【グレンダイザーINFINITISM】第2回 方舟
2022.07.09グレンダイザーINFINITISM 月刊ホビージャパン2019年6月号(4月25日発売)
ダイナミック企画×BANDAI SPIRITS ホビー事業部×月刊ホビージャパンで贈る新たなるフォトストーリー『グレンダイザーINFINITISM』。『マジンガーZ』『グレートマジンガー』のその後に続く『グレンダイザー』の世界を描く、オリジナルストーリー第2回!
原作・企画
ダイナミック企画
ストーリー
早川 正
メカニックデザイン
柳瀬敬之
協力
BANDAI SPIRITS ホビー事業部
ホビージャパン
第2回
方舟
幾層にも積み重なる不気味な黒雲は天まで達し、吹き荒れる嵐は刃のようにフリード星の大地を削ぎ落した。
〝デューク様。グレンダイザーをウルドの収束ポイントに――これ以上の戦闘は作戦に支障をきたします〟
テュール《アストラルAI》は落ち着いた声で伝えた。
「ああ――わかった」
戦闘に集中していたデュークは改めてフリード星を見た。緑豊かだった美しい星は、陸も海も見えず、黒雲のベールを纏った〝闇の星〟になっていた。
――あの雲の下に、生きとし生けるものたちの未来が……!
地上の制圧部隊が気になった。
「ベガ星連合の動きは――?」
〝大気圏外の敵勢力は抑えられましたが、地上にとりついた兵力については、何とも申し上げられません〟
テュール《アストラルAI》は分析可能なデータからそう応えた。
「……正直だな」
デュークは小太陽化しているウルドにグレンダイザーを向けた。
フリード星を包囲していたベガ星連合の艦隊は〝守護神〟の反撃によって戦闘能力を失い、既に沈黙状態となっている。
〝計算上、生命体の生存限界はぎりぎりの所で維持出来そうですが、このバランスは奇跡のバランスです。作戦がうまくいったとしても、不確定要素のエントロピーによっては星自体が崩壊する虞もあります〟
「それでも――確率的には、唯一の方法なんだろ?」
〝はい〟
「なら、それに賭けるしかない」
〝お兄様、こちらの準備は出来ています〟
「了解だ――」
グレンダイザーがベガ星連合の宇宙艦隊と戦っていた一方でスペイザーは静かにウルドの収束エネルギーを蓄えていた。
先程までウルドがあった空間の超重力コアでは、星の収束エネルギーがブラックホールと同様の吸引力を持ち、そのエネルギーに任意の方向性を与えれば、ホワイトホールやビッグバンに匹敵する排出エネルギーとなった。そして、それを制御することで惑星フリードを星ごと時空に閉じ込めることが可能だった。
超重力コアの中心でスペイザーの上に戻ったグレンダイザーは、ダブルハーケンを構え低い姿勢をとった。うず巻くエネルギーと放電が全身を包み、角に、長薙ぎにスパークが走る。守護神の台座に立つ戦神全体が雷とエネルギーに満たされる。その姿こそが――伝説の瞬間そのものだった。
エイル《アストラルAI》のカウントダウンが始まった。
〝エネルギーレベル、目標値までの上昇、あと、3、2、1、0――充填完了しました〟
デューク・フリードは武器システムを伝達系統だけに繋げ直し、スペースサンダーの制御ラインにアンチ・エネルギーフィールドを接続した。
「デューク王子ッ、スペイザーとのエネルギーリンク、正常で御座います!」
聖殿の中でデュルゼルが叫んだ。
「お兄様ッ、微調整はこちらでッ! スペースサンダーを発射して下さい!」
マリアも負けずに叫んだ。
「わかった!」
コンソールに直結させたガルトロッドをデュークが操作するとグレンダイザーの頭部から付き出した四本の角がグギギ…と動き、放射角を拡げた。
「スペースッ、サンダァァァーッ!!!」
グレンダイザーの角からウルドのエネルギーを集約させた力が開放された。
凄まじいスパークが広がり、惑星フリードを包んだ。
〝亜空間フィールドへの変換、開始します〟
エイル《アストラルAI》の涼やかな声が女神の言葉のように聴こえた。
「頼んだぞ……!」
が――不確定要素はフリード星のエリアから発生した。
