筆とともにある「ウェザリング」。汚しの境地を見にいくぜ!!
模型に汚しを加える「ウェザリング」。この工程を施す時「筆塗り」はきってもきれません! 缶スプレーやエアブラシで塗った模型、筆塗りで全塗装した模型でも汚す時には筆が降臨します。そこで今回の筆塗りトライブはこのウェザリングに焦点を絞ってお届けします。「ウェザリング」というと、バシャバシャに塗料をかけたりしているイメージを持っている方もいるかもしれませんが、この記事を読めば少ない手数と的確なマテリアルでかっこよく汚せることがわかります。
そしてそんな誰が見てもかっこいいウェザリングができる人はこの人しかいない!!! 編集部は新宿から特急に乗り長野・茅野へと向かうのでした。「筆塗り“Travel”」開幕です!!!
(構成・文/フミテシ)
今回のパイセン
奥川泰弘/2017年に掲載していたウォールアート連載、車模型展示会「ライフ・オン・ホイールズ」での作品レポート以来の久しぶりの登場。どんな模型でも多くの人を惹きつける情景作品にしてしまう最強のパイセンです。著書に「ランドスケープ・クリエイション1〜3」(大日本絵画刊)があります。
筆塗りTravel!!
奥川さんのウェザリングを求めて「いざ!茅野へ」
実際に奥川さんの筆塗りウェザリングの撮影へ長野県・茅野へ行ってきました。奥川さんの作品が生まれる場所は美しく、ゆったりとした時間が流れる素敵な場所でした。
▲八ヶ岳、白樺湖、蓼科高原など茅野市は観光資源が豊富。多数の縄文遺跡や黒曜石の産地としても有名
ご自宅から八ヶ岳が見える!!
▲奥川さんは5年前に茅野に移住。「この景色が毎日見られるだけで人生が幸せ」の言葉に偽り無し
▲奥川さんは物置やおしゃれな小屋やガレージを販売する「株式会社グリーンベル」でグラフィックや小屋のデザインを手がけています。職場は僕たちが奥川さんの情景世界の中で1/1スケールのフィギュアになった気分になれるような場所です グリーンベルHP
素敵なカタログをデザイン
▲奥川さんのデザインセンスを楽しむことができるグリーンベルのカタログ。模型に添えるととってもかっこいいのでもらってきちゃいました
文教堂JOY B’s Hobby 松本店で
奥川さんの作品が見れます!!
▲長野県・松本市にある「文教堂JOY B’s Hobby 松本店」には、月刊ホビージャパンでも掲載したウォールアートや情景作品を多数見ることができます。松本駅からも徒歩5分くらいなのでぜひ!!
これぞ模型のセレクトショップ
▲模型、工具はどれも素晴らしいセレクトがされているので、本気で1日いても飽きないです
模型製作部屋に潜入!
▲こちらが奥川さんの模型製作部屋。好きなものに囲まれた夢のような空間は、僕らのように訪れた人を笑顔にしてくれます。そういう部屋で作られる模型だからこそ多くの人を惹きつけるのだと思います
▲文教堂JOY B’s Hobbyから徒歩2分くらいにある、奥川さんもおすすめの洋食店。ハンバーグは絶品!! 松本に行ったらこちらもぜひ!!
奥川さんの目!
模型を作る前のフィールドワーク
クレーンがかっこいいぜ!
▲イギリスの模型メーカー「エマー」が発売する「1/24 ベッドフォード レッカー車」
クレーンをチェック!
▲塗装ハゲやサビ、汚れの流れをチェック!! これを模型に落とし込むのが本当に楽しい!
荷台の柵
▲細かく塗装が剥がれているところ、大きくゴリっと塗料が剥がれているところなどは模型のウェザリングで強弱をつける参考にぴったり
側面の傷とサビ
▲トラックの側面もこんなに傷が付きます。自分の車だったらと思うとゾッとしますが、最高の資料です
これぞトラックのダメージ!!
▲ここはまさにトラックと言えるダメージの集中箇所。どんなマテリアルを使おうか脳がフル回転します
荷台の内側も見る
▲意外と側面など外側に気を取られがちですが、トラックはさまざまなものを荷台に載せますので、内側にも激しくダメージが入ります
奥川/フミテシさんから依頼がきて、まず「かっこいい!のが一番」を優先してキット選び。そこでトラックではなくクレーンが付いたレッカーにしました。ロゴや文字を入れられるスペースが広くあるというのも、自分的には高得点!!
