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【『境界戦機』特集】監督 羽原信義 インタビュー

2021.10.25

監督 羽原信義インタビュー 月刊ホビージャパン2021年12月号(10月25日発売)

アニメ境界戦機メイレスケンブ

 SUNRISE BEYONDのオリジナルロボットアニメ第1弾として送り出される『境界戦機』。近未来の日本を舞台とした世界観、ケンブをはじめとする独創的なデザインなど、新たな挑戦が多く盛り込まれた作品といえる。これまで多くのロボット・メカアニメを手掛けてきた羽原信義監督は、どのようなアプローチで作品づくりに臨んだのだろうか?

聞き手・構成/河合宏之

Profile
羽原信義

 1963年6月21日生まれ、広島県出身。アニメーション演出家・監督。元XEBEC代表取締役社長で、現在はSUNRISE BEYOND取締役を務める。代表作は『蒼穹のファフナー』、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』。

ロボットアニメの伝統と、新しい作品を生み出す意義

現実の延長線上として可能性を感じた世界観

──まず羽原監督は『境界戦機』にどのような経緯で携わられたのでしょうか?
羽原
 SUNRISE BEYONDの設立に参加し、「ゼロから1を作り上げる」というグループの目標の中で、会社の中でもさまざまな企画を募っていました。僕としても『ガンダム』シリーズの新作企画などを練っていたのですが、そこに小川正和エグゼクティブプロデューサーから「こういう企画があります」と提案されたのが『境界戦機』でした。その時点では大枠のストーリーと、キャラクター的な自律思考型AIが登場するという程度のことしか決まっていませんでしたが、これは面白い作品になりそうだなと思って参加させていただくことになりました。

──もうすでに『境界戦機』というタイトルだったのでしょうか?
羽原
 最初の段階では、まだタイトルなどは決まっていませんでしたが、僕のほうで「『境界戦機』というタイトルはどうでしょうか?」と提案させていただいたんです。最初は『境界戦機●●●●』みたいに、下にロボットの名前がついていたんですよ。でも最終的に「ロボット名はナシで行こう」という話になり、現在のタイトルに落ち着いたんです。

──ちなみに『境界戦機』というネーミングの由来は?
羽原
 作中の日本の現状をあらわしていますね。4つの勢力に分割統治されていて、その境界を巡って戦争をするという状況があったので、『境界』というワードがイメージできました。それに戦記の「記」をロボットアニメということで、機械の「機」にしたんです。

──企画的にはまだ大まかなアウトラインが決まっているだけの状況だったんですね。
羽原
 そうですね。分割統治された日本というのは、現在の世界情勢の危うさを考えると、「なくはない話」だと思いましたし、純粋に作品として面白くなるだろうなと感じました。そんな世界で生きている人たちを掘り下げるのは、興味深い展開になるだろうなと。作品の歴史観としては、ちょうどアモウくんたちの世代が生まれた年に、境界戦が始まったという設定です。つまり彼らが生まれたときにはすでに戦争があって、戦時下の感覚や特殊な社会情勢が身近になっている。そこには劇中のニュースでも日本人が大変な目にあっていたり、政治家が国会で居眠りをしていたりと、現実の閉塞感とリンクする描写も盛り込んでいます。そのことによって、作品世界が「現代と地続きなんだ」と感じてもらえればと思っています。

──今の時代性を考えると、「数年後になにがあるかわからない」というのは実感がありますね。
羽原
 リモートワークやオンライン授業など、それこそ数年前には想像しなかった現実がありますよね。こういう大変な状況でも、「人は生きていかなきゃいけない」ということを、みんな実感していると思うんです。だからこそ戦時下という、非日常の世界にも共感してもらえるのではないかと。

──新しい作品の世界観ということで、気を付けなければいけない点も多かったのではないでしょうか?
羽原
 世界観の基準をジャッジするのは非常に難しいですね。たとえば携帯電話のあり方にしても、おそらく40年後には携帯電話は現在の形ではないと思うんですよ。形も違うだろうし、立体スクリーンになっているかもしれない。ただアニメでそこまで未来っぽく描いてしまうと、絵空事に見えてしまう。地続きの世界観というイメージから離れてしまうんです。たとえば第1話でいえば、日本人以外には自然分解型のペットボトルが支給されているという設定があったり、歯ブラシの自動殺菌システムあったりするなど、イメージから逸脱しないレベルで若干の未来感、自分たちが住んでいる時代の先にある感覚を入れ込んでいます。

──なるほど、現実と照らし合わせてみると面白いですね。
羽原
 分割統治された世界という意味では、占領された区域の車線は右側通行になっていますね。逆に日本人が昔から住んでいる場所は、左側通行のまま。右側通行と左側通行が混在しているんです。また、日本内でもあっても、勢力ごとに分断統治されているという印象を持てるようにしています。たとえばアモウくんが住んでいるのはオセアニア連合に占領された高松で、対岸はアジア自由貿易協商が占拠しています。ですからアモウくんが住んでいるアパートから対岸を見ると、高いビルに囲まれているのですが、これは防壁なんです。対立する勢力同士の間には防壁などを設けて、こっそりと境界を印象付けていますね(笑)。

