【コードギアス 新潔のアルマリア】ep01「出会いはいつも突然に」
2025.01.07 盛んな貿易のために、巨大なコンテナがひしめき合っている湾岸地区の九號コンテナターミナル。その中にあるウォン商会の集積所は、さながらオークション会場のように設えられている。簡易的なステージとランウェイ。そのまわりのテーブルには仮面で顔を隠した正装姿の紳士淑女が、オークションの開催を今か今かと待っている。
「皆さま、お待たせしまた。これよりハッピーチルドレンのオークションを開催します!」
と、これまた仮面をつけた司会者が大仰に煽り、ランウェイにスポットライトを向ける。
「それでは、今宵の商品を皆さまにご覧いただきましょう」
司会者が合図すると、銃を持った男たちに促されて、手錠をされた6歳前後の子どもたちが一人ずつ、ステージに向かってランウェイを歩いていく。「おおっ」と沸く観客たち。その声に怯えた一人の少女が足をもつらせて転んでしまい、恐怖と不安で嗚咽を漏らす。
「客前だぞ! 泣いてんじゃねぇ」
泣く少女の近くにいた男が苛立ちつつ銃を向ける。
「おやめなさい」
すると、検査着のような不思議な服を着た別の少女が、泣いている少女を庇うように男の前に出る。
「なんだ?」
怪訝な顔をする男を尻目に、転んだ女児を起こすと「あなたはお行きなさい」と前の子どもについて行くように促す。
「何も知らされず、このようなところにつれてこられたのです。泣くな、というほうがむりではありませんか?」
舌足らずながらも、大人びた発言をする少女に驚きつつ、さらに苛立つ男。
「うるせぇ! ガキのくせに偉そうに!」
「うるさいのはあなたのほうです」
「このガキ!」
グリップの底で殴ろうと銃を振り上げる男。
「確かに大の大人が声を張り上げるなんてみっともないよなぁ」
少女が殴られそうな瞬間、飛び込んできたハクバが、銃を左手でいなしながら、右手で男を殴りつける。
「なあ、お嬢さん?」
そして、少女を軽々と抱き上げると、流れるような動きで銃を持った男たちに蹴りを見舞っていく。
「ミスター、おもくありませんか?」
「うん? 花束を持ってるのと変わらないかな」
「まあ、すてきなことをいってくださるのね」
「そうかい?」
客席から悲鳴の上がる中、ハクバを取り押さえようと何人もの男が襲い掛かるが、ハクバはものともせずに蹴りを見舞っていく。
「ミスター、ごじのほうこうからワルモノがきます」
「ナイスアシスト」
左腕に抱えられて後方を見ていた少女のアシストに従って、ハクバは右手で裏拳を出し、襲ってきた悪漢の鼻っ柱を殴打する。
「何をやっている!? 早くそいつをなんとかしろ! 相手はたったひとりだぞ!」
「残念。ひとりじゃないんだな」
指示を出す司会役の前に現れたのは、追いついたサトリ。その左目に怪しい光が灯る。
「あの子たちの手錠の鍵はどこ?」
「はあ? 俺の右のポケットに入れてあるよ……、えっ?」
「ありがと」
そう言うと、サトリは司会役のアゴに掌底を叩き込んで昏倒させてから鍵を抜き取り、ステージ上で怯える子どもたちのところに向かう。
「に、逃げろ!」と旗色が悪くなったことを感じ取った客たちが次々と出口に向かうが時すでに遅し。駆けつけた黒の騎士団の突入によって一網打尽となる。
「さすが黒の騎士団。仕事が速い」
最後のひとりに手刀を入れて昏倒させたハクバのもとにサトリがやってくる。
「タイミング、バッチリだったね」
「ああ。サトリのその格好以外は完璧な結果だ」
「ちょっ! せっかく潜入のために頑張ったのに!」
「そうですよ、ミスター。レディがおしゃれしているのですから、まずはほめないと」
「これは、失礼」
少女に言ったのか、サトリに言ったのか、どちらかわからない程度の謝罪をするハクバを尻目に少女の手をとるサトリ。