自由。好きに作る……だからといってめちゃくちゃは好きではないし、ウソもあまり好きじゃない。これってありそうじゃない? どっかにいそうな気がする。こんな風景見たことありそう。現実をそのまま再現するのではなく、現実にあってもおかしくないような風景やモノを自由に作るのが好きです。だから模型を作る時は身近にあるものを見に行ったりします。今回、トラックの傷やサビって実際どんなふうにつくのかを見に行ってみました。こうするだけで実際に見たことにさらに模型的な楽しみを盛り込めると思います。楽しくってしょうがないのよ。本当に。
▲奥川さんがデザインしたグリーンベルのカタログとの相性もぴったり。小屋を作りに行きますか!
▲実際に見たクレーンを参考に。スポンジを使用したチッピングや、筆、綿棒、爪楊枝を駆使したサビ表現が随所に光ります
▲荷台の内側や床面にもしっかりとウェザリング。木の部分はデッキタンのような色で塗った後に、Mr.ウェザリングカラーのグランドブラウンやステインブラウンをうっすら塗り重ねて、木の質感と汚れを表現しています
▲チラッと覗くシートは、半ツヤにして革らしく。全体がツヤ消しマットな作品の中でもアクセントになっています
筆のタッチで汚れとサビを描いていきます!!
奥川さんの汚しのポイントは「全体に塗料をビシャッとかけない」こと。ウォッシングと言われるようなことはせず、スミ入れ→ピンポイントに置いた汚し塗料をぼかす→小さな傷を描く、この3点の繰り返しなのです。使う筆もタミヤの3本セットに入っている極細。早速見ていきましょう!!
ウェザリング開始
▲ウェザリングは各色を塗り分けて、デカール貼りまで終わらせてから行います。まずは雨だれや汚れなどを入れていきます
とっても便利なグランドブラウン!
▲雨だれなどの茶色っぽい汚れには「Mr.ウェザリングカラー グランドブラウン」がとっても便利。専用のウェザリングカラーうすめ液で適宜薄めながら使用します
まずはスミ入れ!
▲グランドブラウンをキットのモールドに流します。スミ入れにもなりますが、これを下方向に伸ばすことで雨だれにもなります
ぼかすように拭き取ります
▲ウェザリングカラー専用うすめ液を染み込ませた綿棒で、ぼかすように拭き取ります。キャラクターモデルのようにきれいに拭き取ってしまうと汚れに見えません。綿棒を下方向に動かせば、雨だれのような表現ができます
点々と置いた塗料をぼかします
▲ウェザリングカラーのグランドブラウンを各所に点々と置きます。これを綿棒でぼかすようにして表面を汚します。こうすることで、汚れている部分ときれいな部分のメリハリが出て表情が豊かになります
汚れ完了!!
▲全体にビシャッとグランドブラウンを塗るのではなく、スミ入れした周辺をぼかす。ちょんちょんと置いた塗料をぼかすようにして表面を汚す。この2点だけで充分雰囲気ある汚しになります
ピグメント使ったサビ
▲ウェザリングカラーだけでなく、ピグメントを使うことで粉っぽさと立体的なサビを表現できます。1色ではなく3色くらい準備しましょう。アクリル溶剤で定着させます
タミヤ アクリル溶剤がポイントです
▲筆先にほんの少しタミヤのアクリル溶剤を含ませます。その筆でピグメントを取り、模型に塗っていきます。これだけでしっかりとピグメントが定着します
サビそうなところにちょんちょん塗っていきます
▲細い線や点を描くように、サビを表現していきます。失敗してもアクリル溶剤を含ませた綿棒で拭けば消せるので、満足いくまでトライしましょう
乾いた綿棒でぼかしてみよう
▲サビを描いた部分を乾いた綿棒で擦ると、いい感じにボケ味が出ます。これがサビの質感に変化を与えます。ぼかしてみたいところだけ擦ってみてください
完成!!
▲サビの程度によって色を変えて、同じことを繰り返します。白がきれいなところ、雨だれ、さまざまな表情のサビが混在したかっこいいドアが完成しました
綿棒Tribe!? 筆だけじゃできないウェザリングがある!!
筆塗りのウェザリングをサポートしているのが綿棒。さらに綿棒が大活躍するウェザリングをご紹介。超簡単なのに本当にかっこ良くなっちゃいます。これがやりたくて車のプラモ作りたくなっちゃいます。
ボンネットをサビさせます
▲トラックのボンネットは塗装も剥げてサビまくっている雰囲気にします。まずはマホガニーを塗装
タミヤの細い綿棒を使用!
▲タミヤのクラフト綿棒(丸・XSサイズ)の質は抜群! これにほんの少しタミヤのアクリル溶剤を染み込ませて、ピグメントを綿棒の先に含ませます
叩くだけ!!!
