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ノモ研 「3Dプリント製モデルの製作」【野本憲一モデリング研究所】

2022.04.03

野本憲一モデリング研究所 月刊ホビージャパン2022年5月号(3月25日発売)

ノモ研 「3Dプリント製モデルの製作」【野本憲一モデリング研究所】

 今回は3Dプリント製キット、パーツの製作について。といっても自分でカタチを作り出すのではなく、市販の3Dプリント製品を利用する、という視点だ。そうした製品がどんな形態や特徴を持っているのか、仕上げに必要なことは? などを工程とともに紹介していく。取り上げるのは“光造形方式、光硬化樹脂”の製品たち。

製作・解説/野本憲一


製品、パーツの状態

 まずは一例として製品とパーツの状態を見ていこう。

▲海洋堂のデジタルガレージキット「幻想怪獣Goro」シリーズから70mmサイズ「ゴモラ」(5390円)を選んだ。パーツは怪獣の全身が尻尾まで一体で造形されている。説明書はシンプルで、サポート材の処理や塗装での注意点などが指示されている。同形状でサイズ違い(50mmサイズ)も製品化されているところが、3Dプリント製ならでは

▲その造形を見てみよう。尻尾はもちろん、頭部や、指先など、ソフビやレジンキットなら分割が必要そうなところまで一体となっている。背面、下面にある柱状の“サポート”、土台のような“ラフト”は造形段階で必要なものだが、パーツとしては余分となる。それらの役割や、本体が傾けられている理由はこのあと説明する

▲その生産はFormlabsの「Form2」で行われている。レーザー光を走査し、描くように樹脂を硬化させるSLA方式で、滑らかな表面を実現している

3Dプリントの特徴

 そもそもの3Dプリントや光造形はどういったものなのか。知らなくてもパーツは使えるけれど、知っておくと納得なその概要。

▲お馴染みのプラキットはもちろん、レジンキャストやソフビなど、いずれもそのパーツ形状を作り出すには“型”を使う。パーツを反転した空間に素材を注入し、特定の形状になる。型を使うのは量産がしやすい。3Dプリントでは形状の3Dデータを基に、スライスしたデータを準備。その層(レイヤー)ごとに素材を硬化させ、重ねていくことで立体化する。形状の自由度が高く、中空や入り組んだ形状も造形できる
▲プリントが進行する流れを見ていこう。造形物を保持するプラットフォームは下向き。光硬化レジンを入れるトレイは底面が透明。下からのUV光の照射で僅かな厚みを硬化させ、プラットフォームはその積層ピッチ分、上昇する。造形の初めはプラットフォームに密着させるための土台となる“ラフト”、次に造形物を支える“サポート”、そして目的の造形物と、層を重ねていく
▲サポートの付き方やパーツの向きを簡単な図にしてみた。サポートは逆さ状態での造形物の支え。プラットフォームが上昇する際にはトレイの底面から剥がす抵抗があるので、それに耐える必要がある。図左だとその点が危険。また一層の中で離れ小島になると欠損する(図右)ので、そんなところにもサポートが必要になる。サポートは切断、整形が必要なので、パーツの裏面や下面など目立たない側にしたい。そうしたことを配慮してパーツの傾きやサポートの配置が決められている

LCD方式での造形例

低価格で高精細な光造形プリンターとして普及しているLCD(液晶ディスプレイ)方式での例を見てみよう(※これは個人的製作物)。全体は歪みのないシャープな造形で、平面部分は等高線のような積層跡、曲面では波紋のような跡が付いている。段差は極わずかで、状況に応じて埋めるか削るかしてならす

