筆とともにある「ウェザリング」。汚しの境地を見にいくぜ!!
模型に汚しを加える「ウェザリング」。この工程を施す時「筆塗り」はきってもきれません! 缶スプレーやエアブラシで塗った模型、筆塗りで全塗装した模型でも汚す時には筆が降臨します。そこで今回の筆塗りトライブはこのウェザリングに焦点を絞ってお届けします。「ウェザリング」というと、バシャバシャに塗料をかけたりしているイメージを持っている方もいるかもしれませんが、この記事を読めば少ない手数と的確なマテリアルでかっこよく汚せることがわかります。
そしてそんな誰が見てもかっこいいウェザリングができる人はこの人しかいない!!! 編集部は新宿から特急に乗り長野・茅野へと向かうのでした。「筆塗り“Travel”」開幕です!!!
(構成・文/フミテシ)
今回のパイセン
奥川泰弘/2017年に掲載していたウォールアート連載、車模型展示会「ライフ・オン・ホイールズ」での作品レポート以来の久しぶりの登場。どんな模型でも多くの人を惹きつける情景作品にしてしまう最強のパイセンです。著書に「ランドスケープ・クリエイション1〜3」(大日本絵画刊)があります。
筆塗りTravel!!
奥川さんのウェザリングを求めて「いざ!茅野へ」
実際に奥川さんの筆塗りウェザリングの撮影へ長野県・茅野へ行ってきました。奥川さんの作品が生まれる場所は美しく、ゆったりとした時間が流れる素敵な場所でした。
ご自宅から八ヶ岳が見える!!
素敵なカタログをデザイン
文教堂JOY B’s Hobby 松本店で
奥川さんの作品が見れます!!
これぞ模型のセレクトショップ
模型製作部屋に潜入!
奥川さんの目!
模型を作る前のフィールドワーク
クレーンがかっこいいぜ!
クレーンをチェック!
荷台の柵
側面の傷とサビ
これぞトラックのダメージ!!
荷台の内側も見る
奥川/フミテシさんから依頼がきて、まず「かっこいい!のが一番」を優先してキット選び。そこでトラックではなくクレーンが付いたレッカーにしました。ロゴや文字を入れられるスペースが広くあるというのも、自分的には高得点!!
自由。好きに作る……だからといってめちゃくちゃは好きではないし、ウソもあまり好きじゃない。これってありそうじゃない? どっかにいそうな気がする。こんな風景見たことありそう。現実をそのまま再現するのではなく、現実にあってもおかしくないような風景やモノを自由に作るのが好きです。だから模型を作る時は身近にあるものを見に行ったりします。今回、トラックの傷やサビって実際どんなふうにつくのかを見に行ってみました。こうするだけで実際に見たことにさらに模型的な楽しみを盛り込めると思います。楽しくってしょうがないのよ。本当に。
筆のタッチで汚れとサビを描いていきます!!
奥川さんの汚しのポイントは「全体に塗料をビシャッとかけない」こと。ウォッシングと言われるようなことはせず、スミ入れ→ピンポイントに置いた汚し塗料をぼかす→小さな傷を描く、この3点の繰り返しなのです。使う筆もタミヤの3本セットに入っている極細。早速見ていきましょう!!
ウェザリング開始
とっても便利なグランドブラウン!
まずはスミ入れ!
ぼかすように拭き取ります
点々と置いた塗料をぼかします
汚れ完了!!
ピグメント使ったサビ
タミヤ アクリル溶剤がポイントです
サビそうなところにちょんちょん塗っていきます
乾いた綿棒でぼかしてみよう
完成!!
綿棒Tribe!? 筆だけじゃできないウェザリングがある!!
筆塗りのウェザリングをサポートしているのが綿棒。さらに綿棒が大活躍するウェザリングをご紹介。超簡単なのに本当にかっこ良くなっちゃいます。これがやりたくて車のプラモ作りたくなっちゃいます。
ボンネットをサビさせます
タミヤの細い綿棒を使用!
叩くだけ!!!
いい感じにサビてきました
アクリル溶剤で拭き取る
筆で暗いサビを置いてみる
さまざまな色のサビを仕上げに置いていきます
ボンネットが見事にサビました!
