も済んでいた。
戦闘になってもこの場所さえ避ければ少なくとも人的被害は抑えられる。
このタイミングを機に、自衛隊の戦闘行動への協力が始まった。
呉で行われる完成した特化用ユニットの受け取りと政府との会議のために司馬遷次郎と美角姉弟と美剣美里が九州を離れた時、大利博士も種子島の日本国際航空宇宙技術公団《NISAR》に詰めていた。
予定にあったもので既に完成し、実戦に投入されたのはビルドベースで造ったパーンサロイドだけだった。
「パーンサロイド、よく見ると可愛いわね。特に鶏冠とジェットノズルがいい感じ」
「鶏じゃないんだから、鶏冠じゃなくて前髪だろ」
美和も負けてはいなかった。
「馬なんだから、それをいうなら鬣でしょ」
「あ、そうか…。でも、ジェットノズルが可愛いって感覚は、俺にはわからん……」
その日、ビルドベースに居るのはサポートの研究員や公安警察のボディーガードたちを除けば宙と美和の二人だけだった。
研究員が呉からの連絡を伝えた。
「スカイパーツ、アースパーツ、マリンパーツとも無事に受け取りを完了しました。ユニットはドーラ砲を装備した専用輸送列車でこちらに向かったそうです」
「そうか、よかった。これでジーグの戦い方も広がる。マッハドリルだけで空を飛んで敵を潰して回るのは骨が折れるからな」
ハニワ幻神が出て来ては潰す。ゲームセンターのもぐら退治のような戦いを美和と二人で三ヵ月続けて来た宙の正直な気持ちだった。
「司馬博士たちはそのまま政府との会議に向かわれました」
「親父も、大変だな」
「宙さんがお父様のことを口に出して、そんなに思いやるなんて」
美和がしみじみとした表情で宙を見詰めた。
戦いが激しさを増すほど、逆に人間としての宙は、優しく、丸くなっているようだった。
「俺も、変わったのかもな……」
そんな会話が宙と美和の記憶に残る最後のささやかな日常となった。
最終決戦は――突然、訪れた。
第3回 不死団と闇 完
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第3回 不死団と闇
新たなる「INFINITISM」
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第5回 永劫因果 (終)
©ダイナミック企画・東映アニメーション