プロモデラー・NAOKIがシャープ化、スジ彫り、段落ちモールドの作り方をΞガンダムを教材に徹底解説! 圧倒的な美麗作例の舞台裏【ガンプラ技の45年史】
2024.11.20RX-105 Ξガンダム【BANDAI SPIRITS 1/144】 月刊ホビージャパン2024年12月号(10月25日発売)
■段落ち加工は意外と簡単
──段落ちモールド(H)はどうやってるんですか?
NAOKI モールドを追加したい箇所にイメージに近い形で鉛筆でアタリを書き込みます。その幅をスジ彫りノギスで測りガイド線を彫る。ちなみに今鉛筆で書き込んだアタリの幅って…。
──(計測してみる)えーと、1.92mmくらいですかね?
NAOKI ね、半端な数値になるんですよ。このアタリ線を定規で測り取っていくと、どうしても定規の目盛りで測れる近似値を取っていかなければならなくなる。けど、それは自分が気持ちいいと感じた線と必ずしも合致しないかもしれない。ところがノギスなら自分が目分量で入れたアタリ線を数値に頼らずピッタリ写し取れるので、それも重宝している理由なんですよ。
──なるほど。そんなこと思いもしなかったですよ。
NAOKI 本当に細かいこだわりですが、そういった数値で測りきれない感覚的というか、ニュアンスの部分を大事にしたいということでもあります。工作に戻ると、縁と並行なラインが取れたら、左右の斜めのラインは、これもノギスで測って両端点を跡を付けてそれ繋げるようにナイフでアウトラインを取ります。その内側をナイフなどで彫ってタガネで底面を平坦に整えて完成です。
■時にはフリーハンドで
NAOKI これくらいの距離にモールドを彫るんだったら、フリーハンドでいけます(J)。鉛筆のアタリに沿ってナイフを入れる。この時刃を少し斜めに寝かせるのがポイントです。そして反対側から同様に刃を寝かせて同じラインをなぞる。そうするとV字のラインが彫れます。慣れてくればタガネより細い線も引けますし、何よりいちいちガイドテープを貼る手間が減る(笑)もちろん断面をV字ではなく凹型にしたい場合は、彫ったラインをガイドにタガネで引き直せば良い。反対側にも同様のラインを引きたい場合は、先ほどの段落ちモールドの時と同様、彫ったラインの両端点をノギスで測り取ってトレースすればOKです。フリーハンドできれいな直線が引けるようになると表現の幅が圧倒的に増えます。覚えておいて損はないと思いますよ。
■マイナスモールド
NAOKI ヒザ横のマルイチパーツ側面の四方に0.6mm幅のモールドを彫ります(I)。アタリを書いたらその長さをスジ彫りノギスで読み取り、先端で印を彫ります。その印をガイドにナイフでV字を彫り、0.6mm幅のタガネで線を整える。作例ではモールドの先端を丸穴にしたので、先ほどの印をガイドに0.6mm径のピンバイスで穴を掘り、同様の工程でモールドを彫っています。
──こういう、端部ではなくて面の中に存在するマイナスモールド(K)はどうやっているんですか?
NAOKI 同じ角度になるよう注意しながら鉛筆でアタリを書き込みます。アタリをガイドに入れたい長さの幅のタガネを少し角度を付けて押し当てます。これで跡は付いたので邪魔になる鉛筆のガイドはこの時点で消します。そしたら反対側から同様に少し角度を付けて押し当てる。これで入れたい長さのV字の溝が彫れたので、底面を任意の幅のタガネで整える。写真の箇所では小さい方が0.2mm幅、大きい方が0.4mm幅ですね。慣れれば比較的簡単な作業です。
──…いろいろ見てきましたが、いやー、どれも参考になります。
NAOKI どれもそんなに難しいことはしていないし、慣れれば誰にでもできる作業だと思います。繰り返しになりますが、ディテール工作は本当にケースバイケースです。この道具を使わなきゃきれいに彫れないとか、この彫り方じゃなきゃいけないとかはなく、本当に場所やサイズによりけりで自分もいろいろ変えてますし、これはあくまで自分に合ったやり方であり、他の人には他の人に合ったやり方があると思います。参考にしてもらえればうれしいですけど、最終的にかっこよければOKなので、自分に合ったやり方をいろいろ試してみてください。
──ありがとうございます。それでは、引き続きクスィーの仕上げをお願いします!(笑)
今回はスジ彫りなどを中心としたディテールアップをテーマに、クスィーガンダムを製作しました。具体的な方法などは他のカットで紹介していますので、こちらでは概念的なお話を。
まず、何のためにディテールアップを施すのか。ひとえにディテールアップといってもさまざまな表現や方向性があるかと思いますが、共通するのは情報を追加していくことで模型をより緻密に見せられるということです。では緻密に見せる目的とは何か。まず、実機があると想定して、その縮尺模型としての(架空の)再現度、説得力を持たせるためのディテールアップ。もうひとつは、たとえばガンプラであれば12〜20cm前後の立体物としての情報量を増やし、現物サイズなりの見映えを上げるためのディテールアップ。
あらかじめ断っておきますと、このふたつのどちらかが正解でどちらかが間違っていると言いたいわけではありません。自分で作る模型なのだから自分が納得できるように作るのが正解です。ただ、このふたつは同じように思えますが、そもそも目的からして異なります。そして実物が存在しないキャラクターモデルのディテールアップは、そのどちらもが重要だと考えます。
上記を踏まえて自分がディテールアップを施す際に考えていること。本来、実在する(であろう)パネルラインなどは、1/144という縮尺を考えれば細過ぎて省略されてしまうのは、倍の縮尺である1/72飛行機モデルのパネルラインなどを見れば一目瞭然です。それでも(1/144であれば)15cm前後の立体物の見映えとして考えた時に、それらの情報量があると緻密に見えて模型としてかっこいいと思うからこそディテールアップを施すわけですが、それらが言わばデフォルメであると認識しつつ追加するのか否か、という前提条件の意識でそれらの説得力が変わってきます。
さらに、パネルラインやディテールアップがデフォルメ表現だったとして、ではどこでスケール感を演出するのか。それは、エッジの厚さ(薄さ)だと考えます。パネルラインの再現などはスケールを考慮すればむしろ省略したほうが正しいという結論に行きつきかねませんが、実在する飛行機などのインテークやフィンから想像されるモビルスーツのダクト類の断面やフィン先端の厚さ(薄さ)、装甲の厚みなど、これらは断面の厚みの表現でのコントロールで再現が可能なので、スケール感に見合った演出が可能なわけです。
キャラクターモデルとしての表現を縮尺模型としての表現に置換するという意味では、V字アンテナの先端をシャープにすることと、ダクトのフィンおよびそのフチを薄くすることは、同じ目的のための作業なのです。
縮尺模型としてのスケールなりの表現と、大きさなりの立体物として見映えを向上させるためのデフォルメ表現。この両輪のバランスを取ることが、ディテールアップの要だと考えています。
BANDAI SPIRITS 1/144スケール プラスチックキット “ハイグレードユニバーサルセンチュリー”
RX-105 Ξガンダム
製作・文/NAOKI
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NAOKI(ナオキ)
メカニックデザイン、造形、造形プロデュースなどさまざまなフィールドで活躍するマルチクリエイター。