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【『境界戦機』特集】メカニックデザイン 小柳祐也(KEN OKUYAMA DESIGN)インタビュー

2021.10.26

メカニックデザイン 小柳祐也(KEN OKUYAMA DESIGN)インタビュー 月刊ホビージャパン2021年12月号(10月25日発売)

 特徴的な関節構造と、異形ともいえるシルエット……。『境界戦機』の主人公機であるケンブは、これまでにないアニメーションロボットデザインとして誕生した。それは数多くのプロダクトデザインを手掛けるKEN OKUYAMA DESIGNと、アニメーションとの化学反応によって誕生したものだ。ケンブのデザインを手掛ける小柳祐也氏は、デザインにどのような思いを込めたのだろうか?

聞き手・構成/河合宏之

Profile
小柳祐也

 KEN OKUYAMA DESIGN所属。「機動戦士ガンダム40周年 KEN OKUYAMA DISIGN ガンプラプロジェクトスペシャルムービー」におけるHGガンダムG40のデザインを経て、『境界戦機』のメカニックデザインを担当。ケンブ、ジョウガン、レイキ、バンイップ・ブーメランなどのデザインを手掛ける。

プロダクトデザインから確立するアニメーションメカニックの魅力

リアリティの追求から特徴的な構造が生まれた

──まず『境界戦機』にデザイナーとして参加された経緯をお聞かせください。
小柳 ガンダムG40の経験を踏まえて、「新作のコンペに参加しませんか?」と声をかけていただいたんです。『境界戦機』は現代日本と地続きの2061年が舞台で、比較的リアリティが求められる世界観ということも、工業デザインを得意とする我々にご依頼いただいた理由だったと思います。

──実際のオーダーはどのようなものだったのでしょうか?
小柳 10m前後というサイズ指定はありましたね。あとは西暦2061年に存在しているようなリアリティのあるメカというオーダーでした。実はコンペ前に初期ケンブ案をスケッチしていたのですが、コンペに提出したデザインは、初期ケンブ案よりも普通の人型に近いシルエットだったんです。関節には産業用ロボットのテイストを入れるという点は一貫していたのですが、僕の中で「(初期ケンブ案は)さすがに冒険しすぎたかもしれない」という迷いがあったんですね。最終的には初期案に近いものが採用されました。

──スケッチの段階から、かなり現在のイメージに近かったのでしょうか?
小柳
 ええ、スケッチに描いたシルエットは最初から現在のケンブに通ずるもので、特徴的なヒザの構造などはそのままです。顔や股関節の構造など、細部は異なっていましたが、シルエットは継承されていますね。ただ、量産機っぽい印象が強かったので、そこからアニメの主人公機にふさわしい要素を加えて、キャラクターとして確立していきました。

──腕や脚の片持ち式の一軸関節が、デザイン上の大きなポイントになっていますね。
小柳
 これはG40の時から一軸関節へのこだわりがありまして。模型の関節はボールジョイントがよく使われていますけど、キャラクターではありながらも、リアリティというオーダーを考えたときに、関節の駆動方式はモーターになるだろうと。モーターは軸に対して回転をかけるので、おのずと関節も軸を基準に駆動をかける構造になりますね。

HG メイレスケンブ 関節
▲片持ち式の一軸関節。可動時に部位が干渉することなくヒジを大きく曲げているのが確認できる。手首にも同様の関節機構があり、ウェポンマウントから武器を取るときなどに柔軟なポージングを可能とする

──面白いですね。余談ですが恐竜の股関節も一軸関節で、これは巨体を支える強度と耐久性を実現した要因になっていたらしいです。巨大ロボットの構造論に通じるものがあるのではないかと感じました。
小柳
 私は恐竜も大好きで、おっしゃられたように、その構造は少なからずケンブのヒントになっています。結局、関節の可動部分が複雑化するのは、機械にとっても強度を下げる要因になるんですよ。ですからなるべく駆動箇所は少なく、かつ関節軸を太く強くするというのは構造として外せないところでした。デザインを見ていただくとわかるのですが、回転軸はなるべく太くできるようなレイアウトを意識しています。

──基本姿勢でも、ヒザが少し曲がっているのが、機能上のポイントになっていますね。
小柳
 ヒザを伸ばした状態で脚部にショックを受けると、かなりの負荷がかかってしまいますからね。そこで脚を曲げた状態にして、ヒザがスイングすることによって着地時の衝撃を吸収するという意図があります。

