「IMSが築き上げてきたこれまでと、その先の未来へ」ボークスIMS企画開発スタッフインタビュー【『ファイブスター物語』電気騎士伝説、再び】
2023.09.10IMSが築き上げてきたこれまでと、その先の未来へ ボークスIMS企画開発スタッフインタビュー 月刊ホビージャパン2023年10月号(8月24日発売)
IMSが築き上げてきたこれまでと、その先の未来へ
ボークスIMS企画開発スタッフインタビュー
造形村F.S.Sプロジェクトチーム/ホビー企画室開発責任者 堀越由貴
第1弾「1/100 the BANG」発売から限定版も含め、すでに25作を数える一大シリーズとなったボークスIMS(InjectionAssembly Mortar Headd Series)。ここではこれまで開発に携わってきた、F.S.S.企画開発責任者 塚越由貴氏に、IMSの立ち上げやこれまでのこと、そしてこれからのIMSの未来について語っていただいた。(聞き手/ホビージャパン編集部)
■IMSシリーズこれまでの歩み
―まず、IMSシリーズを立ち上げた経緯について教えてください。
ボークス/造形村のインジェクション企画はすべて 重田英行会長(当時社長)直下のプロジェクトで、 2000年代後半に「本金型を使用した新しい商品形態を企画せよ」という鶴の一声で始動。重田会長の長年の夢でもあったスケールモデル開発であるSWS (※1)をはじめ、オリジナルコンテンツのブロッカーズ や、主力商品のF.S.S.企画にも当然白羽の矢が立ちました。「無限の創造力でいまだかつて見たこともない『ものづくり』に挑戦」「魔法の素材プラスチックで本物を再現」を全企画共通テーマに掲げ、社内外 の有識者や有志による専門チームを編成。F.S.S. 企画では、原型制作を造形村 F.S.S.プロジェクト チームリーダーの大石凡を中心に平井興治ら造形村造形師が担当。商品企画をホビー企画室、金型研究やインジェクション用設計をSWS開発チームが サポートしました。
※1)ボークス/造形村製飛行機模型シリーズ「SUPER WING SERIES」の略。
―限定アイテムを含め、20作品以上手掛けられてきましたが、IMSとして一貫した開発テーマなどがありましたら教えてください。
1/100 S.S.I.クバルカン ザ・バング (8800円)
『ファイブスター物語』に登場するMHをインジェクションプラキット化するIMS(※2)では、造形村造形師の研ぎ澄まされた感性が注ぎ込まれた原型だけが持つ魅力を金型に落とし込み、人気騎体を中心に1/100、1/144スケールで展開。当初はすべてが暗中模索だったため騎体ごとに目標や課題はさまざまでしたが、一貫していたのは「模型で本物のMHを再現」。つまり、メカデザインの最高峰でもあるMHを「もし実在したら」と深く考証し、デザインと機構を両立させ、ひとりでも多くのお客様が手に取りやすいプラキットでお届けするということ。そのために、世界最高の職人集団である造形村造形師の手によるアナログ技術と、最新のデジタルCADを駆使した金型設計技術を融合させ、本来金型では苦手とされるMH特有の有機的な3次元曲面の再現にも貪欲に挑戦し続けています。
※2)ボークス製MHインジェクションキットシリーズ「Injection Assembly Mortar Headd Series」の略。
―これまでのアイテムの中で印象に残っているものはありますか? また印象に残ったエピソードがあれば。
まず記念すべき第1弾「the BANG」では、造形村 トップエース平井のGK原型を金型用に再構築する、 インジェクション原型制作を担当しました。皆が金型初心者で「これ本当にプラモになるの?!」と半信半疑でウレタン樹脂の塊をくりぬき、自作関節を仕込むなど、まさにGGI(※3)のような手法で試作を繰り返したのを今でも鮮明に覚えています。その経験から本格的な金型開発専門チームの発足につながり、私もそこに志願しました。
次に金字塔とも言える第6弾 「L.E.D.ミラージュV3 インフェルノナパーム」。当時金型化することは不可能と思われていたこのデザインを完全再現することに傾注しすぎて、組み立てやすさやバリエーション展開など、シリーズ継続と採算を度外視した、良く言えば「こだわり」の、悪く言えば自己満足的な開発に陥りがちでした。重田会長いわく、 ボークスが目指すインジェクション企画とは、かつてのGKのように「技を磨いた達人だけが到達できる満足感」という、上級モデラー目線の独りよがりな開発になってはいけない。もちろん、そういう満足感を得られる「自身が成長できるハイエンドなキット」も時には必要ですが、ひとりでも多くのお客様に永野護デザインの素晴らしさを知っていただくためにも、玄人志向な仕様やラインナップではなく、長年F.S.S.造形に携わってきた老舗メーカーだからこそのやりようが他にあったのではと。
今でこそ大変ありがたいことに伝説級のキットとしてコアなお客様からは長らくご愛顧いただいておりますが、「F.S.S.立体物には憧れるけれどGKは敷居が高くて…でもプラモなら」という、誰もが手に取りやすいプラキットであるはずのIMSに、新たな期待を寄せてくださる模型初心者のお客様への配慮が圧倒的に足りなかったと、良い教訓になりました。反面、IMS史上最高難度を誇る本騎を金型に落とし込めたという達成感を味わえたのは、チーム一 丸となって挑んだ貴重な経験として、最新作となる1/144「L.E.D.ミラージュV3 軽装仕様」の開発にも活かされています。
