【コードギアス 新潔のアルマリア】最終回 ep.22「私の家族」
2026.10.03 数時間後、私たちが訪れたのは、東南アジアにある観光地。その繁華街から少し離れた広い森林公園でした。そこには、都市部で住めなくなった人がコミュニティを作り、自分たちで作った簡単な住居で暮らしているそうです。そのコミュニティの中でも、離れて孤立した住居の前で、レディ・レディが待っていました。
「久しぶりね、ミスター」
「待たせてすまない、レディ・レディ。奴はここに?」
「一応、ね。アルマリアは入らないほうがいいかも」
レディ・レディの言葉の意味はすぐにわかりました。住居の中から漂ってくるこのにおいを私は知っていたからです。
「ありがとう、レディ。でも、大丈夫。この目で確かめておきたいから」
「そう言うと思った」
レディ・レディがそう言いつつ、住居の入り口にかかった布をたくし上げる。中を見ると、ウィリアム・ビッシュだったであろう遺体が住居の奥に座り込んでいました。一目で遺体であるとわかったのは、すでに腐敗が始まっているから。
「死因は?」
「餓死みたい。このコミュニティの人とも交流がなかったらしいわ」
「権威ある科学者が孤独死か……」
「こんなところでひとりぼっちで暮らしてたんだもんね」
ハクバさんたちがビッシュの遺体の周りを調べている。私は、ビッシュ本人のことよりも知りたいことがあって、住居内を見渡します。でも、何もない。最低限の生活をするための日用品があるくらいで、本や書類なども見当たらない。
「手掛かりになりそうなのはこれくらいか」
ハクバさんが、遺体が手にしていた手帳を丁寧に抜き取る。そこには、ビッシュのものだと示す身分証明書と記憶デバイスが入っていました。
「駄目。荒らされた形跡もないし、手掛かりになりそうなビッシュの持ち物ってそれだけっぽい」
「ドク、このデバイスなら開けるよな?」
「うん。なんか仕掛けられてる可能性があるから、ホテルに戻ってからのほうがいいと思うけど」
「だな。デバイスの中身はあとに回すとして、念のため検死もしてもらおう。サトリ、黒の騎士団に連絡だ」
「りょーかい」
「しかし、ビッシュが死んでいるとなると証人がいなくなるな」
「問題ないわ。ちゃあんと見つけてある」
「さすがだな。マシューの情報からか?」
「ええ。提供してもらったマシューの供述からパーシー・フランケンシュタインって男を見つけたの。その所在をオズが追ってくれている」
「オルフェウスも協力してくれているのか。今度何か礼をしないとな」
「白炎をフルメンテしてあげたら喜ぶかも」
「チャウラー博士に相談しておくよ」
ハクバさんたちが調査を進めるなか、私の興味は回収された記憶デバイスにありました。私を作ったウィリアム・ビッシュ。いわば“父”に当たる人。彼はどういう想いで私を作ったのか。私が生まれたことでどういった感情が生まれたのか。彼の考えを知りたい気持ちでいっぱいになりました。だから、その夜、ハクバさんの部屋を訪ねたのです。
「アルマリアか。どうした、眠れないのか?」
「あの、ミスター。どうしても気になることがあって……」
ハクバさんはそう言った私を部屋に入れると、窓際の長椅子に座らせてくれた。
「気になることって、ビッシュのデバイスのことか?」
「はい……。私はあの人に作られました。だから……」
「その前に俺もアルマリアに聞きたいことがある」
「えっ? なんでしょうか」
「宿題。作文の宿題が未提出なんだってな。真面目なアルマリアが宿題を出してないなんて、何か理由があるんだろう?」
「それは……、テーマが『家族』で……。でも、私には……」
「俺じゃ駄目か?」
「いえ! ミスターは駄目なんかじゃありません。行事にはきちんと来てくれますし、失敗も多いですけどお弁当も作ってくれます。確かに学校のみんなみたいに遊園地とかも行ってみたいですけど、お仕事が忙しいですし……、ともかく! ミスターは駄目じゃありません。私の立派な……」
「それじゃあ、どうして……」
「大好きだからです。でも、本来、ミスターの愛情を受けるはずだったのは明日菜さんです。私じゃありません。そんな明日菜さんの代わりにミスターを独り占めしていいなんて私には思えません。だから、だから……」