ケンブのかっこよさは構造すらも含めた機能美である

──メカニックデザインについて、羽原監督からどのようなオーダーを出されたのでしょうか?
羽原
 僕からは「できるだけ小さくしてください」ということをお願いしました。モビルスーツのような18mサイズは明らかに大きすぎて、日本を舞台に隠密行動をするのは絶対無理ですからね(笑)。現実のリアル感で考えると、僕的には7mが限界かな? と思っていました。その後、コクピットが胴体にあったり、動力源を考えたりという経緯を経て、最終的には10m前後になっていますね。とにかくコクピットは狭くなりましたが(笑)。

──たしかにコクピットはかなりタイトですね。
羽原
 とにかくギュウギュウ詰めです(笑)。ただ実際に操縦する際には、体のセンサーとVR視点によって、コクピット内でも大きくレバーを動かすようなアクションで描写していますね。

──『ブレイクブレイド』で羽原監督が「(遮蔽された)コクピットの中にも風は吹く」とおっしゃられていたのが印象的だったのですが、リアルさとは別なポイントとして、コクピットの中で演技ができないとダメということなんですよね。
羽原
 そうなんです。今回はそれをVR視点で表現しています。それは主人公側の3機のみに使われている技術で、他勢力は網膜投影システムです。

──ケンブのデザインについての印象はいかがですか?
羽原
 ケンブはひと目で「普通のロボットとは違う」という点が非常に気に入っています。ただ、関節構造も人間とは違うので、描くうえでも慣れるまでは大変だと思います。一見すると違和感のあるパーツがついていたりするのですが、プラモデルで実際に動かしてみると、まったく干渉せずに動くことに驚きました。高度に計算されたデザインを保ちながら、キャラクターとしての特徴を両立させたデザインという印象です。昨今は多数のロボットアニメがありますから、特徴を持ったロボットを打ち出していかないと個性を出すのはむずかしい。そういう意味では、ケンブは新しさとかっこよさのバランスがとても優れていると感じます。

──小顔で足長の昨今主流のかっこよさではない、武骨さすら感じるデザインもポイントですね。
羽原
 そうですね。流行のかっこよさというよりは、存在感を重視した感じのデザインです。単純なかっこよさ、美しさというより、機能美と言えるでしょう。これは『境界戦機』のメカ全般に言えることでしょうね。

──実際に映像やプラモデルを体験することで、固定観念が崩れていくという印象です。
羽原
 デザインとは、そういうものですからね。僕が子どものころ、『仮面ライダーV3』がテレビマガジンに掲載されたとき、「顔に階段がついているのか……」と思ったのですが、放送が始まってみると、とにかくかっこよかった。その経験があるので、デザインだけで判断できないというのはよく理解しています。逆にその新しいものを「どうかっこよく見せられるか」というのが、僕らの使命だと思っています。

──ケンブを描くうえでのバランスはどのように考慮しましたか?
羽原
 コンテではロボットアニメとしてのケレン味を出すカット割りを意識するので、それに合わせたポーズをお願いしています。最初にチーフメカアニメーターの久壽米木(信弥)さんにポーズ集をお願いしたのですが、もうその時点でケンブの形状を完璧に理解されていましたね。非常にかっこいいポーズ集が上がってきたので、今度は演出サイドがそれをコンテに取り入れて。とにかく新しいメカですから、演出も作画もいいポイントを見つけて、コンセンサスを取るようにしていますね。

──敵側は無人機が中心になりますが、演出という意味でも差別化をはかっていらっしゃるのでしょうか?
羽原
 勢力によって違いを見せていますね。たとえばアジア自由貿易協商軍はとにかく数で勝負。3機1小隊で、5〜6小隊は必ず登場させるようにしています。逆に北米同盟軍は1機にお金をかけて、そのぶん高性能な機体で少数精鋭という感じです。今回は各勢力に指揮車という、指令を送る車両があり、その中にオペレーターが乗っていて機体を操作しているのですが、アジア自由貿易協商軍はひとりで何機も担当している。一方で北米同盟軍は少人数で機体を担当しているという違いがあります。オセアニア連合軍はちょっとお金がないという設定で、傭兵が主体になっています。だからちょっと寄せ集めて、統制の取れていない雰囲気を出していますね。

──多数の勢力が存在する面白さも、劇中のポイントになりそうですね。
羽原
 そうですね。今回は武器のアタッチメント認証も、ポイントになっています。「同じ勢力同士の機体でなければ、その勢力の武器は使えない」という設定なんです。第2話でもアモウくんが他勢力の武器を使おうとして、「認証は受け付けられなかった」という描写があったじゃないですか? この設定は、今後もストーリー上のポイントになっていきます。

