HOME記事ガンダム『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』対談! 貴重なコンセプトデザインとともにメカクリエイター達が『復讐のレクイエム』を語る!!

『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』対談! 貴重なコンセプトデザインとともにメカクリエイター達が『復讐のレクイエム』を語る!!

2025.01.19

メカクリエイター対談 山根公利×SAFEHOUSE 鈴木卓矢 月刊ホビージャパン2025年2月号(12月24日発売)

──他にザクのデザイン面で気にされた部分はありますか?

山根 CGにすることによってより現実的なビジュアルになるわけですよね。そうなると、模型とは違う、動かすことで不自然に見えてくる部分があると思ったんですよ。例えば『MS IGLOO2 重力戦線』のときに、ザクが走ると腰の装甲板がかなりバタバタと揺れる。アニメだったら、安彦良和さんが描くような柔らかい素材のように曲げたりできるけど、あれだけ面積の大きいものがバタバタするのは無駄な動きに見えないか? リアルに見えるのか? という不安は今回あったんですよ。そういう部分から腰周りのデザインをちょっと変更して、動く装甲板を質量的にもちょっと小さくできないかと考えたりはしました。もうひとつ変えた理由というのは、キャラクターとのマッチング。企画書をもらった段階でキャラクターやコスチュームのデザインも出来上がっていて、それが今までとは明らかに趣が違う。キャラクターやパイロットスーツのデザインが違うのにモビルスーツが同じ印象でいいのか? という思いもあって、何か変えるべきだろうと。だからモビルスーツもこの世界独特の雰囲気をもたせていったという経緯もあるんです。ザクのコックピットが胸の中央なのも監督の演出上の依頼でしたが、これまでのザクとの差別化の意味も考えた結果の決定でしたね。

──鈴木さんはモビルスーツをモデリングするにあたっては、どのように考えて作業されましたか?

鈴木 僕のイメージとしては、初期の段階ではモビルスーツ=兵器という考えしかなかったんです。だから、最初は兵器としてリアルにするのであれば工業製品のような見せ方をすべきだろうと思っていました。ただ、モデリングしていく上で、このデザインが兵器として完成した場合、感情移入できるかといえば、できないなと感じたんです。やはりモビルスーツはパイロットの感情の依代として映像化すべきであり、だからただの兵器ではなくてキャラクターとして造形をしなければならない。それに途中で気付きまして。そこからできるだけ人間のアナトミー(生体構造)に近い感じのシルエットに寄せていきました。

──そうした試行錯誤があったんですね。

鈴木 僕のもつ兵器観でモビルスーツを作っていくと、どうしても山根さんの描かれた印象に寄らなかったんです。そこで、人間の筋肉とか骨格というアナトミー的なものを重ねてみると、山根さんの描くイメージに近づいていったんです。その結果、歴代のガンダムと同じようなキャラクター性が出せたように思います。

山根 僕はリアルタイムでのいわゆる“ファーストガンダム”世代になるんだけど、初めて白いガンダムのデザインを見たときは、それ以前のスーパーロボットに比べてすごく人間的なデザインだなって思ったんです。ふくらはぎがある肉感的なデザインで描かれていて、画面では安彦さんの作画によってすごく人間的に動く。だから歩兵っぽいロボットなんだなというのがすごくあって。それまでのスーパーロボットの流れを残しつつも、人間的なロボットとしての見せ方にインパクトがあって、先ほど鈴木さんが言われていたアナトミー的なリアルな印象を中学生ながらに感じたのは覚えていますね。だからその人型ロボットを今のCGの解像度で見たときには、より人型に近くあるべきだと。そういう部分で、機能的にも例えば今回のガンダムEXやザクの足底部には親指のように機能する分割を入れたりしているんです。

──解像度を上げる見せ方をそのように解釈されているわけですね。

山根 僕がガンダム関連のメカのアレンジをするときは、大河原さんや安彦さんはガンダムやザクのモデルになる実物のロボットや兵器をアニメ用の設定として簡略化して描いていると想像し、その実物を再現しようとイメージしているんです。ガンダムEXももしかしたらこういう実在のメカを大河原さん、安彦さんが見て、それを簡略化してカッコよく描いたものがアニメの設定画ではないか? そういう考え方のデザインなんです。だからガンダムEXの腕はアニメでは描きやすい直線的な処理ではなく、筋肉的な流れのある曲線を入れて、より人間的な感じのシルエットになるようにというところがありますね。

──鈴木さんとのやり取りにもそうした部分が活かされているんでしょうか?

