『機甲創世記モスピーダ』関係者座談会!新企画『GENESIS BREAKER』について語る
2022.10.11120 機甲創世記モスピーダ外伝 ジェネシスブレイカー●柿沼秀樹、マーシーラビット 月刊ホビージャパン2022年11月号(9月24日発売)
『機甲創世記モスピーダ』新企画『GENESIS BREAKER』始動!
1983年、日本が史上最大のロボットアニメブームに湧いている時、最先端として登場したのが『機甲創世記モスピーダ』である。その中でも荒牧伸志氏と柿沼秀樹氏が構築した硬質なSFイメージとメカニックデザインは、まもなく40周年を迎える現在においても根強い人気を誇っている。さて、そんな野心作のスピリットを受け継いだ『GENESIS BREAKER』のスタートを記念して、荒牧氏、柿沼氏、そして企画成立に携わった戸張雄太氏、前野圭一郎氏による座談会をご覧いただきたい。
外伝小説『GENESIS BREAKER』
【『モスピーダ』外伝】 01 侵入者 ─イントルーダー─ 【GENESIS BREAKER】 – Hobby JAPAN Web (hjweb.jp)
機甲創世記モスピーダ、新たなる胎動
TV放映より来年で40周年を迎える『機甲創世記モスピーダ』。本作のメカニックデザイナーである荒牧伸志、柿沼秀樹両氏を迎えた公式外伝小説『GENESIS BREAKER』が、ついに今月より連載スタート! スティックら人類軍がレフレックス・ポイントを目指して冒険を続けるその裏で暗躍していた[…]
火星正規軍と特務部隊、アニメとテキストのそれぞれで描かれるモスピーダの世界観
――まず『GENESIS BREAKER』の企画誕生についてお聞かせ下さい。
前野:千値練さんのトイがスタートした後、僕から戸張さんにバリエーション企画を提案したのが最初ですね。『機甲創世記モスピーダ』はわりと立体化に恵まれた作品ですが、大体がライドアーマーかレギオス2~3点くらいのラインナップに留まってしまう。アニメはロードムービー風ですが設定自体はゴリゴリのミリタリーSFなので、想像の余地はあるからそこをトイでフューチャーしましょうと。
最初は名もなき兵士に焦点を当てて、全部集めると地球降下作戦の全貌が見えてくる、的な構想でした。タツノコプロさんと企画が進むうちに、戸張さん、千値練の商品デザインワークにも関わられていた荒牧さん、そして柿沼さんが揃えば盤石の布陣だなと。本格的なスタートはそこからです。
荒牧:『GENESIS BREAKER』実現にあたり、千値練さんのRIOBOTシリーズが好評だったのは間違いなく大きなポイントでした。バートレイ(フーケタイプ)の商品化が実現したときは「ついにここまで来たな」という気持ちでしたし、それだけファンの皆さんから反響がある証拠ですから。
戸張:前野さんとは「ただ普通に色を替えて◯◯仕様とするのはもったいない。もう少し風呂敷を広げてみましょう」となったんですよね。柿沼さんとは「RIOBOT オーガン」制作時に面識があったので、そこからのお声がけです。
前野:柿沼さんご参加が決まり、初稿には救急用バートレイなど柿沼さん直筆のオリジナルのライドアーマーのデザイン画などが描かれていて、感激でしたね。オリジナル兵士の短編集から特務部隊にフォーカスする方向性もこの頃に加わってきました。ここから半年ぐらい空いて、突然『GENESIS BREAKER』の企画が上がってきて。
柿沼:今回はトイ連動のテキスト(小説)ということで、アニメだと力技のアクションで持って行けるけれど、文章だと思弁的方向に進めていって世界観の解説や「インビットとは何だったのか」を分析していくような切り口で行ける、と思いつきました。
荒牧君と今でも話しますけど、『モスピーダ』放映当時はバブルでとんでもないスピードで放送が決まったんですよ。まだ別タイトルだった『モスピーダ』の原案をタツノコプロさんに持っていったら「これ何クールで放映するの?」と言われて、その場で『モスピーダ』と言うタイトルが決定したりしてね。その後はアニメ脚本の打ち合わせ、変形の設定、玩具関連……と忙殺の日々でした。まだアートミックの一員になる前、鈴木敏充さん(※)と荒牧君と僕の3人で全部を回している感じでした。
荒牧:みんな寝袋で机の下とかに寝ていましたね(笑)。完成した作品自体は面白かったですし、勉強になりました。『GENESIS BREAKER』は『モスピーダ』でやりたかったことを原点から思い出す企画になれば嬉しいです。
柿沼:お互いにやり残したことがあるんですよね。それこそミリタリー面の描写や、オートバイのパーソナリティなチューニングの設定とか。
――物語の主人公を正規軍とは別の「特務部隊」としていますが。
柿沼:一般歩兵のアクションものもアニメでなら良いけど、文章にするとパターン化してしまうんですよ。120年前にH・G・ウェルズが『宇宙戦争』を書いていますが、ちゃんと敵である火星人の行動動機をまず語ってから始めている。そんなふうにテクノロジー設定や行動動機を語っていかないと興味が湧かない。アーマーサイクルにしても、現在のバイクでは当然実現はできないじゃないですか。それを未来のテクノロジーでどう克服できたか、かつバイクとして運用するには現実的にどういうカスタマイズが必要なのか。そういう細部を詰めていきたいです。
