『コードギアス 新潔のアルマリア』作品をつなぐ新たなストーリーを前後編にて小説でお届け!【前編】
2024.08.02『コードギアス 奪還のロゼ』へと続く物語
映画『コードギアス 復活のルルーシュ』と『奪還のロゼ』を繋ぐ『コードギアス』の新たなるストーリー「新潔のアルマリア」。今回より2回連続の前後編にてお届けする。舞台はジルクスタンによるゼロとナナリー誘拐事件『ハシュベスの戸惑い』を経た時代。世界は平和へと生まれ変わったかに見えた。しかし、いまだ争いは絶えず、キルギスでも政府軍と市民の間で大規模な武力衝突に発展していた。時に光和4年……。新たなるナイトメアフレームが世界の平和を切り裂く!
STAFF
シナリオ 長月文弥
キャラクターデザイン 岩村あおい(サンライズ作画塾)
ナイトメアフレームデザイン アストレイズ
特別エピソード|『黒の閃光』前編
光和4年。
神聖ブリタニア帝国最後の皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、希代の英雄ゼロに討たれて幾ばくかの時間が流れた。長きに渡って争いと憎しみの歴史を重ねて来た世界は、世界征服を目論んだ悪逆皇帝ルルーシュの死をきっかけに、武力ではなく対話をもって、憎しみではなく慈しみをもって、互いに手を取り合って明日に向かって歩みを進めている。数年前に起きたジルクスタンによるゼロとナナリー誘拐事件、『ハシュベスの戸惑い』のような小規模の事件が起きることもあったが、世界規模の連合国家である超合集国の意向のもと、黒の騎士団、グリンダ騎士団らによって迅速に解決されてきた。そう。世界は変わった。争いではなく平和が常となる世界へと生まれ変わったのだ。
しかし――。
平和へと生まれ変わった世界と言えど、争いが根絶されたわけではない。争いがなければ生きていけない者、争いによって富を得たい者、そもそも争いを望む者。人が生きる以上、人によって社会が形成される以上、争いが完全に無くなることはない。ここキルギスで起きている騒乱もそのひとつだった。
「ハクバ。例の黒いヤツ、本当にここに来るのかな?」
「うん? 来るさ。俺の勘が当たっていたらの話だけどな」
トレーラーの運転席に座るのは、幼さの残る赤毛の少女、サトリ・リシリュー。幼く見えても皇神楽耶が設立した諜報機関イザヨイのエージェントのひとりだ。そのサトリの問いに答えたのは、タブレットで地図を眺めていた宗賀ハクバ。同じくイザヨイのエージェント。ふたりはキルギスの首都、ビシュケクの中心から遠く離れた自然公園にトレーラーを止め、その時を待っていた。
「勘って、そんな曖昧な。でも、ハクバの勘って外れたことないんだよね……」
「勘ってのは、経験とか知識とかが合わさって働くもんだからな。勘の話をもうひとつすると、今回の騒乱、もうすぐデモ隊の方から仕掛けてくると思う」
と、ハクバが口にすると同時に、議会場のある街の中心に爆炎が上がる。
「ほらな」
ここキルギスでは、数日前に、大統領が自身や周囲の利益を重視した政策を優先することに対して不満を抱いた国民によって抗議集会が開かれた。ところが、その集会を鎮圧しようとした政府軍側の発砲によって大規模な武力衝突に発展。デモ隊は集会を開いたタラスから首都ビシュケクに向かっていたのだ。
「始まっちゃった!」
「ふむ。どっちも払い下げのナイトメアを使ってドンパチしているのか。あれだけの数、どこから手に入れたんだか」
ハクバが双眼鏡を覗くと、無頼やサザーランド、鋼髏などのナイトメアフレームが入り乱れて戦っている。その数は小競り合いの域を越え、大規模な戦闘へと発展していた。
「マズいな。このままだと街や市民への被害が大きい。サトリ、黒の騎士団の動きは?」
「30分ほど前にニューデリーから浮遊航空艦が出たって。ヴァインベルグ空将の艦らしいよ」
「元ナイトオブスリー自ら出てくるとはな。黒の騎士団の方でも、奴さんが介入してくると踏んでいるらしい」
「例の黒いヤツ……、“ピュアエレメンツG”だね」
「ああ。俺は奴の出現に備えて新月で出る。サトリは通信圏ギリギリまで離れていてくれ」
「わかった。気をつけてね」
「ありがとよ」
ハクバは左腕に巻かれた可愛らしい柄の布にそっと触れると、トレーラーの荷台へと移動する。そこに鎮座するのは、暁にハクバ用の改修とアップデートを施した専用機、新月。ハクバは新月に乗り込むと、トレーラーの荷台を飛び出し、街の中心へと向かった。
アヴァロン級浮遊航空艦ハミングバードは、黒の騎士団航空幕僚長であるジノ・ヴァインベルグの指揮のもと、キルギスの上空に差し掛かろうとしていた。
