ショップ店員に聞いてみた! 模型店から見た最近の模型工具事情
【ボークス スタッフインタビュー】
2022.04.02
ボークス秋葉原ホビー天国2 スタッフインタビュー 月刊ホビージャパン2022年5月号(3月25日発売)
どんどん充実していく工具界。
さて、どう選ぶ?
今回は2019年以来、久々の工具・マテリアル特集です! あれからおよそ3年̶̶2022年現在は、巣ごもり需要もありさまざまなメーカーから数多の模型用工具がリリースされ続けています。ショップの工具売り場を見ると、その圧倒的物量に心が躍りますね。
しかし予算には限りがあるし、同じような工具をいくつも買うわけにはいかない。今一度私たちは考える必要があるのです。「自分にとって本当に必要な工具って何だろう?」
今回の特集では、これまで数え切れないほどの模型を製作してきたプロモデラーたちをナビゲーターに迎えつつ、模型用工具・マテリアルの基本的なところから最新工具事情までを徹底解説。「工具を使うシチュエーション」と「シチュエーションにあった工具」を見極めることで自ずと必要な工具もわかってくるはずです。
皆さんが「今」の工具界で自分に合った工具を見つける手掛かりになればと思います。
ショップから見た最近の工具界
ボークス秋葉原ホビー天国2
スタッフインタビュー
●聞き手/けんたろう ●構成/しげる
変遷していく工具界のトレンドを見極め、工具とユーザーを繋ぐ存在…ショップこそが工具界の「今」をもっとも俯瞰して語れる存在なのではないでしょうか。今回は豊富な模型用工具をセレクトし、ユーザーからの信頼も厚い秋葉原ホビー天国2の店長・小野将三郎さん、工具売り場担当の岡田有弘さん、ホビースクエア秋葉原の松野友栄さんにインタビューを敢行。最近のユーザーの消費傾向から工具そのものの傾向の変化など、ショップならではの包括的な目線で語っていただきました。
●大きく変化したのは、工具探しの情報源
けんたろう この 5年ほど、工具って本当に日進月歩で進化してると思うんです。そこで、ここではショップ目線からの包括的な工具の最新事情、最近の工具の売れ方やどんな人が買ってるんでしょうか……というのをお聞きしたいと思ってます。
小野 まずこの5年以前というか、それまではお客様がどこで新しい工具の存在を知っていたかというと、まずホビージャパンみたいなホビー雑誌なんですよね。あとはもう店頭。一番こちらとしてもありがたいのは、まず雑誌で「こういうものがあるのか」と知って、店頭で実物に触れるパターンでした。ただ、今はもう雑 誌より先にSNSとかYouTubeなんですよね。有名なモデラーさんとか上手な人が「こういうものを使ってます」「こうやって使います」という情報をネットに上げて、それで知ったお客様がショップに来るんです。
けんたろう それはわかりますね。ひと昔前だと雑誌を見ながら買い物してるパターンってありましたけど、今ってそういう人あんまりいないですし。
松野 ホビースクエアは年配のお客様も多いので、やっぱり今でも「雑誌が一番!」というお客様もいま す。ただ、そうはいってもネットにはシフトしていますね。 年配の方もここ5年ほどでみんなスマホを持つようになって、雑誌のページを写真に撮って持っていらっしゃったりします
小野 どちらかというとホビースクエアのお客様は玄人寄りというか。ホビー天国はもう少しライトで、もともとプラモデルをやっていた方ももちろんいます が、初めて作ろうという方もいらっしゃいます。そういう方は大体スマホのツイッターで見て、という感じですね
松野 ただ、流れてくる情報と自分の求めているものがマッチしているかわからないというのもあるんですよね。その辺りは直接聞いていただくほうがいいかもしれません。
岡田 これからガンプラを始めたいという方で、「ネットで見たから」と言いつつ目的と特性が合っていないものを買っていく方がたまにいるんですよ。工具ではなく塗料の話になっちゃうんですが、買った塗料は水性なのに薄め液って書いてあるからラッカーの溶剤を買いましたとか。お会計時に「大丈夫ですか?」って確認させていただくんですけど「なんだかわからないけどネットで見たんで」という感じなんですよね。我々の時代だとやってみて失敗してから「あ、違ったんだ」となって、それで覚えるというプロセスだったんですが。
けんたろう おなじ轍を踏んでほしくないですよね。
松野 ネットだけに頼りすぎるのも……というか、ネッ トってわざと定石から外れたテクニックが話題になったりすることも多いと感じます。でも、どれが定石なのかわからない人からすると「それが正しいんだ」となってしまう。
けんたろう ネットでは特に裏技的なものが好まれますからね。水性塗料をラッカー溶剤で割る、みたいな……。
松野 試すこと自体は悪いことではないと思うんですけど、メーカー非推奨の使い方だったりするし、初めは正攻法を身に着けていただきたいと思います。
小野 ネットだけだと何が正解かわからないし、いきなり裏技的なテクニックを見ることができてしまうというのはありますね。
●ネット全盛だからこそ、工具トレンドの発信地になる秋葉原の店舗
けんたろう そういった状況で、全体で一番売れている工具ってなんでしょう?
