HOME記事スケールモデルオランダSMC 2025「Best of Show」をはじめ数々の賞を受賞した作品「彼岸の弔い」をご紹介! 朽ちた零戦に込められた物語と思いに注目

オランダSMC 2025「Best of Show」をはじめ数々の賞を受賞した作品「彼岸の弔い」をご紹介! 朽ちた零戦に込められた物語と思いに注目

2026.04.22

彼岸の弔い【ファインモールド 1/48】●下谷岳久 月刊ホビージャパン2026年5月号(3月25日発売)

彼岸の弔い 特撮

Funeral on the Equinox week

 ススキの波が風にほどける名もなき野に、零戦が朽ちた野鳥のように静かに横たわる。外板は風雨にさらわれ翼も尾翼も骨だけを残し、かつて空を翔けた鋭さはいまは秋の光を受ける静かな影となった。人の気配はなく誰かがここからそっと立ち去った、その瞬間だけが時のなかに取り残されている。機体のまわりには紅い彼岸花が円を描いて咲き、燃えるような色が草原に日の丸を浮かび上がらせる。朽ちた機体は、その中心に降り立ったまま時を止めている。風が渡るたび花は揺れ、ススキはさざめき、遠い空の記憶をかすかに呼び起こす。空を翔けた翼はいま大地に抱かれ、名もなき野のなかで、ひそやかな彼岸への弔いを受けている……。

オランダ「スケールモデルチャレンジ」SMC 2025 Best of Show 受賞作品

本作品は、ヨーロッパを代表するスケールモデルの祭典として知られている、オランダのフェルトホーフェンで2007年から続く国際模型イベント「スケールモデルチャレンジ(SMC)」にて2025年に「Best of Show」はじめ、多数の賞を受賞した作品だ
▲本作品は、ヨーロッパを代表するスケールモデルの祭典として知られている、オランダのフェルトホーフェンで2007年から続く国際模型イベント「スケールモデルチャレンジ(SMC)」にて2025年に「Best of Show」はじめ、多数の賞を受賞した作品だ

朽ちた零戦を彼岸花で包み、静謐に敬う心を模型にこめる……

零式艦上戦闘機五二型 全体
機首
もともとAFVディオラマモデラーということもあり機体の配置自体も凝った演出が光る。突き出たプロペラの表現ひとつでどのように着地したかを見せている
▲もともとAFVディオラマモデラーということもあり機体の配置自体も凝った演出が光る。突き出たプロペラの表現ひとつでどのように着地したかを見せている
胴体のウェザリングも、飛行機模型でもAFV模型でもない、まさにたたずんだまま土に帰ろうとする機体の塗装、素材、錆の表現がすべて高い次元で表現されている
▲胴体のウェザリングも、飛行機模型でもAFV模型でもない、まさにたたずんだまま土に帰ろうとする機体の塗装、素材、錆の表現がすべて高い次元で表現されている
尾翼などは内部の構造体を真鍮線で製作し、キットに合わせることによって、機体の角から年月を追うごとに朽ちていく様子を工作でも表現している
▲尾翼などは内部の構造体を真鍮線で製作し、キットに合わせることによって、機体の角から年月を追うごとに朽ちていく様子を工作でも表現している
エンジンなどはファインモールドの素性のよいキットを活かしつつ排気管などはすべて開口して仕上げている。朽ちた表現とは別に排気管が錆びているのがわかる
▲エンジンなどはファインモールドの素性のよいキットを活かしつつ排気管などはすべて開口して仕上げている。朽ちた表現とは別に排気管が錆びているのがわかる
機体には、薄く削ったり、一部を切り離して外板を加工した他、明らかに被弾して開口したであろう穴を開けている
▲機体には、薄く削ったり、一部を切り離して外板を加工した他、明らかに被弾して開口したであろう穴を開けている
不時着時に失った主翼左端は、パネルラインに沿って切り離し、内側から外装が薄く見えるように削りつつ、フチもランダムに削ってちぎれた表現としている
▲不時着時に失った主翼左端は、パネルラインに沿って切り離し、内側から外装が薄く見えるように削りつつ、フチもランダムに削ってちぎれた表現としている
零式艦上戦闘機五二型 全体横
ディオラマベースがきれいに収まるよう、日本の山桜から製作した額縁を作り、作品のネームプレートを添えている
▲ディオラマベースがきれいに収まるよう、日本の山桜から製作した額縁を作り、作品のネームプレートを添えている
零式艦上戦闘機五二型
前から
▲地面のベースには油絵の具などで使用するキャンバス生地をMDFに貼ったものを使用している。ここに石粉粘土で地面のテクスチャーを作っている
製作過程1
機体の内部には、ハセガワから発売されているスケルトンキットの胴体部分のエッチングパーツを組み立てて仕込んでいる
▲機体の内部には、ハセガワから発売されているスケルトンキットの胴体部分のエッチングパーツを組み立てて仕込んでいる
製作過程2

