メーカー×モデラーエアブラシ放談 月刊ホビージャパン2025年5月号(3月25日発売)
“原始人状態”からの
試行錯誤こそ楽しい
矢 ほんと、メーカーの立場からするとはがゆいというか、一言「それはちょっと……!」と言いたくなることってたくさんあるんですよ。今アルティメットホワイトがすごく売れてるんです。でも、うちとしては基本はEx-ホワイトで、その使い方をするならアルティメットではなくてExのほうがいいはずなんですよ……みたいなことがたくさんある。
コ 「アルティメットホワイトは隠蔽力が高くて強力」って思ってる人が多いけど、あれでそのままグラデーションかけたりするんですよね。でも、隠蔽力が高いっていうことは顔料が多いってことだから、そういう使い方をすると表面が粒々になるのよね。
矢 そうなんですよ。そういう使い方だと光沢は出ない。SNSとかでそういう使い方を見かけると、ちょっと一言言いたくなっちゃうんですよね。X(旧Twitter)の投稿にいちいち突っ込むわけにもいかないんですが……。
コ ガンダムとかって白いところが多いじゃないですか。だからアルティメットホワイトを使いたくなる気持ちもわかるんだけど、いわゆるMAX塗りみたいな、エッジの部分に暗色の下地を透かすような塗り方をこの塗料でやると大変なことになりますよね。
矢 ほんと、そういうことを声を大にして言ってほしいんです! 影響力のある人が言うと違いますから(笑)!
け ただ、「アルティメットホワイトがいいらしい」って聞いて試して、上手くいかなくて他の塗料も使って試行錯誤するって、趣味の楽しさのひとつかなとは思いますよね。
R 僕もそういうことはすごく大事だと思うんですよ。昔の自分を思い出した時に「原始人みたいなことをやってたな……」って思えるのって、ステップアップした証拠だし、嫌な思い出にはなってないと思うんですよね。
充電式エアブラシの導入で
作業場のレイアウトが自由になる
R ちょっと最初の話に戻ると、エアブラシと塗装環境ということだと、ウチ的にもとんでもなく画期的なブレイクスルーがあったかというと、そうでもないところはありますね。
け 僕はこの数年でけっこうすごい変化があったと思ってるんです。それが何かっていうと、ポータブルのエアブラシがどんどん増えてることなんですよね。
一同 ああ~~!
け 充電式でハンディなコンプレッサーが登場した意味ってかなり大きいはずなんです。まず第一に、必要な電源がひとつ減る。エアブラシ塗装って、ちゃんと環境を構築しようと思うと電源がたくさん必要なんですよね。塗装ブースとか乾燥機とか光源とか、真面目に揃えようとしたら全部に電源がいる。それがひとつ減るというのは大きい。
コ スマホを充電しながらYouTubeも見なきゃいけないしね(笑)。
け そうそう。もうひとつ、作業場のレイアウトが自由になるんですよ。電源が机の左側にしかなくて、そっちにコンプレッサーを置いて右利きの人がハンドピースを操作すると、ホースが目の前を横切るんですよね。そういうしんどさが、ポータブルで可搬性のあるコンプレッサーが出てくると大きく減る。塗装ブースを部屋のどこに置いても、コンプレッサーの位置のほうを合わせることができるんです。
矢 無コンセント化ですよね。こないだポータブル型のコンプレッサーを買った人の話を聞いたんですが、どうやって塗ってるか聞いたら「ベランダに持っていって外に向けて吹いてる」って言うんですよね。これはある意味理想の塗装環境だなと思いました。もちろん簡易塗装ブースをおすすめしたんですが、空間的、予算的な都合で塗装ブースを置けない人にも、これなら「ちょっと買って帰りなよ」って言える。
け 安いですしね。我々の世代だと、それこそ次世代ゲーム機を買うくらいの覚悟でエアブラシシステム一式を買ったじゃないですか。「これからずっとこの趣味をやるんだな」っていう、覚悟みたいなものが必要だった。でも、今のポータブルなコンプレッサーだったら、15000円くらいで買ってこれる。
