HOME記事ガンダム【粋塗装特集】「佐助デルタガンダム」を漆と蒔絵で工芸品のように仕上げる  ガンプラ×日本伝統工芸

【粋塗装特集】「佐助デルタガンダム」を漆と蒔絵で工芸品のように仕上げる  
ガンプラ×日本伝統工芸

2022.02.07

佐助デルタガンダム【BANDAI SPIRITS】 月刊ホビージャパン2022年3月号(1月25日発売)

佐助デルタガンダム トップ画

 SDガンダム作品には戦国時代の武将をモチーフとしたものが多く存在し、ガンプラにおいてそれらを製作する際に甲冑の質感の再現に悩まされることも多いだろう。本記事では実物さながら漆で塗装するのはどうだろうという提案&検証をお届けしよう。
 とはいえ、漆を扱えるモデラーもなかなか見つからない。そんなとき、以前月刊ホビージャパンの「読者のページ」への投稿で編集部の目に留まった漆×遊び×挑戦に白羽の矢が立った。氏は漆芸家・蒔絵師を本職としており、プラモデルに伝統工芸を応用した作品をSNSなどでも発表している。今回製作したのは佐助デルタガンダム。漆塗りと蒔絵加飾はもちろん、貝を活用した螺鈿技法や金箔貼りといった工芸法も取り入れており、まるで工芸品のような優美さを持つ一作に仕上がっている。

①塗装前に下準備をしよう

パーツの裏側や頭部の隙間
目立つ肉抜き穴はポリパテを使って埋め

▲パーツの裏側や頭部の隙間など、目立つ肉抜き穴はポリパテを使って埋めつつ整形した

整形に加えアンテナなどをシャープ化
▲ヤスリがけを行い、パテ部分の整形に加えアンテナなどをシャープ化した。道具は棒ヤスリのほかにカッターナイフやスティックヤスリも使用している
スジ彫りの追加はせず彫り直しのみ
仕上げに全体に400番のペーパー当て

▲ディテールアップとして蒔絵を施すので、スジ彫りの追加はせず彫り直しのみに留めている。漆塗装は塗料の厚みと塗る回数が多いため、彫り直しは必要。仕上げに全体に400番のペーパー当ても行った

食器洗い用の中性洗剤と歯ブラシで洗浄
▲パーツに付いた削りカスや油分などは、塗装前に食器洗い用の中性洗剤と歯ブラシで洗浄しておこう
下地はホルツのグレーサーフェイサーを使用
▲下地はホルツのグレーサーフェイサーを使用した。吹き付けは薄めに1回のみに留めている。これで漆塗装に入る

②まずは漆を捨て塗り

漆塗りツール
あらかじめ上塗り塗料を多めに薄めて塗装する【捨て塗り】を行う

▲吸い込み止めや上塗りをより美しく仕上げるために、あらかじめ上塗り塗料を多めに薄めて塗装する【捨て塗り】を行う

全体的に均一な厚みになるように刷毛通し
▲筆で塗っていくが、塗りが厚くならないように全体的に均一な厚みになるように刷毛通ししている

③螺鈿技法を加えてみよう

【白蝶貝】という種類の貝を薄い板状に加工した素材
漆と接着剤を活用して貼り付け

▲ここから【白蝶貝】という種類の貝を薄い板状に加工した素材を切って貼ろう。ふとん針やデザインナイフで切り、漆と接着剤を活用して貼り付けていく。直線はデザインナイフ、それ以外はふとん針で切ると良い。曲線や絵の形に切る時は、貝に線をつけ、その線をふとん針で何度もなぞることで上手く切り取れる

貝の裏に漆絵を仕込むことで、見る角度により絵が浮かび上がる
▲貝の裏に漆絵を仕込むことで、見る角度により絵が浮かび上がる仕様にした
白蝶貝を細かく割って貼り付けデコレーション
▲忍刀「稲荷」の鞘は白蝶貝を細かく割って貼り付けデコレーションした。接着には漆を活用。虹色光彩を持つ貝の色がキラキラと光っており非常に見映えがする

④金箔貼りでさらに華やかに

【金箔】を貼り付ける
金箔を貼り付ける面に漆を薄く筆で塗って、ティッシュなどで拭き取る

▲漆を接着剤代わりにして「六文手裏剣 貉」などに【金箔】を貼り付ける。金箔を貼り付ける面に漆を薄く筆で塗って、ティッシュなどで拭き取ろう。金箔を切り取りピンセットでつまんでかぶせる。金属製のピンセットだと金箔がピンセットに吸い付きやすいので、金属製ではないものを使用しよう

柔らかい毛房で優しく押さえる
GSIクレオスのMr.スーパークリアー光沢をコーティング

▲柔らかい毛房で優しく押さえて、その後乾燥させれば金箔貼りは完了となるが、傷がつかないようにコーティングもしておこう。今回はGSIクレオスのMr.スーパークリアー光沢を使用

