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【コモリプロジェクト】 モデリングプラカ

2021.08.18

コモリプロジェクト モデリングプラカ 月刊ホビージャパン2021年9月号(7月21日発売)

小森陽一氏とコレクション

囚われた男

 こうなってからどれほどの時が経ったのか…。
 男の中ではっきりと認識している記憶は、映画館で観た『ゴジラ対モスラ』のリバイバル上映だ。スクリーン狭しと暴れまくるゴジラがひたすら怖ろしく、ひじ掛けを掴んだ手にじっとりと汗が滲んだ。それなのに、だ。その日からゴジラの姿が頭から離れなくなった。耳をつんざくような咆哮、フラッシュのように眩く発光する背びれ、何ものにもひれ伏さない強靭な瞳、どれもこれもが脳裏に焼き付いた。例えるなら……そう、稲妻だ。怖ろしいけれど美しく、破壊的で力強い。その夜、新聞のチラシの裏側に、親から教えられた漢字を見よう見真似で書いた。それは「怪獣」という二文字だった。
 そこからはまるで洪水のようだった。ダムが決壊し、川が溢れたかのように、テレビ、本、オモチャからお菓子に至るまで、男の周りは怪獣で溢れた。カードを集め、雑誌を切り抜き、専用のノートに貼った。授業中、『ウルトラマン』のタイトルと登場怪獣の名前を机の上に書き連ねた。もちろん別名までしっかりと。寝る前の日課は偉人の伝記から怪獣図鑑を開くことに変わった。足跡で怪獣の名前が分かるようになり、ついには写真の隅を見ただけで、どんな怪獣が写っているのかを当てるようになった。
 そんなある日、事件が起きた。運動神経に秀でていた男は少年野球チームに所属していたが、夕方から始まった『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の再放送を観るため、友達にも親にも黙って退部してしまう。コーチや監督から何度も戻るよう説得されたが、頑として首を縦には振らなかった。男はテレビの前にカセットデッキを置き、毎回、テープに録音をした。母親の「手を洗いなさい!」「宿題しなさい」「お使いに行って」の声を振り切り、無視して、ひたすら音を記録し続けた。のみならず、その音をノートに書き起こし、シナリオ集を自力で作り上げた。その作業は『ウルトラマン80』まで続くこととなった。
 やがて長じた男は作家になった。描くテーマは海難救助から特殊部隊、戦闘機パイロットまでさまざまだが、すべてに共通しているのはそこに基地があり隊長や隊員がいる。さまざまな資機材や武器を使い、災害や巨悪を相手に立ち向かうというスタイルだ。
 男は2021年、五十四歳になった。男の目は男の身体を離れて、この不思議な時間の中に囚われたままである———。

文/小森陽一 構成・写真/土井眞一

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©円谷プロ

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小森陽一(コモリヨウイチ)

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