スペシャルインタビュー!いよいよ佳境に突入の『SYNDUALITY Noir』監督・山本裕介にこれまでとこれからの見どころを聞く!!
2024.03.11『SYNDUALITY Noir』山本裕介監督インタビュー 月刊ホビージャパン2024年4月号(2月24日発売)
SPECIAL INTERVIEW 2
『SYNDUALITY Noir』
山本裕介監督
インタビュー
ノワールとミステルの出自、イデアールの目的、シエルの消失……。さまざまな謎と想いを抱えながら、いよいよ佳境へ突入していくアニメ『SYNDUALITY Noir』。カナタとノワールは果たしてイストワールに辿り着けるのか? これから始まる怒涛の展開について、山本裕介監督に伺うと……?
山本裕介(やまもと・ゆうすけ)
1966年10月24日生まれ、島根県出身。制作進行としてサンライズ(現バンダイナムコフィルムワークス)に入社後、リードプロジェクトを経て、現在はフリー。主な監督作に『ケロロ軍曹』『アクエリオンEVOL』『ヤマノススメ』『ナイツ&マジック』『推しが武道館いってくれたら死ぬ』など。
取材・構成:太田祥暉(TARKUS)
――山本監督が『SYNDUALITY Noir』に参加されたのはいつ頃だったのでしょうか。
今から4年近く前だったと思います。ゲームが先行している企画だったので、その時点ですでにコフィンやメイガスといったキーワード、「新月の涙」や人々が地下で暮らしているという設定などといった土台が決まっていました。なので、まずはその設定に則りながらそれをどうアニメの世界観に落とし込んでいくか? を考えるところからのスタートでした。
――山本監督に本誌でお話を伺うのは第3話放送直後の2023年9月号以来となります。まず、ここまでの放送を振り返ってのお気持ちをお聞かせください。
第1クールと第2クールの間に3ヵ月の猶予があったおかげで、制作現場はずいぶん助かりました。第1クールではキャラクターの掘り下げや世界観説明をじっくりやったので、今時のアニメとしては話のテンポが遅いように感じさせてしまったかもしれませんが、そのぶん第2クールからはいきなり核心に入ることができたと思っています。無駄なエピソードはひとつもなく、2クールだからこそ描ける厚みのある物語になっていると自負しています。
――第2クールでは早くもカナタの目標であるイストワールの場所が判明しましたが、イストワールが宇宙にあることは企画初期から決まっていたのでしょうか?
誰の発案かは覚えていないのですがかなり初期から、遅くともコンテの作業が始まる前には決まっていました。実は第1話の時点からすでに宇宙へ行く展開の暗示をしていまして、最初の舞台が宇宙開発ミュージアム、2カット目で第14話でも登場するスペースシャトルのおもちゃを映しています。マリアはロケット打ち上げをやっていますし、察しのいい方は第1話を見た時点で宇宙に向かう物語だと気付くかもと心配していたくらいです。『SYNDUALITY』の世界は、地下に住んでいた人々が地上へ出てくることが発端ですが、そこからさらに上──宇宙を目指すというのは、シンプルでわかりやすい構造だと捉えています。
――デイジーオーガ アルターやギルボウの本来の姿の登場も、宇宙を目指す展開が関係しているのでしょうか?
今までのスタイルでは、戦いに対応できなくなってしまいますからね。これからは空中戦もあるので、毎回デイジーオーガがキャリアに張り付くわけにもいかなくなります。そこでどんどん機体がレベルアップしていく……と。トキオのジョンガスメーカーも新しくなりましたし、OPに映る意味深な機体──これはもう皆さん分かっていると思うので言ってしまいますが、ヴァイスハイトの専用機も登場します。特に後者は戦況を一変させるほどの強さを持っているので、そちらの活躍にもぜひご期待ください。
――それぞれの武装も変化しましたが、こちらはどのように考えられたのでしょうか?
最初に登場したデイジーオーガやジョンガスメーカーを発注する時点で、武装はメカデザイナーの形部(一平)さんに一任していました。戦い方も機体の名前も含めてデザインをお願いした形です。僕たち演出やライター陣はその設定を見ながらバトルシーンを組み立てていったわけです。例えば第15話なら、脚本を担当された山口宏さんがたっぷりアクションを盛り込んだ上に、さらにコンテの吉沢俊一君がそれを膨らませるという風に。設定に描かれている武装は全部使おうとしたんですが、どうしても初期のデイジーオーガが装備していたスモーク・ディスチャージャーだけは機会に恵まれず……。そこだけが残念です(笑)。
――メカの活躍もさることながら、監督は以前、本作を「キャラクターがメインの物語」だと仰っていました。シエルやミステルの出現によって、カナタとノワールの関係性にも次々と変化が訪れています。こちらの描き方について、山本監督としてはどのように捉えていらっしゃいますか?