▲胴体は一部を切り取ったあと、フチをリューターで薄く削ると同時に外板の剥がれもランダムになるように削り取っている
▲胴体は一部を切り取ったあと、フチをリューターで薄く削ると同時に外板の剥がれもランダムになるように削り取っている
製作過程3
昇降舵、方向舵ともにキットのパーツから方眼紙に形状を写し取り、真鍮線と真鍮板を使って内部構造を製作している
▲昇降舵、方向舵ともにキットのパーツから方眼紙に形状を写し取り、真鍮線と真鍮板を使って内部構造を製作している
製作過程4
キットのパーツを薄く削りダメージ表現を施した翼端にエッチングパーツで作った内部構造を収めて主翼端がちぎれた表現としている
▲キットのパーツを薄く削りダメージ表現を施した翼端にエッチングパーツで作った内部構造を収めて主翼端がちぎれた表現としている
作品を印象付ける彼岸花は3Dプリントで出力したものをひとつひとつ塗り分け、ベースに植えていく。合計300本ほど使用した
▲作品を印象付ける彼岸花は3Dプリントで出力したものをひとつひとつ塗り分け、ベースに植えていく。合計300本ほど使用した
白く塗られたススキの葉も3Dプリントしたものにトレーシングペーパーで葉を加えたものを準備し、こちらもていねいにベースに植えていった
▲白く塗られたススキの葉も3Dプリントしたものにトレーシングペーパーで葉を加えたものを準備し、こちらもていねいにベースに植えていった

はじめに
 零式艦上戦闘機五二型は、第二次世界大戦期に日本海軍が運用した主力艦上戦闘機「零式艦上戦闘機」の後期改良型です。1943年(昭和18年)に登場し、それまでの零戦二一型、三二型、二二型の欠点を改良して、速度と急降下性能を向上させた機体でした。太平洋戦争後半、連合軍の最新鋭機(F6F ヘルキャットやF4U コルセアなど)に対抗するために開発された型です。
 零戦五二型は、マリアナ沖海戦やレイテ沖海戦など、戦争後期の主要戦場で使用されました。しかしこの時期になると、敵機の性能は大きく向上しており、零戦の軽量構造・非防弾設計は限界を迎えていました。熟練搭乗員の減少も重なり、戦果は限定的なものとなりました。それでも整備性が高く、航続距離や旋回性能に優れていたため、終戦まで主力機として使われ続けたのです。
 五二型は零戦本来の運動性を保ちながら速度性能を高めた「成熟した零戦」と言えます。ただし、戦争の後期では性能的に限界に達しており、時代の変化に取り残された側面もありました。それでも、設計思想の完成度と運用実績から、日本航空技術史上に残る名機のひとつとされています。
キットについて
 今回製作したファインモールドのキットは、かつてないほどの最高のキットだと思います。その主な特徴といえば、1.風防はクリアー部分と窓枠とが別パーツとなっている。2.機体の後部胴体部分はスライド金型を使用した一体成型で実機同様に前後で分割されている。3.3次元レーザー彫刻機による詳細な彫刻によるエンジンやコクピットの再現。4.機体全面にリベットが彫刻されていて精密感を高めている、といったところでしょうか。
作品製作に至る背景
 私はここ10年ほど戦車やディオラマの製作に取り組んできましたが、航空機模型を手掛けるのはおよそ20年ぶりで、しかも今回の作品は航空機としてはまだ2機目にあたります。ではなぜ突然、零式艦上戦闘機を用いた架空のストーリーを持つ作品を製作しようと思ったのか。そのきっかけは、2024年にオランダで開催されたスケールモデルチャレンジに初めて参加したことでした。会場では数多くの零戦作品を目にし、その完成度の高さに大きな驚きと感動を覚えると同時に、作者たちの零戦に対する深いリスペクトを強く感じました。なかでも特に印象に残ったのが、Fancheng pin氏による「Back to the 1941 Pearl Harbor」という作品です。これを目にした瞬間、思わず鳥肌が立つほどの感動を覚えました。
 オランダからの帰りの飛行機の中で、来年もスケールモデルチャレンジに日本人として零戦を製作し、参加しよう──そう決意したのです。そうして製作したのがこの作品で、2025年に参加したスケールモデルチャレンジは、Category/ORD 、Description/Storytelling:Diorama&Vignetttes 、Level/Mastersといった多数の各クラブ賞と金賞、最高位のBest of Showを受賞することができました。
情景のコンセプト
 スケールモデルチャレンジのDIORAMA作品部門ではストーリー性を重視されるため、作品を一目見ただけでたくさんの人に伝わりやすいメッセージ性のある作品に仕上げる必要があり、高評価を得るには大変難しい課題です。しかし零戦を使用した作品にすることは決めていましたので、あとはどういった見せ方をするのかを考えました。
 まず、機体の外観は戦闘の末に不時着して長年発見されることなく放置され経年による劣化で徐々に朽ちており、そこで物悲しさを演出しました。誰にも発見されていないにもかかわらずキャノピーを解放し、操縦席には人の姿をなくすことで、パイロットの生存を思わせるようにしました。
 作品の大きさは日本の国旗と同じ縦2:横3の比率にして日の丸の直径は縦幅の3/5として彼岸花を使い赤色の表現をしました。反対に周囲の草はすべて白に統一して塗り、一部の植物にススキを使用して、彼岸花とススキの植物で日本の秋を感じさせる表現としました。彼岸花はきれいな赤色ですが球根には毒があり別名「死に花」「地獄花」と呼ばれ、日本ではあの世を連想させ不吉な花と思われがちですが、昔は土葬だったため、害獣から遺体を守るためであったり稲作の害獣駆除のためであったりもしました。
 彼岸花の花言葉は「情熱」「独立」「悲しい思い出」「諦め」「再会」と複数ありますが、私自身が作品に込めたのは「再会」として「また会う日を楽しみにしています」という思いです。

彼岸の弔い

製作・文/下谷岳久

零式艦上戦闘機五二型
●発売元/ファインモールド●4950円、発売中●1/48、約21.4cm●プラキット


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下谷岳久(シモタニタケヒサ)

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