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ノモ研 「レジンキットの製作(前編)」【野本憲一モデリング研究所】

2021.12.03

野本憲一モデリング研究所 月刊ホビージャパン2022年1月号(11月25日発売)

ノモ研 「レジンキットの製作(前編)」【野本憲一モデリング研究所】
レジンキットの製作

 今回からレジンキットの製作について2回に分けてお届けする。立体物の原型をシリコーンで型取り、「ウレタン樹脂」を注型した複製品を組み立てるのがレジン(キャスト)キット。比較的低コストで量産できるため、小規模生産でマイナーなアイテムが立体化されていたりもする。キット自体は造形イベントで入手できる個人製作から専門メーカー製まで製品は多様だ。その組み立てを「カラーレジン」キットの製作で紹介していく。

製作・解説/野本憲一


キットの内容

題材は無塗装でも見映えがいい「カラー成型」のキットを選択。組み立ての基本的な作業工程は単色キットでも同様だ。

1/35 熱砂の皇帝(トロピカル サルタン)
1/35 熱砂の皇帝(トロピカル サルタン)キット内容

▲題材のキットはボークス製カラーレジンキット「1/35 熱砂の皇帝(トロピカル サルタン)」21780円(税込)。『装甲騎兵ボトムズ外伝 青の騎士ベルゼルガ物語』に登場する機体。マイナーなアイテムでもこうして立体物が製品化されるのがレジンキットならではなところ。パーツは関節部とボディ明暗の3色で、無塗装でもご覧のような姿に。固定ポーズで部品数は抑えられ、成型もいいので取り組みやすい

各方向に凹凸がある形状でも成型品を取り出せる
▲レジンキットの生産で使われるシリコーン型は、金型と違って柔軟性がある。そのため多面体で各方向に凹凸がある形状でも成型品を取り出せ、このようなパーツが成立する(もちろん高い成型技術もあってのこと)。プラキットなら幾パーツにもなる形状が1パーツで済むことから“レジンキットのほうが組みやすい”ということもある
ランナーやゲートは太め
▲パーツは薄いものから固まり状などさまざま。樹脂の流れ道であるランナーやゲートは太めで、付き方はまちまち。それらの整形は必要だが加工はしやすく、作業はプラキットの延長だ。成型状態の善し悪しが組みやすさを左右し、“気泡”が多かったり、型のズレが大きいと仕上げに手間がかかることになる
各工具マテリアル
▲レジンキット製作に用意したい用品。接着剤は瞬間接着剤の“中粘度”を基本に状況によって低粘度やゼリー状。重さが掛かる場所や隙間が多い場合はエポキシ系接着剤も。モールドの修正に小型のノミや彫刻刀。パーツの取り付けを補助する“軸”を追加するためのドリル、金属線、ペンチなど

パーツのチェック

パーツチェック

レジンキットはバラバラの部品がまとめて袋詰めされていることが多く、万が一パーツが足りなくてもすぐには気付きにくい。組み立ての前にまず説明書のパーツリストなどと照らし合わせて確認しておこう

レジンパーツと複製

組み立て前の基礎知識として、素材や型取りについて補足しておこう。

主材、硬化剤
▲「レジン」というと「樹脂」を意味するので、UVレジンやエポキシレジンなど範囲が広いのだが、ここでは「注型用ポリウレタン樹脂」に話を絞ることにし、写真はその例。主材、硬化剤の両液を混合すると数分で硬化する。その間に型に流し込んで“注型”する(ウェーブ・レジンキャスト.Ex2kg ノンキシレンタイプ【グレー】)
原型を写し取ったシリコーン型に樹脂を流し、硬化した
▲簡単な型取り例を見てみよう。原型を写し取ったシリコーン型に樹脂を流し、硬化した状態。樹脂の流路がランナーやゲートになるのが分かるだろう。流れが良くないと空気が残って“気泡”になる。注型を繰り返すと型は傷み、注型品が剥がれ難くなったり、凹凸箇所で千切れたりする
離型剤
▲注型品を剥がれやすくし、型を長持ちさせるために塗布する“離型剤”。古くはパーツに“油分がべっとり”ということもあったが、近年はそうした影響が少ないものが用いられている