▲綿棒の先で模型をポンポンとスタンプするだけ!! これだけでいいのです
いい感じにサビてきました
▲ボンネットにサビが浮き上がってきました。様子を見ながら全体にスタンプしていきましょう
アクリル溶剤で拭き取る
▲スタンプしたら、アクリル溶剤を染み込ませた綿棒で、ところどころ拭き取ってサビの量を調整します。行ったり来たりできるので調整も楽で楽しいです
筆で暗いサビを置いてみる
▲暗めのサビをポイントポイントで置くことで、サビの中に時の流れを追加できます。明るく塗ったサビの上に暗めのサビを置くと汚れに深さも出て、より立体感ある汚しになります
さまざまな色のサビを仕上げに置いていきます
▲綿棒で大まかに、筆で細かな色をちょんちょんと置いていくことでどんどん表情が豊かになります
ボンネットが見事にサビました!
▲左と右を比べてみてください。見事にサビています。綿棒でポンポンする1段階目でも充分かっこいいので、まずは気軽にスタンプしてみてください。楽しくて病みつきになりますよ!
ウェザリングを考慮した筆塗り!
トラックの一部に明るい青を筆塗りします。全体をウェザリングすること前提で塗っていくので、筆ムラや下の白が透けていても全然OK! むしろそれが味になります。ウェザリングと筆塗りは本当に相性が良いのです。
ファレホを使用します
▲ラッカー塗料で塗った上に筆塗りする時「水性塗料」は下地を溶かさないのでとっても便利。ファレホは発色、伸びともにすごく良いですし、水だけあれば希釈も筆洗いもできるので最高です
筆ムラなんて気にしない!
▲まずは全体をさっと塗ることに集中。青くなればいいです。はみ出しだけには気をつけましょう。ファレホならはみ出しても乾く前なら水、乾いたらアルカリ電解水を含ませた綿棒で拭けば落ちます
このくらいベロベロでもいいのよ
▲汚したい雰囲気に合わせましょう。塗料が相当傷んでいる感じにしたいなら、このくらいベロベロでも良いです
好きな感じを目指そう
▲下地の透け具合やムラ感はあなたの好みを全然出して良いところ。好きな加減まで塗ってみましょう
ウェザリングカラーで汚そう
▲乾いたらドアと同じ塗り方で汚していきます。グランドブラウンの他にステインブラウンも使用。ステインブラウンはピグメントとは違い、さらっとしたサビをちょんちょんと塗るだけで簡単に表現できます。オススメです
キワに綿棒が入らない
▲ディテールの段差のキワをもう少し攻めたい……こういう時は……
綿棒の先を潰しました!
▲超簡単ですがめっちゃ効果的。これでキワに入ったウェザリングカラーをぼかしたり伸ばしたりして、しっかりと表情付けができます。かなり効きますよ
ディテールのキワは汚れの見せ場
▲こういった箇所からサビや汚れが垂れているのってかっこいいですよね。細かい部分ですが、こういうところが完成した時に全体の雰囲気を底上げしてくれます
▲ここまで表情が変わります! 筆塗りした青い部分がアクセントカラーになって最高にかっこいいです
▲青の筆ムラや下地の透けているところが完全に経年劣化のような雰囲気に見えます。周囲の汚れと筆で塗った雰囲気が混ざり合うのもこの塗装の楽しいところです
Lunch Time!
長野県に行ったらぜひ行ってほしいチェーン店が「みんなのテンホウ」。ラーメンチェーンですが、色のテーマパークともいえるメニューの多さでとっても楽しいです。奥川さんとの撮影のランチに行きました。みなさんもぜひ!
▲外観がグルーヴ満点なのよ。もう美味しい
まだまだ楽しめるサビ表現! 傷表現!!
ここからは爪楊枝が本格的に登場。筆塗り、綿棒のスタンプに合わせて爪楊枝を使うとさらにかっこよく汚せます。
天井にサビをスタンプ
▲ボンネットと同じようにピグメントを含ませた綿棒で、サビをスタンプしましょう
サビを流してもOK!
▲天井からサビ汚れが垂れていくように動きを与えても良いです。アクリル溶剤を染み込ませた綿棒で、サビを伸ばします
爪楊枝にアクリル溶剤をつけます
▲天井のピグメントが乾いたら、爪楊枝の登場です。爪楊枝にアクリル溶剤をつけます
引っ掻きます!!
▲固まっているピグメントを爪楊枝の先でガリガリと削るように引っ掻きます。これが表面に良いテクスチャーを与えてくれます
爪楊枝で塗装します!!