ピピピッ…と警戒シグナルが明滅した。
「お兄様ッ、フリード星から、上陸していたベガ星連合が出て来ます!」
「なんだって……?!」
モニターに円形のマーカーが浮かんだ。旗艦アイコンを付けた機体もある。黒騎士バレンドスの司令円盤マザーバーンだ。バレンドスは大気圏外での戦況の全貌こそ把握してなかったがフリード星の急激な環境の変化から大枠を察した。
鼻の利くバレンドスは動きも早かった。
「フリード王よ。どの道、この星は終わりだ。望み通り、星と共に滅ぶがいい――」
滅ぶ星は良いとしても〝守護神〟と〝デューク〟をこのままにしておいては恐星大王に対面が保てない。ここで逃がす失態を演じれば、間違いなく処刑が待っている。バレンドスにしても、ここでデュークを殺し、守護神を確保しなければ生き残る術はなかった。
デュルゼルが渋い顔をした。
「いけませんな――奴らがこちらの作戦に気付き、エネルギーフィールドに干渉したら、作戦は水の泡だ……!」
テュール《アストラルAI》が冷静に現状を伝えた。
〝敵艦隊は転位予定エリア内です――。この座標では、彼らもフリード星と共に転位させてしまうことになります――〟
決断の時だった。この瞬間にもエネルギーフィールドは活性化を続け、時空の波紋は広がり、亜空間の境界が形成されている。
選択肢は少なく、どれもそれなりのリスクが伴う。
――守るべきものは……!
デューク・フリードは一瞬で判断した。
「このまま行く――!」
「しかし……」
老剣士は一瞬不安の色を浮かべたが、デューク王子が見込みのない決断をしないことを知っていた。
「まあ――少々危険でも、やるしかありませんか」
「マザーバーンがあの位置に居てはフリード星を別の時空に隠すだけでは、すぐに見付かってしまう。エイル、フリード星の転位先を、すべての時空、すべての座標を対象に再計算だ」
〝了解――〟
「フリード星と併走して跳躍し、彼らを亜空間で迎え撃つ――」
「でも――お兄様。戦うためにはシールドの外に……!」
時間流を隔てたシールドから出るということは、たとえ、追手を食い止めることに成功しても、それぞれが異なる未知の時空に排出されることを意味している。
「戦闘はグレンダイザーのみで行う。スペイザーはフリード星と同じ時空ラインを維持し、〝道しるべ〟になってくれ。フリード星の最終転位座標を悟られないために連続パラレルジャンプで行くんだ。テュールの追跡機能があれば、エイルを探すことが出来る――恐らくね」
語尾の優しさはマリアへの配慮だった。
「すべてを再計算している時間はない。私の合流は、後回しでいい――」
「……王子」
「お兄様……」
〝フリード星の転位先座標、検索完了――〟
エイルの声にマリアはデータを確認した。
「理想的な時空だわ。重力差分も殆どない」
「座標を亜空間トンネルに接続! フリード星の時空転位を開始する!」
フリード星を包んだエネルギーフィールドが星を包む巨大なホオズキの萼のように膨らみ、幾つもの次元と絡み合い、変化し、赤紫に滲み、大宇宙を渡る凄まじいエネルギーの大動脈となった。それが目視出来る一瞬にのみ、亜空間ゲートは開かれる。
全身からスパークを迸らせ、スペイザーとグレンダイザーは亜空間トンネルに飛び込んだ。
「マリア、デュルゼル、必ず見付ける。君たちも、生き延びるんだ――」
「ええ!」
「王子も――!」
白い閃光が包んだ。惑星フリードの宙域から、フリード星が消えた。
「フリード星が消えただと――? 叶わぬと見て――自爆でもしたか?」
軍将ダントスは言葉を選んだ。
「艦隊は〝守護神〟と思われるものに遭遇し、その直後、時空に歪みが生じ、フリード星が消失したとのことで御座います」
ベガールは瞼を閉じた。ダントスにとって、気が遠くなる程に長い沈黙があった。
「バレンドスは、何をしている?」
渇いた喉を詰まらせながら、ダントスは懸命に答えた。
「王都制圧の報告後……、連絡が途絶えております。〝守護神〟を確保すべく、地上から離脱したところまでは確認されております。も、申し訳……御座いません……!」