この後の工程

 このあとの組み立てで行うのは以下の項目
・パーツの洗浄
・ゲートやパーティングラインの整形
・歪みの修正
・軸打ち
・気泡埋め

 順番は必ずしもこの通りでなくてもよく、キットの構成やパーツの状態に応じて進めればいい。ゲートカットや主な整形を済ませたほうが洗いやすい場合もあるし、細かなパーツは繋がったままのほうが扱いやすく、持ち手に残す場合もある。

パーツの洗浄

レジンパーツの表面に離型剤(油分)が残っていると接着や塗装の妨げになる。それを取り除くための洗浄。

専用の“離型剤落とし”製品各種
▲専用の“離型剤落とし”製品各種。左から「レジンウォッシュ/ガイアノーツ」「造形村 キャストクリン/ボークス」「ご機嫌クリーナー/ファインモールド」。今回はこれらをそれぞれ使ってみている(造形村 キャストクリン)
キャストクリンはスプレータイプ
▲キャストクリンはスプレータイプ。ポリ容器にパーツを入れ、そこに吹きかける。これで各パーツ表面を溶剤で濡れた状態にする。有機溶剤なので使用中の換気に注意
乾燥
▲その後パーツ同士が重ならないように並べ、乾燥をさせる。これで溶剤とともに離型剤が揮発するというもの。スプレーで行き渡らないところがあれば、容器内に溜まった液を付着させるといいだろう

心配なところはヤスる

心配なところはヤスる

塗装の食い付きがわるくて、マスキングをはがした際に塗膜ごと剥がれるというのは避けたい。心配な箇所は#600〜800程度でパーツ表面をペーパー掛けしておくのも有効だ

レジンウォッシュは溶剤につけ置きするタイプ
▲レジンウォッシュは溶剤につけ置きするタイプ。パーツ全体を10分ほど浸けた後、そこから出して中性洗剤で洗い流す。溶剤は5回程度繰り返し使える。揮発性なので浸している間もフタをしたほうがいい
ご機嫌クリーナーは泡状のスプレー式洗剤
▲ご機嫌クリーナーは泡状のスプレー式洗剤。3〜10分パーツを濡らしたあと水洗いする。レジンキットほか、プラパーツに使えるのも特徴。この例は水洗いに備えて網の上で作業している
台所用の中性洗剤
▲身近なものを使う方法としては、台所用の中性洗剤に漬けたり、油汚れ用洗剤に浸すなどし、さらにクレンザーでパーツ表面をこすり洗いする。細かいパーツを痛めたり、パーツを流してしまわないように注意

食い付きのテスト

食い付きテスト

無洗浄と洗浄したレジンのランナーそれぞれにサーフェイサーを吹き、テープを貼っ剥がすテストをしてみた。結果、いずれもサフは剥がれなかった。引っ掻けば剥がれるが、最近のキットでは離型剤の影響が少ないという一例になった

ゲートやパーティングラインの整形

ゲート(樹脂の流れ口)、パーティングライン(型の合わせ目)の跡を整える。

初めは少し離して切る
▲パーツが歪まないよう、初めは少し離して切るなど基本はプラキットの場合と同様。ゲートが大きいが素材がプラよりも軟らかめで切りやすいので薄刃ニッパーを使っている。そこは素材の硬さや太さ次第。切れ味が劣るものでは挟んだ時の歪みが大きくなる
パーツ表面に少し残した状態
▲残りのゲートを細かく切り込み、パーツ表面に少し残した状態。表に見えないところならパーツに当てて切ってもいいが、表面では歪みや切りすぎを避けるため丁寧に進める
薄く残ったゲートはナイフで削ぎ、さらにヤスリ掛け
▲薄く残ったゲートはナイフで削ぎ、さらにヤスリ掛けなどして、本来のパーツ形状に整える。さらにパーティングラインの跡も均してやる
ゲート跡、パーティングラインを消したパーツ
▲ゲート跡、パーティングラインを消したパーツ。曲面では切削部だけ平らになったりしないよう注意。段差やリベット周辺ではナイフでのカンナ削りなどで粗整形。既存モールドを痛めないように整える
安易に切るとパーツ部分まで欠いてしまうことがある
▲レジンパーツではプラキットなどよりもゲートが太いので、安易に切るとパーツ部分まで欠いてしまうことがある。まずはパーツ形状をよく見ること。曲面では山型に少し残すように、エッジ付近では各面の方向に分けて数回で切っていく
曲面にゲートがあるパーツ
▲円筒型の曲面にゲートがあるパーツ。先の図のように曲面を損なわないよう注意する箇所で、テーパーが付いているのにも注意し周囲と均している
パーツ表面のパーティングライン
▲パーツ表面のパーティングラインに注目。エッジに沿うだけでなく、少しズラしてモールドへの影響を少なくしている箇所もある。カラーレジンではなるべく他のパテ類は使わずに仕上げたい。わずかな段差なのでそのまま表面を削り、ふくらはぎの緩い曲面を残しつつ整えている

