外伝小説『勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル』2話 【期間限定公開】
2024.06.24勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル 月刊ホビージャパン2024年7月号(5月24日発売)
──東京:横田基地:格納庫──
東京湾から輸送機がやってきたのは、つい先程のこと。
基地の格納庫で一番最初に輸送機を迎え入れたのは、搭載されたTSの確認を命じられたミユであった。
横田基地の格納庫に入った大型輸送機〈ペイブエクスプレス〉は現行のドロップシップよりも一回り大きい機体だ。これはブレイバーンの登場以降に予想されるTSの大型化を想定し、新造予定だったモデルを一新。ブレイバーンと同サイズの機体を搭載可能であり、それに合わせ現行のドロップシップ〈ファッティーエクスプレス〉より出力も大きく上昇している。
TSの開発においては今後地球外生命体が再び襲来する可能性を踏まえた他、復興と勝利の象徴としてブレイバーンを模した大型機の開発が米国で発表された。これから爆発的に増えていくだろうブレイバーン型TSの導入に合わせ、先駆けとして試験的に誕生したのがこの大型輸送機MCV-7A〈ペイブエクスプレス〉なのだ。
しかしミユが知っている限り、ブレイバーン型TSと共にこの輸送機もまだ開発中のはずだった。
「もうロールアウトされてたんだ……どこの所属なんだろう。やっぱり米軍の機体ですよね?」
「たぶんねぇ……明らかにタイミングが良すぎるし、ハル・キング海軍大将も出てきたしで、今のところはそうっぽいけど」
ミユの独り言に応えたのは、彼女にとって聞き馴染みのある声で――
「ヒビキさん!?」
「や」
驚きのあまり声を上げたミユに対し、ヒビキは久し振りと気軽そうに手を上げてみせた。
それを見たミユの頭に浮かんだのは、やっぱりという言葉だった。今回のような作戦でヒビキのような実戦経験のあるパイロットが選ばれるのは当然のことだ。
「なんだか、会えそうな気がしてました」
「えへへ、実は私もそんな気がしてた。まぁ好き勝手やっといてなんだけど」
「もしかして、報告にあったスペルビアと接敵した機体って……」
「そう、私の烈華」
あっけらかんとした答えに、ミユは思わず口元を緩めた。
「無事で良かったです……相変わらず、無茶してるんですね」
「〈デスドライヴズ〉に単騎特攻するよりは無茶じゃないでしょ?」
「似たようなものじゃ……」
一度交流を持ったスペルビアとはいえ、相手は〈デスドライヴズ〉。危険なことには変わりない。だが、それよりも肝心なことがある。
「話はできたんですか?」
ヒビキの烈華はスペルビアとの会話に成功し、移送を受け入れた。ミユが知っているのはそこまでだ。そこで何があったかまではわからない。
「できたというか、なんというか……わかんないんだよね」
「わからない……ですか?」
「そうそう、ルルちゃんとは少しだけ話せたんだけど、肝心なところはなんにも。そうだ、スペルビアが『まだ消耗に慣れておらぬのだ、仕方あるまい』なんて保護者感出してたよ」
「そんなことが……それで、その後はどうなったんですか!?」
「あー、キングさんが出てきたと思ったら、私までこれに回収されることになっちゃったわけ。だからわかるのはそこまで」
そう言ってヒビキは輸送機を指してみせる。
「あ」
そこでミユはようやく今の状況を理解した。
あまりにも自然に話していたので失念していたが、ヒビキは輸送機から降りてきたばかり。所属外の機内で自由にできるわけではないだろう。
「じゃあ、スペルビアさんはまだあの中に?」
「そう。私の烈華の方が先に降ろされたからね。中ではじっとしてたし」
「そうなんですね……」
「ミユも偶然ここにいるってわけじゃないんでしょ?」
「はい。詳細はわからないんですけど、命令があって……あ」