松野 プラモデルをこれから作ろうという方だと、やはりニッパーですよね。ただ、一昔前ってニッパーといえば限られたメーカーさんのものしかなかったじゃないですか。だから「なんだかよくわからないけど、この中で一番高いのを買えばいいか」でなんとかなっていたんです。でも今って、ニッパーを出しているメーカーさんも増えましたし、両刃しかなかったのに片刃のものも出てきて、皆様悩まれるようになりましたね。
けんたろう でしょうねえ……。
松野 そこで今指標になっているのが、好きな作品を作っているモデラーさんが何を使っているかなんです。ツイッターの画像とかYouTubeの動画に映り込 んだ工具を見て、「これが欲しいんです!」みたいな。性能はいったん置いといて、この人が使っているから これを買おうというケースが増えています。
けんたろう そういう人は昔からいましたね。
松野 ただ、種類が増えたゆえにそれがより顕著になっているんです。あと、話題になっている工具が欲しいっていうトレンド重視の需要はあるかと思います。
小野 ニッパー以外も、発売されて間もないものとか は、店頭に入ってもすぐなくなっちゃいますね。
岡田 特に秋葉原はその傾向が強いです。最先端の工具みたいなものは、秋葉原で動くと他の店でも動く。秋葉原で買い物をしているモデラーさんの中で流行って、それが伝わって売れていくんですね。
けんたろう これだけSNS があるのに、地域差が強いんですね。
松野 大阪の店にいたときより秋葉原の店にいる今のほうが、ライターの方や製作代行をやっている方の接客をする機会が多いですし、新しいものが好きで試したいという人が多いと思います。そういう方はSNSでの発信も積極的なので、「こないだ買ったこれがよかった」みたいな情報がすぐネットに上がる。だから、秋葉原のお客様は「こないだネットで見たやつですよね」「これってライターの人が使ってたものですよね」みたいな形で店舗で工具を見て、そのまま買ってくださいます。
けんたろう ネットで直接買うのではなくて、わざわざ店頭に来るという一段階を挟むんですね
松野 ネットで買う方もたくさんいらっしゃるんですが、秋葉原は「毎週来てるから、発売日っぽい日に来てあれば店頭で買えればそのほうが早いし、なければネットで買うか」くらいのお客様が多いですね。
小野 あとやっぱり、ネットで見ていいなと思ったけど、実際の使い方とかを直接聞けるのは店なので、そういう需要はあると思います。また、店頭に並んでいる工具の数とか品揃えを見ても、「これは流行っているやつだ」と実感できるというのもあると思います。
けんたろう それはありますね。売り切れている状態を見ても実感できるし。
松野 本当に、新商品は置いてあるとすぐ売れていくものもあります。秋葉原に来る方の中には、「ちゃん と売れているから自分が買ったものは間違いじゃなかったんだ」という点を確認に来る方もいらっしゃると思います。
●細分化が進む「目的特化型工具」
けんたろう ここ5年ほどでいうと、大きく盛り上がったのはスジ彫り工具だと思いますが……。
岡田 まず売れたものというとBMCタガネですよね。登場以降、スジを「コ」の字で彫る技法がどんどん広 まっていって、スジ彫りといえばBMCタガネという状態になっています。今はもう初めての人もBMCタガネで指名買いするようになっているし、また「初めてガンプラにスジ彫り入れるんですけど」というお客様に「ニードルでも彫れますよ」と言うと驚かれるということもありました。逆に初めてスジ彫りをやるというお客様 だと高く感じられる商品でもありますし、接客する立場としてはどうしようかなと思いますね。他のメーカーさんのスジ彫り工具と合わせてメリットを説明しており ます。
けんたろう 確かに各社ありますし、また名前が違ったりしますもんね。スクレーパーって言ったりケガキ針って言ったり。
小野 ぜひスタッフに聞いて理解を深めていただきたいですよね。雑誌やネットで「スジ彫りはもうBMCタガネ一択」みたいな雰囲気になっていても、スタッフに聞いて「あ、これも便利そう」と初めてわかる。
