映画『HOSHI35 / ホシクズ』怪獣デザイン等でも活躍する美術家・浅井拓馬のおどろおどろしくも愛嬌のあるクリーチャー「真実の獣」【H.M.S.】
2024.01.17本連載二度目の登場となる浅井拓馬氏は、「月刊ホビージャパン2022年2月号」掲載の「アタワリ:ずっとだれかになりたい」の続編にあたる作品を製作。おどろおどろしくも愛嬌のある姿をじっくりとお楽しみいただきたい。
「さすがにここまで来れば大丈夫だろう…」
両手に抱えきれないほどの宝石や財宝を抱え、息も絶え絶えな様子で走り続け疲れたのか自然と足が止まった様子のふたりの人物。ここは暗い森の中。
どうやらここのところ近隣諸国でも噂になっていた国荒らしの集団がやってきて、ふたりのいた国は壊滅してしまったらしい。
「民たちには忍びないが、我々だけでも生き残ればみな本望であろう」
「素晴らしいお心です大王さま…」
暫くの緊張状態から漸く一呼吸置けるかと思われたそのとき、草木の揺れる音とともにふたりが振り返るとそれはいた。
真実の獣。
森の中にいるとされる生き物で、いくつあるか分からないほどの瞳と目が合った者はその場を動けなくなり、生かすか殺すかを獣に決められてしまう、という伝説が言い伝えられている存在だ。もう逃げることは叶わない。
そして静かな夜の世界で、ふたりは獣の強固な顎に砕かれた。
地面に転がる家来を見つめつつ、獣の瞳のそのすべてに自らが映っていることを認めて大王はその命を終えた。
獣はその様をじっと見つめている。
一体何を思っているのだろうか。
どこかそこには我が子を思う親のような─しかしそれは非常に独善的でエゴイスティックな─表情が見て取れる。
「なあ、もうひとり見てくれてもいいだろ」
突然のことに獣は驚き振り返った。一体誰だ。
そこに立っていたのは国荒らしの首謀者、アタワリだった。
まっすぐに立ちこちらを見つめている。そのさま、表情を
どう捉えたらよいのか、獣は困惑していた─
2022年2月号に掲載していただいた「アタワリ:ずっとだれかになりたい」の続きものになっています。 真実の獣は10年程前に生まれたキャラとエピソードで今回はじめて立体化したのですが、出来上がってみると思ったより怖くないというか愛嬌もある感じがして、変というか(元絵よりも違和感のあるバランスは意図したんですが)、こういうフィーリングのもののほうが実際森で会ったら怖いかもとか、改めて立体製作をしていく面白さを感じました。製作はスカルピーにて造形、彩色はファレホのモデルカラーを使用しました。
スクラッチビルド
真実の獣
製作・文/浅井拓馬
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前回作品
【H.M.S.】 アタワリ: ずっとだれかになりたい【浅井拓馬】
怪獣やモンスターをテーマに立体やドローイングで表現活動を行う美術家であり、原型師としての顔も持つ浅井拓馬は、長年自身の頭の中の存在として親しんでいた[…]
浅井拓馬(あさいたくま)
1990年生まれ。幼少期より影響を受けた怪獣をテーマに立体、ドローイングなどの表現活動を行っている。商業原型や映画『HOSHI35 / ホシクズ』での怪獣デザイン、一部造形などにも参加。