88(アハト・アハト)の愛称でも知られる「ドイツ 8.8砲 Flak36/37」万能火砲といわれる理由とは【いまさら聞けないすごいヤツ】
2024.06.14いまさら聞けないすごいヤツ!!/ドイツ 8.8cm砲 Flak36/37●宮永忠将、大森記詩 月刊ホビージャパン2024年7月号(5月24日発売)
いまさら聞けないすごいヤツ!!
ドイツ 8.8cm 砲
Flak36/37
イラスト/大森記詩
「名前は知っているけど、どんなものなんだろう?」「いまさら聞くのもはずかしいなぁ……」なんて思ってしまう有名な飛行機や戦車、車などのモチーフをサクッと読める解説とイラスト、オススメのプラモとともにご紹介する本連載。
今回は、前回ご紹介した、第二次世界大戦のイギリス軍を代表する戦車「マチルダII歩兵戦車」とともに名エピソードも語り継がれている傑作高射砲「ドイツ 8.8cm砲 Flak36/37」を紹介します。あまりにもインパクトが強い兵器なので、アニメや映画でもこの砲をモチーフとした兵器が多数登場しています。ぜひ本記事を読んで、「88(アハト・アハト)」の愛称でも知られている第二次世界大戦を代表する傑作兵器の姿を覚えていってください。
ドイツ 8.8cm 砲
Flak36/37
全長/約5.791m
砲身長/約4.9m
全高/約2.1m
重量/約7.4t
発射速度/15-20発/分有効射程/14,810m(対地目標)、7,620m(対空目標)
ドイツ軍前線部隊をあらゆる点で支えた、たぐいまれなる万能火砲
解説/宮永忠将
再軍備ドイツが求めた万能対空砲
ドイツ軍の8.8cm Flak36/37は、第二次世界大戦の陸戦で猛威を振るった最良の火砲のひとつである。FlakとはFlugabwehrkanone(対空砲)の省略形。その起源は第一次世界大戦まで遡るのだけど、敗戦国となった制約で新兵器の開発は禁止されてしまう。しかしそこは、上に政策あれば下に対策あり。当時最強の火砲メーカー、クルップ社はスウェーデンのボフォース社に出資してこっそりと兵器開発を続けていて、その中に8.8cm Flakも紛れ込んでいた。
そして1930年代に入ると、ドイツ社会はいよいよ再軍備に向けて動き出す。この空気を察したクルップが1932年のドイツ軍に8.8cm Flakを提示したところ、即座に8.8cm Flak18の名称で採用された。対空砲としての実績はすでに示していたが、横向きにすれば最大射程10kmを超える直射砲として有効であり、かつ対戦車砲にも使える万能砲が、再軍備を急ぐドイツ国防軍の需要とマッチしたのだ。
この砲は1936年から始まるスペイン内戦に持ち込まれると、驚くほどの活躍を見せたが、実態は想定とはかなり違っていた。というのも、戦場で使用した砲弾のうち、対空砲として使われたのは一割にも満たず、ほとんど地上目標を狙って使われたからだ。
防御戦闘で圧倒的威力を見せる
このスペイン内戦の戦訓を元に改良されたのが8.8cm Flak36/37である。Flak36は生産性の向上と、戦場での使いやすさにポイントを絞って改良されたもの。砲弾を高初速で撃ち出す対空砲は、砲身の摩耗が早いので、長く使っていると命中精度が著しく低下する。そこでFlak36では砲身が3つの主要パーツで構成されていて、摩耗した部分だけを交換できるようになっていた。またFlak37では対空砲としての命中精度を上げるため、外部の照準装置と連動できるように改良された。
このように新生ドイツ軍の期待を一身に背負ったFlak36/37だけど、最初はあまり目立たなかった。基本的にトラックなどで牽引する兵器なので、ドイツ軍の進撃速度に追いつかなかったのだ。ところが活躍の舞台は意外な形でやってくる。フランス侵攻作戦の最中に反撃に出てきた連合軍戦車部隊、特に重装甲を誇るイギリスのマチルダ歩兵戦車に対抗できるのが、この8.8cm対空砲だけであったのだ。「戦車を対空砲で攻撃するのは卑怯だ」と非難するイギリス軍捕虜に、「対空砲でなければ撃破できない戦車は卑怯ではないのか?」とドイツ兵が言い返したのは有名な話。
この実績を見て、Flak 36/37は大量生産されて、戦争の最後の日まで各地で使用されていた。特にドイツが劣勢になってからは連合軍の爆撃機に対して本来の対空砲として使われ、多大な損害を与えている。またFlak36/37の実績から新型の対戦車砲が作られたり、ティーガーI重戦車の戦車砲に流用されたりと、ドイツ軍前線部隊をあらゆる点で支えた、たぐいまれなる傑作兵器であった。
ヴィルヘルム・バッハ
(1892 ~ 1942)
1892年生まれ、第二次大戦を37歳で迎えた予備役兵であったが、動員されて予備役大尉となり、北アフリカの戦いでは第104歩兵連隊/第1大隊長を務める。1941年7月9日、要衝のハルファヤ峠を守備していた際に、孤立無援状態となったにもかかわらず、頑強に防御を指揮し、8.8cm対空砲を駆使してイギリス軍戦車部隊を壊滅させて勝利のきっかけを作った。ハルファヤ峠の名が「ヘルファイア」、すなわち地獄の業火を連想させること、そしてバッハが従軍前はキリスト教の牧師を務めていたことから、彼は「業火の牧師」と渾名された。
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1/35 ドイツ88mm 砲(オートバイ付)
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