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日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』 構成:樋口真嗣 & 監督:スティーブン・ラリビエー インタビュー

2022.01.23

日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』構成 樋口真嗣インタビュー&日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』監督 スティーブン・ラリビエーインタビュー 月刊ホビージャパン2022年2月号(12月25日発売)

サンダーバード55ロゴ

日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』構成

樋口真嗣 インタビュー

 「サンダーバード2号&4号」「ペネロープ号」の作例に続き、本作の日本語劇場版の構成を担当した樋口真嗣氏にお話を伺う。樋口氏はご存じの通り、特撮作品に造詣が深く、また監督として数々の特撮映画を手掛けてきた。そんな樋口氏に『サンダーバード』の思い出から、今回の構成についてなどを詳しく語っていただいた。

(聞き手・構成/島田康治(タルカス))

樋口真嗣

樋口真嗣(ヒグチシンジ)

 1965年9月22日東京都生まれ。特撮、実写、アニメ問わず活躍する映画監督/特技監督。代表作に平成ガメラ三部作や『ローレライ』『日本沈没』『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』など。盟友・庵野秀明氏の各作品にもさまざまな形で関わり、『シン・ゴジラ』では監督・特技監督を担当。2022年には最新監督作品となる『シン・ウルトラマン』の公開を控えている。

「いまこの時代に『サンダーバード』を撮っているすごさですよね」

──改めて55年ぶりに新作が公開されるというのは、感慨深いですね。
 でも誤解を招く表現はしないで、とは思うんですよね。俺が撮っているみたいなミスリードをしないでほしいです。撮ってないから! 撮れるわけないって(笑)!! クラウドファンディングで制作された3本以外のブロックが、俺の担当になります。

──「構成」というクレジットはどのようなお仕事だったのでしょう?
 自分がやるならどういうのがいいんだろうと考えたとき、昔のテレビアニメの劇場版でたまにあったように著名監督が名義貸しで監督やっているみたいな形にはしたくなかったんですよ。「監督」というと誤解されるし敵を作りそうですよね。控えめだけど仕事してますというニュアンスを伝えたい時に「構成」というのがいちばんいいのかなと。下働きだけど、やってますよ樋口、みたいなのが伝わるといいなと(笑)。

──樋口さんと『サンダーバード』の出会いからお聞かせください。

 1966年の本放送はまだ赤ん坊だったので、初めて観たのは再放送だと思います。観ていた記憶はありますけど、内容はあまり覚えていない。覚えているのはプラモデルですね。当時50円だったと思いますが、駄菓子屋に1号と2号がぶら下がっているのを覚えています。放送時期じゃなくても売っていましたからね。あとは夏休みなどに再放送があれば、観ていました。でもある程度の年齢になるとちょっとひねくれ出してて、ツッコミどころがあるものとして観るようになるわけです。

──たとえばどんなところでしょう?
 人形なのに、手のアップだけ本物とか(笑)。

──個人的には汗をかくのが苦手でした(笑)。
 人形なのに人間に見立てて撮っているんですよね。そこが面白いといえば面白い。レベルの高い知的行為ですよね。心の目で、人間のつもりで撮っていたのかな。

──いわゆる特撮番組の魅力をどのように捉えられていましたか?
 爆発ですよ。毎回、大事故が起こったり爆発シーンがあるのを楽しみにしていたんですよね。今回、改めて作品を観て、あれが娯楽になるってどういうことなんだろうなと思ったんです。大事故が起こって明らかに誰かがひどい目に遭っているのを、見せ場として作っているわけでしょう。でも僕らの年代は、なんか爆発に弱いというか、爆発があると思考停止して全部ヨシみたいなところがあるんですね。『西部警察』なんかもそうだし、引田天功の大脱出なんかでも意味もなく爆発が起こると、それでよくなる。劇場版なんかでも執拗に爆発しますからね。

──特撮の見せ場ですよね。
 でもなぜそんな爆発好きになったんだろうと思うと、『サンダーバード』って明らかにそのハシリですよね。その前の『海底大戦争 スティングレイ』を観ても、そんなに爆発しないんです。『サンダーバード』以前ってそこまで爆発シーンないんですよ。明らかにここから変わっているんですよ。