──実際のプラモデルを触ってみると、一軸関節でここまで可動域があるのは驚きますね。ガンプラで慣れ親しんでいると、二軸関節やボールジョイントで発展を遂げてきた歴史があるので意外に感じます。
小柳
 基本的に「人型ではあっても、人と同じ構造である必要はない」という観点で考えています。目指したのは、産業用ロボット的な片持ちの一軸式構造などを取り入れつつ、人の構造とは異なる可動域の広いロボット。結果的に、機械っぽさを感じてもらえるロボットになったのではないかと思います。

──日本のアニメーションロボットは、あくまで人間が着ぐるみを着ているようなイメージをベースに発展してきましたから、現実的な構造面から踏み込んでアニメーションロボットを構築していったのは興味深いですね。一方で攻めた印象のある脚部と比較して、股関節の構造がアニメーションロボットの一般的な構造に映ります。
小柳
 アニメーションロボットの場合、横軸に股関節があるデザインが一般的だと思うのですが、現実の人型ロボットは上から吊り下げるような縦軸方式のものが多いですからね。とはいえ、最近は股関節が横軸のロボットも出てきていますので必ずしも縦軸がメジャーではなくなってきているようです。ケンブ初期案でも、リアリティの観点から現代のロボティクスの延長というニュアンスで、縦軸型を採用していたんです。ただ、模型やアニメ表現的にはちょっと頼りなく見える印象があり、決定稿のデザインでは横軸式に変更しています。

──アニメーションのメカデザイナー的には、まずキャラクターとしてアプローチが基本になると思いますが、小柳さんの場合は先に構造としての条件を満たしたあとで、キャラクターとして成立させていくような感じですね。
小柳
 まず構造ありきで考えるのは、アニメロボットのデザイン手法としては一般的ではないのかもしれません。おそらくアニメーションのデザイナーさんとは、進め方が逆かもしれません。ただ我々は構造から考えるほうが慣れていますので。リアリティを考えたときに、我々ができることは、「製品として成り立っているか?」ということですからね。そこには組み立て工程やメンテナンス性、可動範囲も含めて必要な条件を出して、そこから逆算してキャラクターに乗せていく。その考え方は必然的に模型の設計にも生きてきます。特に今回は模型化が前提のプロジェクトだったこともあって、構造面はかなり重視して考えました。

──ジョウガンとレイキは若干脚の構造がケンブと異なりますが、これはあえて変えたということでしょうか?
小柳
 そうですね。ケンブが近接戦仕様で若干マッチョなラインであること対して、ジョウガンは腰を据えて射撃戦を行うという方向性で、四肢は若干細めです。対してレイキは滑空して敵を叩く機体ですので、ジョウガンよりも軽快なシルエットになっていますね。レイキに関しては、女性のキャラクターの機体で薙刀を使うということもあり、袴っぽいイメージも取り入れていますね。それぞれ戦闘スタイルによって、シルエットが変わるような特徴づけを行っています。主人公機側の機体という構造的な共通性は考慮しつつも、一目でわかるような点についてはキャラクター性でシルエットを変えることで対応しています。真っ黒に塗り潰しても、シルエットだけでそれぞれの機体がわかるようなデザインを目指しています。

──胴体や細部に共通性を感じさせるパーツが配置されているんですね。
小柳
 胴体、肩の関節や足首ですね。特に胴体の特徴であるシリンダーがあることで、機体の共通性を感じていただけるのではないかと思っています。自動車メーカーでも、基本のコンポーネントやエンジンを共通部品として、バリエーション展開するのが基本ですからね。考え方としては、それに近いと思います。

──胸のシリンダーはデザイン的にも模型的にも、非常に面白いギミックになっていますね。
小柳
 これは構造的というよりも、デザイン的なアイデンティティですね。もともとは大胸筋をイメージするような見せ場として、胸にシリンダーを設けたいなと思っていました。「戦闘兵器で胸にシリンダーがあるのは大丈夫なのか?」という心配はあると思うのですが、模型としてのギミックの面白さとキャラクターのポイントとしてこだわった点です。

HG メイレスケンブ 可動シリンダー
▲腕の可動に連動して伸縮するシリンダー。機械的な動きをギミックとして見せる役割と合わせて、シルエットこそ近いものの、ほぼ体の全パーツが異なるケンブ、ジョウガン、レイキに共通のイメージを持たせている

条件をクリアするごとに研ぎ澄まされたコンセプト

──現在のケンブに行き着くまでに、アニメ的にも模型的にもさまざまな意見があったと思います。実際にどんなオーダーがあったのでしょうか?
小柳
 特に今回は3DCGではなく手描きということで、「手描きで描きやすくしなければならない」という課題をクリアするのは難しかったですね。たとえば「オフセットした関節を曲げたときにどう見えるのか?」という点をはじめ、イメージしづらかった部分はあったと思います。