▲続いては素材(光硬化レジン)にまつわる事柄。一般に光硬化レジンはプラキットのパーツと比較して堅め。サポート切断はプラモのゲートカットと手順は同じだが、切った部分が飛んだり、周囲が欠けたりしやすい傾向がある点に注意したい
▲接着は瞬間接着剤やエポキシ系接着剤で行う。どちらを選ぶかは状況次第
▲欠けた箇所の補修にはポリパテや光硬化パテが定着しやすい。レジンによっては食い付きに違いもあったので、余白などで試してから使うといいだろう(パテ革命 モリモリ 120g) (タミヤ光硬化パテ)
▲3Dプリント製品では下地塗装としてプライマーの塗布が指示されている。今回の作業では表面の状態が確認しやすいサーフェイサー兼用タイプを使用(ファインサーフェイサーL(ライトグレイ))

サポートの切断

 再びゴモラに戻って製作の開始。トラス状に林立したサポートを切って取り除く。

▲サポートの切断は鋭く切り込める薄刃ニッパーをぜひ使いたい。プラパーツよりも砕けやすい素材なので、その点がより重要。切る箇所はサポート先端の細い部分でパーツ表面から少し離すのが無難
▲サポートが連なっている箇所では次の切断の力が逃げやすいように二度切りして隙間を開けておくと安心。切っただけで切断面が触れていると無駄なテンションが掛かったりもする
▲そんな気配りをしながら頭部横に連なった各サポートを切り分けた。このサポートのまとまりも下側を切断して取り除いてしまう
▲背面側へとサポートのカットを進める。パーツとラフトの間隔が狭くなるにつれ、サポートが筋交い状に繋がっていてニッパーを沿わせにくくなってくる…
▲そこで土台の板を切り分けるように、パーツから遠い箇所でサポートを切っていく。この際、サポートがぐらついたりもげたりしないように、トラス状の部分を一定の長さ残すようにしている
▲土台が切り離されると、ニッパーを背面にも当てがいやすくなる。個々の切断の注意は最初の箇所と同様

超音波カッターでの切断は?

パーツに力を加えずに切断するには超音波カッターを使うのもひとつの手段だが、光硬化レジンでは切り込んだ周囲が細かく砕ける傾向があるので、注意も必要だ

▲背面、下面、尻尾側のサポートを切り終えた状態。サポートが密集して見えにくかった部分も、周辺と遜色ない表現で造形されている。このあと短く残った部分を整える
▲首元に密着するように付いていたサポートの除去。これらはナイフや彫刻刀で削ぎ取って、周囲のシワがうまく繋がるように整えたい
▲サポートの残りをパーツ付近で切断。切った箇所が凹みになるのを避けるため、慎重な手順をとっている

欠けてしまった…

作業の間にツノの先端が欠けてしまっていた。破片も見当たらないのでここはパテ等で補修する。このように先端は欠けやすいので注意しよう


補修とサポート痕の仕上げ

 欠損部の補修と表面処理の段階。サーフェイサーを吹いて確認しやすい状態で進めていく。

▲欠けたところの補修に光硬化パテを使っているところ。盛り付けやすいようにセロハンテープを周囲に貼り、そこに載せるようにしている
▲盛り付けたパテを削り込んで右側と鼻先のツノを補修した。こんな小さな所でもキット本来のニュアンスを再現するのは難しいもの。継ぎ目が出ないよう滑らかに整えたい
▲各部の仕上がりの確認のためのサフ吹き。プライマー兼サーフェイサーで滑らかなタイプを使い、モールドを損なわないように薄く吹き付ける。足の裏は持ち手を付けている
▲サーフェイサーを吹くと、サポートの切り跡がまだ残っているのがよく分かる。また、尻尾の太い箇所にスジ状の積層跡があるのも発見
▲サポート跡の整形。なるべく周囲の形状を損ないたくないので、出っ張りになった部分を彫刻刀(例はハセガワのサーフェスナイフ)で削ぐようにしている
▲削いだ跡をならし、周辺に馴染ませるヤスリ掛け。#320〜600のスポンジヤスリを使っている(スポンジヤスリ)
▲尻尾に生じていた積層痕の様子。うっすらと平行な跡が付いている中でスジ状の凹みとなっている箇所があった
▲表面のサフを落とす程度にスポンジヤスリ(#800〜1000)をかけて状態をさらに確認。極細かな線は気にならないが、目立つスジは整形したいところ
▲ここは曲線キサゲでスジ状の周囲をならしていった。スジが残っているのはサフの色で分かるので、それがなくなる程度に、シワ模様に沿わせつつ削ぐ
▲尻尾の後面側、蛇腹部分にもスジ状の跡があったので同様に表面を削いで整形。こちらは彫刻刀を使って、蛇腹の凹みまで丁寧に