──樋口さんが考える『サンダーバード』の魅力というのは?
 やはり「科学」ですよね。科学崇拝というか。宇宙人も出てこないし、改造された人たちも出てこない。そういう超人的な能力で解決する話じゃないでしょう。普通よりちょっと頭が良くて、お金持ちで、勇敢な人たちが、力を合わせて困っている人たちを助ける。それを可能にしているのが人類の叡智を結集したメカだという、いわば「科学」による人類のユートピアですよ。まさにこの「ホビージャパン」が番組になっているみたいな(笑)。

──叡智の結集たるトレーシーアイランドに憧れましたね。
 やはりお金持ちというのは強いじゃないですか。海の見える高台にある、でかいリビング。ああいうイメージが『アイアンマン』のトニー・スタークの家までずっと続くんです。あれも『サンダーバード』の影響だと思いますよ。『サンダーバード』とか『007』のビジュアルが、みんなの心のなかに夢の未来として刺さっているんですよ。

──当時の英国人から見た「アメリカへの憧れ」というものが、日本人にも刺さったのでしょうね。
 でもこの当時のアメリカというのは、デザイン的には全然ダメなんですよ。イギリスのほうがはるかに先を行っていたんです。『スター・ウォーズ』が出てくるまではそんな感じだったように思います。好きな人も多いんのでなんなんですが、シービュー号(『原子力潜水艦シービュー号』)やジュピターII(『宇宙家族ロビンソン』)も、なんか違うなって……。でも『サンダーバード』は、圧倒的にデザインがすばらしいのですよ。しかもこれが兵器じゃなくて救助メカというところがすばらしいんですね。

──今回のお仕事はどういった経緯でオファーがあったのでしょう?
 東北新社さんからお話をいただいたんです。こんな機会でもなければ、これだけ『サンダーバード』という作品に向き合うことはなかったと思いますね。

──新作というのがまず驚きましたね。
 我々には新作というものにどこかアレルギーみたいなものがあって、これだったら前のほうがいいじゃんと思っちゃうんですよね。新作を作るんだったら、どうやって前を越えるか、みたいなところを期待する。もともとこの3本の新作を知っていたんですが、そうしたプレッシャーを完全にはねのけて「昔のままやる」というのは、潔いですよ。愛の表現としては一番いいんじゃないかなと。

──むしろCGよりも労力が必要に感じます。
 英国に『サンダーバード』をすごく好きな人がいて、当時のものそっくりに人形やプロップなどを作った人がいた。しかもこれがなぜできたかというと、元になるレコードの音声が残っていたからなんですよね。音声トラックが残っているから、それを元に、セリフの音声信号に反応して唇が動くリップシンクができるんですよね。そのオリジナルキャストの音声トラックの存在が彼らのモチベーションだけど我々日本人にはあまり関心がない、というか日本語に吹き替えられたものを観て育ってきたから。

──たしかに「日本語版」はちょっと複雑ですね。
「結局、その音声使ってないじゃん」ということになるんです(笑)。でもその音声がなかったら、実現できなかった映像ですからね。そこに触れ始めると答えも見つからないし、ややこしいことになるので、あまり触れてはいないんですけど、こういうところで文章で触れるぶんにはいいかなと。シルヴィア・アンダーソンの演じたレディ・ペネロープの声があるからこそ、向こうの人たちも「やりたい!」ってなったんだと思いますよ。けれども、じゃあ我々は同じモチベーションで、「黒柳(徹子)さんお願いします!」という気持ちに応えてくれるかと……。

──ペネロープは満島ひかりさんが演じることが発表されましたね。
 声優・俳優含め、いまの日本の芸能界を見て、誰がいちばん黒柳徹子さんに近いだろうかと考えたとき、満島さんは以前ドラマ『トットてれび』で若い頃の黒柳さんを演じているんですが、かなり憑依してたんですよ。なるほど「依り代」はいると。令和の徹子は誰だと考えたとき、ベストの配役でしたね。

──単にうまい人を連れてきましたというのではなく、きちんと文脈を踏まえた意味あるキャスティングなわけですね。
 そうなんですよ。俺が参加したときにはキャスティングの候補として満島さんが挙がっていて、「さすが、わかっているな!」と思いましたね。