山根 SAFEHOUSEさんとモデルのやり取りをするなかで、最初に出てきたのがちょっと固い感じというか、人間的じゃないところがあったんです。それを鈴木さんがちょっといじってくれて、自分が肩部の装甲は平面的な形状で描いていたのを、ラフのイメージから汲み取って丸みを帯びた形にしてくれて。それがすごく新鮮でしたね。自動車のボディなんかでも真っ平らな部分はなくて、必ず少し丸みをもたせて強度を出して、あとは光と影の流れを形状で演出するところがあるんですが、それをガンダムの肩とかボディの各部に埋め込んでくれたことでより人間的で面白い形状になったと思います。

鈴木 平面で作ってしまうと、CGで光が当たったときに光りすぎてしまうんですよね。スケール感を出すために光が歪んで入るというのはCGならではの技術だと思うので、そういうものを入れ込むことでガンダムが少しでも大きく見えるように努力しています。

山根 僕もそこは鈴木さんが考えられて作成されたと思っていたんです。さすがだなって。今回は自分でデザインをやっていくつもりはなくて、最初からSAFEHOUSEさんと共同でデザインを作っていくという考えでいて。だからSAFEHOUSEさんからあがってくるものは基本的に拒まないし、面白いものはどんどん取り込んでいくスタイルでいこうと。新しい血はどんどん入れるべきだと思うので、これまでガンダム作品を作ったことがないSAFEHOUSEさんがどういうものを出してくるのか楽しみで仕事していたところはありますね。

──ガンダムEXに関してはどのようにデザインを手掛けられたのでしょうか?

山根 さっき言った最初のガンダムがもつ歩兵的なイメージに加えて、シナリオの雰囲気から今回のデザインができています。ギャビン・ハイナイトさんの脚本は映像では表現されていないシーンもあるけれど、冒頭からホラーチックで、ものすごく怖がらせてくる感じがあって。ヨーロッパの伝記的なホラーの要素を入れてみたいというのがありました。それで死神的なイメージや森に潜む謎の獣、そういう雰囲気を出したいなと。そこで、死神といえば骸骨がわかりやすいと思い骨がモチーフになっているんです。

──なるほど。そういう経緯であのビジュアルに。

山根 顔のドクロ的な雰囲気もそうだし、全体的に骨っぽい感じのディテールを色も含めて再現してもらって、一部はちょっと肉が見えているような。継ぎはぎされた体のフランケンシュタインの雰囲気なんかも入れつつ。

鈴木 実際の兵器として考えると、足を作って、大腿部を作ってとだんだんと組み立てるイメージがあるんですが、ガンダムEXのデザインはある程度ベースとなるフレームが決まっていて、そこにパーツが加えられている感じになっている。その構造によって生きているって感じが出るんじゃないかと思いますね。

山根 そうですね。もちろん、こういう形にしておけばCGとして動かしやすいんじゃないかというのをちょっと考えて描いていた部分があるんですよね。

鈴木 ガンダムは腰周りがすごく細かくパーツ分割されていて、激しく動かす作業がやりやすかったです。アニメだと伸びたり縮んだりと誤魔化せるんですが、CGだと曲がらないところは曲げられない。だから、RX-78-2ガンダムだと腰と胴体はほぼ動かせないし、肋骨がないからツイストもできない。ガンダムEXはフレームの上に細かいパーツが付いていることで、パーツを逃がして重ねるような表現ができて、最大可動域を広げる感じになっているんですよね。

山根 例えば手首は、四角い前腕に手首のパーツが付いているだけのデザインだと、内側にも外側にも曲げられない。これも昔『U.C.HARD GRAPH』の商品で、1/35ガンダムの手だけを作った際に、手首の可動に関してはすごく悩んだ記憶があって。小さい関節を基部付近に付けて誤魔化すしかなかったけど、強度的には不安で。そういう悩みを解消するような方向性というのは今回いろいろと考えていましたね。今回、もうひとつポイントがあって、それはこの作品がNetflixを通して、全世界同時配信というこれまでにない新しい形で公開されるガンダム作品の映像であるということ。ある意味、世界の人たちに改めて「ガンダム」というものを知ってもらう宣伝的な意味を持つ作品になると企画書をもらったときに聞きました。だから、これまで「ガンダム」を見たことがない人にも、ガンダムがどんなロボットなのかを知ってもらいたいというのがあったんです。それこそ、最初の『機動戦士ガンダム』から『ガンダムUC』、『Gのレコンギスタ』も含めて、あらゆるガンダムのデザインやイメージを一部ずつ入れた寄せ集めみたいなディテールにしてしまおうというのもあったんです。細かく装甲が分割されているのはユニコーンガンダムかもしれないし、ちょっとずつフレームが覗いているのは『ガンダムSEED』っぽい。足首の丸さはG-セルフやVガンダムというような感じで、いろんなガンダムの要素を入れて、看板的にしようと。シルエットに関してはRX-78的なんだけど、ディテール的にはいろんなガンダムが入ってますよと。第1稿はそんなお遊び的な意味合いも含めて描いたんですけど、それがそのまま通っちゃったから「どうしよう」という気持ちにはなりましたね(笑)。

ガンダムEX コンセプトデザイン

『復讐のレクイエム』ガンダムEXコンセプトデザイン
▲武装の位置などが決定稿とは異なるが、基本的な方向性が決まっている。カメラアイの発光パターンなどもこの段階で描かれている

──CGにおける質感に関してはどのような取り組みを?

