「PLAMAX 真希波・マリ・イラストリアス」名作フィギュアがプラキットになるまでを徹底取材
2023.04.23特別編
「PLAMAX 真希波・マリ・イラストリアス」ができるまで
マックスファクトリーが開発しているプラスチックキットブランド「PLAMAX」。元となったソフビモデルを3Dスキャンし、固定ポーズのプラキットとして新生させた「サーバイン」が大きな話題となったことが記憶に新しいが、さらに新たな展開が図られている。
そして、今回発表された「PLAMAX 真希波・マリ・イラストリアス」。美少女フィギュア、それもかつて智恵理氏が原型を手掛けた名作として知られる作品のプラキット化、ならばあれこれ知りたい聞きたいということでお送りする「フィギュアJAPANマニアックス」特別編!
マックスファクトリーで企画担当をしたアカネ衛生兵、同じくマックスファクトリーでプラキット関係全般を担当している竹下帰還兵とたかく上等兵、PLAMAXの金型製作を担当している秋東精工の柴田忠利氏にお話を伺った。比較写真等を交えつつその魅力に迫ってみよう!
取材・文/島谷光弘(ホビーマニアックス)
協力/首藤一真
美少女フィギュアのプラキットのノウハウとその可能性
企画の始まり
もともと『エヴァ』のスケールフィギュア再販を望む声も多く、「PLAMAX サーバイン」で培ったスキャン技術を駆使したプラモ化の前例もあり、以前のフィギュアを今の技術でプラキット化する企画がスタートした。
アカネ衛生兵:マックスファクトリーが発売した『エヴァ』のフィギュアはお客さまからも、今もあれがほしいという声をよく聞くシリーズでした。なので、PVCスタチューをプラモ化するのであれば、ここでやってみたいという話になったんです。
美少女キャラクターのプラキットは近年数多く発表され、“かわいい”という点においてもクオリティは確実に上昇、特に可動モノは非常に大きなジャンルになっている。
この「PLAMAX マリ」が特異なのは、これが美少女キャラクターのプラキット化であると同時に、2011年に発売されたフィギュアの忠実な形状再現を目指したプラキット化であるということ。しかも元になったのが「サーバイン」のような組み立てキットではなく、完成品フィギュア。完成品フィギュアのプラキット化ということでは「PLAMAX MF-32 minimum factory 霞 C2黒ver.」(2019年)があるが、これは1/20スケール。「PLAMAX マリ」はもともと1/6スケールだったものを全高約20cm、約1/8スケール相当にしているが、そのディテール等はオリジナルと遜色なくシャープに再現したものになっている。
原型の作り方
PVCフィギュアの「マリ」を製作していた頃は原型師の智恵理氏もまだアナログ造形。そのため原型のデータ化はまず3Dスキャンで行うことになる。基本的に、組み上げた状態とパーツ単位両方の状態でスキャン、それらを照らし合わせることで、全体の形状とディテール両方を保持したデータにするという手法。
取り込んだデータは表面のデコボコした粗い部分やエッジがだるくなっている部分などを、智恵理氏自ら修整しているが、基本となる形状自体は手を入れていない。
アカネ衛生兵:表面的なクリーンナップはしていますが、造形自体にかかわる部分は基本的にいじっていません。それをやると際限がないと思って(笑)。元となるフィギュア原型の造形が良いので、データを整えた程度です。
金型データの作り方
出来上がった原型データは、プラキット用にパーツ割りの設計を行って金型データを作ることになるが、この作業は秋東精工で行っている。
柴田:原型データは中身の詰まった無垢の状態で頂いて、そこからプラモとして成り立つ形にパーツ割りを設計して行くんです。
たかく上等兵:原型データをポンと渡すだけで分割のアイデアをいただく場合と、こういう仕様にしたい、こういうふうに作らないと僕らのやりたいことが多分実現しないというコンセプトを併せて提案させてもらう場合があります。
この「マリ」の場合、もともとがある程度弾力性のあるPVC製フィギュアなので、硬いプラスチックで同じパーツ分割だとそのままの形状では金型から抜けない部分も多い。それを抜けるように分割を考えなければいけない。さらに多色成型のための分割も。それらを含めどこまで細かくするか、組みやすさも併せて調整が必要になる。
指の角度を2度変えるとか髪の毛1本の位置を変えるなど、印象が変わらない程度のごく微細な調整はどうしようもなく行うこともある。ただ、こう直すとより簡単に抜ける金型になるというのが分かっていても、それをやると造形をスポイルするからやらないというのもPLAMAXの基本的な考え方。「最初からプラキットにしやすいように原型を作る」というのはNGにしている。