──樋口さんの「構成」というお仕事は、どのようなものだったのでしょう?
 なにをやろうかと考えたとき、『サンダーバード』の存在とか、歴史的な位置づけを知っている人にはスルッと入るけど、知らない人には文脈が難しいなと思ったんですよ。『サンダーバード』自体もそうだし『サンダーバード』を今作る意義みたいなものも、知らない人にはよく伝わらないんじゃないか。そこで、こういう新作を今作ってくれた人がいて、それをよかったと思ってもらえるものにできたら、それならば自分がやる意義があると思ったんです。でもやりすぎないようにしよう。本編そのものはいじらない。本編そのものはそれぞれ独立した形で入るけど、その間に挟む。絵に対する額縁みたいなものですよね。説明というわけじゃないけど「今回のこれがなぜ意義のあることなのか」とか、そういうことを、ちゃんと文脈を通して伝わるようにしたいということですよね。観た人がよかったと思えるようなものを作れたらと思ったんです。

──ネタバレにならない範囲で、そのお仕事の感想をお聞かせください。
 内容については触れられませんが、今回の一番のモチベーションは、矢島正明さんにお仕事をお願いしたことですね。これを逃したらもう自分の人生の中に接点はないと思って、むちゃくちゃなものをやりました。OKをもらうのがいちばん大変でした。ゴルフボールヘッドという印字部品を使ったIBMのタイプライターを、横浜に唯一修理している会社があるんですよ。当時とほとんど同じものを使うことができました(笑)。

──最後に本作の見所をお聞かせください。
 いまこの時代に『サンダーバード』を撮っているすごさですよね。いまできないことの大変さだったり当時これをゼロから作った人たちのすごさだったり、それがうまく伝わるといいなと思いますね。最初にクラウドファンディングの話を聞いて「そんなことよくやったね、ホントにやってるよ!?」そういう驚きがあった。そこが今回のプロジェクトの一番価値あるところだと思うんです。2012年に特撮博物館をやったとき『巨神兵東京に現わる』を撮ったんですが、新作映像とメイキングがセットになっているから、価値がある。これも同じです。ジェリー・アンダーソンをはじめとするオリジナルを作った人たちもそうだし、いま新たにこの3本を作った人たちが成し遂げたことも含めて、すばらしいことなんだよと、こんなことをしてくれる「奇特な人たち」に感謝しましょう。そういう気分を味わってほしい。それが願いですね。

(2021年11月、都内にて収録)

※新型コロナウイルス感染防止のため、細心の注意を払って収録を行いました。

ジェリー・アンダーソン&シルヴィア・アンダーソン夫妻
▲ジェリー・アンダーソン&シルヴィア・アンダーソン夫妻。1960年から1970年代にかけて、イギリスの特撮人形劇作品などを数多く制作。代表作は『サンダーバード』『海底大戦争 スティングレイ』『キャプテン・スカーレット』『スペース1999』など多数
樋口真嗣2

日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』監督

スティーブン・ラリビエー インタビュー

 続いては、本作のプロデューサーであり、監督も務めたスティーブン・ラリビエー氏にお話を伺った。日本での滞在中に、『サンダーバード』書籍も執筆したラリビエー氏に本作をつくるきっかけや、本作に対する思いを語っていただく。

(聞き手・構成/島田康治(タルカス))

スティーブン・ラリビエー

スティーブン・ラリビエー(Stephen La Rivière)

 イギリス・ロンドン生まれ。60年代英国ドラマ研究家・プロデューサー・ディレクター。2010年から3年間、日本に滞在し、イギリス帰国後にセンチュリー21フィルムズを設立。映像作品として『ようこそ!“サンダーバード”スタジオへ』や『刑事モース』ゲストエピソード、スーパーマリオネーション作品『ネビュラ・75』などを制作している。日本での著書に「最新検証!21世紀『サンダーバード』読本」(洋泉社)がある。

