「奴さん、本気じゃなかったってことかよ……」
その時、ファクトスフィアが反応し、新月のコックピットに警告音が鳴る。
「こいつは!」
急にしゃがみ込んで防御姿勢をとる新月。両腕のブレイズ・ルミナスと両肩の輻射障壁を同時に発生させる。
「ぐっ! もってくれよ、新月!」
黒いナイトメアの猛攻に耐える新月。その背後から逃げ遅れたらしい母子が姿を見せ、駆けていく。それを目にしたらしい黒いナイトメア。急に攻撃の手を止める。
「なに?」
ハクバが驚いたのも束の間、鞠熾天は興味をなくしたかのように飛び去ってしまう。
「なんだったんだ、あいつ」
「ハクバ、大丈夫?」
「なんとかな。しかし……」
戦闘が終わったことを察したサトリから通信が入る。ハクバはなんとか応答するものの、目の前には凄惨な光景が広がっている。目につく死傷者はいないが、ワールドアヴァは壊滅したといっていい状態だった。
「酷いな、こいつは。これをさっきの奴がたった一機でやったのか……」
「どうする? 調査を続ける?」
「いや。意味がないだろうな、これじゃあ」
「だよね」
「奴さんの正体を探るのが最優先事項になるだろう。一度日本に戻って姫に報告する必要があるな」
一方、その小さな町で起こった一部始終を、謎多きレディ・レディも注視していた。そして、黒いナイトメアが飛び去った方向を見つめて首を傾げる。
「う~ん。やっぱり、わかんないなぁ」
翌日、再開発の進む東京の新宿にあるエージェント新月の事務所。その一階のガレージの奥で、新月に記録された黒いナイトメアの画像を、顔立ちの整ったブリタニア人の青年が解析している。彼はエージェント新月でメカニックを担当するドク・ジョブズ。彼もハクバの隣で小首を傾げていた。
「う~ん。わからないな」
「ドクでもわからないか」
「ハクバの言う通り、紅蓮系の機体に使用されている火炎型フレームで間違いないと思う。それに外装も紅蓮聖天八極式に酷似している部分が多いんだけど……」
「じゃあ、その紅蓮聖天八極式の派生機体なんじゃないの? 私たちが知らないだけで」
人気のファーストフード店で買った大量のフライドポテトをつまみながら、サトリが話に割り込んでくる。
「ああっ! サトリ、ラボに油もの持ち込むなっていつも言ってるだろう!」
「別にいいじゃない。ナイトメア用の潤滑油とか転がってるのに」
「それとこれとは別!」
「こら、ケンカするな。それより、サトリの言う派生機って線はないだろうな」
「そうだね」
「えっ? なんで?」
「あの紅蓮聖天八極式ってのは、元々紅月カレンがブリタニア軍に捕まった際、一緒に鹵獲された紅蓮可翔式が改造された機体だ」
「かの無職の天才、ロイド・アスプルンド博士とセシル・クルーミー氏のふたりによってね。つまり、設計図もないようなワンメイドの機体ってワケ」
「それに紅蓮系でいうなら、最新の紅蓮特式が3年も前にロールアウトして、ハシュベスの戸惑い事件に実戦投入されている。今さら紅蓮聖天八極式の派生機を作る意味がない」
「そっか。どうせ作るなら、作り方のよくわかんない聖天八極式よりも特式の派生機を作るもんね」
「そういうこった」
「ふうん」
感心しながらフライドポテトを頬張るサトリ。空になった紙容器を丸めてゴミ箱に捨てようとするが、ドクに睨まれる。
「そのゴミ、ここで捨てないでよ」
「わかってるってば。もう」
捨てる気満々だったことは誤魔化しつつ、仕方なく手にしていたゴミを上着のポケットに突っ込む。
「あれ?」
ポケットの中で手に当たった何かを取り出してみると、それは香港で拾った認識表らしきもの。
「そういえば、ポケットに突っ込んだままだった。ねえ、ハク……」
「とにかく、この画像を持って姫に報告に行こう。話はそれからだ」