歪みの修正

パーツ形状を整え、フィッティングを高めて確実な組み付けを助ける段階。パーツが合わないかな? と思っても簡単に直せることもある。

パーツが反っている状態と修正後
▲上はパーツが反っている状態で、下は修正したもの。薄いパーツや細いパーツは脱型(シリコーン型から外す)の際の力や、その後の緩やかな硬化などで反りが生じることがある。これは削ったりせずに修正できる
70〜80度程度のお湯に数十秒ほど浸ける
▲レジンパーツを70〜80度程度のお湯に数十秒ほど浸ける。すると軟らかくなり、曲げグセを付けられるようになる。この例は湧かしたお湯を保温カップに入れたものを使っている
平らなモノに宛がうなどして形を整える
▲柔らかくなったパーツは逆側に反らせたり、平らなモノに宛がうなどして形を整える。冷めた状態で整うようにする
細長いパーツも微妙な反りがおこりやすい
▲細長いパーツも微妙な反りがおこりやすい。手早く温めるにはドライヤー等で熱する方法も。熱くなり過ぎてパーツを触りにくくなったりするので注意
ボディ周囲に付くパーツの合わせの確認中
▲これはボディ周囲に付くパーツの合わせの確認中。右側の配管状パーツの末端が中央の円筒形に接するところで浮いている(左のパーツは合っている)。上の例もそうだが「コ」だと開く方向に反りやすい
両端を所定の位置合うよう曲げグセを付ける
▲配管パーツを先の例と同様に温めてから、両端を所定の位置合うよう曲げグセを付けてやる
喰われ
▲嵌合するパーツの収まりが悪いので、内部を確認すると、段差部分に余分な突起があった。型が一部千切れた跡で“喰われ”と呼ばれる。レジンキットではありがちなもので、そこは彫刻刀などで突起を削ぎ取り整える

パーツ表面のヒケ

ヒケ

レジンパーツは元の形状に対して若干の収縮があり、表面にわずかなヒケが生じる。そのためしっかり面出しするときはそこを意識。貼り合わせるところは少しヤスっておきたい

軸打ち

パーツの位置決めや補強のために“軸”を通す作業。どこまでやるかはキットの内容次第。骨格になる部分やポロリが心配な箇所には施しておきたい。

軸打ちはズレなく両面に穴開けする
▲軸打ちはズレなく両面に穴開けするのがポイント。このキットでは主要な箇所には予め凹みがモールドされていたので、これを活かす。股間ブロックと関節のパーツに2mm径の凹みが見える
軸打ち
▲凹みの底は平坦だったので、2mmドリルで少し彫って凹みセンター出し。その後1mmドリルで開口し、それで軸ズレがないか確認したあと2mmドリルであらためて穴開け。刃先にテープを巻いているのは深彫りしないための目安
軸は真鍮線
▲軸は真鍮線を使い、太めなので大型ニッパーで切断。軸が抜けやすいときは少し噛んで軸に凹凸をつけて、適度に抵抗があるようにすると取り付けを保持しやすい
股関節と周囲のアーマー類も軸打ち
▲股関節と周囲のアーマー類も軸打ち(こちらは1.0mm線)したもの。アーマーは上端だけの固定なので、やはり軸があると仮止めしやすく、接着の際も位置決めしやすい
形状を頼りに対角線が交差する位置にすると両面で定めやすい
▲軸の位置決めでは、周囲の形状を頼りに対角線が交差する位置にすると両面で定めやすい。可能ならパーツを合わせた状態で一方から貫通するように穴開けというのも確実
軸位置がパーツの嵌合とズレてしまい、修正した例
▲軸位置がパーツの嵌合とズレてしまい、修正した例。モモと関節パーツのところで、関節側の穴を広げて固定しているのが分かる。その過程は図で説明