▲削った面に再びサーフェイサーを吹いて、表面処理の完了。次に重ねる塗装はラッカー系、水性など模型用塗料で行える。怪獣の塗装については前回を参考に、ということで「ゴモラ」はここまで(前回の記事)


ハンドパーツを仕上げる

 続いてはディテールアップ用のハンドパーツを例に、LCD方式での積層痕を消す作業。

▲キャラクターロボット向けの汎用ハンドパーツ、idora「メカニカルハンド[角指]」(2090円)。握り手と平手のセットで、別パーツの手の甲とともにラフトに付いた状態となっている。サポートは外見に影響の少ない面に付いているのみ。各面にうっすらと積層痕が見えるので、これを整形するのがポイントになる

▲精密な造形がされた指部分。3Dプリントではプラキットのように“抜き方向”の都合でいびつになる箇所がなく、傾いたり曲げた指も形状が整っている。各面に波紋のように見えている積層痕は肉眼では分かりづらいが、スミ入れをすると露わになってしまう
▲サポートを切断したところ。ひとつの平面に並ぶように配慮されているので、切り口は整形しやすい。ここはヤスリなどで平らに仕上げればいいだろう
▲サフを吹いて積層痕を見やすくした状態。埋めるためではないので薄く吹くだけ。この表面を削ることで整形の具合も判断しやすくなる。結局削り落としてしまうことからこのサフ吹きは“捨てサフ”と呼ばれる
▲平面構成の精密な形状を崩さずに整えたいので、ここでは彫刻刀の刃先をスライドさせる切削を多用する。手順は図のようなもので、波目と交差する向きに刃先を置き、表面を削いでいく。削ぐ向きを変えながら数方向に動かすと平らにしやすい
▲指の基節部(付け根側)に注目。小指は整形済み、薬指はほぼ平らだが少しサフが残っている、中指は整形を始めたところ。サフが縞模様に残るのは削った深さが分かるだけでなく、元の形状に対して傾いてないかもチェックできる。刃先は幅広のほうが整えやすい
▲刃物を当てにくい指の間は紙ヤスリ(#320)を差し込んで整形。当て木がなくてもペーパーを折り重ねたり、張りを持たせてるような持ち方で切削面に当てがい削っていく(フィニッシングペーパー #320 )
▲見逃しやすい関節部の小口も整形。ここは板状のダイヤモンドヤスリ(#600)のフチを使っている(ダイヤモンドヤスリ #600)
▲積層痕を整形した手の平側。細かな面が多いので手間ではあるが、彫刻刀を使ったところは滑らか。ヤスリの番手を細かくしていくよりも省力化にもなる

整形に使った工具

平刀の幅違いを中心に意外に多くの種類を使っている。右端は極小マイナスドライバーの先端を研いで平刀にしたもの。これらが必要というわけではなく、場所ごとに使いやすいものを選んだ一例として参考に

▲光硬化パテでならすほうが簡単でキレイに整う場合も。これは手の甲の表面にパテを塗ったところ。サフを吹く前の素材面で行う
▲パテの表面を透明な薄板(ブリスターパックなどの切れ端)で押さえ、そのまま硬化させる。板を剥がすと積層跡の段差が滑らかにならされた状態になる。周囲にハミ出した分は剥がし取る
▲整形前と整形後の比較(どちらもサフを吹いた状態)。積層痕がよく見えるように撮影しているが、実際には0.0Xmmほどの極細かな段差。サフの厚吹きでなだらかにする方法もあるが、3Dプリントによる形状やシャープさを活かすため、丁寧に整形した
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©円谷プロ

野本憲一(ノモトケンイチ)

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