「空将、間もなくキルギスに入ります」
「状況は?」
「既にデモ隊と政府軍の間で戦闘が始まっています」
先行させたドローンのカメラによる映像がハミングバードのブリッジに映し出される。そこには、ハクバも見たナイトメアフレーム同士の激しい戦闘が繰り広げられていた。
「両者ともナイトメアを? あれだけの数、どこから手に入れたというんだ。しかし、これだけ大規模の戦闘となると、奴が介入してくる可能性が高い。警戒を怠るな」
「はっ。しかし、現在、索敵範囲に反応はありません」
「それでもだ。奴は索敵範囲外から一気に飛んでくる。異常があればすぐに伝えろ。私はグリーンフォースを率いて、騒乱の鎮圧に出る」
ジノは指示を出すと、愛機であるトリスタン・ディバイダーの待つ格納庫へと向かうため、ブリッジを後にした。
「きゃあっ!」
戦闘が激化するビシュケクの中心街。ナイトメアフレーム同士の戦闘で吹き飛んだビルの外壁が、逃げ遅れた母子の頭上に降り注ぐ。
「この!」
腕に装備した機銃で外壁を破壊しつつ、輻射障壁で母子を守るハクバの新月。
「逃げろ! 街から避難するんだ」
間一髪で命を救われた母子はハクバの言葉に従って駆け出す。
「避難勧告も出さないなんて……!」
市民を顧みない政府軍、デモ隊両方に苛立ちを募らせるハクバ。その頭上に戦闘機編隊が姿を現す。ジノ・ヴァインベルグの駆るトリスタン・ディバイダーを先頭に、トリスタンの簡易量産型ナイトメアフレーム、キースリー11機で編成されたグリーンフォースだ。
「あれはグリーンフォースか。なら、この戦闘は終わったようなものだな」
ハクバの読み通り、ジノの指揮するグリーンフォースが、鮮やかに政府軍、デモ隊両者のナイトメアフレームを制圧していく。
「このまま、何事もなく終わるのかな……、えっ!?」
街の外れで戦闘の様子を見ていたサトリのタブレットがけたたましい警告音を響かせる。それは、高速で戦闘の中心に向かう正体不明機の来訪を報せるものだった。
「来たよ、ハクバ!」
「空将、奴が現れました!」
同様にハミングバードのオペレーターからの報せを受けるジノ。しかし、その報告を受けるよりも早く、ジノの眼前を赤い光が通過する。
「やはり来たか、“ピュアエレメンツG”」
ビシュケクの上空に現れたのは、ピュアエレメンツGと呼ばれる漆黒のナイトメアフレーム。その姿は、かつて悪逆皇帝ルルーシュの騎士、枢木スザクのランスロット・アルビオンを破った英雄、紅月カレンが駆った紅蓮聖天八極式と酷似している。
「今日こそ、お前を捕える!」
フォートレスモードからナイトメアモードへと変形したトリスタン・ディバイダーが迫るが、ピュアエレメンツGは素早くその脇をすり抜け、政府軍、デモ隊両方のナイトメアフレームに襲い掛かる。
「何!?」
ピュアエレメンツGは、右手に備えられたシュロッター鋼製の巨大な爪を次々と突き立て、ナイトメアフレームを破壊していく。敵味方関係なく薙ぎ払っていくその姿は、襲撃を受けた者たちには悪魔のように見えた。
「ひいっ!」
政府軍のパイロットが思わず声を上げる。為す術なく破壊されていく僚機や敵機を見て、恐怖で身体が竦み上がり、防御行動もとれていない。
「やめろ!」
迫るピュアエレメンツGの前に割って入るハクバ。輻射障壁を張るが、その一撃は重い。
「ぐうっ……、スペックが違い過ぎる」
「このっ!」
ハクバの新月が攻撃を受け止めている隙に、ジノがピュアエレメンツGに斬りかかるが、すんでのところで躱されてしまう。
「ちっ! 素早い。そっちの白いのは確かイザヨイの……」
「どうも。助かりました、ヴァインベルグ空将」
「いや、こちらもだ。あいつによる無用な被害を防ぎたい。手伝ってくれるか」
「了解です。とは言ったものの……」
ハクバがピュアエレメンツGの黒い影を追うと、目的の機体は、光の翼から放たれる赤い光の尾を引いて、次々と政府軍、デモ隊のナイトメアを破壊していく。もはや両者から戦意を感じることはできない。
「この化け物め……。キースリー隊、奴を取り囲め! 何としてでも捕縛するんだ!」
「了解!」
次々とナイトメアモードに変形しつつ、ピュアエレメンツGを囲むように展開する11機のキースリー。それぞれにMVSを構える。いくらシュロッター鋼が高い硬度を誇っていても、刃を高周波振動させて切断力を高めた特殊兵装であるMVSには敵わない。11機のキースリーが一斉にピュアエレメンツGに向かってMVSを振るう。複数の斬撃音が木霊する。
「やったか」
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