松野 「スジ彫りしたいです」と言われたら、まず対象のキットはメカですか、人ですか、というのは聞きますね。人間のフィギュアに彫刻を入れるならV字に彫れるニードルでいいし。そもそもなにもないところにいきなりタガネを当てたらタガネが折れると思うんですが、そのあたりも聞かないとわからないですから。
けんたろう 工具って、一回潰して初めて使い方がわかるみたいなところもありますもんね……。ただ、今のスジ彫りの話もそうですけど、他の工具にしても職人の技をフィードバックしたようなものが増えているというのは昨今の傾向ですよね。
松野 工具のカテゴリーがいろいろあって、例えば「切る」という用途のものにしても、昔はニッパーとデザインナイフくらいしかなかったと思うんです。でも今はすごく細分化してて、「クリアーパーツのゲート処理に使ってください」みたいなことになっている。最近の 商品は目的特化のものが増えたと思います。
けんたろう それはそうですね。
松野 目的特化が進むと、例えば「本当は大味な使い方をしたいのに繊細な片刃ニッパーを買ってしまう」 みたいなことが起こる。目的と商品の特性が分離しちゃうんですよ。だから店としては「こういうことをした い人はこれを買うといいですよ」「こういうことに向いていますよ」という点をアピールして、みなさんが手に取りやすいよう努めています。
小野 使い方にしても工具の説明書に書いてある んですけど、店頭では実際に作る方に向けてのアピールより単純な説明やおすすめ、という方向のものが多いですね。本当であればそこってもっと強くこちらからアピールする必要があるんですが、先行しているSNSとか雑誌を参照して、そこで取り上げられてい た使い方や特集でコーナーを丸々作っちゃうこともある。あまりこれをいうのはアレなんですが、そっちのほうが楽だというのもあります(笑)。
松野 お客様も「これ、見たことあるやつだ」ってなるし、それをそのまま置いてあれば買っていただけるん で。
けんたろう ホビージャパンもご活用いただきありが とうございます。
●ネットのおかげで火がついた定番工具と、実演の重要性
けんたろう 逆に雑誌やメディアであんまり取り上 げらないけど、地味にこの工具が売れていた、みたいなものってありますか?
岡田 パーフェクトゲートリムーバーが、本格的に各所で取り上げられる前はそんな感じでした。ガラスヤスリ自体は他のメーカーさんからも出ていたんですが、使い道がいまいち認知されていなかったんですよね。そこに「こうしてください」というのをしっかり提示したことで、パチ組みや素組みを楽しんでいる方は「これを使えばいいのか」ということになった。
松野 ガラスヤスリって使い終わったら水洗いしておしまいなんですごくいいものなんですけど、プラモデルでは馴染みがなかったんですよね。そこに使った人がツイッターにわかりやすい動画をあげたりしていて普及したところがあります。
小野 誌面にあまり出てこないヤスリというと、上野文盛堂さんの商品とか。
松野 文盛堂さんもすごく昔からあるメーカーですけど、いきなり売れて驚いたんですよ。追加発注したら それも売れたんで、お客様に「これ、買おうと思ったきっかけは何ですか?」と聞いたら「YouTubeで見たんです」と。YouTubeで「いっぱいヤスリを使ってきたけど、これ一本あれば大丈夫!」って紹介されて、それ で売れたんですよね。20年選手の商品なんで、新製品でもなんでもないんですけど。
けんたろう 文盛堂のヤスリ、実店舗で買える店が少ないですもんね。
松野 入れてるところが意外に少ないんですよね。 雑誌には載らないけど、ネットで改めて使い方が出て広まるっていうケースも増えました。それでいうと、やっぱり雑誌ってどうしても「やり始めます→途中です→できました」という写真の並びで見せることになるじゃないですか。でも、みんな本当はその中間が知りたい んですよね。だから動画で使い方が広がるのかなと。
けんたろう それでいうと、定期的にボークスさんって店頭での実演ってやってますよね。その中間の部 分を、誰かがやって見せたほうがいいという判断もあるわけですね。
小野 そうですね。秋葉原の2店舗と大阪のボークスには“俺の模型部屋”っていう試せるスペースもあるので、新しいものはそこで実際に体験してもらって、買ってもらえればと思っています。