質問の意味にミユはようやく思い当たる。そう、自分たちは意図的に集められて――
「そこのお二人、そんなところで立ち話していて大丈夫なんですか?」
自分の思考に集中していたミユの後ろから、声が響いた。それはミユにとっては聞き覚えのある通った声。
「お久し振りです。リオウ2尉はさっき振りですけど」
ヒビキにとってはつい数時間前までよく聞いていた声の主――元ATFの機上TS要撃管制官であるホノカ・スズナギはそう言いながらミユの隣まで歩いてくる。
「ホノカさん!」
「はい。気になって来ちゃいました。リオウ2尉の無事も確認したかったですし。その様子では大丈夫そうですね」
「あはは。ルルちゃんとスペルビアのおかげでこの通り」
ヒビキがそう言って笑うと、ホノカも穏やかな笑みで返す。
「あの輸送機で一緒に運ばれて来たんですね」
「そうそう。なんかすごいよね、あれ」
懐かしい光景に、ミユは思わず笑みをこぼす。
同時にATFの仲間たち、スペルビアと、ミユの中で先程まで点だったものが一本の線で繋がっていく。
「これってもしかして、またATFが……」
ミユの中にそんな希望が生まれ、僅かに口元を緩めた。
今の生活が嫌なわけではないが、ミユの中にはまだ後悔が残っている。やり残してしまったこともたくさんあるのだ。
「……ッ……」
だが、ミユは一旦そんな考えを打ち切った。
良い方向に考えるのは簡単だ。しかし、再び〈デスドライヴズ〉との戦いに臨むというなら、相応の覚悟が必要になるだろう。
「やっぱりみなさんも――」
きっと気持ちは同じはずだ。そう言おうとしたが――
「あ――」
――輸送機の中から小さな人影が飛び出してきたのが見えて、動きを止める。
「ミユーーーー!!」
まるで弾丸のような勢いで走ってくる人影の正体をミユはようやく察した。
「ミユ、ミユだー!」
そのままの勢いで飛んできた少女をなんとか抱きかかえると、ミユはその顔をまじまじと見つめる。
「ルルちゃん……ルルちゃん!」
「ガピ! ルルだよ!!」
明るい声と元気いっぱいの笑顔。別れた日と変わらないままの彼女が、そこにいた。
「おー。さっきちょっと喋ったけど……久し振りだね、ルルちゃん」
「本当に……ルルちゃんなんですね」
ミユに与えられた指令は輸送機内の機体確認ということだったが、恐らくこの再会も織り込み済みだったのだろう。
「ガピ? ヒビキ! ホノカも! ひさしぶり!」
ルルはミユの後ろにいたヒビキとホノカの姿に気付くと、二人の元へ飛び込んでいく。
「……っ!」
その光景に、思わずミユは涙が溢れそうになった。だが、後ろから歩いてくる壮年の男性の姿が目に入り、俯いて堪えると姿勢を正す。ヒビキとホノカもミユに続いて背筋をピンと伸ばした。
「声だけじゃ実感できてなかったんだけど、あれってやっぱりそうだよね」
「ええ、間違いないです。見間違える方が難しいですよ」
こちらに歩いてくる壮年の男性――アメリカ海軍大将ハル・キングは、アド・リムパックの演習司令官を努め、〈デスドライヴズ〉襲撃以降はブレイバーンを基幹とした多国籍任務部隊、通称ATFを率いていた男だ。階級はあまりにも違うが、彼女たちにとっては戦友と言って差し支えない存在だった。
「しばらく彼女を頼む、レディたち。私はこれから大事な話をしてこなければならないのでね。ルルくん、よいかね?」
「ガピ! しょーちした!」
そう言ってルルが敬礼のようなポーズを取ると、キングはそれに応えるように敬礼し、そのまま格納庫を後にした。
「ミユ! ヒビキ! ホノカ!」
しばらくキングの歩いていった方を見つめていたルルは、振り返ると順々にミユたちの名前を呼んでいく。
「お話しよう! じょしかい!」
「じょ、女子会ですか……」
「おぉ、いいねぇ」
「私たちも聞きたいことがたくさんありますしね」
「そうですね。そうしましょう!」
強く頷きながら、ミユは会話の中にどこか懐かしい空気を感じていた。