どうしてでしょう。泣くことじゃないのに涙が溢れてくる。私がハクバさんの本当の娘じゃないなんてわかり切っていること。最初からわかっていることなのに、そう考えると涙が止まらない。
「アルマリア……。そうか、明日菜のことを考えてくれていたんだな」
ハクバさんが優しく私を抱き締めてくれる。
「確かに俺は今でも結と明日菜を愛している。この平和になった世界に生きてくれていたならと思う。でも、だからといって、アルマリアが幸せになっちゃいけないわけじゃない。だって……」
ハクバさんが向けてくれる笑顔はいつも優しい。
「アルマリアは明日菜の代わりじゃない。アルマリアも俺の大事な娘なんだ」
「お、お父……」
今なら、ハクバさんのことをお父さんと呼べる。そう思った時……。
「大変だよ、ハクバ! マリちゃんが部屋にいない……、ってアレ?」
「ノックぐらいしろよ、サトリ」
「ごめん。焦っちゃって。でも、ここにいたんだ、よかった」
「ほら。だから言ったじゃないか。ハクバの部屋にいるかもって」
「でも、マリちゃんもお年頃だよ。相談するならハクバじゃなくて、私でしょ」
「どこから湧いてくるんだよ、その自信」
「お前らな。人の部屋に押しかけて騒ぐなよ。で? アルマリアに用があるんじゃなかったのか?」
「そう! なんか悩みごとあるみたいだから、このサトリお姉さんがお菓子をつまみつつ、相談に乗ってあげようと思ったの!」
「それって、サトリがお菓子を食べたいだけでしょ?」
「違うって。お腹減ってたらネガティブになるもの。お菓子食べてハッピーな気分になれば悩みも吹っ飛ぶって」
「はあ……。サトリなりに私を心配してくれているのですね」
「そりゃあ、そうよ。私のほうがお姉さんだし。なんなら、ママって甘えてもいいんだからね」
「ない。それはないですよ、サトリ。サトリがママになるなんて50年ほど早いです」
「なっ!? それじゃあ、私お婆ちゃんになっちゃうじゃん!」
「ははっ! まあ、俺たちにとってはサトリもドクも家族かな。作文はそう書けばいいんじゃないか?」
「ふふっ、私も今そう思っていたところです」
「作文? 何の話?」
「なんでもない。私の悩みが解決したって話」
「そうなの? それならよかったけど……」
「だから、普通にお菓子パーティーね。サトリのことだからたくさん用意してるんでしょ?」
「そうなんだよ。今、アルマリアの部屋がお菓子で溢れ返ってる」
「私のお小遣いはたいたんだから感謝してよね」
「はいはい。じゃあ、私の部屋に行こ」
私が促すとサトリとドクが私の部屋へと向かう。そうだ。これだけはハクバさんに言っておかないと……。
「いつか、ちゃんとお父さんって呼びますから……」
「ああ。いつか、な」
やっぱりハクバさんの笑顔は優しい。
後日、見せてもらったビッシュの記録デバイスには、感情が読み解けるものは一切なかった。私の望むものは何も。おかげでスッキリした。ただ、私の望むものが入っていなかっただけで、その記録デバイスには世界にとって貴重なデータが残されていました。そうです。ノーランドの正体を示すデータが残されていたのです。彼も私と同じ……。あとは証言できる人間さえいれば……。
「アルマリア、ターゲットを見つけた」
「パーシー・フランケンシュタインですね」
「ああ。だが、どうやら例の機動兵器に追われているらしい」
「だから、鞠熾天が必要になったと」
私の目の前に黒の騎士団に登録するにあたって、鞠熾天という名前を与えられたピュアエレメンツGが佇んでいる。
「そういうことだ。準備はいいか、アルマリア?」
「バッチリです。行きましょう、ミスター!」
ハクバさんとタンデムで鞠熾天へと乗り込む。
もう私には、怖いものはないし、悩むこともない。
だって、私は独りぼっちのM-01じゃないから。
頼りになるレディ・レディが、気配り上手なドクが、お節介なサトリが、そして、優しくて大好きなハクバさん、家族がいるから。
だから、私は明日へと歩んでいける。
「宗賀アルマリア、出ます!」
END
【コードギアス 新潔のアルマリア】
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