「フリード星も、守護神も、バレンドスも、全てが――消えただと?」
「――ははッ」
ダントスは跪いて頭を垂れ、ただ、ひたすらに恐星大王の次の言葉を待った。
「ふはははは……」
ベガールはこもった低い声で笑い始めた。
湿り気を帯びた瞳は爛々と輝いている。奥底から沸き上がる、武人の歓喜だった。己に相応しい好敵手が伝説だけでなく、遂に目の前に現れた喜びを噛み締めていた。
「ダントス」
「――はッ」
「私は、嬉しいのだ――。伝説の〝守護神〟が姿を見せたとすれば、我が、為し遂げんとする〝大義〟が、それに見合うという証――。時の襞は、必ず重なるだろう」
軍将ダントスは、そっと胸を撫で下ろした。
▼ ▼ ▼
アメリカ――。
カリフォルニア州・パサデナ。
渡米して、もう少しで二年――。兜甲児は21歳になっていた。昼間は留学先のカリフォルニア工科大学で学び、毎日、NASAのジェット推進研究所《JPL》に顔を出し、夜と週末はステイ先のオリバー・ワトソン博士の自宅兼研究所で研究一色の暮らしを送っていた。
初めは不安もあったが、一念発起して学業に身を委ねると、自分でも知らなかった自分の一面が広がり、毎日が充実していた。
Dr.ヘルやミケーネ帝国はもう居ない。戦いに呼び戻されることもなく、人々のためになる研究に没頭出来た。次なる危機に備えるという個人的な目標はあったが、それも〝新たなる敵〟が現れなければ、使うことのない副産物で良かった。科学者としても、これまでの経験は無駄にはならなかった。祖父の兜十蔵からロボット工学について直接教わったことはないが、〝マジンガーZ〟を通じて間接的に教えられた、深く、最上のロボット工学の知識は、知らず知らずのうちに大切な基礎知識として甲児の中に蓄積されていた。命懸けの戦いから得た突飛な発想癖も、科学者には不可欠なものだった。
今年、50歳を迎えたオリバー・ワトソン博士は甲児の祖父の十蔵や父の剣造とも交流があったアメリカのロボット工学の第一人者で、現在はNASAのジェット推進研究所《JPL》で無人探査機の開発を任されていた。夫人のエミリアと娘のシャロンの三人家族だが、二年前、シャロンがカナダの航空学校に進学することが決まり、丁度、寂しくなっていたところで、留学を考えていた甲児のステイ先になってくれた。
研究所の応接間を兼ねた自宅のリビングにワトソン博士と甲児の姿があった。
「燃焼システムを使わず、無重力空間で姿勢を制御する方法ですよね」
「いいアイデアが浮かんだかね?」
大学の課題も個人で進める研究も、万事、この調子で忌憚なく意見交換をする間柄になっていた。
「ええ、姿勢制御というより、磁力と遠心力を使った擬似重力制御って考え方です。テスラコイルより、経費も安く済みますよ」
「また、変なこと、思いついたんだ……」
甲児とのこんなやり取りがワトソン博士にとっても愉しみになっていた。
「中身が空洞の大きな真球に小さくて重い真球を入れて、外から磁力で制御してそれを転がせば、中の球の移動で遠心力が生まれます」
「うん、そうだね」
「それを三つ作ってマテリアルに三点固定すれば、玩具のロボットのサーボシステム程度の制御でエネルギーのベクトルを瞬時に定義付けすることが可能でしょ、博士」
「なるほど、三点ジャイロか。単純な構造の上に場所も取らない。何でそれに気が付かなかったのかなァ……。まったく、君の発想には驚かされるばかりだ……」
ワトソン博士はそう言いながら頭の中で様々な試算を行った。理論的には問題ないが、空洞の真球構造の強度に不安があると直感的に感じた。
「でもね、中の球の回転で重力に干渉するだけの高速回転を生み出すには、余程頑丈な金属がないことには、実現は……」
難しい――と、言い掛けた時、ワトソン博士は自信たっぷりで自分を見ている甲児を見て、「あっ」と気が付いた。
「――ホントだ。超合金Zなら、出来ないことは、ないか……」
「でしょ、博士」
甲児の研究課題は〝光子力〟と〝超合金〟の平和利用だった。そして出来るなら、マジンガーZに使われているそれらの技術を戦いのためでなく、人類の未来のために、宇宙開発に役立てたかった。