カナタとノワールは決して恋愛関係には進んでいきません。本作は最初から恋愛ではなくバディものをやろうと考えていました。強いけどポンコツのノワールと、へっぽこドリフターのカナタ。そんなふたりが世界の危機に立ち向かっていく物語はきっとエモーショナルになる。そう考えたんです。トキオやマハトのようなヒーローたちに背中を押されながら、歴史の片隅で二人が頑張る物語をやってみたかったんです。そこにさらに、スパイである自分とカナタに惹かれている自分の間で板ばさみになって苦しむシエルを登場させました。彼女は鴨志田一さんが生み出したキャラクターだったのですが、僕が今まで演出したことのないタイプのキャラだったのでとてもやりがいがありました。演じた青山(なぎさ)さんも、シエルというクールだか感情豊かだか分からないキャラクターを絶妙に表現してくださって、とても得難いキャラになったと思います。ミステルについては、実は企画初期には決まっていなかったんですよ。
――ノワール役の古賀葵さんが一人二役として演じることも決まっていなかった?
古賀さんをキャスティングした時点では、まだミステルという設定は存在しませんでした。ミステルが生まれたのはシナリオがかなり進んだ段階ですね。彼女はいわゆるツンデレに新しい要素を加えたくて、おばあちゃん子的な属性を加えました。ドリフターとメイガスの関係性には執事と坊ちゃんだったり、ルームメイト、恋人のような関係などいろいろなパターンがありますが、ミステルとパスカルは孫とおばあちゃん。僕自身もおばあちゃん子だったのでパスカルというキャラクターはすごく思い入れがありますし、そんなパスカルに懐いているミステルにも感情移入できるのではと考えました。古賀さんの一人二役も見事にハマっていて、第2クール冒頭の第13話・第14話でミステルの好感度が上がりすぎてノワールの立場がなくなってしまうのでは……? と危惧するくらい掴みが上手くいったと思っています。
――ヒロインでいえば、エリーもどんどんカナタにアプローチを掛けていますよね。
エリーがここまで人気が出るとは正直予想していませんでした。最初は無理にでも持ち上げないとヒロインレースで取り残されちゃうと心配していたんですよ。でも、稲垣(好)さんの声のおかげかな? どんどん魅力的なキャラに成長していきましたね。Webラジオの『ロックタウン放送局』を聞いても、稲垣さんじゃなくてエリーが喋ってる! ってつい錯覚してしまいます。エリーの恋の決着も最終回でこっそり匂わせていますので、楽しみにお待ちください。
――個人的には、トキオがここまでの重要キャラクターになったことに驚かされました。
トキオは本来世界を動かせるくらいの力を持っている男だと思っています。生まれは貴公子なんだけどその過去を隠して遊び人をやっている──いわば貴種流離譚のヒーローにしたいと考えていたんです。普段は酔っぱらって下世話なことを言っていても、実は心のどこかで常に冷めているキャラなんだとスタッフにも説明をしていたんですが、第3話なんかだと本当にただのバカをやっているようにしか見えない(笑)。演じている小林裕介くんにもトキオのバックボーンは全く説明してませんでしたから、おそらく後半の話数の台本を読んでびっくりしたと思います。第17話でトキオが「白仮面」を名乗り出しましたけど、その展開には僕もさすが鴨志田さんだと感心しました。白仮面って要素は、鴨志田さんがプロットでいきなり出してきたものだったんですよ。そこにシエルとヴァイスハイトの関係も乗っかってきて……。
――ある意味、これまでの『SYNDUALITY Noir』が築いてきたコメディをやりながらシリアスな関係性を描いていく作風の極致ですよね。
かもしれません(笑)。
――山本監督は第1クールのクライマックスである第11話にて絵コンテを担当されています。こちらのエピソードでは、シルヴァーストームに対抗するドリフターたちの姿が描かれましたが、山本監督はどのような想いで絵コンテを担当されたのでしょうか?