分割のコンセプト
全高約20cmというそれなりの大きさで固定ポーズのフィギュアプラキットの場合、誰が組んでも寸分違わないポーズがカッチリと決まらなければならない。
たかく上等兵:これに関しては非可動のアイテムをずっとやってきた知見があって。なるべく体幹から伸びてるパーツを大きくとって嵌合も大きくするんです。この大きいサイズのフィギュアプラモだからこそでもありますね。
その過程で色分けできるところは積極的に分割し、分割しすぎると誤差が積み重なりそうなところはなるべく割らない。
竹下帰還兵:大雑把にいうと極力関節では割らないということ。しっかり立たせるんです。
色分けに関してはこの部分は分けたいという指示書を出している。この「マリ」では背中の数字や太モモの黒い部分は内側のパーツを表に出す仕様になっているが、こういった部分も指示しているのだ。
プラキット開発
アカネ衛生兵はこれまではPVC製フィギュアを担当することが多く、プラキットの担当は「マリ」や、先んじて発売となる『チェンソーマン』の「パワー」「マキマ」などまだ経験が浅い。
アカネ衛生兵:最初は知識があまりなかったので驚くことも多く、PVCとは異なる点をたくさん見なきゃいけないことあるんだと。それに、この段階まで来たらもう後戻りできないということも多いので、最初から細かくチェックしなきゃいけない。
色にしてもPVCだと工場で最終的に塗り直しもできるが、プラキットの場合は成型色を間違うと金型からやり直しになることも。
たかく上等兵:PVCは製造の途中経過がどうであろうが、あくまでも完成品がゴールであり、お客さんはそれを評価してくださる商品です。プラモの場合、僕らにとってのゴールは「ランナーの状態」なんですが、お客さん的にはそれを組み立てて完成させるのがゴールなので、2回ゴールがあるんですよ。すごく面倒くさいですね、プラモを作るって(笑)。
無彩色版
一般販売も行う通常版に加えて、販路限定の「PLAMAX 真希波・マリ・イラストリアス スカルプターズホワイト」も発売される。これは白一色で成型されたもので、自分で塗ることを前提としたプラキットとなる。
このプラキットは22年10月の「全日本模型ホビーショー」で初出しとなったが、その際はまだ白一色の出力品状態での展示。それを見たユーザーから出た「無塗装版は出るのだろうか?」という期待に応えた形での商品化となった。
アカネ衛生兵:会場でお客さんの反応を聞いて確かにと思って。私はあまりそういう意識がなかったんですが、白で出せば自分で色を塗ることもできるし、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のプラグスーツはデザインこそ違いますが白地だし、白そのままで組んで置いてもインテリアのひとつみたいで、いろいろな楽しみ方ができたほうがユーザーはうれしいだろうなと思ったんです。
パーツ構成は基本的に同じだが、異なるのが顔パーツ。顔がプリントされた状態でキットとなる通常版はタンポ印刷しやすくするため形状がフラットなのに対して「スカルプターズホワイト」はアイホール部分にも彫刻があるのだ。これは自分で塗る際に手がかりにするためのもの。
たかく上等兵:『エヴァ』はガレージキットの世界にカンブリア大爆発を起こして、ワンフェスを超巨大化させた作品なので、そもそも自分で塗りたいお客さんとは親和性が高いはずなんです。わざとホワイトレジンっぽいくすんだ白にしてるのは、そういう意味合いもあります。
進化
フィギュアのプラキット化ということでは前述のように「PLAMAX MF-EX01 minimum factory 霞 C2ver.」(2017年発売)が先行して出ているが、この頃はまだスキャンからプラキット化の機材もノウハウもとはいえ充分でない状態。結局アナログ作業になった部分も多く、キットも組むにはそれなりの技量が必要なものとなっていた。また、このころのマックスファクトリー製フィギュア系プラキットがいずれも1/20というサイズだったのも、太モモや腕などをパーツ分割せずに造形・成型できる限界がこのくらいだったということにも起因している。
それが、この5年ほどの間で状況は大きく変化。マックスファクトリーはセクシー女優をスキャンした「Naked Angel」シリーズを20作以上発売して3Dスキャンや分割のノウハウを貯め、機材やソフトウェアもアップグレードされ、それを使いこなせる人材も増えたのだ。そのすべてが本格的に結実したといっても過言ではないのがこの「マリ」なのだ。