前野:柿沼さんから企画をここまで膨らませていただいて。さすがと思う反面、まだ発表方法が雑誌連載かどうかも決まっていなかったんですよね。
戸張:そうですね。僕たちの間ではオプションパーツやこんなタイプがいたらいいな、というぐらいの話だったと思います。商品的には、ショートストーリーを記した大きなカードを付属させるイメージで。
荒牧:『GENESIS BREAKER』は立ち上げた瞬間に「どこかで連載をやろう」と話はしていたよね。ストーリーとトイの展開を同時に進行しようと。連載が可能ならホビージャパンさんで、というのは最初からでした。商品化も絡むから発表の場は狙い通りだったと。
戸張:主軸はホビージャパンさんにお願いして、その他にもコミック的なものがあるとビジュアルで補完できるからいいよね、と動いていたのですが、漫画連載っていろいろな面でなかなか難しいんですよ。
40年の時を超え、『モスピーダ』はより高い解像度を求めて次なるステージへ
――ホビージャパン10月号では特務部隊の4体が公開されました。彼らのデザインについては。
荒牧:ライドアーマーで一番印象を左右するのは胸のパーツですから、この辺を中心に差別化していこうと考えています。なんとなく個々の役割はありますが、千値練さんのほうで機構を詰めてもらっているので、バリエーション展開もあるかもしれません。今までもRIOBOTでは前野さんがしっかりと作ってくれたサフ吹きの試作に対して、僕から「ここをもう少し」と提案しながら戻すやりとりを経て完成してきました。『GENESIS BREAKER』は「前野さんならここまでやってくれる」という信頼と、その延長からどこまで攻めていいのかを相談しながら進めています。ですから、デザインについては僕がしっかりと決めるというより、ある程度アバウトに決めてあとは阿吽の呼吸です。僕の希望をラフに伝えて、前野さんから立体化に適したアイデアを戻してもらう感じです。
柿沼:昔はアニメ側の意見で玩具の原型をやり直す機会なんてありませんでしたからね。
荒牧:昔の玩具、特に変形モノは、こちらが一生懸命書いた図面を渡したらあとは発売まで待つだけ、という状況がほとんどでした。今は熱意もセンスもある人が、僕がラフで描いたものをお渡ししてもどんどん反映してくれるので、とても理想的な流れだと思います。特に今回はRIOBOTの前例があるので、それをベースに可動やボリューム感を検討し直したり、柿沼さんのストーリーのイメージを反映させたりと、アニメ版とは差別化しつつ新しいものを作っていけるので本当に楽しいです。図面や3D CADの上からラフを描いて、チャットをしながらみんなで考えていく。『モスピーダ』制作当時を思い出したりして、とても面白いです。ひとりでカッチリとデザインや設定を決め込んでいくのとはまた違います。柿沼さんも同じような感じで、意見の中から面白い発想が生まれればストーリーに取り入れています。今後もこんな感じでトイも世界観も作っていければ嬉しいです。
現在のメインワークである3DやCGは実際に触れられませんから、やっぱり立体物として出来上がるとワクワクしますし、デザインも手に取った時の感覚などを想像しながらだと楽しいです。買ってくれた方にも伝わるといいなって。
――キャラクター原案には湖川友謙さんを起用されていて、こちらもビッグネームですね。
荒牧:キャラクターに関しては、どなたにお願いしようか相当悩みましたね。湖川さんのご提案はタツノコプロさんのほうからだったと思います。
前野:まだ商品にテキストを添えて、くらいの企画段階の頃、戸張さんと「どうせやるなら元祖タツノコオールドスタイル、時代に逆行するくらい骨太のキャラでやりたい」と言っていて、そこでタツノコさんから湖川さんをご提案いただきました。確かにこれ以上ない人選ですが、ダメもとで依頼したらご快諾いただけました。
戸張:無理だと思っていましたよね。まずどなたに連絡していいのかわからなかった(笑)。『GENESIS BREAKER』の主役であるゲイトがものすごく強い女性のイメージだったので、その点でも湖川さん以外考えられませんでした。
――先日、You Tubeのタツノコチャンネルにて「失われた伝説を求めて」をBGMにモスピーダをまとめた動画も配信されました。
荒牧:根強いファンの皆さんに支えられて商品化は続いていますが、アニメ自体はもう放映から40年近く経っていて、多くの方に目にしてもらう機会は少ないです。再び思い出してもらいたい、また未見の方に知ってほしい思いがあり、一気に観られる方法としてタツノコプロさんと一緒に作りました。ナレーションもフーケ役の土井美加さんによる新録です。
前野:『GENESIS BREAKER』は設定を『モスピーダ』の原点であるミリタリーSFに引き戻して、テレビシリーズの裏で展開されていたかもしれない物語を描く企画です。目的は『GENESIS BREAKER』を楽しむために改めて世界観を説明することですから、キャラクターに焦点を当てず、かつテレビシリーズのダイジェスト版にならない構成にしてもらいました。
荒牧:完成した動画を観て、私も「こんな話だったんだ」と改めて思いました、もちろん覚えていますけど、俯瞰して眺めるとあの日々の中でよく作ったな、ちゃんとアクションしているじゃないかって。
――今後のトイ展開はどのような予定ですか?