軸がズレたら……

軸ズレ修正

左は軸を通したことでパーツがズレた状態。パーツ同士が合うことが第一なので、片方の穴を広げてそこに接着剤またはパテを入れて、軸を固定。再びパーツを分けても、位置はあった状態になる

カラーレジンでの気泡埋め

型の中で空気が抜けきらずに泡状に残ったのが“気泡”。パーツ表面に現れたら埋めて整える。せっかくのカラーレジンなので、色を合わせて埋めてみよう。

気泡のあった箇所
▲囲みが気泡のあった箇所。腕部、脚部後面の気泡はゲートを切った箇所に隠れていたもの。気泡は球形で見えている範囲よりも奥が広かったりする
角ばった型にノミで彫った
▲気泡をゲートのレジン片で埋めるため、角ばった型にノミで彫った。レジン片もなるべくピタリとそこに入るように整形。左側はゲート跡が凹んだ箇所で、同様にレジン片で埋める
凹みにレジン片を入れて、瞬間接着剤で固定
▲凹みにレジン片を入れて、瞬間接着剤で固定。隙間埋めとしっかり固定のため中粘度の多用途を使っている。硬化した後の整形はゲートカット後と同様に、ニッパー、ナイフやヤスリで整える。仕上がりは下の写真
金ヤスリで粉状にし、気泡に詰め込む
▲脚部は別方法で。同色のレジンランナーを金ヤスリで粉状にし、気泡に詰め込む。そこに瞬間接着剤を垂らして固める。なるべく密にしたいので少し山盛りにしておく
瞬間接着剤を垂らした
▲瞬間接着剤を垂らしたところ。中粘度が染みこんですぐに固まる。穴を角型にしないほうが跡が目立ちにくいかの比較も込みの方法。粉で埋めるのは硬化促進剤がない頃の充填、速硬化の技でもある
整形後のそれぞれの仕上がり
▲整形後のそれぞれの仕上がり。レジン片で埋めた箇所は色の差がないが周囲に瞬間接着剤の“層”があるのが分かる。レジン粉のほうは色味に若干の違いが見て取れる。どちらも完全ではないが、目立ちにくい状態になっている
レジンランナーに塗って硬化、切削
▲指パーツの気泡では瞬間カラーパテ(瞬間接着剤)の混色で埋めてみる。ブラックとホワイトでグレーを作り、レジンランナーに塗って硬化、切削。色味が合うところを探る。メタリック感は省いている(瞬間カラーパテ ブラック) (瞬間カラーパテ ホワイト)
カラーパテを気泡に塗り込む
▲カラーパテを気泡に塗り込む。一度に厚く塗ると中が硬化しにくいので、「薄く塗って、硬化促進剤をスプレー」を二度行った。充分埋まったら整形
周囲と繋がるよう整形
▲ナイフも通る程度の硬さに固まるのが、瞬間カラーパテの特徴。平面やミゾのそれぞれが周囲と繋がるよう整形
整形後
▲整形後。境目や色の違いはよく見ると分かるが、暗めな色のためか違和感は少ない仕上がりだ。3種の方法を取ったが、どれも一長一短なので、気泡の状況と処置のしやすさで選ぶのがいいだろう
「型の喰われ」で途切れている
▲埋まっていたモールドも修復しよう。スジ彫りが「型の喰われ」で途切れているところ。ここはナイフやノミで「V」に切り込むなどし、その後にエッチングノコなどでミゾをスムーズに繋げる。他にも埋まったリベット穴をドリルで開け直すといった修正も行っている
各パーツ
▲ここまでの工程を終えた各パーツ。各部の構成や軸打ちした様子が確認できる。これを組み上げたのが記事冒頭の【キットの内容】内にて紹介している全身状態だ。次回はこれを塗装して仕上げいく

気泡が多い場合は?

表面を仕上げなおす

古めのレジンキットで多数の気泡があるパーツ。これだと表面を仕上げ直すつもりで取りかかることになる。次回はこんなパーツの処理も取り上げる

©サンライズ 協力:伸童舎

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