⑤金属粉加飾(銀粉)で金属表現

シルバー色の部分をリアルに再現すべく、純銀の粉で着色
▲刀身をはじめとするシルバー色の部分をリアルに再現すべく、純銀の粉で着色した。この白い粉が銀の粉で、漆を薄く塗ってから付けていく
漆を薄く塗って乾燥させることで完全に定着
▲接着剤代わりの漆が乾いたら、さらに上から漆を薄く塗って乾燥させることで完全に定着させる
石粉を付けたゴムで磨く
▲追加で塗った漆も乾いたら、石粉を付けたゴムで磨く。これが銀色に変われば銀色の着色が完了

⑥漆の中塗り

漆を希釈調整し、ろ紙で漉す
漆を【中塗り】

▲貝貼り、金箔、金属粉が終わったら、次は漆を【中塗り】する。中塗りでは塗り面をきれいに塗り上げるため、漆を希釈調整し、ろ紙で漉す

跡をなくして塗面をきれいに塗っていく
▲パーツを刷毛でひと通り塗れたら、なるべく左右、上下と交互に刷毛通しをし、跡をなくして塗面をきれいに塗っていこう
漆を使用した全工程にこの湿箱に入れての乾燥工程が必要
▲塗り終わったら、湿度が60%前半の環境を作った湿箱に入れて時間をかけて乾かす。後ろにある赤い箱が湿箱。漆を乾かすには湿度が必要で、漆を使用した全工程にこの湿箱に入れての乾燥工程が必要

⑦手裏剣をさらに加飾してみよう

、中心部に【黒蝶貝】という種類の貝を貼り付けた
厚みのある貝板素材を丸く切り出し、曲面加工

▲銀のところは銀粉で着色し、中心部に【黒蝶貝】という種類の貝を貼り付けた。厚みのある貝板素材を丸く切り出し、曲面加工して接着剤で貼り付けた

仕上げとして貝の周りを漆塗り
▲その後、仕上げとして貝の周りを漆塗りし、さらに【金粉(平目粉)】を蒔いた

⑧刀の鞘をさらに仕上げる

ここからさらに貝の上に漆を塗っていく
漆が乾いたら2000番の耐水ペーパーで水研ぎ

▲鞘部分は白蝶貝の素材を貼り詰めてしっかり乾燥させた後、ここからさらに貝の上に漆を塗っていく。漆が乾いたら2000番の耐水ペーパーで水研ぎをし、貝の厚みと漆の厚みが同じになるまで塗りと研ぎを繰り返す。だいたい3回やるといい感じに仕上がる

研磨剤でさらに磨いて輝きを出せば鞘の螺鈿技法は完了
▲面一になったら、研磨剤でさらに磨いて輝きを出せば鞘の螺鈿技法は完了

仕上げに両端に金粉で金属粉加飾
▲仕上げに両端に金粉で金属粉加飾を施した。やり方は銀粉の時と同じ

⑨漆の上塗り

塗る漆を漉したり部屋の温度と湿度を調整
▲ここから漆塗りの仕上げである【上塗り】になるが、ここが一番神経を使う工程。下準備として塗る漆を漉したり部屋の温度と湿度を調整しておこう
【回転風呂】を用意
一定時間で半回転を繰り返してくれる装置

▲【回転風呂】を用意しておく。回転風呂とは塗った漆が重力で動き、一定の場所で溜まったりして塗りムラや漆特有の失敗【ちぢみ】などを防ぐために、一定時間で半回転を繰り返してくれる装置だ。今回は5分置きに半回転を6時間で設定

塗りに使う刷毛も漆器用のものに変更
塗り面をきれいにゴミが付着しないよう気をつけながら塗る

▲塗りに使う刷毛も漆器用のものに変更。漆の厚みでエッジや段差がなくならないように、塗り面をきれいにゴミが付着しないよう気をつけながら塗る。ゴミなどがあれば、筆で取り除く

塗り終わったら、再び回転風呂へ
▲塗り終わったら、再び回転風呂へ。乾かす湿度も約60%と低く、始めて3日かけて70%前半まで徐々に上げていった。これで漆塗りは完了

⑩蒔絵加飾でより美しく

完成度を上げるべく各所に蒔絵加飾を施していく。まずは刀身部分
▲上塗りが終わったところで、さらに完成度を上げるべく各所に蒔絵加飾を施していく。まずは刀身部分。銀色の部分に【銅粉】を蒔く
乾燥→ゴム磨き
刀身を輝かせる

▲漆を塗る→銅粉を蒔く→乾燥→粉の上から漆を塗る→乾燥→ゴム磨きで光らせる

色入れには朱漆を使用
色入れには朱漆を使用 2

▲細部の色入れには朱漆を使用をした。ほかのパーツにも同様に色入れしている

金梨子地粉は、とても小さい金の鰹節みたいな粉
▲各パーツに漆を塗り、【金梨子地粉】を蒔いていく。金梨子地粉は、とても小さい金の鰹節みたいな粉と言えばイメージしやすいだろう
蒔きぼかす
また違った雰囲気に仕上がる