松野 コンプレッサーなんかは、実際に動いているものを見ないと値段的にも買いづらいですよね。高価格なものでも、いいものならば買いたいという流れはできているんです。昔は3000円のニッパーなんか「嘘でしょ?」って感じでしたけど、今は6000円でも普通に売れるので。あと、そうは言いつつモーターツールなんかは低価格化が進んでいますし。アルゴファイルのアルティマ5とかは、最初にすごくネットで話題になって今でも売れていますから。
けんたろう 昔はプロが使っている工具のカタログを見て「こんなに高いのか、さすがプロだな……」って 思ってたのが、今は「買えるじゃん、ちょっと考えるか」となることが多いですもんね。
松野 プロと同じものを揃えることで、憧れてたような作品に自分も手が届くかもっていう状況に最近はなっていますよね。
岡田 電動工具って、持ってるだけでなんかうまくなった気がしますしね(笑)。
けんたろう 使っただけでうまくなったような気がするのが、いい工具ですもんね。
松野 そういう商品は実際に売れているな、というのは店頭に立っていて思いますね。
●よりよい工具に出会うため、素直になってコミュニケーションをとるべし
けんたろう ショップの方が考える、「よりよい工具との出会い方」についてお聞きしたいんですが。
小野 やっぱり、お店に来ていただくことが一番だと思っています。雑誌で情報を得るのはもちろんいいんですが、お店でスタッフと話して実際に試して、それでも一発で最適な工具って見つからないものなんですよね。買って帰って、使ってみてこうだったというのをまたスタッフとやりとりして、次はこうしようという提 案をさせてもらいつつ、自分にあった工具を探すというプロセスを、ホビーショップとしてはおすすめしたいです。やっぱり、話を聞いて実際に体験してみるっていうのが一番かと。
松野 あとは、恥ずかしがらずに明確に「これをしたい」という点を伝えてもらえるといいですね。スタッフは いろんな工具を触っているので、「こういう表現をしたいならこちらのほうが向いてるな、次点でこっちだな」というおすすめの仕方ができるんです。「プラモデル 作りたいです」というだけだとやっぱり「どう作りたいですか?」という話になるんで、そこでもう「手間をかけずに、ほとんど素組みでカッコいいものを作りたいです」って言ってもらえればそれでいい。
小野 遠回しではなく、ズバリ言ってほしいんです。
松野 例えば「高いニッパーだと切断面がきれいだから何も塗らなくても見映えがするけど、ある程度塗装するんだったら別にどのニッパーでもいいよね」みたいな話もあるんで、そうなってくると5000円のニッパーをどなたにもおすすめするのが最良かどうかがわ からないですよね。なので、もう「時短したい」とか「手を抜きたい」とかでいいんで、はっきり伝えてもらったほうがいいんです。
けんたろう でも、店頭で「女の子のプラモデルをめちゃくちゃ可愛くしたいです」っていうのも、ちょっと言いづらいですよね。
小野 恥ずかしいかもしれませんが、女の子のプラモを可愛くしたいなんて当たり前のことなんで、なんの問題もないです!
岡田 むしろ我々もそれをやってる側なんで(笑)。
松野 もう、「水着のフィギュアに水滴をつけたい」とか、そのまま言ってくれて大丈夫です。遠回しに「水の表現をしたい」とか言われると、じゃあディオラマ用の素材かな……みたいな感じで無駄に時間をいただいてしまうので。
けんたろう とにかく自分に正直になって、まずは素直にお店の人とコミュニケーションを取ってみるのが工具探しの第一歩、というのはいつの時代も変わら ないですね。ありがとうございました!
(2022年3月 秋葉原ホビー天国2にて)
ボークス秋葉原ホビー天国2
●住所/101-0021 東京都千代田区外神田4-2-10
●営業時間/11時~20時(平日)、10時~20時(土・日・祝日)
ホビースクエア秋葉原
●住所/101-0021 東京都千代田区外神田1-15-16 ラジオ会館 8F
●営業時間/11時~20時(平日)、10時~20時(土・日・祝日)