「ガガピー! ルル、はじめてのじょしかい!」
「あはは。そんなの、どこで覚えてきたんだか」
ルルが変な言葉を覚えて、誰かが突っ込んで、みんなが笑顔になる――いつかのような光景にミユの瞳が僅かに潤んだ。
──東京:横田基地:日米共同統合運用調整──
横田基地の米軍、自衛隊共同の運用調整所では、先のゾルダートテラー襲来とそこに現れたスペルビアの扱いについての会議が行われている。
部屋の大型モニターは参加している世界各地の中継先に繋がっており、その他の分割された画面には各国の政府や軍の関係者が並んでいた。
この会議の中心となるのは、同席している横田基地の面々ではなくモニターの前で姿勢を崩さずに直立した男――アメリカ海軍大将ハル・キング。彼は現在所属するアメリカ主導で各国からその道の専門家たちが集められた機関〈Extraterrestrial Life Countermeasures Organization〉――通称ELCOの司令官としてこの会議に参加している。
「今から再生するのはスペルビアから提供された映像データです。彼が敵かどうかはこれを見て、判断していただきたい」
一切の疑念なく放たれたキングの言葉に、横田基地の面々だけでなくモニター越しに僅かな動揺が伝わってくる。それを振り切るように言葉を発したのは、在日米軍司令官であった。
「少なくとも、ELCOはあの〈デスドライヴズ〉を危険視していないということですか?」
「ああ。今の時点、ではあるがね」
そう返すと、キングは小さく口元を緩めてみせる。
ATFの功績で栄転を約束されていた彼がそれを頑なに固辞し、ELCOの司令官就任を受け入れたのは、最後まで〈デスドライヴズ〉との戦いに身を投じるためだ。それが、あの戦いを間近で経験したものの責任であると、キングは意を強くした。
『拝見させていただきましょう』
その言葉にモニターの向こうの者は皆、賛同するように沈黙した。
「よろしい。再生を」
キングの指示でオペレーターが操作すると、モニターに映像が再生される。
そこに映し出されたのは南極での戦闘記録。7機の〈ゾルダートテラー〉に立ち向かうスペルビアの姿だった。
スペルビアは瞬く間に全ての〈ゾルダートテラー〉を撃破すると、感嘆の声が聞こえてくる。だが、戦闘が終わると、次に映し出されたのはルルの眩しい笑顔だった。
『ガガピーッ! ルル、ミッションコンプリーーート!』
突然現れたルルの姿に、映像に集中していた者は驚きを隠せないでいた。
これは新たに説明が必要になるとキングは小さく息を吐く。
「……これで、この機械生命体――スペルビアが人類にとっての害でない実証ができたと思う。現状――ではあるが」
スペルビアと共に無邪気に戦うルル。彼女を見て、敵であると判断するものは、この場にいないだろう。
「さて、頃合いだろう」
キングの言葉とともに、モニターに輸送機内の映像が映し出される。
「待たせてすまなかった。紹介しよう、彼の名はスペルビア。我々にとって、未来の盟友となる者だ」
正面に映し出されたスペルビアの姿に動揺が広がる中、キングだけが真っ直ぐに彼を見つめていた。
『我はスペルビア。〈デスドライヴズ〉高慢のスペルビアである』
episode 3 へつづく
組織名/「Extraterrestrial Life Countermeasures Organization」/地球外生命体対策機構/通称ELCO(イ―エルシーオー)
母艦/「航空母艦:コンステレーション」/本編と同様のアメリカ空母を引き続き母艦として使用
輸送機/「MCV-7A ペイブエクスプレス」/「MCV-5 ファッティーエクスプレス」の後継機/ブレイバーンサイズを搭載可能
【勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル】
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