▲蒔き詰めるだけではなくて、蒔きぼかすことでまた違った雰囲気に仕上がる

【麻の葉模様】を右肩部分と太モモ部分に追加
▲日本の伝統的な文様である、【麻の葉模様】を右肩部分と太モモ部分に追加
線描き筆に漆をつけて文様を描いていく
金粉を真綿で蒔いた

▲線描き筆に漆をつけて文様を描いていき、金粉を真綿で蒔いた。線描きの時の漆を乾かしたら、また線の上から漆を希釈し吸わせた脱脂綿などで、金線に漆を与える

ゴムで磨き光らせる
▲その漆も乾かし、ゴムで磨き光らせれば文様蒔絵は完成となる
燃え上がる炎には、朱漆で炎を描き
金粉をパラパラと蒔いて

▲燃え上がる炎には、朱漆で炎を描き、金粉をパラパラと蒔いて神聖な炎のイメージに仕上げた

▲お面部分はもっとも蒔絵がしやすく、目立つパーツでもあるので頑張って菊の蒔絵を入れていきます。まず目の周りや耳に朱漆を塗り、金梨子地粉を蒔いた
菊を描いていき
【青金粉】を蒔いた

▲漆で菊を描いていき、花の部分を金粉、葉や茎の部分には【青金粉】を蒔いた

希釈漆を吸わせる
▲漆を乾燥させた後、菊の蒔絵部分を脱脂綿などで希釈漆を吸わせる
金と青金部分を光らせて上絵を施していく
▲吸わせた漆も乾ききったら、ゴムで磨くことで金と青金部分を光らせて上絵を施していく
葉の蒔絵の上からさらに葉脈を漆で描いてく
金粉を蒔いていく。これを上絵

▲葉の蒔絵の上からさらに葉脈を漆で描いていき、そしてまた金粉を蒔いていく。これを上絵と呼ぶ

上絵も同じようにゴム磨きまで終え
完成

▲上絵も同じようにゴム磨きまで終え、最後に狐の模様を漆絵で仕上げれば出来上がり

完成!

佐助デルタガンダム 前
佐助デルタガンダム 後ろ
佐助デルタガンダム FRONT
佐助デルタガンダム 斜め
佐助デルタガンダム REAR
佐助デルタガンダム 潜狐形態
▲潜狐形態に変形させると、蒔絵をこしらえた狐のお面がよく目立つ
佐助デルタガンダム 素組み比較
▲素組み(左)との比較。漆塗装で重厚感溢れる仕上がりとなっただけではなく、基キットのモールドを活かした蒔絵が情報量を増やし、金箔なども相まって豪華な印象を与える
佐助デルタガンダム 刀構え

COLUMN 
漆にまつわるエトセトラ

 ホビーショップでは漆はもちろん扱っていない。今回使用した漆は「鹿田喜造漆店」という京都の老舗専門店で購入しており、約30gで3000円前後。金粉、銀粉、貝も扱っており、オンライン販売も行っている。もっと身近にある店だと、「東急ハンズ」でも漆を扱っている。、ちなみに金箔は「箔一オンラインショップ」で購入した。
 漆とプラスチックの食いつきについては、漆に合うサーフェイサーやガラス用漆で下地処理をしていればとくに問題ないが、塗膜がどうしても厚くなりがちなので注意すべき。仕上げはほかの塗料にはない、漆ならでは吸い込まれるような質感となるのでぜひ一度お試しあれ!

 昔から受け継がれてきた漆塗料と蒔絵で仕上げた佐助デルタガンダム。各部分での表現も貝や金箔、金粉・銀粉などを使用しており、独自の世界観を引き出せた作風になったと思います。このキット自体の完成度も高く、シルエットは最高のバランスです。しかし、漆塗装を考えて剥離防止の改造を加えなくてはいけません。そのため多少バランスを崩しましたが、それを手間と感じさせないくらいの魅力が漆塗装にはあると思います。金銀の輝き、貝の輝き、そして漆の輝き。いろいろと取り入れてますが、上手くまとめられたほうではないでしょうか? 今回使用した貝以外にもさまざまな貝がありますので、違う貝を貼ることで印象もまた変わります。金粉や銀粉にもいろいろと種類と粉の大きさがありますし、粉子の大きさが違うだけでも色味と光り方も変わります。漆にももちろん多くの種類ありますので、とても極め甲斐のある塗装方法だと思います。今回の記事で漆や蒔絵の良さを知って、少しでも興味を持ってもらえたら、部分的でも構いませんのでぜひチャレンジしてみてください♪

佐助デルタガンダム

BANDAI SPIRITS プラスチックキット“SDW HEROES”

佐助デルタガンダム

製作・文/漆×遊び×挑戦

SDW HEROES 佐助デルタガンダム
●発売元/BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン クリエイション部●660円、2021年6月発売●約10cm●プラキット

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©創通・サンライズ

漆×遊び×挑戦(ウルシ×アソビ×チョウセン)

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