R 性能的にも決してダメじゃないですしね。うちからも昔編集部にポータブル型のコンプレッサーをサンプルとして提供したことがありましたけど、案外ずっと使ってもらってると聞いたことがあります(笑)。
け そうなんですよ。2本目としても全然使えるし、もっと高圧が必要になった時に改めて大型のコンプレッサーを検討すればいい。バッテリーにしたって「1時間くらい保つ」ってことが多いけど、1時間ずっと吹きっぱなしなんていうことはないから、だいたい一日作業できちゃうんですよね。
コ 聞いてると、自動車みたいなものなのかなと思いますよね。世の中の車が全部ランボルギーニだったら、最近免許取ったばかりの人ってどうしたらいいかわからないですよね。
け そうなると車には乗れないですね。
コ 「軽もあって、高級車もあって、自分のスキルや好みや経済状況に応じて好きに選べる」というのが理想の状態だろうし、希釈や圧力のことを安くてポータブルなエアブラシで学んで、必要であれば次のステップに進むっていうのは、新規ユーザーにとってもありがたい状態だと思います。
「街の模型屋さん」をネットで再現したい
R ホビーって、やっぱり新しく始めてくれる人がいないと続かないわけですよ。ポータブルなエアブラシも、裾野を広げるという意味ではとてもおすすめしやすい製品なんですよね。新しい人が入ってこなくなってプラモの市場が消えちゃえば、今プラモ好きな人はもう悲しいだけじゃないですか。だから、若い子でもお小遣い制の人でも買える道具があるっていうのは、とても大事なことですよね。そういう意味では、今大事なのって「情報」だと思ってるんです。
—詳しく聞かせてください!
R ちょっと塗料とかエアブラシの話からは外れるんですけど、今動画コンテンツってすごく大事なんじゃないかと思うんですよ。例えばさっきのアルティメットホワイトの使い方にしても、文字よりも動画と音声で説明されたほうがわかりやすいと思うんですよね。だから今日みたいに、詳しいおじさんが何人か出てきて、雑談ベースで「こういう違いがあって、こういう時にこうやって使うものなんだよ」っていうのを説明されたら、「マジ!?」って思って自分でやってみると思うんですよね。僕がRAYWOODのYouTubeでやってるのって、昔は情報交換の場だった「街の模型屋さん」みたいな状態を、ネット上に再現できないかっていう流れなんです。
コ 大きい会社だと小回りが利かないから、それって難しいんですよね。RAYWOODさんくらいの規模感じゃないとできないかも。
け それこそ、今上手くいってる人でも「新しくテクニックを吸収したい!」みたいなものはあると思うんですよね。「今吹けてるけど、本当にこれでいいんだっけ」って思って、そこで「こうすればよかったのか」という情報があればすごく助かるはず。まあ、そのために今雑誌をこうして読んでくれていると思うんですが!
R 繰り返しになるんですが、街の模型屋さんに行けばそういう情報が手に入った時代もあったんですよ。子供の頃、模型屋のレジカウンターでおっちゃんが筆塗りしてましたから(笑)。
け 名前も知らないけどその人がどんな模型が好きかはなんとなく知ってる……みたいな、変なコミュニティがありましたよね。まあ、意地悪な人もいましたけどね。「ジムできた~」って持っていったら、「キミ、なんでそのセンサーが右に付いてんの。おかしくない?」とか言われて。「知らねえよ~!」ってなってましたけども(笑)。
R そこは難しいですけど、他の趣味でも奥深い要素があるものならよくある現象ではあるんですよね。何かを突き詰めてる人が、逆に新しい芽を摘んじゃう。
け 自分の居場所を守ろうとすると、新しく来た人を取り込むよりも蹴り出したほうが早いんですよね(汗)。
R 生物が生き残るための本能ですかね……。
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