ドイツ軍の名機「ケッテンクラート」が世界中から愛される理由とは?【いまさら聞けないすごいヤツ】
2023.03.21 ドイツ陸軍
ケッテンクラート
イラスト/大森記詩
「名前は知ってるけどどんなものなんだろう?」「今さら聞くのもはずかしいなぁ……」なんて思ってしまう有名な飛行機や戦車、車などのモチーフをサクッと読める解説とイラスト、オススメのプラモとともにご紹介する本連載。
今月は第二次世界大戦のドイツ軍が使用したとってもカッコよくてユニークな車両「ケッテンクラート」をご紹介します。すごいコンパクトでありながら日本の軽トラよりも100kgも重い荷物が積めるという力持ち! 今回はAFVの世界でも大人気なこの車両について学んでみましょう。
ケッテンクラート
全長/3m
全高/1.2m
全幅/1m
重量/1560kg
最高速度/70Km/h
積載量/450Kg
今でも世界中で愛されるドイツ軍の名機
解説/宮永忠将
ハーフトラックの最小バージョン
ドイツ軍用車両として有名なケッテンクラートは「クライネス(小型)ケッテン(装軌式)クラフトラート(オートバイ)」の略称だ。類似の車両が見当たらないのもあって、日本でもそのままケッテンクラートと呼ばれている。
開発したのがオートバイメーカーのNSU社であり、外見にその特徴を多く残しているので、オートバイ部隊の装備と思われがちだけど、実はこれ0.5トン級トラクターとして開発された車両である。つまりドイツ軍ではポピュラーな、ハーフトラックの最小バージョンという扱いなのだ。実際、積載量は450kgで、日本の軽トラより100kgも重い荷物が積める。しかも荷台後部には座席まで付いている。
降下猟兵部隊向けの装備として想定されていた
用途だけ見るなら小型貨物トラックを作れば良かったんじゃないの? という意見もあるだろう。しかし、もともとケッテンクラートは空挺部隊(ドイツ軍風には降下猟兵)向けの装備であった。敵占領地上空に輸送機で運ばれ、パラシュートやグライダーで展開する空挺部隊は、使える車両のサイズや重さが制限される。そこで空輸可能で牽引力抜群、不整地走破性能に優れたハーフトラックを開発したら、ケッテンクラートが完成したという話なのだ。空挺部隊はどの国でもエリート部隊で、特にドイツ軍では専用装備の開発が盛んなので、ケッテンもその一環というわけ。
あらゆる戦場にマッチして一気に大活躍!!
ところがケッテンはロシア戦線で大活躍する。舗装道路なんかほとんどなくて、春と秋には泥の海が広がり、冬には雪が積もる戦場で、キビキビ動いてくれるケッテンは、もうありとあらゆる輸送用途で大活躍したのである。気付いてみれば、戦争を通じて9,000台以上生産されたのも、あらゆる戦場にマッチした車両であったからだ。
オートバイ好きの読者は、乗り心地や運転性能が気になるだろうか。見た目で分かるゴツい車体を、バイク形状の前輪だけで操行するのは不可能だ。ケッテンは前輪を曲げると、その傾け量に応じて内側履帯のドライブシャフトが減速し、同時に反対側の回転速度が上がる仕様で、この両履帯の差動で旋回する。
速度性能は最大時速70kmとされているけど、燃費や騒音問題で50km/h付近が実用限界だった。また牽引性能が重視されていたので、低トルクで力を出すギア配置になっていた。見た目から分かるように、登攀性能は45度と素晴らしい反面、車幅が狭くて重心が高いので、傾斜地では横転の危険性が高い。だからクロスカントリー走行は慎重を要した。またシフトレバーは両脚の間にあり、クラッチやブレーキも重く、オートバイとはかなり操作性が違う。また当初はバイクパーツの流用が多かっただったけど、フロントフォークが壊れやすく、幾度も改良が続いた。泥濘がひどくて前輪が邪魔になると、タイヤを外して使っていた部隊もあった。
ケッテンは武器ではないので、戦後も生産が続けられ、農地や山林の重作業に重宝された。いまだこのカテゴリーではケッテンを超える車両がないので、世界中の愛好家が大切に乗り続けているし、予備パーツが今も作られている。ぜひ、模型で腕を磨きつつ、実車を乗り回す夢を抱くのも楽しそうだ。
手のひらサイズのケッテンクラートに
魅力的なアクセサリーが盛りだくさん!
タミヤの1/48 ケッテンクラートにはたくさんの荷物やゴリアテがセットされた「1/48 ケッテンクラート牽引セット(インファントリーカート・ゴリアテ付き)」があります。ケッテンクラートの牽引力をひと箱で楽しめるとっても面白いプラモなので、ぜひこの記事を読んだら作ってください!!
1/48 ケッテンクラート牽引セット(インファントリーカート・ゴリアテ付き)
●発売元/タミヤ●1100円、発売中●1/48、約6cm●プラキット