▲爪楊枝は引っ掻き傷のスペシャリスト。車だけでなく戦車やロボットに使えますよ。アクリル溶剤をつけた爪楊枝に暗めのサビ色のピグメントを取ります
引っ掻いてみましょう!
▲さっと引っ掻くだけで、筆などでは描くのがちょっと難しいシャープでスピード感ある線がひけました。かっこいい引っ掻き傷が超お手軽にできます
▲筆塗りから始まり、綿棒や爪楊枝まで仲間にして模型がかっこよく汚れていく。その様はまさにトライブ。筆を筆頭に仲間たちが集まります。そして筆で塗った場所にウェザリングを施すと、筆のムラ感とマリアージュして一気にかっこいい表情に変化します。この変化が楽しくて、エアブラシだけではなくある一定の場所を筆塗りして色分けするのです。あなたの模型にも筆塗りする箇所を追加して、もう一味違った表情を加えてみてください
奥川泰弘デザインデカールシリーズ
ホビージャパンより企画進行中
▲今回の作例で使用しているデカールは奥川さんが自作したもの。このようなデカールをホビージャパンからシリーズ化することが決定!! 発売や商品の詳細は今後、月刊ホビージャパンやホビージャパン編集部のツイッター、HJwebでお届けするのでお楽しみ。デカールを使用した車模型作例企画も始動するのでお楽しみに!!
──奥川さんと模型の出会いを教えてください。
奥川(以下奥):幼少の頃、親父が模型を作っているのを隣で見ているのが大好きでした。それはクルマの模型。押入れの1番上の棚の引き戸を開けると、今のアメリカンカープラモと同じ、高さのある四角い箱がたくさん積まれていたんです。たぶん今ではお宝モノばかりだったとおもいます。そのグラフィックがかっこよくて。親父は色も塗らずに組み立てていたんです。色を塗るとか子供には関係ないですよ。バラバラの部品がどんどんクルマのカタチになっていくのをワクワクしながら見ていました。そこから縮小された世界への「好き」が始まります。ウルトラシリーズに出てくるビルや街のセット、当時の子供なら必ず作ったタミヤのミリタリーミニチュアシリーズ。カンプグルッペジーベンのディオラマ。ここからもうどっぷりと小さな世界の虜になりました。ただそれがずっと続くのかというとそうではないです。高校生になると興味の対象はファッションになり、絵を描くことが好きなこともありイラストになり、インテリアになり、音楽になり、クルマになりという当たり前の青少年となります。そしてその当たり前が終わるのが1990年だったのです。また模型と再会しました。そしてその再会から実は筆塗りにはまったんです。
──それ以前は筆塗りはほとんどしていなかったんですね?
奥:はい。離れる前はエアブラシを使ってガンガン塗っていたのですが、離れてからは下地は缶スプレーを塗ってその上からファレホのような水性塗料で筆塗りしていました。パレットの上にいろいろな色が並ぶと絵を描いている気分になって楽しいんです。あと筆塗りはエアブラシに比べて清掃などの点も含めて楽というのが一番かもしれないです。塗る時の気持ちも楽です。自分は基本的に汚すというアレンジを加えるので、ムラも気にせずに塗れるのが良くて、そのムラが意図的ではなく偶然にできたところをうまくサビ表現などに活用できるのも楽しいです。わざと下地に水彩のように薄く塗って弾かせて表情を楽しむ場合もあります。とにかく筆塗りは楽しく、いいことづくめなんです。
──奥川さんが模型作りで大切にしていることってありますか?
奥:青春期に見た雑誌の写真やイラストやTVドラマのシーンなどから、自分だけのシーンを妄想し、絵を描いたり写真を撮ったりしていました。こんな風景の中にこのクルマがあったら美しいな。逆にこのクルマにはこんな風景の中にいてほしい。自由な設定だから世界がどんどん広がる。その妄想を広げるためにいろいろなものを見るということです。見て知った知識やイメージが、より模型を楽しく自由な表現へと僕を導いてくれる気がします。
▲片岡義男さんの本が大好き。差し込まれる風景写真が模型製作のイメージの参考になっています
▲デカールは大好きで自作のものから、キットで余ったもののほとんどを保管しています。デカールは手軽に模型の雰囲気を上げてくれえる魔法のアイテムです
▲大好きな雑誌のスクラップ。写真を切り取って模型にするならこんな感じかな〜と妄想メモを書いています
エマー 1/24スケール プラスチックキット
ベッドフォード レッカー車
製作・文/奥川泰弘
1/24 ベッドフォード レッカー車
●発売元/エマー、販売元/バウマン●7776円、発売中●1/24、約20cm●プラキット