戸張:ブレイカーズ特務部隊の4人は商品化します。現在はゲイトがほぼ完成に近づいていて、柿沼さんのテキスト同様に読者の意見もトイにも反映していくイメージですね。最初からラインナップを決めるより「ながら」の雰囲気ですので、商品展開自体はやや長期間になるかもしれません。ご好評いただいてムック本と新作トイが同時発売! なんてタイミングができればいいなと思います。
前野:本当に、皆さんの反響次第でどんどん盛り上がっていくと思います。デザインワーク自体がライブ感全開ですからね。
荒牧:僕らのチャットルームとか見せてあげたいですね。みんなで勝手なことをばんばん書き込んで(笑)、デザインがどんどん変わっていくところとか。発表後にメイキングも誌面でお見せできたら面白いと思います。
前野:柿沼さんのテキスト、荒牧さんのデザインワーク、湖川さんに発注したキャラデザイン、僕の設計がまとまったのがわりと最近なんです、これらをすり合わせてくださったのがマーシーラビットさんで、つい最近もトイのCAD画像と荒牧さんのスケッチと湖川さんの絵と柿沼さんの設定を1枚にしてください、という無茶振りを(笑)。
――最後に、『GENESIS BREAKER』読者の皆さんへメッセージをお願いします。
前野:スタートまでかなり時間がかかりましたが、荒牧さんデザインの魅力を引き出せるよう尽力します。乞うご期待ください。
荒牧:ファンの皆さんの応援で「これからのモスピーダ」を続けていければと思いますので、応援よろしくお願いします。皆さんの意見もどんどん取り入れていきたいです。
柿沼:僕は小学生からのホビージャパン読者ですが、専門誌を読んでまでプラモ工作にのめり込むのは控えめに言っても『特殊な層』(笑)です。例えばTVの戦闘機テクノロジーのクイズでパネラーたちは垂直離着陸機の存在を知らない。もう50年以上前から「垂直離着陸ハリアー戦闘機がある」のに。全く日常生活にはプラスにならないそんな知識でもHJみたいなフィールドでは常識としてストーリーを進められるので。
荒牧:僕らの常識は世間の非常識だから(笑)。
柿沼:そういう意味で『GENESIS BREAKER』の掲載場所としてはすごくマッチしている。アーマーサイクルは利き手によってエンジンのアクセルが左右に変更できる、みたいなディテールに描写ができるフィールドですから、読者がついて来られる限界まで振り切った作品を目指せるかなと思います。
戸張:『モスピーダ』は近年でも商品化が続いていますし、千値練からも新たな展開に向けて頑張ります。
前野:柿沼さんの書く本編によって『モスピーダ』の解像度が高まると思います。この豊かな世界観で「俺ライドアーマー」みたいな遊び方をしてもらえれば嬉しいです。
柿沼:この「解像度」というのが重要なキーワードで、デジタル技術の発達によって模型業界でも非常に小さい、それでいてなくてはならないパーツまで再現されています。立体物もストーリーも、現代においては解像度をどこまで上げられるかというのは大きな課題ですね。
荒牧:その小さな差がファンには重要ですし、今の傾向としても深掘りしたがる人は多いです。『GENESIS BREAKER』は骨子はしっかりしていますがまだ余地はありますから、皆で一緒に掘ったり埋めたりしましょう。
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※ 鈴木敏充氏
元タツノコプロプロデューサー。1978年に独立しアニメ企画会社「アートミック」を設立。園田健一氏、宮尾岳氏、山根公利氏らを輩出した。
荒牧伸志(あらまき・しんじ)
『機甲創世記モスピーダ』メカニックデザイン担当
柿沼秀樹(かきぬま・ひでき)
『機甲創世記モスピーダ』メカニックデザイン担当
前野圭一郎(まえの・けいいちろう)
株式会社T-REX 設計担当
戸張雄太(とばり・ゆうた)
株式会社T.E.S.T 企画協力
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