「で、それともちょっと関係あるんですが。博士、ちょっと見てもらえませんか」
「ん? こりゃ、愉しみだね」
甲児はモバイルノートの図面を拡大し、ワトソン博士に見せた。
航空機の設計図のようだった。
「これは――有人型のジェットスクランダーみたいだが?」
「ええ、でも、燃焼システムはロケット・ラムジェット複合型の光子力エンジンですから宇宙も行けます。重力下では主翼に付けたダブルローター。宇宙空間では内蔵したトリプルジャイロとアポジモーターで補助制御を行うので惑星探査には持って来いです。確か、NASAのジェット推進研究所《JPL》で無人探査機を運ぶ輸送機体のコンペ、やっていましたよね?」
ワトソン博士は甲児が見せた設計図に見入っていた。
「ああ――正しく、コレだよ。機体そのものが翼の形なら、究極のリフティングボディだ。その上、固定ベルトを工夫すればどんな形のモノとでもジョイント出来る。マジンガーZを運んでいたくらいだからね」
「ただ、現実問題として超合金の元になるジャパニウム鉱石は貴重ですからね。光子力研究所に問い合わせてみないと、必要な分量が揃うかどうかって心配はあります」
「それにしてもこの設計図、よく描けてる。大したもんだ」
「実をいうと、結構、グレートブースターの図面を参考にしてるんです。そのまま頂いたところも、あったりして……てへへ」
甲児は悪戯小僧のような笑みを見せ、後ろ跳ねした髪をボリボリと掻いた。
▼ ▼ ▼
赤紫に滲む亜空間トンネルを、フリード星、グレンダイザー、スペイザー。それに、黒騎士バレンドスの司令円盤マザーバーンに率いられた〝ベガ星連合〟の急襲制圧艦8隻が、激流に転がる巨岩のように流されていた。
フリード星の転位先ポイントを追跡させないよう、デュークはスペイザーの中枢に居るマリアに最終座標を伏せた〝あみだ転位〟の連続パラレルジャンプを命じた。これにより、フリード星と、それと一緒にジャンプするスペイザーが敵に追跡される確率は格段に減るが、亜空間でその座標から離れて行動するグレンダイザーも敵と同様にフリード星の最終転位座標を追跡出来なくなる。だが、それでも尚、〝ベガ星連合〟の追手を完全に振り切るためにはまだ心許なく、確実な足止めが必要だった。既にこの亜空間では通信も出来ない。デュークはフリード星とスペイザーが同じ流れに乗ったのを確かめると、敵艦隊を引き離すために司令円盤マザーバーンに向けてグレンダイザーを進めた。
――マリア、頼んだぞ……。
バレンドスはマザーバーンのブリッジから接近するグレンダイザーを目視した。
「あれが、守護神か――!」
惑星の宙域ごと亜空間に閉じ込められたのには流石に面を食らったが、その事象が、そのまま相手の作戦を明らかにしていた。
「フリード星の転位先を追え――。バトローニ《円盤型戦闘機》、全機出撃! あるだけのニィフォール《円盤獣》も全て出せ! レーダー追尾! 接近した者はマーカーを撃て! 時空追跡用ドローンを放て! 全ての方法で把握しろ、絶対に見失うな――!」
マザーバーンの動きに倣い、艦隊も動き出した。無数のバトローニ《円盤型戦闘機》とニィフォール《円盤獣》が出撃した。
鋼垂円刃のZAGIZAGIと瞑魔角貝のGORIGORIがグレンダイザーに向かった。
「テュール、すべての敵の動きをモニターしろ。フリード星の追跡行動に出た敵を優先して破壊する――!」
自分で口にした〝破壊〟という言葉に抵抗を感じたが、デュークは腹を据えるしかなかった。ここで足止めしなければフリード星は元より全宇宙の善良なる民が〝ベガ星連合〟に立ち向かう術を失う。それだけは、何があっても避けなければならなかった。
「始めるぞッ、テュール!」
ダブルハーケンを構えたグレンダイザーは修羅の化身の如く亜空間の戦場を支配した。鋭い眼から放たれたダイザービームは一瞬でバトローニ《円盤型戦闘機》の群れを溶かし、焼き払った。分離させたハーケンを剛腕で投げつけると、2隻の宇宙戦艦が真っ二つに切り裂かれて爆発した。
――何という、強さだ……?!