「サンダーバードプラモを愛する人たちが大勢いる日本が大好きなんですよ」

──監督を務めるに至るまで、どのような経緯があったのでしょう?
 もともと私は、テレビのディレクター/プロデューサーだったんです。しかし本当にやりたいことができないと感じてテレビの仕事を辞め、そのあと古いフィルムの研究家として本を書いていました。その後、亡くなる前のジェリー・アンダーソンに私がインタビューを行った6~7時間に及ぶ映像を使って何かできないかと、一度は辞めたディレクターに戻り、『サンダーバードができるまで/スーパーマリオネーションの軌跡』というドキュメンタリーを作りました。そのときに、シルヴィア・アンダーソンやデビッド・グラハムなどオリジナル版の声優を招いて収録する機会があったんです。そのとき彼らが、当時録音した音源をもとに、新しい作品が作れたらいいなと口にしていたんですよ。『サンダーバード』50周年に向けてそのことを思い出し、通らないだろうと思いながら「昔のレコードを使って新作を作ったらどうか?」と提案してみたところ、驚いたことに私が監督するならリスペクトしてくれるだろうということで、OKが出たんです。

──新作パートのためにプロップや人形を新たに制作されていますね?
 サンダーバード1号は、当時いくつか作られたサイズのなかから、主翼が動くモデルを再現しています。ギミックを仕込む都合で生まれた機体側面にある繋ぎ目も、オリジナルに忠実です。きっと今なら継ぎ目は消してしまうんでしょうが、これがファンにとってベストな1号なんですよ(笑)。2号はフォルムが難しいのですが、ファンが作った素晴らしいモデルがあったので、それを撮影用に購入しました。もうひとつ形はいまひとつなのですがグラスファイバー製の軽いモデルも作って、角度を選びながら撮影しています。大変だったのは色ですね。実際のモデルの色とスクリーンを通じて見える色は違うため、正しい色で塗装するのは難しかったですね。

──ラリビエー監督が初めて作品に触れたのは90年代だそうですね?
 サンダーバードファンだった母が、ビデオを買って来てくれたんです。実はイギリスでは本放送は大ヒットしたのですが、その後、地方局で部分的な再放送しか行われず露出も減っていたんです。それが90年代に入ってBBCが放送権を取得したことで、リバイバルブームが起こったんです。

──当時日本のショップにもマッチボックスによる新作トイが輸入されていたのですが、イギリスではそういった経緯でブームが起きていたんですね。
 BBCが全国的に再放送をしたことによって、当時子供だった80年代後半に生まれた我々のような世代が、みんな同じ時間に『サンダーバード』を見ることができるようになったんです。番組はBBCが驚くほどにヒットしました。トイもヒットしました。BBCは2000年代にも再放送を行い、この時も大ヒットしています。だから私より下の世代にも『サンダーバード』のファンは多いんです。再放送によってファン層が広がったんですね。

──日本ではプラモの存在がとても大きいのですが、イギリスにプラモはあったのでしょうか?
 ありましたが、少なかったですね。どこでも買えるようなものではなく、一部の人向けのものでした。日本ではサンダーバードプラモを愛する人たちが大勢いるので、スーパーマリオネーションにはもってこいの国だと思います。だから私も、日本が大好きなんですよ。

──ラリビエー監督から見た『サンダーバード』の魅力とは?
 やはり人形の動きだったり、ストーリーだと思います。まさにスーパーマリオネーションの魅力ですね。今回はレコードに沿った内容ですからペネロープが中心になっていますが、『サンダーバード』のキャラクターはみんな大好きです。いちばん好きなのは、スコット・トレーシーですね。そしていちばん好きなエピソードは、「ニューヨークの恐怖」です。

──改めて今作の見どころをお聞かせください。
 個人的に好きなシーンがふたつあります。ひとつは、ペネロープが縛られて囚われの身になっているシーンですね。雰囲気のよいセットを前に音源を聞きながら撮影して、すごく盛り上がりました。もうひとつは、オリジナルにも関わっていたデヴィッド・エリオットが監督した第3話の、大豪邸が爆発するシーンです。静かな場面から一転して急に爆発が起こる、フィルムメーカーとしても好きなシーンです。

──樋口氏による構成はどうご覧になりましたか?
 樋口さんが担当してくれたパートにはとても満足しています。僕たちの作った映像に手を加えることなく合間や前後に足してくれたことには、リスペクトが感じられました。とてもありがたいことだと思っています。オリジナルの映像や僕たちのインタビューを入れることで、日本のファンにもシネマティックな体験をしてもらえるような映画作品になったと思います。

(2021年11月、英国とのリモート収録)

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Thunderbirds ™ and © ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.

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