ウェザリングを考慮した筆塗り!
トラックの一部に明るい青を筆塗りします。全体をウェザリングすること前提で塗っていくので、筆ムラや下の白が透けていても全然OK! むしろそれが味になります。ウェザリングと筆塗りは本当に相性が良いのです。
ファレホを使用します
筆ムラなんて気にしない!
このくらいベロベロでもいいのよ
好きな感じを目指そう
ウェザリングカラーで汚そう
キワに綿棒が入らない
綿棒の先を潰しました!
ディテールのキワは汚れの見せ場
Lunch Time!
長野県に行ったらぜひ行ってほしいチェーン店が「みんなのテンホウ」。ラーメンチェーンですが、色のテーマパークともいえるメニューの多さでとっても楽しいです。奥川さんとの撮影のランチに行きました。みなさんもぜひ!
まだまだ楽しめるサビ表現! 傷表現!!
ここからは爪楊枝が本格的に登場。筆塗り、綿棒のスタンプに合わせて爪楊枝を使うとさらにかっこよく汚せます。
天井にサビをスタンプ
サビを流してもOK!
爪楊枝にアクリル溶剤をつけます
引っ掻きます!!
爪楊枝で塗装します!!
引っ掻いてみましょう!
奥川泰弘デザインデカールシリーズ
ホビージャパンより企画進行中
──奥川さんと模型の出会いを教えてください。
奥川(以下奥):幼少の頃、親父が模型を作っているのを隣で見ているのが大好きでした。それはクルマの模型。押入れの1番上の棚の引き戸を開けると、今のアメリカンカープラモと同じ、高さのある四角い箱がたくさん積まれていたんです。たぶん今ではお宝モノばかりだったとおもいます。そのグラフィックがかっこよくて。親父は色も塗らずに組み立てていたんです。色を塗るとか子供には関係ないですよ。バラバラの部品がどんどんクルマのカタチになっていくのをワクワクしながら見ていました。そこから縮小された世界への「好き」が始まります。ウルトラシリーズに出てくるビルや街のセット、当時の子供なら必ず作ったタミヤのミリタリーミニチュアシリーズ。カンプグルッペジーベンのディオラマ。ここからもうどっぷりと小さな世界の虜になりました。ただそれがずっと続くのかというとそうではないです。高校生になると興味の対象はファッションになり、絵を描くことが好きなこともありイラストになり、インテリアになり、音楽になり、クルマになりという当たり前の青少年となります。そしてその当たり前が終わるのが1990年だったのです。また模型と再会しました。そしてその再会から実は筆塗りにはまったんです。
──それ以前は筆塗りはほとんどしていなかったんですね?
奥:はい。離れる前はエアブラシを使ってガンガン塗っていたのですが、離れてからは下地は缶スプレーを塗ってその上からファレホのような水性塗料で筆塗りしていました。パレットの上にいろいろな色が並ぶと絵を描いている気分になって楽しいんです。あと筆塗りはエアブラシに比べて清掃などの点も含めて楽というのが一番かもしれないです。塗る時の気持ちも楽です。自分は基本的に汚すというアレンジを加えるので、ムラも気にせずに塗れるのが良くて、そのムラが意図的ではなく偶然にできたところをうまくサビ表現などに活用できるのも楽しいです。わざと下地に水彩のように薄く塗って弾かせて表情を楽しむ場合もあります。とにかく筆塗りは楽しく、いいことづくめなんです。
──奥川さんが模型作りで大切にしていることってありますか?
奥:青春期に見た雑誌の写真やイラストやTVドラマのシーンなどから、自分だけのシーンを妄想し、絵を描いたり写真を撮ったりしていました。こんな風景の中にこのクルマがあったら美しいな。逆にこのクルマにはこんな風景の中にいてほしい。自由な設定だから世界がどんどん広がる。その妄想を広げるためにいろいろなものを見るということです。見て知った知識やイメージが、より模型を楽しく自由な表現へと僕を導いてくれる気がします。
エマー 1/24スケール プラスチックキット
ベッドフォード レッカー車
製作・文/奥川泰弘
1/24 ベッドフォード レッカー車
●発売元/エマー、販売元/バウマン●7776円、発売中●1/24、約20cm●プラキット