そして最後は、それらの教訓から 再編された新生チームによる第10弾からの「K.O.G.」 シリーズです。企画開発担当者は「ホビーを楽しむ側から提供する側に」という基本理念に則って初心に返り、「自分たちが欲しいもの」ではなく「お客様が欲しいもの」を作ることに集中。シリーズ継続という点からも組み立てやすさはもちろん、過去の資産を活かしつつも設定に基づいたパーツ流用で理想的なバリエーション展開と価格設定も実現しました。また、 ABSOMEC(※4)「カイゼリン」という全く新しい商品形態を成し遂げた経験も活かされ、IMSとしても次のステージへと進化できました。これもひとえに、模型に造詣の深い永野先生の叱咤激励や熱烈なファンのお客様の応援はもちろん、模型を趣味として楽しむだけではなく「仕事」として真摯に向き合える今のチームだからこそ実現できたと確信しています。
※3)1990 年代のボークス製可動キットシリーズ「GREAT GARAGE INJECTION & MECHANICAL MOVING」の 略。
※4)「絶対機構=ABSOLUTE MECHANISM」を意味する造語で、主に半完成品モデルで展開するボークス製メカアイテムの最高峰ブランド。
■最新作2アイテムについて
―1/144 「L.E.D.ミラージュV3 軽装仕様」は待望 のキット化となります。1/100から進化した点、またこれまでのIMSシリーズから進化した点などがありましたら教えてください。
1/100 オージェ・アルスキュル (9680円)
1/100 オージェ・アルスキュル (9680円)
「オージェ」や「SR1」など最新の1/100の応用で、 少ないパーツ数で立体感を演出するパーツ構成によ り、1/144ながらも内部フレームまで再現。ボリュー ム満点で作りごたえもあるのに組み立てやすく、しか も価格は抑えた満足度の高いキットに仕上がりました。もちろん可動範囲も格段に広がっています。また、 待望の「ベイル」装備からお察しいただけるように、 1/100ではランナー構成の都合上「ベイル」だけを分けて騎体本体に同梱させることができませんでしたが、1/144では今後のバリエーションを見越した完全新規設計となりますので、今から楽しみにしていてくださいね。
―1/100 「L.E.D.ミラージュV3 =デルタ・ベルン 3007=」では、新規パーツのほかに、アップデートされた箇所もあります。アップデートパーツ開発の経緯について教えてください。
一番の改修ポイントは前頭部と股間部の外装 パーツを、正面・左右側面の3パーツ構成から、スライド金型を使用した一体成型にしたことです。MHは 金型的に苦手な角度や向きにもモールドが入るため、そのすべてを再現するには設計にも相当の工夫が必要になります。当時はまだその技術や知識がなく、コスト面からもスライド金型を多用できなかったこと からやむなくパーツ分けしたのですが、SWSやブロッカーズなど他企画との相互協力による全体のスキルアップで実現しました。その他、特に組みにくかった箇所の嵌合部分も調整しましたので、一度L.E.D.シリーズを組んでみたお客様もぜひ作り比べてみてくださいね。
■今後のIMSシリーズについて
―今後のラインナップについて、お話しできる範囲でお聞かせください。
今回の1/100、1/144「L.E.D.ミラージュ」が発売されたことで、ファンの皆様が想定する騎体はかなり網羅できるのでお察しください…と言いたいところですが、もう少しだけヒントを。GTMなど新規金型開発はかなりの時間を要するため、その合間にA.K.D. を中心に既存アイテムのバリエーションをかなり仕込んでいます。さらに、新規国家の参戦も? どんな騎体が飛び出すか今から楽しみにしていてくださいね。
―最後にIMSファンに向けて一言お願いします。
『ファイブスター物語』が大好きな自分たちが作るものは、きっと同じファンであるお客様が望むものに違いない、「自分が欲しいものが正解」だと思い込んでいた過去の私たち。「ものづくり」を志す者にとってそれは決して間違いではありませんが、「好き」というかたちは本当に十人十色で一筋縄ではいきません。一度ホビーをお届けする側に立ったのなら覚悟を決め、ホビーを享受する側(お客様)だった頃の自分が欲しいものを作るのではなく、常に原作者の意向に沿いながら、お客様目線で冷静に、お客様が本当に求めるものは一体何なのかをとことん突き詰めて企画開発しなければ未来はないと、シリーズを重ねるごとに痛感しました。ありがたいことにその挫折や成長を経験できたからこそ、全く新しいロボットデザインであるGTMの立体化に一番乗りで挑戦させていただき、ABSOMEC「カイゼリン」をやり遂げることができました。その貴重な経験は新たなGTMインジェクション企画やIMSの未来にもつながります。私たちは常にお客様から試されているのだと肝に銘じて商品開発に日々邁進いたしますので、これからも末永く応援お願いいたします!
(2023年7月収録)
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