鈴木 今回は本当に大変でした。そもそもガンダリウム合金が何色なのか誰も知らないんです。ガンダムEXも塗装されているんですが、話数が進むごとにダメージを受けて、剥がれた塗装の下がどうなっているのかわからない。そこで、演出として関わった(クレジットは「ディレクター・オブ・フォトグラフィ」)笠岡淳平さんと話しながら「金属なのは間違いないので、そのように表現しましょう」ということで落ち着きました。今回は、リアルにするというところでの弊害もいろいろあったなと思います。例えばビーム・ライフルはすごく強力なものだけど、それをどういうふうに見せるかというところで現実ではありえない表現をしたりもしていますし。いろいろと小さい嘘を積み重ねて本当っぽくするみたいなことがたくさんありましたね。

山根 僕も「ガンダムって何でこんなに装甲が硬いんだろう」って思っていたけど、今回は平面的な装甲で防いでいるんじゃなくて、装甲の丸みが弾を弾くというのもガンダムEXの肝というか、そういう解釈もできるような気付きがありました。やっぱり、ガンダムって当然ながらザクのあとに登場したぶんジオン軍のモビルスーツを参考にしているところがあって、実際の兵器のようなそういうミッシングリンクもあっていいのかなと。装甲の形状なんかにザクを参考にした部分が残っていて、試作型としてのいびつさが出せるだけでも面白いなって。直線と曲線がチグハグな感じで組み合わさっている部分が試作機らしい「完成されてない」感じになるのかなとも思ったんですよね。

鈴木 ジオンと連邦では表現を使い分けようと描いている部分があって、連邦のほうはわりとスタイリッシュ、ジオンのほうは泥臭い感じで。ガンダムはていねいに塗装されているけど、ザクはペンキを厚塗りしたようなオールド感をもたせた質感で表現しています。このマッシブな形状のザクをどうやって重く見せるかが難しいところで、やっぱり金属が重く見えないと、重量のあるものが動いているふうには見えない。だからペンキを厚塗りしたような凸凹感、例えば僕たちがよく見る駅の柱のような雰囲気を出せば伝わるかなと思いました。僕がいつも気を付けているのは、人の記憶のフックに引っかかるような表現なんです。ザクの装甲の質感を重く、ガンダムをスッキリさせることで、質感の違いでスピードの違いが表現できるんですよね。そこはCGならではの部分だと思います。

山根 その辺りはデザインの形状も相まって画面がよくできていましたよね。後付けの設定は笠岡君がSAFEHOUSEさんとの間に入っていろいろと取りまとめてくれて。

鈴木 やり取りのなかで、ガンダムのバルカン砲やドラムマガジンの位置なんかは監督からの注文でちょっと変わったりしましたね。

山根 ブロスダウ監督が「ここに付けたい」と言って、ラフデザインの肩から背中に位置が変わったんだよね。最初のRX-78-2ガンダムは頭部に60mmバルカンが入っているという、当時の巨大ロボアニメ的仕様の設定自体に本当は無理があったけど、バルカン砲を使うところは見せたいということもあるのかな。肩にあると壊れちゃうからという意見もあって。そこもアニメ表現からの変化ですね。最初にシナリオを読んだときに、すごくハリウッドテイストを感じましたが、でもそこが今回の世界同時配信するところの大事な部分なのかなと。エンターテインメントと割り切って、派手なハリウッドテイストらしさを出すならば、それに似合うバルカン砲を付けようという感じでした。

──ビーム・サーベルのマウントの仕方もアプローチが変わりましたね。

山根 これもサザビーのファンネルコンテナみたいな付け方を意識しています。実際にビーム・サーベルがランドセルに固定されていると自分で抜くのが意外と難しいかなというのも。マウント部分がちょっと動いたほうがロボット的には自然に抜けますし、機械的な動きの演出意図も含めて可動式を提案しています。シルエットとしても戦車のスモークディスチャージャーのようにも見えるので。そういう戦車っぽいシルエットも取り入れたいというのもありました。劇中では、登場シーンでの収納時のビーム・サーベルが怪獣の背びれみたいに見えて面白かった。いい感じで描いてくれたなと思っています。

──ガンダムEXは後ろから見ると兵器的ディテールが散りばめられている感じも特徴的ですね。

山根 背中はSF映画の兵器メカ的ですよね。見慣れた未来的雰囲気がありますが、ガンダムの兵器としての説得力を感じさせるディテールでした。ブロスダウ監督はガンダムのバルカン砲やザクの動力パイプに関しては、接近戦をする時に邪魔になるし、壊れやすく見えるからというところをすごく気にされていて。そうしたこだわりを汲みつつ、ガンダムについては装備を背中に集中させることで結果的にそのレイアウトがRX-78-2ガンダムのシルエットに近くなったので、そこも良かったですね。

──ザクは各部にツインメリットコーティングが入ったりなど、細部ディテールも兵器的ですね。

鈴木 人目線でカメラを入れると、ザクの足下がよく画面に現れるんです。だからそこにはテクスチャーやパーツを配置しています。

次ページ──ザクのバリエーションやジム等

ⓒ創通・サンライズ

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