僕が第11話を担当したのは、このエピソードをしっかり形にできるのは自分しかいないと思ったからなんです。それは自分が優れているからという意味ではなく、作中でも未曾有の危機という大状況を、絵的な説得力を保ちつつ制作上の制限、スタッフの作業カロリーも考えて成立させるには、現場と作品の両方を把握している僕が絵コンテを描くのがベストだろうと。いろんな制約はあるものの、その中でマイケルのスーパーアクションやエリーとカナタの絆、シエルとのメロドラマもちゃんとやりたい。ランゲも出したいし、大型キャリアの艦砲射撃もやりたい……みたいにどんどん欲が出てきたわけなんですが(笑)。作画は米沢優さんというパワフルなアニメーターに頼めましたし、演出も第1話からずっと携わってくれている北村将くんでしたので、安心して託すことができました。旭プロダクションはじめとする3DCGアニメーター諸氏の頑張りにも支えられて、見応えのある話数に仕上がったと思います。ただ一点、ラストカットでキャラクターたちが集合するという定番のカットを作ったら、各所で笑いが起こったんですよね。そこだけは納得できていません(笑)。『SYNDUALITY Noir』はデザインのルックスこそモダンですが、演出は王道を目指していますので、僕はああいう演出も似合うと思っているんです。
――続く第2クールでは第18話で監督が演出を担当されています。シエルの胸の内が描かれて退場する、非常に重要な回だったかと思います。
第18話は一演出家としてやりたいと感じたエピソードでした。鴨志田さんが書かれたシナリオを読んだとき、これは自分が一からコンテ・演出を担当したい! と思ったんですよ。シエルがもっとも輝いて、そして去っていくお話でしたから。タイミングとしても第2クールの中盤で少し余裕もありましたし、いい機会なので演出として各作画マンともじかに仕事をしたかったんです。
――第18話で山本監督が特に気に入っているポイントはどこですか?
シエルの歌が流れるんですが、そこで「戦闘中に歌が聞こえるだと!?」とイデアール兵に言わせてるんですけど、『機動戦士Vガンダム』で自分が演出した話数でも、シャクティの歌を聞いたカテジナさんが同じようなことを言っていたことを後で思い出しました。ああいうシチュエーションは自分のなかで王道なんだな、と再確認しましたね。第18話は全編シエルが美しく、泣いて歌ってという芝居を丁寧に作画してもらいましたし、デイジーオーガとホーンドウルのチェイスなんかもばっちり決まったなと思っています。
――『SYNDUALITY Noir』ではクレイドルコフィンのプラモデルやノワールたちのフィギュアも発売中です。山本監督はX(旧Twitter)にてプラモデルを製作していることを投稿されていましたが、監督作品のアイテムが発売されていることをどのように感じていらっしゃいますか?
自分が演出したメカのプラモデルを作れるのは嬉しいことです。完成度を上げたくてマスキング塗装も始めたんですが、形部さんデザインのあのポップな色がなかなか再現できないんです。もともとの成型色がとても良いのでそれを超えられないのが悩みです。ギルボウはキレイに塗装したあと、敢えて泥が跳ねているように足元を汚してみました。まだまだ下手なのでもっと腕を上げたいですね。
――山本監督が今後プラモデルとして出してほしい機体は何ですか?
それはもうジョンガスメーカーですよ! ヴァイスハイトの機体までとは言いませんが、ガスメーカーが発売されたらその派生型も作れるようになりますし。あと、同スケールでエンダーズも出していただけるとデイジーオーガとの絡みが再現できてより楽しいと思います。
――第19話も放送され、シエルの身体にノワールが移植されて物語はついに佳境へと向かっています。山本監督としては今後どういった箇所に注目してほしいですか?
1クール半かけてイストワールに近づいていきましたので、その行き着く先に注目していただきたいです。カナタはもちろん、イデアールのボス、ヴァイスハイトも目的は同じですから当然衝突することになります。ヴァイスハイトも実にいい敵役だと思っていまして、彼とマハト、リヒト(トキオ)の宿命といってもいい関係性、そこにカナタが絡んでいくドラマはとても気に入っています。ポンコツとへっぽこのバディが、最後にどこへ辿り着くのか? 『SYNDUALITY Noir』という作品で我々スタッフが描きたかったことがこれから明らかになっていきます。イストワールのデザインについては宮武(一貴)さんが担当されていて……。
――イストワールって、超文明都市ですよね。そこにメカニックデザインの大家である宮武さんが……?
はい。メカデザインのレジェンドが描く『伝説の正体』にもぜひ注目してください!
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