「ありがとね。でも、この人に女心を理解しろっていうのは難しい話しかも」
そう言いつつ、少女の手錠を外す。
「怖かったでしょう。でも、これで大丈夫よ」
「ありがとうございます。でも、このかたのおかげで怖くはありませんでした」
「肝の座ったお嬢さんだ」
少女の冷静さを称えながら少女を下ろすハクバ。なぜなら、黒の騎士団の部隊長が女性隊員を連れてやってくるのが見えたからだ。
「ご協力、感謝します。エージェント新月」
「いや。こちらこそ急な通報にも関わらず、迅速な対応をいただいて感謝しています」
「では、そちらの子は私が預かりますね」
「お願いします」
女性隊員が優しく促すが、少女はハクバのそばから離れず、ハクバの顔を見やる。
「ミスター、もうおわかれですの?」
「ああ。君はもう自由だ。家に帰れるんだ」
その言葉を聞いて悲しそうな顔をする少女。
「……そうですか。では、せめてあなたのお名前を」
「名前?」
今度はハクバが困った顔をする。少女の顔をちらりと見ると懇願するような表情。その顔に亡くなった娘を重ねてしまい、観念する。
「ハクバ、宗賀ハクバだ。本当は秘密なんだがね」
少女の耳元に顔を近づけ、自身の名を告げた。パッと花が咲いたような笑顔になる少女に、ハクバは自分の口に指を立てて「秘密で」と目線を送る。
「はい!」
そう頷くも、名残惜しそうに女性隊員に連れて行かれる少女。その姿を見送るハクバにも亡き娘への想いが首をもたげる。
「あれ?」
少女を見送るハクバの隣で、会場に何かを落ちているのを見つけたサトリ。拾い上げてみるとそれは認識票のようなもの。
「何だろう……?」
「俺たちもそろそろ行くか」
「あっ、うん!」
ハクバがくるりと踵を返すので、サトリは拾った認識票らしきものを咄嗟に上着に突っこんでしまう。
主催側の男たちや客たちが連行される中、ハクバとサトリが集積所の外に出てくると、イザヨイのエージェントとなった双葉彩芽が待っている。
「お疲れ様でした、エージェント新月。そんなおふたりに言うのは心苦しいのですが……」
「姫からの次のミッションだろう?」
「ええっ! もう?」
「はい。詳しいことはこのメモリに入れておきましたが、中東でPMCを自称する組織が武器を集める動きがあるという情報が入りました」
「そいつは早めに調べた方がいいな。武装蜂起に繋がりかねない」
双葉からメモリデバイスを受け取るハクバ。
「あ~あ、香港の晩御飯を満喫できると思ったのになぁ」
「まあ、そう言うな。向こうでマンゴジュースを奢るからさ」
肩を落とすサトリを励ますが、サトリはありありと不満と落胆を表情に出していた。
数時間後。
香港を発ったハクバたちは中東の小さな町に着く。そこは件のPMCが拠点としており、町全体が基地兼生活場所となっているようだ。
「なにがあったっていうんだ……」
ナイトメアフレーム新月に搭乗し、PMC制圧のために訪れたハクバが驚愕する。なぜなら、町の至る所から火の手が上がり、装甲車、戦車、ジープ、ナイトメアなどの残骸が積み上がっているからだ。その時、新月のファクトスフィアが銃声を拾う。慎重に銃声のした方に向かうと、PMCのナイトメア3機が、空中を浮遊する何者かに向かって発砲している。しかし、次の瞬間、3機が一斉に爆散し、その爆炎の中から黒いナイトメアフレームが姿を現した。
「あの黒いナイトメア。あいつがこれをやったのか……」
ゆっくりとハクバの駆る新月に向かって歩み来る正体不明の黒いナイトメアフレーム。その姿は、かつて枢木スザクを破った英雄、紅月カレンの紅蓮聖天八極式に酷似していた。
ep01 了
【コードギアス 新潔のアルマリア】
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