──デザイン的に変更を加えたのは、どんなパーツになりますか?
小柳
 たとえば関節にはモーターが収まっているので、丸いカバーをつけたくなってしまうんです。でも手描きで精度のある丸を描くのは難しいじゃないですか? ですから本来モーターが収まっているであろう場所も、直線で構成されたデザインに変更しています。

──では本来のデザイナーズエディション版ケンブであれば、関節は丸型なんですね。
小柳
 ええ、ですから映像展開のないビャクチはヒザ関節を丸くしてあります。ヒジなどはケンブと共通のために角張った形状をそのまま継承していますが、脚部はビャクチ専用のデザインなので、丸いデザインで行かせていただきました。

──ある意味、小柳さんのそのコンセプトの純度が高い部分が反映されているんですね。
小柳
 ただ片持ち式の関節はケンブのアイデンティティなので、ビャクチはあえて見慣れた両持ち式の関節にしています。

──なるほど。それは商品としてビャクチは最初に出ることを考慮されてのことでしょうか?
小柳
 そうですね。ケンブのような特徴的なヒザの関節をいきなり差し出されても、きっとユーザーのみなさんは戸惑うと思うんです。ビャクチはアニメが放送されていない段階で発売されるものですから、主人公側メカとしてのコンセプトは匂わせつつも、見慣れた構造+わかりやすくてかっこいいデザインを目指すという、せめぎ合いの中で生まれました。

──今回は商品の連動ということもあり、監修にも深く携わられたと思うのですが、どのような意見のやり取りがありましたか?
小柳
 アニメーターさんも戸惑われたと思うのですが、模型を作るBANDAI SPIRITSさんもかなり戸惑われたと思いますね。立体として最初の試作を見せていただいたとき、自分のイメージとかなり違う部分がありました。たとえばヒザとスネと太モモのバランスが少しでも崩れてしまうと、印象がかなり変わってしまうんです。そこはひとつひとつ説明しながら、自分の中にあるイメージをお伝えして、今のケンブの形に落ち着いています。ただ監修の回数を重ねるうちに、さすがBANDAI SPIRITSさんという感じで、後半に行くにしたがって狙い通りの形状になっていきましたね。

──ガンプラが現在のロボットプラモデルのスタンダードにある中で、BANDAI SPIRITSさんも相当試行錯誤があったと想像できますね。
小柳
 新規のオリジナル作品でお手本がないことや、まだまだメジャーじゃない片持ち式関節のメカをかっこよく見せるという難しさはあったと思います。それゆえに、みんなで試行錯誤しながら作り上げていくという。それゆえに新しいものを生み出すのは面白いのですが。

──羽原監督からリクエストで、もう少し胸を張るポーズを取れるようにしてほしいというオーダーがあったということですが。
小柳
 もともとの肩の可動域はボディに対して、90度ぐらいを想定していたのですが、羽原監督からのリクエストで背中にくぼみをつけて、肩が後ろまで動くように修正しました。これはさすが長くアニメーションに携わられている方の意見だなと思いました。合理性を追求すると、「そこまで肩は動かなくてもいいのでは?」と思うのですが、キャラクターとしての機能を考えると効果は大きかったですね。

──一方でBANDAI SPIRITSさんからは腰の可動域に対して、小柳さんからリクエストがあったということですが。
小柳
 そうですね。私の初期案ではでは腰部軸が4ヵ所あって、想定以上に腰が伸ばせてしまう状態でした。こちらが想定したプロポーションが変わるほど可動してしまうので、そこは3軸に抑えてもらったんです。横軸、縦軸、前後軸という3軸があれば、基本的に可動は成り立ちますし、機械として考えても過剰な関節や可動域は不要なんです。

──最初のコンセプトから、アニメや模型に至るまでに、さまざまなオーダーを取り込んで現在のケンブが完成したことがよくわかりました。
小柳
 たしかにこのデザインを実現するためにさまざまなものをそぎ落としていきましたが、コンセプトの強さが明確化したと思っています。

──おそらくこの腕部や脚部形状は、手描きアニメでは最初に「大変だからやめましょう」と言われるデザインだと思うんです。それがこうして手描きのアニメーションデザインとして生き残ったことに、とても意義があると感じますね。
小柳
 そう捉えてもらえるとうれしいですね。特に今回のプロジェクトは、立体としての意義が非常にあるプロジェクトだと思っていますので。模型で構造的な特徴を体感してもらうと、「こんな構造になっていたんだ」、「こんなに動くんだ」という発見があると思います。アニメで楽しんだあとは、立体だからこそわかる構造の面白さを楽しんで欲しいですね。

──本日はありがとうございました。
(2021年9月下旬、オンラインインタビューにて収録)

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