新しい世界を楽しめる特徴的な構造とラインナップ

──実際にプラモデルをご覧になった印象はいかがですか?
羽原
 動かして面白いデザインということが、プラモデルを触るとよくわかりますね。胸のシリンダーの可動もかっこいい。とにかくよくできているし、作りやすいという印象です。僕はプラモデル作りが得意というわけでなかったのですが、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』で最近のプラモデルに触れるようになって、「こんなに作りやすいんだ!」と驚いたんですよ。パズル感覚でストレス解消にもなりますし、組み立てるだけで純粋に楽しいホビーですよね。将来的にARやVRと組み合わせて、バーチャルディオラマが作れるようになるといいですね。本当のディオラマは作るのが大変ですけど、バーチャルならお手軽じゃないですか? 作品世界が広がりますし、プラモデルの楽しみ方も幅が出ると思うんです。

──そのほかプラモデルについては、どのようなオーダーをしましたか?
羽原
 ケンブのデザインでひとつだけお願いしたのが、肩の後ろ側にくぼみをつけてもらうことだったんです。肩が水平よりも後ろに反ることで、胸を張るようなポーズができるんです。ニュウレンに関して、赤いベタのカラーリングのままではセル画になった時に、若干情報量が不足したような印象になってしまうんです。そこで同じ赤でも、濃い赤と薄い赤に色分けしてもらって、情報量を増やしてもらっています。しかもそれがプラモデルで再現されているらしいので、ぜひ手に取って確認していただきたいですね。

──今回特大型装甲特殊運搬車やストークキャリーも商品化されますが、「プラモデルで世界観を楽しむ」という意味では、非常に挑戦的な作品になっていますね。
羽原
 最初の打ち合わせの時にBANDAI SPIRITSさんが、「運搬車を出したい、キャリーを出したい」と言われたときは「本気か?」と思いました(笑)。ただ、おっしゃるとおり世界観とリンクできるので、遊び方が広がるアイテムですよね。運搬車の内部も本編の設定通りに作られているので、「ここにアモウくんが座っているんだ」と感じてもらえます。実際にSNSでも「運搬車かっこいい!」と言われている方がいらっしゃるので、ぜひ楽しんでほしいですね。

──今回はSUNRISE BEYONDとして、初のオリジナル作品となりますが、実際に新しいスタッフとのやりとりはどうですか?
羽原
 ジーベックチームも相当働き者が多いなと思っていましたが、サンライズ旧3スタチームの馬力はもの凄いですね(笑)。ロボットアニメに慣れているな、というのをとても実感します。描くのが早いですし、上りも素晴らしい。両スタジオが持っていた特徴が、今回の『境界戦機』にはよく表れていると思います。

──オリジナル作品で手描きというところに価値があるのではないかと感じます。
羽原
 昨今ロボットアニメといえばCGがスタンダードになってきていますが、海外の友達からは「手描きのオリジナル、待っていました!」といわれますね。「日本のロボットアニメは手描きだろ?」と説教されるぐらいです(笑)。もちろんCGにはCGの良さがありますが、そういう意味でも手描きで新作ロボットアニメというのはチャレンジングで、作る意義がある作品だと感じております。

──現在はちょうど序盤のエピソードが放送されているタイミングですが、見どころについてお聞かせください。
羽原
 アモウくんはメカが好きで、実際にケンブのパーツを集めて組み立てているという、非常にメカが身近な作品といえます。第1話でもアモウくんは、「せっかく磨き上げたのに傷が入っちゃった」とか、そういうメカ好きならではの感覚は大事にしている作品です。そのあたりは月刊ホビージャパンを読んでくださっているみなさんに、共感していただけるのではないかなと。そのほかのメカ面の見どころとしては、各勢力のデザインに合わせた戦い方に注目してほしいですね。たとえばオセアニア連合軍のバンイップ・ブーメランは、脚の構造を利用したジャンプ力を活かした戦い方を展開します。そのあたりでも、メカの特徴をうまく引き出せればと、試行錯誤していますね。キャラクター描写という意味では、ガイたちAIの存在は大きいと思います。主人公たちの心情をうまく引き出す意味でも、AIとのバディ感は重要なポイントになってきます。物語が展開していく中で、AIとの関係性の変化にもぜひ注目してほしいですね。

──ファンのみなさんにメッセージをお願いします。
羽原
 『境界戦機』は、サンライズチームとジーベックチームが力を合わせて、SUNRISE BEYONDとしてのオリジナルアニメ第一作となっております。非常に力の入った作品になっておりますので、ぜひ最後まで主人公のアモウ君と一緒に旅をしていただきたいなと思っています。

──本日はありがとうございました。
(2021年9月下旬、オンラインインタビューにて収録)

コクピット問題を解消するVR画面

アニメ境界戦機場面カット
アニメ境界戦機場面カット2

▲小型ロボットのデザインで、もっともスペースを必要とするのはコクピットである。できるだけ小さくしたいところだが、演出としてパイロットのアクション(レバーを激しく動かすなど)は外せない。ケンブの実際のサイズは狭く、起動時はVRで自由度を高くするという考え方はコクピット問題を解消するアプローチだ

©2021 SUNRISE BEYOND INC.

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