見紛うことなき戦神の姿だった。
暫くの間、バレンドスは言葉を発することすら出来なかった。決して〝伝説〟を軽んじていた訳ではない。だが、〝守護神〟の強さは想像を遥かに超えていた。
グレンダイザーを挟み込むように接近したZAGIZAGIとGORIGORIも一瞬で躱され、腕の刃を逆立てたスクリュークラッシャーで貫かれ、糸を切られた操り人形のように二体同時に動かなくなった。
――チッ、仕切り直すしかないか……!
最早、痕跡を消す必要があるのはバレンドスの方だった。
「亜空間から脱出する――! フリード星の追跡データとのリンクを確保しろ。一旦、別の時空に出て〝守護神〟をやり過ごす!」
艦載機の回収もせず、マザーバーンと生き残った6隻の宇宙戦艦は亜空間トンネルから離脱した。
――消えた。
「テュール、転位先は――?」
〝フリード星の転位ルートとは異なる座標です〟
「追跡されている可能性は――?」
〝ゼロではありませんが、確率としてはこの上なくゼロに近いものです。フリード星、若しくはスペイザーを対象に補足されている可能性はありません〟
「そうか、ならいい――。後は、私たちがどうやって合流するかだ――。エイルの痕跡を追えそうか?」
〝その件ですが、遺物科学の上位データに極めて高次元のスペイザーとの同調システムが見付かりました〟
「解析は、可能か?」
〝残念ながら、あまりにも高次元過ぎて、解析にはエイルの助けが必要です〟
「エイルと合流するためにエイルが必要だが、エイルは居ない、か……。ちょっとしたパラドクスだな――」
〝はい――しかし、解析は出来なくとも、遺物科学のシステムは信頼に足り、確かに存在しています〟
「いいだろう。何処に跳ばされようと恨みっこなしだ――」
ワープアウトした瞬間、デュークはコクピットのディスプレイに映し出された惑星を見た。
空の青と海の碧と陸の蒼――真綿を撒き散らしたような白い雲が浮かんでいる。
美しい緑の星は衛星ウルドが爆発する前のフリード星に似ていた。
「テュール、ここが何処だか分かるか?」
〝はい――私たちが亜空間に突入した座標から、距離としては1672光年ほど跳躍した先の恒星系です〟
「この星に、エイルの――マリアたちのスペイザーの反応は?」
〝今のところ、見つかりません。しかし、ベガ星連合の追跡から身を隠すために、エイルが意図的に痕跡を消していることも考えられます。それに、ここにワープアウトしたのは、私より上位の〝遺物科学〟に属する〝思考〟の判断によるものです。何らかの関連、理由があるものと推測されます〟
「この惑星に関するデータを出してくれ」
〝了解――〟
コクピットを囲む空間に様々な映像が高速で出現した。それぞれの立体スクリーンには、その星の物質的特徴、生命体、歴史、言語、文明、科学力など、あらゆるカテゴリーのデータが洪水のように映し出された。
デュークはそれらの情報を自身の脳に吸収し、吟味した。フリード星が封印した超科学はアストラルボディー《星幽体》との連動活性を実現していた。データさえ揃っていれば、必要な情報を取捨選択し、一瞬で肉体に記憶し、言語や知識や体術に至るまで、幼い頃から体に染み付いたもののように操ることが可能だった。デュークがグレンダイザーを操縦出来るのも、そのお陰だった。
情報を流し見したデュークは微妙な表情を浮かべた。この惑星の知的生命体である霊長目はフリード星のヒューマノイドと外見的にも変わらず、肉体の進化も殆ど同じ構造を持っていたが、技術レベルは自身の恒星系から出る技術を持たないレベル2以下で、惑星としてはまだ幼年期に属した。宇宙的リテラシーも未開と言わざるを得ない。
――コンタクトには、十分な配慮が必要だな。
「テュール、意見を聞かせてくれ」
〝はい――スペイザーの中枢の思考が導いたとすれば、必ずこの場所にヒントがあります。この落下軌道のまま進み、身を任せては如何でしょう。グレンダイザーなら、どのような状況にも対応してくれるはずです〟
「そうだな――慌てても、仕方ないな」
第2回 方舟 完
【グレンダイザーINFINITISM】
第2回 方舟
【マジンカイザーINFINITISM】
【ゲッタードラゴンINFINITISM】
【鋼鉄ジークINFINITISM】
新たなる「INFINITISM」
【マジンガーZERO INFINITISM】
第5回 永劫因果 (終)
©ダイナミック企画・東映アニメーション