これから
製作環境が整い複製クオリティが上がったことで、ユーザーは原型師の作った原型により近いものを手にすることができるようになる。プラキットの素材・金型はPVCよりもシャープに出力可能で、なおかつPVCのように縮んだりしない。
アカネ衛生兵:たぶん原型師が意図していた造形はPVCよりプラスチックのほうが明確に出るんです。原型師が思ってた形状ってこれなんだというのがくみ取れるし、こんなに形状が参考にしやすいものはない。
たかく上等兵:いわゆるプラモに特化した設計マンしかプラモを作れなかった時代があったんですが、これからは原型師がプラモのフィールドで戦えるようになるというのがおそらくトレンドになると思うんですよね。プラモの世界では「原型師」を明確に謳う慣習があまりありませんでしたが、僕らは原型師を押し出すとか、造形を大事にするという方向性なので。
またマックスファクトリーは、PVCフィギュアとプラキットのチームが分かれておらず渾然一体として、ある日はフィギュアを作り、ある日はプラキットを開発するという、おそらく他の会社では見られない体制になっている。だからこそ、PVCフィギュアとプラキットの間に線を引くことなく、これまでのプラキットではあまりなかったような取り組み方もありうるという。それはプラスチックという素材にこだわらず異素材を使うことだったり、目のタンポ印刷に限らず必要ならパーツの塗装やグラデーションを入れることだったり。今後どんなキャラクターを作るかはまだ定まっていないというが、そういった枠にとらわれない挑戦は続きそうだ。
原型師・智恵理氏に聞く!
──昔のフィギュアのプラキット化という企画について聞いた時の感想は?
智恵理:先にDOAの霞、サーバインと、過去作品のプラモ化があり、元の原型の形を損なわないプラモ化がなされていましたので、マリとアスカのプラモ化の企画はとても嬉しかったです。
プラキットが好きなので、自分で組んだり塗装できるのが楽しみですし、買って作られる方々の多様な仕上がりの作品を見れるのも楽しみにしています。
──智恵理さんの作業は?
智恵理:当時の原型をスキャンしたデータを元に、Zbrushで表面の荒れ、陰になって失われているディテールの復元、破損部分をデータで補修し、形状は変えないように作業しました。
当時の原型を再度磨き直す感覚で、面白い体験でした。
メカっぽいディテールなどのシャープな部分は、当時は手作業で削り出してたために歪みなどがありましたが、データでシャープに作り直したパーツを埋め込んでいき、当時の原型の印象を変えないようになじませています。
プラグスーツの柔らかい部分とシャープなディテールを違和感なく融合させる作業は、当時では思い描いても達成できなかった部分だったので、デジタルの恩恵を感じたのと、原型を自分でリファインできたのは、Zbrushを使えるようになっていて良かったと思いました。
──実際に仕上がったものを見ての感想は?
智恵理:スケールが1/6から1/8になり、各パーツの精度と細部がよりシャープになっていますが、髪などの細い部分もきれいに成型されていますし、各部の色分け、組み立ての工夫など、原型の形状を損なわない製品になっていて、素晴らしいと思いました。
プラキットに適した抜き方向などを考慮した原型ではないのに、形状を損なわずにプラキット化していただき、企画、製造の方々の努力には感謝するばかりです。
──完全新作の「綾波レイ」について
智恵理:レイは旧劇場版の頃辺りに一度作りかけたことがありますが、思うように作れずに断念したことがありました。
マリ、アスカのPVC製品の時も、続けてレイを作れていなかったが心残りでしたので、今回の一連のプラモ化でレイを作れたのはとても嬉しいことでした。
マリ、アスカを作った当時に、貞本さんが描かれたラフ画がありましたので、ポーズはラフ画から、各部のディテールは貞本さんの各種イラストを参考にし、最近の映像のレイとも違和感ないように心がけました。
マリ、アスカと同じく、プラキットのためにディテールを調整するということはなく、通常のフィギュア原型のように造形をしていますので、それがどうプラキットのパーツに再現されるのか楽しみです。
PLAMAX 真希波・マリ・イラストリアス
●発売元/マックスファクトリー、販売元/グッドスマイルカンパニー●7700円、8月予定●約20cm●原型/智恵理(マックスファクトリー)
※「PLAMAX 真希波・マリ・イラストリアス スカルプターズホワイト」はオンライン限定販売で9800円
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