サトリが声をかけようとするも、ドクが解析したデバイスを手にしたハクバは、足早に車へと向かう。
「ええっ!? もう?」
「善は急げ、って言うだろう?」
「待ってよ~」
置いていかれまいとするサトリ。認識票らしきものを慌ててポケットに突っ込み直して、その後を追いかける。
湾岸地区から新宿へと高速道路を走る一台のトラック。荷台には10名ほどの武装した兵士。その一人がタブレットに映る地図に表示された光点を見つめている。
「黒い紅蓮タイプが?」
海から少し離れた高台。静かな鎌倉の別荘地の中にその洋館はあった。質素ながらも広い庭園を持つそこは、政界から離れた皇神楽耶が所有する邸宅のひとつ。その中庭に置かれた日除けの傘付きのテーブルでハクバたちの報告を受ける神楽耶が声を上げる。
「ええ。例のPMCの調査に向かったんですが、一足先にそいつが暴れ回ってました。何かご存知で?」
ひとりだけ立ったままのハクバがドクに視線で促す。それを受けてドクが神楽耶の前に差し出したタブレットには、先ほど解析した黒いナイトメアの画像が映し出されている。
「いえ。紅蓮聖天八極式の復元や製造は、統合打撃装甲機計画にも含まれていません。基の機体もパール・パーティーに保管されているはず」
「では、超合集国も黒の騎士団も、こいつの存在は把握していないと?」
「はい。黒の騎士団ではすでにフラグシップモデルとして紅蓮特式が開発されています。今になって聖天八極式を複製することなど……」
「やっぱりそうですよねぇ。なら、こいつは一体……、っ!」
生垣の奥からのわずかな駆動音に気付いたハクバ。咄嗟に神楽耶を抱きかかえ、突っこんできた大型のトラックを避ける。
「うわあっ!」
「な、なに!?」
地面に転がりながら驚くドクとサトリ。トラックはテーブルを跳ね飛ばしながら、逆側の生垣の前で急停車する。
「姫様!」
「姫は無事だ。あとは頼むぞ」
「はい!」
異変に気付いて館内から飛び出した護衛に神楽耶を引き渡すと、トラックに向かって駆け出すハクバ。荷台から降りてきた兵士の首を折って盾代わりにすると、続く兵士たちに向かっていく。
「護衛の人たちは姫様を安全な場所に!」
「サトリ! 運転席からも出てきた!」
「くっ! ハクバは手一杯だし、私がやるしか!」
サトリがコルセットの背から銃を引き抜いて撃つ。しかし、運転席から降りてきた正体不明の兵士の防護服に阻まれ、決定的な打撃を与えられない。それどころか、手にしたアサルトライフルで撃ち返されるので、サトリとドクは慌てて倒れたテーブルの陰に隠れる。
「この銃じゃ、あの装備には通らないか……」
「ど、どうする?」
長い手足を必死で丸めてテーブルの陰に隠れているドクは、戦闘担当でないがゆえに焦りの表情を浮かべている。運転席と助手席から降りてきたふたりの兵士は、そんなことはお構いなしに発砲しながら徐々にサトリとドクが身を隠すテーブルへと近付いていく。
「サトリ! ドク!」
ハクバも運転席の兵士の動きに気付いて向かおうとするも、いかんせん荷台の兵士が多過ぎて身動きが取れない。
「やるしかないか!」
意を決したサトリ。テーブルから飛び出そうとしたその瞬間、どこからともなく黒い影が舞い降りる。人間業とは思えない回転蹴りで、サトリたちに向かっていたふたりの兵士を薙ぎ倒す黒い影。その影の正体は、誰しもが知る英雄。
「ゼロ!」
そう。黒の騎士団の総帥である仮面の英雄、ゼロ。
驚くサトリたちの前に降り立ったゼロは、正体不明の兵士たちを睨み付ける。
ep02 END
【コードギアス 新潔のアルマリア】
-特別エピソード-
-本編-
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